limited express NANKI-1号の独り言

折々の話題や国内外の出来事・自身の過去について、語り綴ります。
たまに、写真も掲載中。本日、天気晴朗ナレドモ波高シ

life 人生雑記帳 - 5

2019年04月01日 12時45分24秒 | 日記
翌日の朝、相変わらずの青天の空の下、坂道に自転車で挑んだが半ばで力尽きた。さすがに連日の“登頂”には無理がある。「足が着いて来ねぇ。今日は押すか!」通称“大根坂”をひたすらに上っていると「Y!おはよう!」と堀川が息を切らせて走って来た。彼女も汗だくだ。「おはよう。何も走って来る事ないじゃん!声かけてくれれば止まって待ってたのに」と言うと「丁度、Yの背中が見えたからさ、急いで来た。鞄、自転車に乗せて!」とせがんだ。「あいよ、まずは汗を拭きなよ。朝から運動しちゃうと眠くなるよ」と言ってハンカチをズボンのポケットから取り出して差し出す。堀川は一瞬躊躇したが、ハンカチを受け取り汗を拭った。2人で坂を登るのはこれが初めてだ。「中島は?」「1本早い電車に乗ったから置いて来たのよ。Y、昨日の駅での話だけど、あたしも手伝っていい?」彼女は改めて聞いて来る。「ありがと。手は多いに越したことは無いから、歓迎しますよ!違う学校、しかも西側の中学に詳しい人材が中々居なくて困ってたから、大いに助かる!」僕は堀川の肩を叩いて笑った。「Y、本当にいいの?」「堀川にしか見えない事だってあるだろう?そう言う部分をカバーしてくれると非常に助かる!」「よかったー、じゃあ早速始めさせてもらうね!」堀川は満面の笑みを浮かべながら言った。必死になって僕を追って来たのには、それなりの訳がありそうだ。坂道は終盤を迎えていた。

「Y、あたしさぁ、ある¨情報¨を掴んだのよ。それも、菊地さんに関する事!」堀川は興奮気味に言う。「何を掴んだんだい?」「中学の2年の頃に妙なプリント配られたの覚えてない?確か¨校内での政治的活動の禁止について¨ってタイトルじゃなかったかな?」堀川は懸命に記憶を呼び覚まそうと空を見る。「うーん、そう言えばあったな!直ぐにゴミ箱へ放り込んだが、内容はなんだったかな?」「そのプリントが出された原因を作ったのが、菊地さんらしいのよ!何でも学校に無断で¨核兵器廃絶¨のポスターを勝手に貼りまくったらしいの!」「本当に!それが事実なら、ただで済むはずないじゃん!学校だって黙ってられないな!でも、ちょいと待ってくれ。それで当時、意味不明のプリントが流されたとすれば、辻褄は合うな!それで菊地はどうなったんだ?」「何でも親が学校と大バトルを繰り広げて、大騒ぎになったらしいの。結局は親が折れてバトルは終息したんだけど、菊地さんは¨大バッシング¨に合って卒業まで無視され続けたみたい」「なるほど、そんな過去があったのか!彼女が常に陰を背負っているのは、そんな理由からとは。ちなみに、¨情報¨の出どころは何処かな?」「あたしの親戚。従姉妹からよ!¨地雷より質が悪いから気をつけて!¨って夕べ電話が来たから、とにかく早くYに知らせなきゃと思って」堀川の話にすっかり夢中になって歩いていると、昇降口へ着いた。「はい、ポカリだよ!」堀川からボトルを受け取ると乾いた喉を潤すために一気に半分を飲み干す。彼女も同じく水分を取る。ボトルは同じ物だ。僕は水道で顔を洗い直した。堀川が自分のハンカチを差し出す。「僕のでいいよ」「ダメ!あたしのを使って!」彼女に気を使わせるのは気が引けたが、お互い様なので借りて置く。「菊地は西部中だよね?だとすると、滝か!細かい経緯を知ってるのは!」「そう、女子も居るけど話が話だから喋りにくいと思う」堀川と僕は教室へ向かった。1番乗りなので2人きりだ。「なーんか、嫌な予感がするな!最近、耳に入った事だが、¨署名活動¨が5組あたりで回ってるらしね。しかも、極秘裏に」僕は机に鞄を置くと窓を開ける。「それは聞いてないよ。あたしも初耳。でも、震源が菊地さんならあり得なくはないか!Y、調べて見る?」そよ風が吹き込む窓を背にして堀川が言う。彼女はヘアブラシで髪を直している。身だしなみに気を使う所は、やはり女の子らしい。「その必要性はあるね!出来るなら今の内に止めて置かないと、手の打ち様が無くなりかねない。5組に知り合いは居るかい?」「大丈夫、ツテはあるわ。内々に聞いてみるよ!」「言うまでも無いが、気付かれるなよ!」「うん!それとさ・・・、ハンカチ交換しない?あたしのと?」堀川が意を決したかの様に言う。「この綺麗なのと?」「そう・・・、ダメ?」堀川は真面目に聞いて来る。「うーん、1つだけ条件を付けていいなら」「何を?」「他の4人には内緒にする事!どうだい?」「いいよ!ありがと!これで、Yと“秘密裡”に繋がりが持てた。あたしの無くさないでよ!」彼女はねだる様に言う。「心配ご無用。大事に隠し持ってるからさ。じゃあ、僕からも1つ聞きたい事がある」「なあに?」彼女は小首を傾げる。「昨日の数学の方程式を教えてくれ!聞き逃してるから訳が分からん!」「なーんだ、それはねー・・・」堀川が黒板にスラスラと方程式を書いて、順を追って説明を始めた。僕はノートを引っ張り出すと懸命にメモを取る。堀川の教え方は、先生より上手く分かりやすかった。「何よ朝から勉強してるなんて、どう言う事よ?」「Y、おはよう。堀ちゃん、朝から授業やってるの?」中島と幸子と道子と雪枝のお出ましだ。「おはよ、僕が頼み込んだのさ。昨日の授業中に沈没しちまって、聞き逃したんでね」「堀ちゃんに教えを乞うとは、Yも観察眼が鋭い!堀ちゃん成績はトップクラスだからね」中島が僕のノートを覗き込む。「それさぁ、あたし達も理解してるの半分くらいなのよ。堀ちゃん!あたし達にも教えてくれない?」道子達もノートを手に集まって来る。「いいよ、様はね・・・」堀川は丁寧に説明を始めてくれた。僕等は必死にノートを取った。中島は応用編を教えてくれた。時々脱線するが、肝心な部分は抑えている。こうした“補習授業”は、卒業するまで続く事になる。各人の得意分野によって教える側に回って、分かりやすくかみ砕いて説明するのがルールだった。堀川の“補習”が一段落すると、僕は“菊地案件”について説明を行った。「それって、聞いた事あるよ。5組の女子の間で回ってるらしいの」「1期生のところにも回り出してるって噂もあるよ」「Y、それであたし達は何をすればいいの?」道子が聞いて来る。「まず、噂が真実かどうか?を確かめなくてはならない。5組にツテがあるなら“署名簿”を実際に見て置く必要があるから、瞬間的でもいい持ち出す算段を付けて欲しい。それと1期生の手元にも“署名簿”が回っているか?確認を取りたい。当然この話は他言無用だし、動きも表立っての行動は控える。男子で冷静に話せるとすれば、伊東と山ちゃんと滝だろうから、3人には僕から接触を試みる。女子にはしばらく伏せて置こう。下手に騒がれると動きが筒抜けになりかねないからね」「分かったわ。まずは“署名簿”を極秘裏に持ちだせばいいのね?任せといて!そっちはあたし達で当たって見るよ!」雪枝が中島と堀川に素早く目配せをする。「それと、噂が流れて来ても当面は知らぬ存ぜぬを通す。クラスの女子達の動きを監視して混乱をさせない様に持っていく。それは、あたしと幸子でやるよ!」道子が手を上げる。「僕は、滝に中学時代の詳しい経緯を聞いてから、山ちゃんと相談して伊東に話を持って行く。とりあえずはこの範囲で話は止める。菊地さんに悟られたらアウトだ!それに不確かな今の状況では、闇雲に突っ走るのは危険すぎる。ともかく裏を取って証拠を掴んでから具体策を立てよう!みんな、くれぐれも気を付けてくれ!」「了解!」5人の合唱が響いた。「Y、いよいよ作戦開始だね。相変わらず知恵が回るねー!」雪枝がワクワクとしながら言う。「それだけが取り柄なんでね。さて、滝が来てる。“しれっと”立ち話でもして来るよ」僕はそう言うと滝の元へ向かった。

滝の証言は、僕の想像を遥かに越えたモノだった。「あの時は酷かった。菊地はクラスの委員長だったんだが、始めは¨学生の視点で¨って言っときながら、いざ始まるとどんどん左、つまり¨左翼思想¨へ傾かせていって、完成段階では¨政治的匂いプンプン¨に仕上げちまった。当然、展示を見た保護者からは苦情の嵐でさ。¨学生の本分を外れた政治的活動を許すとは何事だ!¨って学校も突き上げを食らってね、1日持たずに閉鎖に追い込まれたんだ。それに輪を掛けたのが、至るところに貼られたポスター。無許可でやったもんだから、先生達も眉を釣り上げて怒り心頭だったよ。PTAも臨時総会を開いて¨学校教育にあるまじき行為を何故黙認したのか!¨って校長に詰め寄るし、菊地もクラスで断罪されて委員長を解任されるし、上へ下への大騒動だったよ。それで終わりかと思ったら、今度は菊地の親が乗り込んで来て¨憲法で保証された、表現の自由と思想信条の自由を認めないのは、違憲だ!¨ってバトルが勃発さ。終息の気配すら見えない泥沼に巻き込んでの¨代理戦争¨に発展して、散々揉めて非難の応酬、責任の擦り合いまでやってくれて、クラスが空中分解寸前まで行った。結局は、菊地側が折れて在学も認められたんだが、噂に尾ひれが付いて市内中の中学と高校に¨破門状¨紛いの文書が流れて、第一志望も何も無く¨勝手にしろ¨状態の進路指導しか受けられずに、ここに流れ着いたって訳さ。それがどうしたんだ?」「水面下で今、¨署名活動¨が進行してるって¨情報¨が流れてるのさ。震源地は菊地さんらしいんだよ!」「何?!マジか?」「それを確かめるべく僕等は密かに動き出した。¨正本¨を手に入れるべくな」「止められるか?」「そこまでは、まだ何も言えない。だが、¨気付いた時には手遅れでした¨ってのを阻止するべく手を打ってるとこ!」「相当難しい話だぜ!菊地はあらゆるリスクを掻い潜ってやってるはず。生半可は通じないぞ!」「分かってるさ。それで過去を調べてる訳なんだよ。滝が今話してくれたことだが、長官(山ちゃんの事。僕は参謀長と言われていた)は承知してるかい?」「一応な。経緯は説明してある」「丁度、長官もお見えだ。3者で極秘会談と行きますか?」僕は長官を捕まえると滝の元へ連れ込んで「長官、今、水面下で¨署名活動¨が進行してるのをご存知ですかな?」と言うと「参謀長、誰の差し金かね?」と瞬時に顔色が変わる。「どうやら震源地は菊地さんの様でね。嫌な予感がしません?」と水を向けると「由々しき問題だ!事は何処まで進んで居る?」と腕を組んで思慮に沈む。「噂では、5組の女子達の手元に“正本”がある様です。後、1期生の方面にも魔手は伸びているらしいのですよ。今、総力を挙げて“正本”の有無を調べてますが、もし事実だとすれば・・・」「学校全体を揺るがす大事件に発展するのは火を見るより明らか!何としても叩き潰さなくては!」長官はセリフを引き取って明確に意思を表した。「でも、校則を見ると肝心な“政治活動の禁止”については、具体的な条項が無いんだ!集会や結社の禁止は謳われてるが・・・」滝が生徒手帳を見つめて言う。「盲点を突いての攻撃か!彼女ならやりかねんし、そこら辺は慎重に見極めての行動だろう。参謀長、滝さん、どうするかね?」長官の表情も苦り切っている。「まずは、噂の真偽を確かめる事。次はクラスの動揺を抑え込む事。そして、校則を変更する事。この3つをやらなきゃなりません」僕が言うと「それはそうだが、参謀長、何処まで手を打ってある?」長官が誰何する。「まず、真偽を確かめるべく動いてます。女子に対する工作も指示してあります。問題は我々男子をどうまとめるか?と校則の変更が可能かですよ。いたずらに騒ぎを拡大させれば、相手の思う壺。話の範囲は今の所限定してます」「ふむ、我々3名に参謀長のところの女子5名のみか。いい選択だな!伊東はまだ何も知らんのか?」「ええ、はっきりとした証拠が揃うまでは伏せて置くべきだと思いましてね」「最善手は張り巡らせてあるか。だが、もう1手打って置く必要があるな!」「それは何を?」滝が聞く。「笠原千里に対する工作だよ。女子の要に矢を打ち込んで置く必要はあるだろう?そっちはワシが対処しよう。滝さん、参謀長、しばらくこの事は秘してくれるかの?菊地御大を刺激しないためにもな!」「了解です」「分かりました」僕と滝も異論は無かった。「悪夢は繰り返してはならない。とにかく電光石火で片付ける必要がありそうじゃ。いざとなったら参謀長、担任への繋ぎは任せる。我々だけでは解決は不可能だ!教職員の手も使って今の内に阻止せねば悲劇は繰り返すだけじゃ!」長官が断固して言う。「参謀長、真偽を至急突き止めてくれ!まずは、そこからだ!」長官の判断は下った。ホームルームが始まる前、僕等はそれぞれに動き出した。

「今日は、菊地が体調不良で休みか。お前達に聞くが1期生の間で“署名活動”が密かに進んでいるのを知っているか?」中島先生が重い口を開いた。「いえ、それは何です?」委員長の伊東が否定する。「知らんならそれでいいが、言うまでも無く学生足る本分は学ぶことである。政治がらみの事案に首を突っ込んではならんぞ!それでは次だ。来週の・・・」ホームルームで早速“先制攻撃”があった事は、菊地の“政治活動”を裏付ける決定的な証明がなされた事を意味するものだった。「Y、これ、手に入ったよ!」隣席の幸子から1冊のノートが密かに手渡される。「やはりあったか!」小声で言うと幸子は黙して頷いた。2期生でも“正本”が発見されたとなると、もはや学校全体を揺るがす大事件になりかねない。ホームルームが終わると僕は5名の女子達に廊下へ出る様に促し、滝と長官も呼んだ。「あったか!」長官の顔色が悪い。「どうやって持ち出したの?」と僕が聞くと「5組は終わったから、6組へ回し置いてって言われて預かって来たのよ」と雪枝が言う。「この筆跡は間違いなく菊地のモノだ。ヤバイな!」滝が言う。「署名しているのは数人だが、こっちでも“正本”が出たのはマズイ事になった。参謀長、担任へ通報するしかあるまい!事はあまりにも大き過ぎる。我々の手には余る代物だ!」長官が決定を口にする。「幸い菊地御大は休み。今日中に手を回せば勝機は残されておる!」「では、昼休みに“直接会談”を申し入れましょう。メンバーは話を知ってる者全員と伊東でよろしいですかな?」「うむ、その線で行こう。知れ渡る前に潰してしまわねば、我々の学校生活を脅かす一大事となろう。“正本”は直ぐに担任の手元に届けろ!参謀長、昼の件も含めて話を付けてくれ!」「了解、では直ぐに行きましょう。みんな長官の指示を良く聞いて置いてくれ!」僕は生物準備室へ駆け込んだ。「先生、さっきの“署名活動”の件ですが、5組からこれが出ました!」と言って“正本”を差し出した。「うむ、やはりあったのか!ウチのクラスで知っている者は誰だ?」「昼休みの面子に滝と山岡と笠原だけです。昼休みに伊東を加えて今後どうするか?を協議したいのですが、宜しいですか?」「いいだろう。出た以上は、策を考えねばならん。クラスメイトが関わっているだけに、どうやって穏便に片付けるかも思案しなくてはならん。ところで“これ”は預かってもいいか?」「はい、次は6組へ回すように言われてますから、多少の誤差は問題にはならないかと」「お前の“策士”ぶりは見事だな。内申書に細かく記載があったが、一字一句違わぬ機敏な手回し、さすがだな!昼休みに関係者に出頭する様に伝えて置け。俺は校長と話して来る。この問題はお前達には手に余る代物だ。後は、任せろ!」「はい、宜しくお願いします」僕は慌てて教室へ戻った。

昼休みの“お茶会”は、急遽“作戦会議”に変更せざるを得なかった。普段の優雅な時間は、緊迫した空気に包まれて始まった。「まず、今回の経緯を説明しろ」中島先生はそう言って説明を要求した。僕が事の次第を順を追って説明し、滝と長官が補足説明を行った。黙って聞いていた中島先生は「お前達はどう思う?伊東、司会進行をしろ!」と言って僕等に意見を求めた。「では、まず滝!どうする?」伊東が問う。「問答無用、即刻退学にすべきだ!中学の悲劇を繰り返してはならない!」と語気を強めて言った。「Yはどうだ?」伊東が僕を指名する。「憲法によれば、¨教育を受ける権利¨も等しく認められてる。だが、校則を逆手に取り¨政治的活動¨を陰で行った事実は覆らない。確かに退学になっても仕方は無いが、それが正しいか?は疑問符が付かないか?僕としては¨執行猶予付き有罪¨と見なして置くべきだと思う。いつでも退学には出来る。彼女の事だ、必ずまた次の手を考え図り事に及ぶはず。その時を待って¨鉄槌¨を下しても遅くはなかろう」「次は山ちゃん!どうしたものかね?」長官は「基本的には、参謀長に賛成だが、今回の一件を不問に付すのはどうだろう?何らかの処罰は不可避じゃないかね?」「笠原は?」伊東が女子の要を指名した。「あたしとしては、みんなをまとめるために¨白黒¨はハッキリさせて欲しいとこ。退学云々での混乱は、回避してよ。やっと打ち解けて来て関係も軌道に乗ったばかりだから、強引に事を荒立てるのは得策とは言えないと思う」「Yのところのみなさんは?」「あたし達は、Yの意見に賛成する」「笠原さんの意見にも一理あり!」「長官の意見に賛成!」と声が続く。「伊東、お前さんは?」長官が指名した。「俺としては、寝耳に水だったから、あまりまとまってないが、クラスを率いて行く上で考えると、長官の意見に賛成する。ただ、参謀長の意見も捨てがたい気持ちもある。委員長としては、ここでのゴタゴタは回避したいのが本音だよ」と困惑気味に意見を述べた。「そうか。分かった。今回の一件は¨未遂¨に終わる事になる。その上で敢えて¨不問¨とする方向で校長が決断した。無論、次は無い。即刻退学になる。まずは、このノートを6組へ回せ!そうしないと事が露見して厄介になる。Y、責任を持って戻して置けよ!それと校則だが、改正を至急実施するし、生徒会会則も変える予定だ。これで、早急に法的に封じ込めを図る。そして、これが最も重要な点だが、今日ここでの話は一切漏らすな!箝口令を命ずる。いいか!何事も無かった様に、素知らぬ風を装うんだ。始末は職員会議にかけて決着を図るが、基本的考えはYの路線で行く予定だ。何か質問はあるか?」中島先生はそう言って質問を問うた。「甘過ぎです!何故、叩き潰さないんですか?」滝が噛みついた。「それは、いつでもできる事だ。泳がせて次の図り事をいち早く捕らえるんだ。その時がラストになる。これは、校長の意向でもある。保護者とバトルを繰り広げる余裕は無い!」「つまり、今回は敢えて泳がせて置くと?」僕が聞くと「そうだ。Y、切るのは、いつでも出来るが¨教育を受ける権利¨を奪うのは慎重に見極めなくてはならんし、かつ相応の理由が無くてはならん。今回は、校則も未整備だったし我々も譲らざるを得ない。だが、菊地がやった事は明らかに¨有罪¨に値する事案だ。繰り返しになるがYが言う様に¨次は無い¨と言うのが校長の答えだ。納得が行かないのも分かるが、学校側の意向も踏まえて今は引いてくれないか?」中島先生も苦渋の決断を強いられたのは、理解出来た。「分かりました。次は必ず切って下さい!僕は今回に限り同意します!」滝も苦渋の選択を選んだ。「僕も同意します。しかし、次は容赦なく処断して下さい!」「同じく!」「あたし達も!」僕も同意すると、次々に賛同の意識が表明された。「分かった!後は俺達に任せてくれ!悪い様にはせん。菊地には、こっちから厳重に注意と指導を行う。本件はこれにて終息とする!」先生の宣言で事は収拾が図られた。僕等は教室へ戻る道すがら「これで良かったのか?」と自答した。「次はどんな手を繰り出すかね?参謀長?」長官が聞いて来る。「彼女の事ですから、奇抜な手に打って出るかと。我々としては、厳重な“鉄のタガ”を張り巡らして置く事ですよ」僕が自重気味に言うと「電光石火で沈められた事は、大きな一歩だよ。クラスの評判に関わるだけにな!」滝は納得しているらしい。「でも、あたし達にも情報提供をしてよね。今回は速攻で済んだからいいけど、横の繋がりも考えてよ!」笠原が注文を付ける。「それは、ワシが担う。心配はいらん!」長官が保証した。「伊東、参謀長、女子とのパイプの構築を急ごう!滝さん、不穏な動きの察知に協力を頼む!前陣速攻こそが、鍵になるからな!」長官の言葉に全員が頷いた。こうして¨署名活動¨は叩き潰された。

その日の帰り道、みんなでゆっくりと坂を下りながら「Y、これで良かったよね?」と幸子が聞いて来る。「速攻で叩き潰せた意味は大きい。笠原さんも行ってたが、ようやくみんなが打ち解けて来たばかりだ。波風を立てるのはマズイだろう?」と僕が言うと「彼女も“横の繋がり”を行ってよね。これからは、男女の垣根を取り払って“クラス一丸”を目指さなきゃ!あたし達の様に!」と道子が言う。「そうだな。本物のクラスの在り方が問われてるね。今は腹の探り合いに終始しているが、男女を問わずに議論したり、教え合ったり、たわいのない話を当たり前にする環境を作らないといけない。長官も滝も伊東もそれを思い知っただろう。その点、僕等は一足先を行ってると思ってるが、どうだい?」道子も含めた全員に返すと「うん、それは達成出来てると思うよ!」「3歩は先に進んでるんじゃない?」「あたし達は今まで通り!」「Yが引っ張ってくれればいい!あたし達は付いてくよ!」「これからも宜しく!」5名それぞれが返して来る。僕等は一足先に居るのは間違い無い様だ。「では、今日は乾杯をしますかね?クラスの未来と、僕等の友情を祝して!」「そうだね。やろうよ!素敵な関係も祝して」幸子が直ぐに同意した。駅に着くと自販機でジュースを揃えて、僕等は乾杯をした。「うん、美味い!」みんなが笑顔になった。「Y、これから何があっても、あたし達は一緒だよ!」「共に高校生活を満喫しよう!」幸子と雪枝が言う。「ああ、これからも宜しく!」僕も笑顔で言う。上下の電車が揃った。「Y、明日もポカリでいい?」堀川が言う。「任せる!明日は無理するな。途中で待ってるからさ」僕はそう言った。「また、明日ねー!」5人は電車に乗り込んだ。明日は何が待っているのか?僕は想像を巡らせた。「とりあえず、明日はオレンジペコにするか?」そう言って家路に着いた。

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