limited express NANKI-1号の独り言

折々の話題や国内外の出来事・自身の過去について、語り綴ります。
たまに、写真も掲載中。本日、天気晴朗ナレドモ波高シ

life 人生雑記帳 - 6

2019年04月02日 17時49分07秒 | 日記
6月の始め、僕は原因不明の発熱と倦怠感と戦っていた。¨大根坂¨を歩いて登るのも、辛い状態だった。思い当たる節が無い訳では無かったが、今頃になって暴れだす可能性は考えられなかった。「とっくの昔に撃滅してる。だが、¨アイツ¨だとしたら何故今頃なんだろう?」息を整えるために立ち止まって、ふと遥か昔の悪夢を思い出す。「Yー!大丈夫かー?」5人が下から声をかけて来る。「おー!何とか今日もたどり着いたよー」声を出すのも苦しいが、彼女達に心配はかけたくは無い。「鞄貸しな!無理して出て来る前に、病院へ行った方が良くない?」幸子がもっともな事を言う。「でもさ、Yを苦しめてるのが¨アイツ¨だったら、下手な治療は受けない方がいいかも。あたし、Yが半年間起き上がれなかった病気の悲惨さを知ってるから。どう?昨日よりはいい?」雪枝が心配そうに顔を覗き込む。「大分治まっては来てる。今日は土曜日だから、明日中にはやっつければ、どうって事は無いだろう」僕は懸命に虚勢を張る。教室へ着いて椅子に座ると、まだクラクラとするが最悪の状態からは抜け出しつつあるのは確かだ。「Yを苦しめた¨アイツ¨って何なの?」幸子と堀川と中島が、雪枝に聞く。「病名は忘れちゃったけど、保育園の時に¨数万人に1人って難病にかかってさ、半年間寝たきりになってるのよ。丸かった体型がガリガリになって、折れてしまいそうなくらい痩せて、¨15歳まで生きられるか分からない¨って言われてたの。その後、奇跡的に復活して今があるんだよ」雪枝も思い出すのが辛そうだ。「そうだったね。¨アイツ¨にやられて無ければ、別人のYが居ただろうな。でも、あれを乗り越えたからこそ、今のYが居るんだけれど。運動はダメだけど、知恵は働く¨参謀長¨だもの」道子も振り返って言う。「だから¨アイツ¨に負ける訳にはいかないんだ!力ずくでねじ伏せてやる!」僕は笑って3人を安心させようとする。「無理するな。虚勢を張ってまで我慢するな!辛きゃ¨辛い¨って言いな!痩せ我慢しなくていいよ!」幸子が諭す様に言う。「さちの言う通りだよ!男の子だからって変なプライドは捨てちゃえよ!」中島が真面目に問いかける。「Y、あたし達がノートを取るから、今日は半分休みな!」堀川が頭を撫でる。「分かった。今日はみんなに助けてもらう。悪いけど手を貸してくれ」僕はみんなの好意に感謝して折れた。「じゃあ、1時間目はあたしがノートを取りながらサポートする。2時間目以降は、堀ちゃんにノートをお願いする。帰りは5人でYを駅まで送ろう!」幸子が段取りを組んでくれた。「OK、みんな頼むよ!」道子が声をかけて4人が頷いた。

「Y君、また顔貸してくれない?」菊地さんのお呼び出しだ。「菊地さん、Yは体調が悪いから・・・」と幸子が遮ろうとすると「学校に来てるって事は、問題ないからでしょ!手間は取らせないから、放課後に付き合いなさい!」と幸子を睨んで言い放つ。有無を言わせぬモノ言いだ。幸子もさすがに沈黙せざるを得ない。「分かりました。でも、ウチのレディ達にそう言う口は聞いて欲しくは無いね!」僕が思いっ切り睨み返すと「直ぐに解放するから、ご心配なく」と一瞬怯んで自席へ戻って行った。「何よ!」「偉そうに!」道子と雪枝がいきり立つが「また、何か企みがあるんだろうよ。次の1手を見極めて来るか!短時間で済ませるよ」と言って2人をなだめる。「Y、大丈夫か?御大の“お呼び出し”だが、断っても構わんよ!長官も俺も伊東も呼びつけられてるんだ。何ならレディ達と先に帰っても問題は無いぞ!」滝が言って来る。「オールスターキャストじゃないか!彼女は何を企んでる?」「それが分かれば苦労しないよ。意図せぬ“招集”にみんな戸惑ってるとこさ」「潰された“案件”か?別の調査か?はたまた“男子に対する苦言”か?」「蓋を開けるまでは何とも言えない。長官からの伝言だ。“芝居はこっちで引き受ける。上手く合わせてくれ”だとさ」「了解だ!とにかくトボケまくるか?」「頼んだぞ!」滝も自席へ戻った。「Y、苦労が絶えないね。かばってくれてありがと。Yったら“殴るぞ”って顔して睨みつけたから、さすがの菊地さんも少し怯えてたね」幸子が優しく言う。「あれくらい言っとかないと、土足で踏み荒らされるも同然になる!もう少し空気読んで欲しいね」僕は肩を竦めた。

「入学して3ヶ月、未だに男子の統率が採れないのはどう言う事なのよ?伊東君、貴方の力量不足は明らかよ!緊急クラス会を開催して、人選をやり直すべきじゃなくて?!」ヒステリーも重なった菊地さんの物言いは、常軌を逸する寸前だった。様は“あたしに委員長の席を譲れ!”と言う訳だ。しかし、それを許す事は出来ない。「伊東の力量は問題なかろう!要は未だに“日和見”に終始している事に過ぎん。伊東個人を否定するはどうかね?」長官が早速トボケ芝居を始める。「野郎共が、一致団結してないとは言えませんな。5月末のクラスマッチでは、3位の成績を残してます。時と場合によっては、力は出てると思いますよ」僕も言葉を選んでトボケに加わる。「だらしない会議、下世話な話、そして世の中を見つめる眼の無さ!新聞を隅から隅まで読んでれば、こんな軟弱な男の集団には、ならないはずよ!女子の見識の高さを見習えないの?!もう、我慢の限界よ!あたしに委員長をやらせて!ビシビシと尻を叩いて統率して見せるから!」おやおや、本音を言っちゃったよ!ヒスで頭に血が昇ったのが原因か?「それなら中島先生の“承認”を得てくれないと困るよ。初代を指名したのは、先生の意向なんだからさ!」滝がなだめにかかるが「埒が明かないから、こうして“直接交渉”してるのよ!伊東君、退位しなさいよ!」と菊地さんは伊東に詰め寄った。「俺にも引き受けた責任上、放り出す様な真似は出来ない。菊地さんは“だらしない、一体になってない”と言うが、男共は緩やかに連帯を形成してる。見た目はバラバラに見えるかも知れないが、決して揃わないことは無いぞ!参謀長の言う様に、勝負所では他に負けてはいない!女子との違いを理解してくれよ!」伊東も必死に食い下がる。「“ここ一番”で勝負をかけられる事こそ重要であって、普段は自由であろうとも問題は無いと思う。男女の組織の在り方の違いだよ。我々としてもその当りの認識の差は詰めて行くつもりでは居る。もう少し時間は要するがの」長官は、のらりくらりとかわしにかかる。「男子としては、女子の様な組織を構成するより、個々の自由を大切にしてます。その当りの考え方の差は、ある程度ご理解頂けませんかね?」僕も変化球で目先を逸らしにかかる。「それじゃあ、何時になったらビシッとするのよ?だらしない姿はいい加減見たくないんだけど!」菊地さんは飽くまでも“椅子”に固執しようとする。彼女は“クラス制圧”を鮮明に打ち出している。そろそろ変化球でかわすにも限界は出て来た様だ。僕は長官に目配せをすると「それ程まで仰るなら、“承認”を取って下さい!伊東は先生が指名して就任しています。次期の委員長選出まで待てないならば、先生の職権を行使して交代するのが筋です。“伊東では、まとまらないから菊地に任せる”と言う御朱印が無くては降りる、いや、降ろす事は出来ませんね!」と直球を投げ込んだ。「参謀長の言う通りだ。手続きを踏まねば退位は認められん!強引な“政変”は混乱を招くだけだ!」長官も直球に切り換えた。「そう言う事だ。俺を降ろすなら正規の手続きを踏んでくれ!」伊東も居直りに転じた。「クーデターは、女子も巻き込む大事に発展する。折角まとまった状況を粉砕してまで、委員長を換える意味はあるのか?」滝も攻勢に転じた。菊地さんは答えに詰まった。弱点を突いて“椅子”を手にしようとしたが、うっかり目的を漏らしてしまったのが致命的だった。旗色はすっかり悪くなった。「俺達が“だらしねぇ”と言うが、女子の陰口も陰湿じゃねぇか?イジメの根っこは大抵、女子の陰口から始まるしな!」竹内が噛みついて来る。「要は、委員長を横取りしたいだけだろう?それは俺達も認められない。なりたきゃ、次の選挙で正々堂々と立候補してからにしろよ!」久保田も噛みついて来る。菊地さんの背後には、野郎共数名が冷たい視線を突き刺さんばかりにして群れて居た。こうなれば、形勢は逆転だ。目論見が外れた彼女は逃げにかかる。「今日の所は、これまでにしましょう!1ヶ月の猶予を与えるわ。それまでにキチント統率しなさいよ!」と言うと彼女は逃げ出そうとする。だが、野郎共はそんなつもりは毛頭無かった。「待てよ!1ヶ月の猶予だと?そんな命令下す権利持ってるのかよ!」竹内を先頭に野郎達が菊地さんを包囲した。「俺達だって“やる時は本気出して”やるぜ!あんまり、上から見下す様な口は聞くなよ!伊東への侮辱は、俺達全員への侮辱と見なすぜ!」珍しく久保田も負けて居ない。長官が割って入ると「竹、くぼ、もういい!男子の本気度は伝わった!菊地さんよ、これでもまだ言うかね?」長官が退路を開こうとする。「長官!今日の所はこのあたりにしましょう。意識の差は詰めればいい。僕等の“本気”も見えたはず。包囲するのはもういいでしょう?」と僕も包囲を解く様に説得した。「長官と参謀長がここまで言うなら、仕方ない」竹内達は包囲を解いて菊地さんを解放した。彼女は脱兎のごとく走り去った。「竹、くぼ、感謝する」長官が頭を下げた。僕も2人と握手を交わした。「いけすかねぇ女だ。アイツにだけはクラスを乗っ取られねぇ様にしねぇと。西部中での話を知らねぇと思ってるのか?!」竹内が吐き捨てる様に言った。「それが分からないから、ああ言う事を平然と言うのさ。さて、次はどうやって攻めて来ますかね?」僕が言うと「何があってもアイツだけは認めない!長官、参謀長、援護は任せろ!必要なら上から押し潰してやる!」と久保田も息巻いた。「当面は静かになるだろうが、機会は伺って来るだろう。さて、次の1手は何かな?」長官が笑う。当面の危機はこうして回避された。

「息詰まる攻防だったね。でも、意外だったのは竹内君とか久保田君が、あそこまで援護した事。男子も結構やるね!」道子が意外そうに言う。「普段は女子に見せない姿だからな。でも、みんなちゃんと考えてるんだぜ!“ここが勝負所だ”ってね。女子に対してもそう。“あそこはどう言うご意向だ?”って聞いて来るからね」僕が少し内幕を披露すると「へー、見て無い様で見ててくれるんだ!」「無関心かと思ってた。素振りも感じさせないから」「男子なりの思いやりが見えた様な気がする」と反応が返って来た。「案外、いいヤツらが揃ってるって事?」幸子が聞いて来る。「ああ、みんないいヤツだよ。普段は素っ気ないが、時と場合に寄っては団結力はあるよ!同じクラスになってまだ3ヶ月経ってないから、野郎共が馴染むまでには、もう少し時間がかかる。そのうちに自然と打ち解けるさ!」僕は確信を込めて言った。「Y、身体は大丈夫?」堀川が僕の顔色を見て言う。「菊地さんとやり合った時に、汗かいたから随分楽になったよ。“アイツ”はもう暴れ出さないだろう」「でもね、病み上がりで出て来た直後に、コイツは箱ブランコの下敷きになって、頭を強く打って意識不明になってるのよ!まだ、フラフラしてるから油断したらダメ!Y、家に着くまで気を付けな!」雪枝が釘を刺す。「そんな事もあったね。良く覚えてるな」「忘れるもんですか!擦り傷だけで済んだけどさ、ぐったりとしたYの姿を見てみんなショックを受けてるんだから!」道子も背中を叩いて言う。「本当は、真っ直ぐ連れ帰りたかったのよ!菊地さんとの猛烈なやり合いなんか見てられなかった。もっと自分を大切にしなよ!」幸子も言う。ゆっくりと歩いて来たが、駅は目前に迫っていた。電車の時間もそうだったが、僕が乗るバスも30分以上の待ち時間があった。ベンチに座り込むと堀川がボトルを配って歩いた。「Y、1つ聞いてもいい?」「何を?」「殷王朝の前って夏だよね?伝説って言われてるけど、存在したと思う?」古代中国の夏王朝の在否に関する疑問だった。「殷も初めは伝説と言われてた。でも、殷末期の宮殿跡が見つかって、実在が証明されてる。掘れば夏王朝の遺跡が出る可能性は充分にあるよ。でも、余計にややこしくなるけどさ!殷、周、秦、前漢と覚えるのに夏が加わるから、語呂合わせが難しくなるね」「日本は何処までが神話になるの?」「神武天皇陵はあるんだが、皇室が発掘を認めないから神武天皇の墓とは断定出来ないでいる。有名な仁徳天皇陵にしても“間違いなく”仁徳天皇の墓なのか?証明出来てはいない。諸説あるが、神武天皇からずっと続いているとする説や、継体天皇以前は断絶があると言う説もある。継体天皇以前については謎が多いのは否定しない。何故なら“皇位継承史上最大のバイパス手術”になったからさ。5世代離れての皇位継承は、その時だけ。後も3世代離れての継承はあるけど、これだけ離れた継承は後にも先にも無いんだよ。中国の文献にも“倭の五王”の記述はあるが、実在したかどうかを確かめる手にはなってない。実際問題、神話と実話の境目は線引き出来てはいないんだ!」「今後の発掘や新資料の発見待ちって事?」「そうだね、古代の事は地道に調べ上げるしか無いのが現実。まあ、愉しみはあるけど」僕はなるべくゆっくりと話した。みんなは興味深く聞き入って居た。「Y、別の質問。地層を掘って地震を調べる事やってるけど、あれはどう言う目的か分かる?」「“地震考古学”か。地震を起こす断層が動くのは数百年か千年単位だから、過去の文献に書かれてる地震の記述と照らし合わせて、いつの時代にどの程度揺れが起こったのか?を割り出せば次に断層が動く時期を特定しやすくなるし、規模も想定しやすくなる。今は“東海地震”の予知が最大の課題だけど、古い記録を追って行くと“東海地震”が単独で起こった事は少ないんだ。“東南海”“南海”の3つが連動したケースや“東南海”と同時に起こったケースの方が圧倒的に多い」僕は地図を出すと伊豆半島から四国沖までのゾーンを指して「フィリピン海プレートが沈み込んでる海の中で起きるから、津波の被害も甚大になる。津波の高さだって8mは下らないだろう。最大予想震度は8か9の巨大地震だよ」「この辺でも5か6でしょう?発生したらどうなっちゃうんだろう?」中島が心配する。「予想出来ないし、何が起きてもおかしくは無いよ。事前に予知出来るのを祈るしかない。今は大丈夫でも必ずやって来る運命だ」「怖いけど避けようもない。普段から意識して備えるしか無いのね」堀川が言う。電車のアナウンスが入った。上下同時だ。「今日はありがとな。また、来週!」「Y,来週は自転車に戻れそう?」幸子が聞いて来る。「大事を取ってバスにする。へばったら坂道の途中で待ってるよ」僕が言うと「そうしな!」「待っててよ!」と道子と雪枝が言う。「また来週!」中島と堀川も言う。5人は電車で家路に着いた。バスが滑り込む。「さて、帰りますか」と僕はバスに乗り込んだ。

翌週、水曜日から自転車通学に戻そうとした矢先、雨に見舞われ3日連続のバス通と相成った。“大根坂”の中腹で一息付いていると5つの傘が揺れて登って来る。「Y-、おはようー!」中島が手を振って止まる様に指示する。「おはよ。嫌な季節の到来だな」と僕が言うと「本当、ソックスが濡れて気持ち悪いのよねー」と幸子達も言う。「着るモノも肌寒いと上着が欲しいし、ちょっと晴れれば蒸し暑いし、どっちかにして欲しいな」と堀川もこぼす。彼女をよく見ると髪を“聖子ちゃんカット”にしていた。「堀ちゃん、可愛くしたね!」幸子がそれとなく言って僕を突く。“何か声をかけろよ!”と眼で訴える。「堀川、髪型似合ってるよ!」と言うと彼女は赤くなって「そうかな?」と自信なさげに言う。「人1倍、髪型に気を使ってるの見てたから、いい選択じゃないかな?」“もっと褒めろ!”幸子は肘で僕を突く。「セットするの大変じゃない?」「うん、朝15分は早く起きてやるから、ちょっと大変。Y、変じゃないよね?」「何を言うか!努力の結晶が変な訳ないじゃん!女性の特権だからな。似合ってるよ!」「そう?Yに言われると安心する。毎朝、頑張って決めて来るから!」「期待してます。でも、今日みたいな日は特に気を使うよね?」「うん、崩れない様にしなきゃ。あっ、みんな!置いてかないでよ!」そそくさと4人は先を歩いていた。「こら!置いてきぼりにするな!」僕と堀川は慌てて、後を追った。教室へ入ると幸子が「堀ちゃんをもっと見てやりな!あんたはどうも鈍いからさ」とさりげなく言った。「それはどうもすみません。幸子、ブレザーの背中びしょ濡れじゃん。乾かして置きなよ」と言うと「あたしはどっちでもいいから、堀ちゃん!」と言ってむくれる。「分かった、でもこれはマジで教えてくれ。クラスで誰か香水使ってるかい?」「どうしたの?」「実は、昨日先生がここで香水の空ボトルを拾ったらしい。“クラスの女子を当たれ”って命令が出てるんだよ!思い当たる節はある?」「うーん、微妙だね。ボトルにもよるけど、男子も調べないといけないよ!可能性はゼロじゃないし」幸子は難しい顔で答える。「ちょっとみんないいかな?」幸子は招集をかけた。「さち、何かあるの?」4人が集まる。「昨日、ここで香水の空ボトルを先生が拾ってる。男女を問わず香水を使っているのを知らないかい?」僕が聞くと「もしかして、菊地さんかな?微かに香ってるのよ!彼女」堀川が証言をしてくれる。「男子なら竹内君かな?彼、たまに付けてるよ!」「ほら、男女を問わずに対象者が居るでしょ!Y、ボトルの大きさとデザインは分かる?」幸子が指摘して聞いて来る。「大きさは、このくらい(紳士モノの腕時計の直径)。色はピンクだ。香りはバラか他の花の香りらしきものだ」僕は知り得ている情報を伝える。「だとすると、男子は対象から外れるね!Yの情報が確かならば、女性モノっぽいね」道子が言う。「堀ちゃん、菊地さんの香りってどんな感じだった?」雪枝が聞いてくれる。「そうねー、バラとは言えないけど花の香りなのは確か。でも、微かに香る程度だったから断言はできないよ。あたしもセットにヘアスプレーを使ってるから香りは残るし・・・、ヘアケア用品の匂いかも知れないし・・・」そう言われれば、否定は出来ない。何せ女子の証言だ。信憑性は高い。「堀川、ヘアスプレー持ってる?」「うん、携帯用ならあるよ」「他にも“ヘアミスト”とか持ってる人、出してくれ!」5人がそれぞれにヘアケア用品を持ち寄る。「香りのテストか?テスターは堀ちゃんだね」道子が言って自分の持ち物を手の甲に付けて、堀川に匂いを嗅いでもらう。結果は「どれも違う」とのことだった。「女性の証言だから、疑いの余地は無い。菊地さんはショートヘアだから、テストの結果を聞く限り、取り敢えずグレーゾーンって事になるな。だが、確証を得るには僕が嗅ぎまわる訳にはいかない!さて、どうしたものか?」僕は思案に沈んだ。「Y、手はあるよ!女子の力を借りればね」堀川が言う。「どうするの?」「女子がさりげなく嗅ぎまわる分には、気付かれる危険はないでしょ!笠原さん達に協力してもらって、調査すればいいじゃん!」「ふむ、長官に依頼してさりげなくやってもらうか?どうやら、ここは女子の領域で勝負しなくては無理だな!だが、乗ってくれるかね?笠原さん達が?」僕はイマイチ引っかかっていた。「ともかく話してみれば?“土曜日の一件”以来、女子の中でも“地殻変動”が起こってるからさ!」道子が意味ありげに言う。「分かった。まずは長官を捕まえないと。堀川、ありがとう!これで1歩前進出来たよ」「どういたしまして。役に立てて光栄です」「些細な事でも逃さないでくれるから、こう言う時にモノを言う。それが僕等の強みだよ」僕は堀川の肩に手を置いて言った。彼女は赤らめた顔をしていたが、嬉しそうに笑っていた。幸子は“それでいいの。堀ちゃんを大切にしな!”と眼で言っていた。だが、僕は幸子が“風邪を引かなければいいが”と心配していた。

長官に先生からの“調査依頼”を告げると「それは千里の領域だ!彼女を引っ張り出そう」と直ぐに笠原さんを呼んでくれた。僕は女子と検討した結果も踏まえて依頼をかけた。「そう言う話なら、あたし達の出番だね。参謀長が下調べしてくれてるなら、香水の線で疑っていいと思うよ。今週中には突き止めて見せる!あたし達に任せて!」ともろ手を挙げて賛同してくれた。「千里、言うまでも無いが・・・」「さりげなくやれ!でしょ?分かってるよ。必ず尻尾を掴んで見せる。“土曜日の一件”は、あたし達にも突き付けられた事だからさ。率先して動くよ。長官や参謀長ばかりに矢面に立ってもらうのは心苦しいし、あたしらにしても“クラスを蹂躙される”のは本意ではないからさ」と彼女は気遣いを口にした。「男子も“捨てたもんじゃない”って意気込みを見せて貰ったから、今度はあたしらの番。菊地を封じ込めるためなら総力を挙げてかかる!折角同じクラスになったのに、折り合いが悪いのはごめんだからね」笠原さんも懲りた様に言う。「参謀長、女子も我々と思いは同じ。蹂躙される前に手を携えて行くのは当然の帰結じゃ!」長官も笠原さんも微笑んでいる。「では、宜しくお願いします」僕は頭を下げた。「そんな事しないで、クラスメイトの先生の頼みを断る様な真似が出来ますかいな!」彼女は早速打ち合わせを始めた。「これでまた1つ打撃を与えられれば、意思もぐらつくだろう。そこで焦って事を起こせば、今度こそアウトに追い込める。千里達の働きに期待しよう」と長官は言った。「外堀は埋まりつつあります。守備で綻びが出れば、落としやすくなります。今一歩ですな」「ああ、決戦は今週末。跡形もなく攻め落としてしまえば、再起不能となる。参謀長、担任には“今しばらくの猶予”を申告して置いてくれ」「はい、昼にも繋ぎを付けて置きましょう」僕等は菊地さんの背を追った。彼女は、まだ何も知らない。


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