limited express NANKI-1号の独り言

折々の話題や国内外の出来事・自身の過去について、語り綴ります。
たまに、写真も掲載中。本日、天気晴朗ナレドモ波高シ

ミスター DB 55

2018年10月11日 16時27分16秒 | 日記
肉汁が滴る厚切りのステーキ。Pホテル1階のレストランに入ったKとDBは、お勧めの料理を丁寧に断り、肉の塊にかぶり付いていた。このメニューが選ばれた理由は、実に単純だった。横浜での2日間“中華料理”ばかり食べて来たので、さすがに飽きたからだった。DBが警察の罠が仕掛けられていない事を確認すると、Kはすかさず部屋を飛び出して、2匹はここへ雪崩れ込んだのである。ライスは大盛、焼き加減はレアを選んだ。「美味いー、もう1枚追加してもいいか?DB?」Kは腹を満たせて幸せそうだった。「あまり食べ過ぎてもいかん!重要な壮挙の前だ!程ほどにしておけよK!」DBはKの暴走を止めるのに必死になった。「だがなDBよ、食える時に食っとかなければ、次は何時になるか分からんぞ!」Kは、厚切りのステーキを追加注文しつつ言う。「まあ、それは否定しないが・・・、一応は食って置くか!」DBも厚切りのステーキを追加注文して、ガバガバと貪り付いた。“2匹の食用蛙”達は、周囲の怪奇の目など気にも留めずに食い続けた。思えばこれが2匹が揃って食した“最後の晩餐”になったのだが、2匹はまだこの後の悲惨な末路を知る由も無かった。

「どうだった?リーダー?」「はい、猛烈な勢いで無心に食ってます。気付かれている気配はありません」ミスターJは報告を受けて、ほっとした様だった。首の皮1枚で繋がった警官隊の誤突入から1時間余り。KとDBは“警戒”はしているが、目は逸れている。「食事を済ませれば、そろそろ動き出すはずだ。リーダー、機動部隊に連絡して車を1台、大至急手配してくれ」ミスターJは突然計画の変更を言い渡した。「えっ?Z病院へ先回りするのではないのですか?」リーダーも驚きを隠さない。「どうも嫌な予感がする。2匹が素直にZ病院へ向かうとは思えなくなって来た。もしかすると、もう一山あるやも知れん。念のためだ、我々も追跡に参加する!」「では、直近の車両を大隊長に命じて、回送させます」「回送先はαポイントにしろ!“スナイパー”達と合同で追う」「分かりました」リーダーは直ぐに車両の手配にかかった。

県警の捜査本部も徐々に緊張感が漂い始めていた。主力を振り向ける相模原署には続々と車両が集結しつつあった。「相模原の施設周辺の様子はどうだ?」捜査一課長が誰何する。「報告によれば、普段と変わらず静まり返っている様です」マル暴課長が答える。「今が一番大事だ。まだ覆面2台しか配置に着いていない。Eの様な“大馬鹿者”がウチに居なくて助かったぜ!」G刑事が言う。「地図で見ると、奥の方に橋がある。この川の対岸の道から遡れば、挟み撃ちに出来るな!」「だが、一課長、団体行動は無理ですよ。半ば丸見えですからね!」G刑事が指摘する。「それはそうだ。だが、覆面部隊なら悟られない。機動隊員を押し込めるだけ押し込んで、ピストン輸送すれば隠れる場所はある。出来るのであれば、施設を包囲したい」「バスを使えないとなれば、それしか手は無いな。相模原に言っときますよ。早めに始めないと間に合わない」G刑事は相模原署へ指示を伝えるべく受話器を取る。「監視のポイントとして、対岸の山腹に公園があるな。ここにも車両を回せ!全体を俯瞰出来そうだ」「分かりました。合わせて言っときますよ」G刑事は相模原署へのキーを叩いた。「おう、俺だ。一課長の指示を伝える・・・」W警部が写真を持って本部に駆け込んで来た。「KとDBの顔写真です。DVD-Rから引っ張り出して来ました」「そうだ。肝心の顔写真を忘れていたな。誰が誰だ?」「こちらがK、こっちがDBです。Z病院に現れるのはこの2人です」「Z病院に向かう捜査員へ配布して置いてくれ。一見すると、ただの親父2匹だが、裏へ回ればZZZを使う凶悪犯だ。必ず確保するんだ!」「はい」W警部は顔写真を配りに走る。「マル暴課長、G刑事、鑑識を連れて、そろそろ出発だ!Z病院の方が片付き次第、私も急行する。それまでは、徹底的に調べ上げて片っ端から“押収”をかけてくれ!」捜査一課長が断を下した。「分かりました。遂に本丸を攻める時が来たか。殉職したヤツらも喜んでくれるでしょう」G刑事が感慨深くに言う。「手加減は無用だ。頭の天辺からつま先まで、身ぐるみ剥がして洗ってくれ!」「了解。では、行って来ますぜ!」主力を率いてマル暴課長とG刑事は、相模原へ向かった。「W警部、ちょっといいか?」捜査一課長が本部の隅で呼んでいる。「さっきの警官誤突入の件だが、ありゃ誰からの通報だ?」「大学の先輩からです。これ以上は残念ですがお話しできません」「その先輩とやらも、KとDBを着かず離れずで追っているのか?」「追っているのは、先輩の知り合いの陰の組織です。詳細は私も知りません」捜査一課長は部屋を出ると、自販機でコーヒーを2本買い。W警部に差し出しながら「俺も聞いた話だが、丁度1年前に銀座のクラブの経営者が、麻薬取締法違反でパクられた事件を知ってるか?」「ええ、ホステス全員が煙のように消えたヤツですよね?」「それだよ。あの時、捜査に当たった同期のヤツが言ってたが、“ホステス全員を一瞬で消し去る様に連れ出したのが誰か?最後まで分からなかった”と言ってた。“並みの組織ではない、陰の軍団の様だった”ともな。もしかすると、今回もその“陰の軍団”が動いているんじゃないか?」「先輩は何も言わなかったけれど、あり得ない話ではないですね」W警部も半信半疑で答えた。「もし、仮にだぞ、“陰の軍団”が動いてくれているなら、目的は何なんだ?」一課長は首を捻る。「Z病院に入院している患者さんを護るためですかね?」「その過程で、Kが青竜会に首を突っ込んだ。そして、必然的に青竜会絡みの証拠が浮かんだ。それを我々に届けた。そう言う図式か?」「総合的に判断すると、そうなりますね。一体何処の誰なのか・・・、逢って見たいとは思いますが」W警部も首を捻りつつ言う。「俺も逢えるものなら、逢っておきたい。礼の1つくらい言わせてもらいたいよ。W、奇しくも今日は“スティグ作戦事件”で2人の捜査員と1人の少年が犠牲になった日だ。弔い合戦では無いが、偶然にしては出来過ぎている」「10数年前の事件ですよね。確かE警部補も関係者では?」「ああ、Eも関わっている。最後は親父さんが引き取って矛を収めたんだ。酷い事件だった。犠牲になった少年は、Eの同級生だった。表沙汰にしない様に、親父さんが八方に手を回してもみ消した。現場の俺達にしても、やり切れない無念さで一杯だった」「だから、Eは警察へ?」「多分な。ヤツも忘れてはいまい。いや、忘れられないからこそ警察に身を投じたのだろう。だが、今のままでは、Eは独りよがりの捜査しか出来ん。だから、謹慎を命じたんだ」「Eに正気を取り戻させるなら“陰の軍団”にでも鍛え直して貰いますか?」W警部が言うと「それは、俺も考えている。真剣にな!」と捜査一課長が真顔で言った。「Z病院に現れたら依頼しますか?」「出来るならそうしたい。Eの為にもな!さて、そろそろ我々も出発しよう。Z病院周辺をあらかじめ見ておきたい」「そうですね。あそこは最寄り駅からも、かなり離れてますし、KとDBがどうやって現れるかを見定めないといけませんね」「Kの車は割れてるのか?」「ええ、ちゃんとデーターとして載ってました」W警部が写真を懐から引っ張り出す。「至れり尽くせりか。総指揮を執ってるのは、かなりの切れ者だな!」捜査一課長がため息交じりに言う。「そのお陰で、我々も助かっているのですから、感謝の一言も言いたいですね」「そう願いたいよ」2人は缶を投げ捨てると、出発の準備にかかった。

食事を終えたKとDBは、一旦部屋へと引き上げた。「DB、お香は残っているか?」Kは真顔で聞く。「ああ、まだ10本以上のこっているが、どうした?」DBは不審な表情で聞いた。「これより“清めの儀式”を執り行う!身体を洗い清めてから出陣する。空気を清めるんだDB!」Kはそう言うと浴室に消えた。DBは3本のお香に火を点じ、Kが出て来るのを待った。「DB、お前も行って来い」Kは流れる汗を拭きながら言った。止む無くDBも全身を洗い直した。汗を拭い、衣服をまとう。Kはお香の漂う室内で座禅を組み、一心に般若心経を唱えていた。DBもKに倣う。室内には般若心経が流れ、厳粛な雰囲気が作り出された。「我は、今日、必勝を祈願する。神仏のご加護があらんことを!」Kは東の方角に向かって祈念した。東方遥拝らしかった。些かへんちくりんではあったが・・・。“儀式”を終えたKは、ボストンバックを1つ手にすると、ショルダーバックを肩から提げて室内を見渡した。「いよいよ出陣する。暫く日本ともお別れだ。だが、帰国する際は我らの天下となっているハズだ。DB!いざ、Z病院へ!」Kは気勢を上げると、ドアへ向かおうとした。DBは「K、そのボストンバックはどうするんだ?」と言って押しとどめる。「これは、残して置けない危険物だ。Z病院へ行くまでに処分する」とKは言った。「DB!クスリで小僧を葬るのだ。捕縛の道具は必要ないではないか!」DBは漸く事を飲み込めた。「そうか、手錠やリードや首輪はいらんな!」「最後はバックも切り裂いて処分する。コイツだけは、残してはならんのだDB!」「分かった。いざ、出陣!」2匹は威勢よく部屋を後にした。

特別ラウンジからもKとDBの“出陣”は直ぐに確認できた。「出てきましたね。いよいよ、追跡だ!」リーダーが言うと「私は先にαポイントへ向かう。リーダー、KとDBの“出陣”を見届けてくれ。後で迎えに来る」ミスターJは席を立つと上着を羽織った。「分かりました。では、後程」リーダーは、KとDBの背後をすり抜けると、ホテル外へ急いだ。ミスターJも巧みに人込みに紛れると、一気にホテル外へ抜け出しαポイントへ走った。αポイントは、Pホテルの北側の路地に設定されていた。既に“スナイパー”の車と機動部隊の車両が待機している。“スナイパー”が「ミスターJ、いよいよですか?」と誰何すると「“出陣”だ!“スナイパー”探知機のスイッチを入れろ!絶対に見失うな!」と指示が飛んだ。素早く車に乗り込んだミスターJは、機動隊員に「“スナイパー”の車に着いて行け!遅れるな!途中でリーダーを拾う」と言った。間もなく2台の車は、ゆっくりと動き出した。同時に携帯が鳴る。「ミスターJ、FMラジオを点けて下さい。周波数を88.85MHzにセットすれば、KとDBの声が拾えます!」F坊が言った。「どういう事だ?」「FMトランスミッターを改造した“耳”をKの車に仕掛けてあるんです。400m以内なら、多少雑音は入りますが、声は聴こえるはずですよ!」N坊が補足する。「了解した。よく仕掛けたな。向こうは知らんのだな?」「ええ、1度起動すれば12時間は発信し続けます。停車中にエンジンを切られても拾い続ける設定にしときました!」N坊が自信ありげに言う。「よくやった。早速試そう」ミスターJは「FM、88.85MHzにセットだ」と機動部隊員に命じた。「いくぞ・・・、DB・・・、ンドマークタワーへ・・・始末する」確かに途切れ途切れだが、Kの声が捉えられた。「ミスターJ、リーダーを発見。停車します」機動部隊員は減速を開始した。リーダーは素早く後席に滑り込む。「ヤツら、明後日の方向へ向かってますよ。Z病院へ行くなら逆の方向へ出ないと、幹線道路から外れます」リーダーが報告する。「ンドマー・・・、地下・・・、入る・・・、道は間違い・・・、こっちだ・・・」今度はDBの声が捉えられている。「何です?この途切れ途切れの音声は?」「にわか仕立ての“耳”だ。NとFが仕掛けたらしい。KとDBは“ランドマークタワー”へ向かう様だ」ミスターJが説明する。「何の為です?」「KとDBはボストンバックを持っていただろう。リーダー見覚えは無いか?」「そうですね、あっ!そうか!捕縛の道具が入っていたバックだ。だとすると、ヤツらは処分に・・・」「そうだ、“ランドマークタワー”内に物品をばら撒くつもりだろう。考えたな!あそこなら糸くずの様に目立たない。だが、“落穂拾い”に行けば証拠品を集めることが出来る」ミスターJが言う。「ですが、誰を行かせます?」すると「私と君だ。リーダー」「我々が行くんですか?!」リーダーは驚愕した。ミスターJは携帯を取り出すと、“スナイパー”の車を呼び出した。「私だ。オープンマイクに切り換えろ!緊急の作戦会議だ!」「はい、聞こえますか?」F坊が言った。「みんな、聞いてくれ。KとDBは“ランドマークタワー”で“彼”の捕縛用具を始末するつもりだ。捨てる場所は不明だが、誰かが“ランドマークタワー”へ潜って“落穂拾い”に行かねばならない。そこで、私とリーダーが“落穂拾い”に出向く。他の者は地上で待機してくれ」ミスターJは決然と言った。「俺達ではダメですか?ミスターJ御自ら行かれなくてもいいのでは?」F坊が問いかける。「N、F、君達はあくまでもKとDBに着いて行かねばならない。最終の行先は、Z病院と決まっているが、まだ横道に逸れる可能性はゼロではない。その時に、ヤツらを見失う事は避けなければならない。私達は遅れても、君達は遅れる事は許されない。危険は承知の上で、ここは私達に任せて貰いたい」暫く沈黙が支配したのち「分かりました。ミスターJ、くれぐれも注意して追尾してください。こっちは、追跡体制を維持して待機します」F坊が意を決した様に言った。「最悪の場合、まずFMの受信感度を頼りに追って来て下さい。それでも分からなければ携帯で誘導します」N坊が申し出た。「ミスターJ、まもなく“ランドマークタワー”に着きます。このまま進めば、北口から地下へ入ることになります。こちらは、Kの車とそちらの車が地下へ入り次第、出口付近へ先回りして待機します」“スナイパー”が言った。目の前に“ランドマークタワー”が聳え立っていた。「よし、では行って来る。後は任せるぞ!」「はい!」3人の声が重なった。「スピードを上げて前に出ろ!Kの車へ接近だ」機動部隊員へ指示が飛ぶ。「了解」1台、間を置いて車はKの車へ接近した。Kの車は予想通り地下駐車場へ降りて行く。「そのまま追尾だ」ミスターJ達も地下へ向かう。「浅い所は一杯の様です。かなり深い場所でないと空きがないでしょう」リーダーが言う。地下5階でKの車は空きスペースを見つけた。「我々は、少し距離を保とう。奥の空きスペースへ滑り込め」機動部隊員は80m先へ車を着けた。KとDBは、慎重に周囲を伺っている。トランクからボストンバックを引きずり出すと、KとDBはエレベーターに向かった。「では、リーダー我々も後を追うぞ」「はい」2人はKとDBに気付かれない様に車を降りた。慎重に距離を保ち、追跡を開始する。エレベーターは2基あった。先にKとDBをエレベーターに乗せてから、行先を見定める。「ともかく地上へ出よう」後からやって来たエレベーターで1階を目指す。1階へ上がった2人は、慎重に周囲を伺い、KとDBを探す。だが、居ない!「1フロア下か!」慌てて階段で地下1階へ駆け戻る。ゴミ箱があったので中を探す。「首輪だ!」「追うぞ!」2人は人込みの中で、KとDBを探す。ゴミ箱を片っ端から調べながら、2匹を追うのは骨の折れる作業だったが、リードを発見することが出来た。「間違いなくこの先にいるはずだ!」ミスターJ達は必死に2匹を追った。“ランドマークプラザ”から“クイーズ・スクエア”へ2匹は向かっている様だった。その間に、手錠と灰色の粘着テープがゴミ箱から発見された。「残りは何だ?」ミスターJがリーダーに聞いた。「鎖とロープが残っているはずです」「後はバックか!」2人は注意深く先を伺う。背の低い2匹は容易には見つからない。通路に出ている出店も邪魔をして、視界を閉ざしている。「居ました!」「何処だ?!」2匹は、“クイーズ・スクエア”のディズニーショップで発見された。近くにゴミ箱がある。人込みに紛れて2人は、KとDBの様子を伺いながらゴミ箱を探る。出てきたのはロープだった。「何を呑気に見てるんですかね?」リーダーが言うと「時間調整だろう。どこかにロッカーはあるか?」ミスターJが聞く。場所は“みなとみらい駅”へ降りる巨大なエスカレーターの近くだ。「下にならあるかも知れません」「鎖を放り込むとデカイ音がする。次はバックごと放棄するだろう。ロッカーの近くだ」ミスターJが推測した。KとDBは、ガラにもなくディズニーショップで買い物をすると、“みなとみらい駅”へ降りる巨大なエスカレーターに乗った。「見失うなよ。次は一番の大物だ」2人も後を追う。“みなとみらい駅”のエントランスへ降り立った2匹は、陰の方にあるロッカーへ向かった。「ビンゴ!」2人の予想通り、バックはロッカーの陰に放棄されていた。「これで“始末”は済んだ。後は車へ戻るだろう」ミスターJが言った瞬間、KとDBがうろたえ始めた。明後日の方向へ向かったと思った瞬間、また元の場所へ戻る。「馬鹿め!方向感覚が狂ったな!」「だが、これは予定外だ!ここでモタモタしていると時間に間に合わないぞ!」ミスターJは焦り始めた。KとDBは“クイーズ・スクエア”へと戻ったが、依然としてあちこちへと視線を向けては迷っている。「迷子になるのは予想外だ!来た道を戻ればいいだけだぞ!アホ蛙共!」ミスターJは悪態を付いた。「どうやら、それすら分からない様ですよ!マズイ!こままでは遅刻です」「総合案内へ行け!目の前に居るだろうが!」迷える“食用蛙”2匹は、人込みの中で完全に立ち往生してしまっていた。

同時刻、県警本部長は庁舎裏の“英雄の碑”に花と線香を手向けていた。「みんな、今日は特別な日だ。いよいよ、青竜会との全面対決に踏み切る。みんなが待ち望んだ日が遂にやって来たのだ!」そう言うと暫く黙して手を合わせていた。ここには、これまで青竜会やその他の凶悪事件、事故で殉職した15名の遺骨が分骨され眠っている。E警部補の同級生も含めると16名が眠っている事になる。そのE警部補も本部長の横で黙して手を合わせていた。謹慎を申し渡された彼を呼び出したのは、本部長だった。「E警部補、後ろの殉職者名を見てみたまえ」本部長はE警部補を促した。彼は碑の裏を見た。「これは、どうしてT君の名前が・・・」彼は、亡くなった同級生の名を見て呆然と立ちすくんでいた。「君の親父さんの立っての希望でな、T君のご遺骨をここにお祀りして、代々の本部長が霊をなぐさめて来たのだよ。君には知らせないと言う条件でな」「何故?何故なんです?!私に知らせないと決めたならどうして・・・」E警部補はすっかり動揺していた。「今日は“スティグ作戦”が実行された日だ。君も忘れてはいまい。10数年前、青竜会との血みどろの決戦が起きた日を!」「はい、あの日は1度として忘れた事はありません!」E警部補は悪夢のような1日を思い出していた。「だが、今日は新たな日でもある。長年の宿敵、青竜会との全面対決に踏み切る日でもある。ここに眠るみんなが長い事待ち望んだ日だ!」本部長は静かに言った。「親父から聞きました。今日が決戦の日だと。それと、T君の事と何の関係があるのです?本部長?」E警部補は問いかけた。「これより後、我々は青竜会と血みどろの戦いを再び強いられるかも知れん!多くの仲間を失うかも知れん!だが、我々は屍を乗り越えて前に進む道を選んだ!君にその覚悟はあるか?」本部長はE警部補に問い返した。「それは、勿論あります」「だったら何故、君は捜査本部の命令を無視した?何故、謹慎を言い渡された?君はT君を失った頃と何も変わっていない!だから、捜査から外されたんだ!親父さんの力に頼るのは、もう止めるんだ!君は君の信念に従っているだけで、協調性がない。今頃の若い連中は皆そうだが、君の場合は“ご意向”とやらを背負った強引な捜査で周囲に迷惑をかけている。もうそんなやり方は、私も認めない!君は明日から小田原署付け山北交番へ転出してもらう。1から這い上がって来るがいい!這い上がった折には、第一線で活躍してもらう。七光りで昇ってもT君は喜ばんぞ!」「はい」E警部補は消え入りそうな声で答えた。「もう1度最初からやり直せ!まだチャンスは残っている。“本物の警部補”として、必ずこの碑の前に戻って来い!!」翌日、彼は交番勤務に就いた。青空の下、自転車を漕いで行く姿が初々しかった。「必ず、戻る。T君、待っていてくれ!」彼は、掛け違えたボタンを直すように、1人走って行った。

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