limited express NANKI-1号の独り言

折々の話題や国内外の出来事・自身の過去について、語り綴ります。
たまに、写真も掲載中。本日、天気晴朗ナレドモ波高シ

New Mr DB ⑨

2018年12月19日 22時49分59秒 | 日記
“AD事務所”のサイバー部隊は、目の回る忙しさに忙殺されていた。PCシステムの復旧を後回しにして、社長のベンツに“特攻”のための撹乱波発生器を車載する必要があったからだ。首都高三宅坂JCTで大破した2台と違い、社長のベンツには、幾つかの“細工”が不可欠だった。ケーブルを引き回し、枠を組み上げ、本体を強引に車に押し込む。部隊総出で酷く骨の折れる作業を短時間に効率よく仕上げるのは、困難を極めた。しかも、社長が癇癪を起す前に完了しなくてはならない。苦闘3時間の末に、作業は完了した。既に日は西に傾きかかっていた。「よし、良くやった。U事務所から攻撃を開始する。充電は完了しているな?」社長はご機嫌で尋ねた。「はい、正し攻撃は各1回に限定されます。ターゲットまでに距離があるのと、撹乱波を集中的に放射する関係上、連続攻撃は出来ません」部隊長はへばって顎を出しながら言う。「それは、致し方あるまい。様はPCシステムをダウンさせられりゃいいんだ!ミスターJの“司令部”の位置は?」「おおよそ、みなとみらい地区のこのホテルの1室だと推測されます。正確な位置までは特定出来ませんでした」部隊長は1枚の地図を差し出す。「よしよし、後は電波を辿れば場所は特定できる。お前たちは2班に別れろ!俺に付いてくる者3名と部隊長以下4名だ。残った者は、引き続きPCシステムをどうにかして復旧させろ!」部隊長が3名を選抜した。何れも電子機器のスペシャリスト達だ。「夕闇に紛れて行動開始だ!運転は俺がやる。お前たちは機器の調整とPCでの探索に当たれ!」社長一行は車に乗り込んだ。「明日には通常業務を再開させたい。それまでに、忌々しいあの“ゲーム”を駆逐しろ!この際、手段を選んでいるヒマはない。あらゆる手口でのアプローチを試みろ!」社長は、サイバー部隊長に厳命した。「はっ!」彼らは直立不動で敬礼した。「さあ、今晩が勝負だ!では、行って来る!」社長はベンツを発進させた。表通りに出ると、目立たない様に追跡を開始した一群があった。ミスターJの指示を受けた“機動部隊”である。大隊長は「今、発進しました。U事務所へ向かっています!」と携帯で報告した。「了解、見失うな!U事務所に接近したら、また報告を入れろ!」ミスターJが折り返し指示を与えた。社長達は気付く事も無く前進して行った。

「回路電圧は?」「OKだ!」「よし、テスト開始!」「防御シールドON!」N坊がシールドを張る。「まだサランラップ並みだ。アルミホイル並みまで上げないと」“車屋”が心配する。「大丈夫だ!電圧を上げる。電流はこのまま」N坊がノートパソコンを操作して、徐々にシールドの強度を変える。「シールド強度上昇、あっ!シールドの一部に変形が!」「電流を上げろ!4アンペア上昇!」「無理だ!これ以上は持たない!」“車屋”が叫ぶ。「じゃあ、どれか使ってない周辺機器を止めろ!プリンターOFF!」「プリンター、OFFライン。シールド強度上昇!電流・電圧共に安定!薄いアルミ板ぐらいになった!」「よし、これぐらいが限界だ。シールド回路にパラボラアンテナを接続しよう!」N坊が最後に残ったケーブルを繋ぐ。「ふー、どうにか間に合った。“シリウス”、高速通信回線に異常は?」「影響なし、IN・OUT共に正常!」「ならば、設定を変更する必要は無いな。一応、これで作業は完了だ。テストの第2段階だ。“スナイパー”、応答してくれ!」N坊がトランシーバーで呼びかける。「感度良好、多少雑音が混じるが、聞こえてるよ!」「低出力のレーザー波を照射して見てくれ!」「了解、レーザー波照射!」「シールドに変形確認。エネルギー、バッファーへ蓄積中。間もなくパラボラより反射します!」モニターしている“車屋”が叫ぶ。「“スナイパー”、照射を中止して退避!」「了解!退避完了!」「レーザー波反射開始します!」「反射波を検知した。正確に跳ね返ってるぜ!」“スナイパー”の声がトランシーバーから聴こえる。「はい、よしよしよし、シールドの設置完了だ。“スナイパー”戻ってくれ。“車屋”、出力を50%に絞れ!そうすりゃ、プリンターを起動しても問題ない」N坊が指示を出す。「こっちも完了だ!“シリウス”サーバーのデーター転送に、後どの位かかる?」F坊が問う。「30分くれ!そうすりゃ、隔離しても問題は無い」「U事務所の方は、メインサーバーも隔離してもらった。システムの稼働も抑えさせた。アタックを喰らっても最小限のダメージで済むだろう」F坊が報告をした。「意外に手こずったな。間に合ったからいいが、理由は何だ?」ミスターJが誰何する。「“司令部”の電力使用量が想定より多かったからです。そのまんま設置してたら、ブレーカーが飛んじまいます。隣の部屋から一部の電力を持って来なきゃアウトでした」N坊が悔しそうに言う。「ふむ、まあ、これだけのシステムが稼働していれば無理も無しか、照明に空調も含めれば相当な消費量にはなるな」「ええ、それが誤算でした」「U事務所は大丈夫なのか?」F坊にミスターJは確認を入れる。「あっちは、電器屋がいましたからね。新たに別回路を設置してもらいましたよ。無論、電力会社には内緒で“仮設”ですが」「ふむ、まあよい。これで防衛システムは出来た訳だな。後は、“網にかかればご喝采”と言う事か?」「“司令部”を遠巻きにしてる米軍部隊に言って置きました。“今晩アタックする不審なヤツが来る”ってね。米軍は短艇を用意してます。目の前は海ですから、引っさらって行くには絶好の場所ですよ!」“スナイパー”が言う。「“お仕置き”には事欠かんと言う訳か?横須賀へ連行してどうするつもりだ?」「“AD事務所”の連中が使っている撹乱波発生器は“中国製”です。米軍にして見れば、自国の技術がどれだけ流出しているか?の検証が出来ます。社長から入手ルートを聞き出せば、更に踏み込んで“スパイによる技術盗難と中国軍の脅威と軍事利用”について追う事も出来るでしょう。頃合いを見計らって、こちらに引き渡してくれますよ」「では、今晩は“確実にひっ捕らえる”必要があるな!エサは撒いてある。後は、動き次第か?!」ミスターJの目が光る。そこへ携帯が鳴った。「大隊長か。そうか、分かった!見失うな!U事務所に接近したら、また報告を入れろ!」「動きましたか?」“スナイパー”の目も光っている。「ゲス共が動き出した!F、U事務所へ至急警報を出せ!数十分もすれば射程圏内へ入るぞ!」「了解!」F坊は受話器に飛びつく。「Nよ、こちらのシールドも再チェックを怠るな!」「了解です!“車屋”、もう一度確認だ!」“司令部”は新たな緊張に包まれた。U事務所の次に狙われるのは“司令部”に他ならないからだ!

時間は少し戻って午後1時頃、U事務所のT女史は、Y副社長に面会するため、横浜本社を訪れていた。「お時間を頂き、感謝申し上げます。既にご存知かと思いますが、私達はミスターJの顧問弁護団を務めております。早速ですが、例の“音声記録”につきましてお話を申し上げます。R先生の手に渡る“音声記録”はご存知ですか?」「いや、まったく聞いていない。むしろ、私共に是非ともお聞かせ願いたい!」Y副社長と秘書課長は身を乗り出した。「左様でございますか。まずは安心致しました。“別物の音声記録”につきましては、外部に漏洩する事は非常に好ましくありません。この場限りでございましたら、再生してもよろしゅうございます。では、一部をお聞かせします」T女史は、黒いICレコーダーを取り出すと再生ボタンを押した。

「どうかお慈悲を!国内が無理なら海外でも構いません!」「そうは言っても社則に違背した事実は覆らん!犯罪に加担した以上、懲戒解雇は免れんぞDB!役員を説得するのは無理だ。弁護士も同じことだ!」「私は家族を養わなくてはなりません。どうか見捨てないで下さい!副社長、お言いつけは何でも聞きます!」「尋常な事では無いぞ!余程の理由が無ければ、周囲を納得させられん。だが・・・、1つだけ手はある。それは“現地採用”でベトナムへ潜り込む事だ!貴様はどの道、懲戒解雇にせざるを得ない!普通ならそれで終わりだが、特別に情けをかけよう。貴様は、直ぐにベトナムへ飛べ!こちらから“現地採用”の内諾を出して置く。定年まで帰国は叶わんし、給与も半額にはなるが家族を養う糧にはなるだろう。異例の処置だが、極秘裏に手配してやろう!それで構わんな?!」「ありがとうございます!決して違背は致しません。定年まで現地で必死に働きます!」

「如何でしょうか?」T女史は尋ねるが、Y副社長は笑いを堪えるのに必死だった。秘書課長も噴き出すモノを必死に堪えて居る。「ははははは・・・、何と言う展開だ!これもまた“世紀の傑作”だ!やってくれるな、ミスターJは!ふふふふ・・・、申し訳ない。あまりにもリアルなので可笑しくてたまらんのだ!ははははは!」「こちらをR先生にお聞かせしても、問題はございませんね?」「もっ、勿論だ!これならばDBが“志願”して海外に渡ったと思うだろう。それにしても、ここまで合成が完璧だとは・・・、だっ誰も疑う余地はない!」Y副社長は身をよじりながら承諾した。「では、この“音声記録”を元にしまして、事後処理に入らせて頂きます。DBは“自主的に海外への赴任を望み、会社としても特段の配慮として、極秘裏に処理を行った”との線で話をまとめまして、R先生へご報告させて頂きます。既に副社長様へ“音声記録”が届けられているとは思いますが、そちらは、御社内をまとめるためのモノ。これで双方共に法的に問題は発生しないと考えます。これでよろしゅうございますね?」「ふむ、これなら特段問題は出る事は無いだろう。先生の方で宜しくご処置の程を」Y副社長は同意した。「ただ、1つだけお願いを申し上げても宜しいかな?」「なんでしょう?」「今回の“音声記録”のコピーを頂きたい。私、個人が管理して対外的には一切漏らさない。どうですかな?」「ミスターJが信頼されている方のご依頼ですので、無下にはお断り致しませんが、くれぐれも漏洩なきようにしていただけるなら」「無論、そのつもりです。では、少々拝借します」Y副社長はICレコーダーをUSBでパソコンに繋ぐとコピーを取った。「このパソコンは、私専用です。同席している秘書課長もパスワードを知りません。誓ってここから表沙汰には致しません」「分かりました。では、これより事後処理の手続きへ入らせて頂きますが、“音声記録”のコピーの管理はくれぐれも遺漏なきようにお願いします」T女史は最後に釘を刺すのを忘れなかった。「承知しました。事後処理を宜しくお願いします」Y副社長はT女史と固く握手を交わして会談を終えた。T女史が横浜本社を辞すと、秘書課長は直ぐさま部屋へ取って返した。思っていた通り、Y副社長はヘッドフォンで“音声記録”を聴きながらゲラゲラと笑っている。「Y副社長、笑い声を抑えて下さい!お気持ちは分かりますが、何分聞かれるとマズイ内容です!」「分かっておる。だが、これも“世紀の傑作”だ!可笑しくてたまらん!」目じりをハンカチで押さえ、身をよじって笑い転げる姿は、他人には見せられたものではない。「もう一度聴こう!」Y副社長はボリュームを絞ると再生した。

「どうかお慈悲を!国内が無理なら海外でも構いません!」「そうは言っても社則に違背した事実は覆らん!犯罪に加担した以上、懲戒解雇は免れんぞDB!役員を説得するのは無理だ。弁護士も同じことだ!」「私は家族を養わなくてはなりません。どうか見捨てないで下さい!副社長、お言いつけは何でも聞きます!」「尋常な事では無いぞ!余程の理由が無ければ、周囲を納得させられん。だが・・・、1つだけ手はある。それは“現地採用”でベトナムへ潜り込む事だ!貴様はどの道、懲戒解雇にせざるを得ない!普通ならそれで終わりだが、特別に情けをかけよう。貴様は、直ぐにベトナムへ飛べ!こちらから“現地採用”の内諾を出して置く。定年まで帰国は叶わんし、給与も半額にはなるが家族を養う糧にはなるだろう。異例の処置だが、極秘裏に手配してやろう!それで構わんな?!」「ありがとうございます!決して違背は致しません。定年まで現地で必死に働きます!」

「まるで、この場で喋ったとしか思えません!前回のヤツも、今回のモノも実にリアルですな」秘書課長は改めて感嘆の息を漏らす。「彼らが必死で仕上げたモノだ。尋常な事では見破れまい。“私”のドスの利かせ方からしても、一級品だ!秘書課長、言うまでもないが、他言は無用だぞ!」「はい、分かっております。それと、DBの件でベトナムから至急指示を仰ぎたいとのFAXが入っております」秘書課長は1枚のペーパーを差し出した。「なに!“養豚場”だと!近隣住民からの“異臭”の苦情か。マズイな。原因はDBが居る地下空間なのか?」「はい、現地では飲料水は、中空糸フィルターでろ過した水を使っています。水は貴重品。DBに対しては、雨水や排水処理後の中水をろ過して与えています。どうやらそれがDBの親父臭と混じって“異臭”を放っていると思われます」「空気フィルターは?」「つい最近交換しております。エアコンも含めて根本的な“脱臭”対策を施さなくてはマズイのかも知れません!」「うーん、何分予算が限られとる。極秘裏に“隔離”している以上、手は限られるぞ!」「アルコールで消毒をしてはどうでしょう?工場でもアルコールは使っています。必需品ならば問題は無いかと」「消臭スプレーなどは使えん。その線で現地と調整してくれ。アルコールのストックならば誤魔化しは効くだろう?」「はい、では消毒する様に伝えます」「頼んだぞ。では、“笑劇場”の鑑賞と行くか!」Y副社長は再び笑いの世界へ沈んでいった。

白い世界が広がっていた。眩い光も白い。「ここは・・・、何処?」と言おうとしても声にならない。人工呼吸器が装着されていて、言葉は出ない。首を右へ傾けると白い手すりと白い壁、医療機器が並んでいる。「気が付いたようじゃな。お嬢さん、わしの声が聞こえるなら左手を握ってくれぬかの」首を左に向けると、品の良い老医師が左手を触っていた。彼女は左手を軽く握った。「自発呼吸再開。意識回復。待っててね、今、抜管するわ」滅菌服を着た看護師が言う。ゆっくりと人工呼吸器が外され、酸素マスクが装着された。「安心しなさい。ここはZ病院じゃ。貴方はずっと意識不明の重体だったのじゃ」“ドクター”が説明する。「どうして・・・、□病院じゃ・・・ないの?」R女史は、声を絞り出した。「無理して喋らないで。落ち着いて。今から説明するわ」ミセスAが優しく囁く。R女史の右手を取って「貴方は、盲腸が破裂して、□病院で手術を受けたの。酷い膿がお腹の中に溢れていたそうよ。でもその後、MRSAに感染してしまったの。免疫力が落ちていたから、重篤な症状を起こして□病院では治療が出来なかったの。それでここへ搬送されて来て、新薬の投与を受けた。MRSAをやっつけるために。1週間かかったけれど、貴方は戻って来たのよ。気分はどう?息苦しくない?痛い所はない?大丈夫そうなら右手を握って」R女史は右手を握り返した。「まだ、気付いたばかりだから、もう少し様子を診させて。点滴を取り換えるわね」「熱も下がって、顔色も良くなった。もう、心配はいらん。経過が良好なら、明日から流動食を出そう。腹が減ってはなんとやらじゃ」“ドクター”が笑顔で語りかけた。“父さんが送り返してくれたんだ”R女史は思った。“今まで突っ走って来たバツかな?みんなに心配かけちゃった。私、どうなるんだろう?退院までどのくらいかかるのかな?”R女史の頭の中は不安半分、反省半分だった。「どうしたの?物凄く不安そう。でも、大丈夫よ。もう少ししたら面会も出来るようになるから。今は、ゆっくりと休んで。ナースコールをここに置いておくから、何かあったら直ぐに押してね」ミセスAは右手にボタンを置いた。「交替しますね」別のナースが顔を覗き込む。“あたし、生きてる。帰って来れたんだ”R女史は涙を流して安堵した。白い世界で彼女は再び“生”を得た。

白いベンツがU事務所に近づいていた。「後、5分でU事務所へ到達します。各車は散開して攻撃を監視します!」大隊長が携帯で叫ぶ。「気取られるな!遠巻きに監視しろ!」ミスターJの声も緊張していた。「F、シールドはどうなっている?」「120%全開です。1部を除いてシステムはシャットダウンを完了してます!人員は窓辺から退避完了!」「よし!そのまま待機!」ミスターJの号令で“司令部”は静まり返った。長い時が過ぎていく。1秒が1分にも感じられた。「ベンツがU事務所に到達!攻撃準備に入りました!」大隊長の声が響く。「撹乱波を検知!あっ!蛍光灯が破裂しました!」「シールドは?!」「持ちこたえました!被害状況を確認します!」F坊が遠隔モニター画面を見ながら言う。「ベンツが移動を開始しました。距離を保って追尾に入ります!」「定期的に位置を報告しろ!回線は切らずに繋いだままでいい!」ミスターJは“機動部隊”へ指示を出した。「被害状況が確認出来ました!蛍光管4基破裂!レーザープリンター2台機能停止!他に被害ありません!撹乱波の出力は、首都高の10倍です!広角に照射した模様!詳しいデーターは今、集めています!」F坊が報告する。「最悪の事態は回避できたな!撹乱波の出力が予想より弱いのは何故だ?」「多分、U事務所の窓が広いせいでしょう。広角に照射した分、出力が出なかった可能性はあります!」N坊が見解を述べた。「となると、“司令部”はどうなる?」「今度は望遠側1点集中で来るでしょう。河口の橋からは、かなりの距離があります。ある程度の減衰を覚悟して狙って来るかと」「しかし、U事務所でも完全には食い止められなかった。対策はあるか?」ミスターJが指摘する。「高速通信回線は遮断するのが最善でしょう。“シリウス”の専用機も含めて、システムは可能な範囲でシャットダウンするしかありません。後は帯電防止シートで被うぐらいですね」N坊が答える。「おい、撹乱波の分布を見ると、窓枠に反射したヤツが蛍光管を破裂させた様だ。シールドの外側に破られた痕跡がある!窓が広すぎて完全にシールドで防御出来た訳じゃないらしい!隙間があったんだ!U事務所のシールドは、外乱の関係上内側に設置したんだ!」F坊がデーターを見て分析結果を言う。「ここのシールドはどうだ?」「窓枠から5cm外側に枠を覆う形で設置されてます。拡大率を上げれば完全に覆う事は出来ます。シールドの強度はU事務所より少し落ちますが、撹乱波の減衰率を考えると、突破される事は考えにくいですね。向こうの充電率にもよりますが」「実際には、喰らって見ないと分からないと言う事か?今から改良するにしても時間は無い。問題は向こう次第か?」「ええ、“AD”の社長が気付いているか?は疑問ですが、撹乱波発生器が積み込まれた時点では、固定されている安定した電源からフル充電されていたはずです。U事務所を襲撃した時点での電気の使用率は不明ですが、2割ぐらいは残したと推測しても、フル充電されてここへ来ることはまずないでしょう。何せ“電源”はベンツの発電機しか無いのですから。夜ですから、ライトは不可欠ですし、エアコンも動いているでしょう。車内でPCや電波検知器を使うとなれば、その分充電に回る電気は減ります。ハイブリッドやプラグインだったら、蓄電池から電気を得られますが、ベンツですからね。高速をぶっ飛ばして発電量を増やさない限り、充電は覚束ないはずです。一般道をトロトロ走って来るとすれば、余計に電気は足りなくなります。つまり、100%の状態で攻撃を喰らう確率は、かなり低いと見て間違いないでしょう。そうすると、現状のシールドで持ちこたえる事は充分に出来るはずです!」N坊は冷静に分析を口にした。「つまり、“誤算”があると言うのだな。U事務所ではなく“司令部”を先に襲撃すべきだったと言う事か。都内からここまでは、かなりの距離があるが移動時間内にフル充電は不可能。出力不足を覚悟で襲撃するしかないと言うのか?」ミスターJは分析を聞いて改めて確認する。「そうです。どこかに停車して充電しても、効果は得にくいでしょう」「ならば、その推測に賭けるしかあるまい。必要のないシステム機器は順次シャットダウンして行くとしよう。N、お前さんの推測と心中じゃ!みんな、いいか?一か八かの賭けに出る!」ミスターJは高らかに宣言した。その時、1通のメールが着信した。リーダーが直ぐにプリントアウトして、ミスターJへ差し出す。「Aと“ドクター”からだ。R女史は意識を回復した!自発呼吸も再開!危機は脱したそうだ!そうなると、今晩の釣りは絶対に逃す訳には行かないな!ゲス共を確実に捕らえなくてはならん!」「“機動部隊”より、ミスターJへ、ベンツは銀座方面から首都高へ乗り入れました。引き続き追尾しています!」「大魚が泳いでくるな!網を絞れ!絶対に逃すな!」「はい!」にわかに“司令部”は熱気を帯びた。“大物”を一本釣りにするのだ。各員に緊張が張り詰めて行くのがありありと分かった。