関東大震災の二日目から発生したデマで推定3,000名が犠牲になった「朝鮮人虐殺」を目の当たりにした文学者が、時系列で発生から終息までを克明に記録したのが本書。

朝鮮人留学生たちと懇意だった筆者は、発災2日目から流布しはじめた「武装した朝鮮人が暴動をおこし、強姦略奪をしている」という噂に、当初は根拠のないデマと批判的だった。
ところが内務省や陸軍省が真偽不確かなデマを裏付けるような注意喚起をしたこともあり、各地で自警団が結成される大騒ぎとなった。
あろうことか「〇✕町で暴動を目撃しました!今、朝鮮人の集団がこちらに向かってきます!男は武装して集まってください!」と興奮してふれて回る人が相次ぎ、筆者も次第に疑心暗鬼になっていった心理を赤裸々に告白している。
筆者はこの事件を機に、社会主義者のプロレタリア文学者になったようだ。
実際にそんな事実はなく、吉村昭著「関東大震災」によると、火事場泥棒をしていたのは日本人の窃盗団だし、むしろ朝鮮人労働者たちは救援活動に駆り出されていたのだ。

戦争や災害のルポルタージュが多い吉村昭の著作は、根拠のない確信や流言飛語による惨劇の事例がたびたび登場する。
ようするに未曾有の震災の恐怖を人種差別に転換した被害妄想が連鎖し、特定の意見だけを信じる「エコーチェンバー現象」で燎原の火のように拡大した集団ヒステリーが真相であった。
そうなる下地はあった。
日露戦争のあとに朝鮮半島は日本の領土となり、朝鮮人を二等国民として酷い人種差別をしてきた無自覚な罪悪感が当時の日本人に潜在していたらしく、震災をきっかけに噴出して恐慌状態に陥った訳だが、それはリンカーン政権下で白人が、ネイティブアメリカンを情け容赦なく虐殺していた心理状態と同じと言える。
民族優位思想が人を残虐にした好例である。
本書によるとデマを流しやすい人は、動揺を見透かされないように虚勢をはる・非客観的・人種差別的・情報を事実と思い込む・共感を求めたがる・被害妄想気味・責任転嫁したがる・パニックになりやすいパーソナリティであったようだ。
筆者は「民度が低い」とまで書いているが・・・。
それはそのまま現代のイジメ、陰謀論やフェイクニュースを拡散したがる人に当てはまりそうだ。
現代はSNSの情報拡散があるから、口コミだけでで拡散した関東大震災の時より酷いことになる可能性があるナ。
真偽不明な情報に接したら、事実と即断せずに保留してほしいもんですナ。
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