
美しきアジアの玉手箱 シアトル美術館所蔵 日本・東洋美術名品展
サントリー美術館(東京ミッドタウン・六本木駅)9月6日まで
シアトル美術館の所蔵する日本や中国をはじめとするアジア美術の展覧会です。
シアトル美術館はその成り立ちがアジア美術のであったことで、美術館の核がアジア美術だそうで、今回は7000点件に及ぶ日本・東洋美術のコレクションをから名品100点がやってきています。
これだけまとまった数がアメリカ国外に出されるのは初めてだそうです。
日本美術では、考古の土偶からはじまって、伎楽面、仏像、書蹟、仏画、漆芸、磁器、浮世絵、屏風絵、襖絵などいろいろなジャンルから名品が出展されています。
日本にあったら国宝・重要文化財指定は確実なものがキラ星のごとく並んでいます。
また、中国美術も古代から清代までいろいろなジャンルがそろっていました。
さらに韓国、東南アジア、南アジアの作品も並んで、盛りだくさんな内容です。
主なものをご紹介しましょう。
浦島蒔絵手箱
鎌倉時代の蒔絵手箱だが、ふた裏の浦島の図柄が国文学的にいうと室町以降の意匠ということで研究が待たれるそうです。同じような手箱がサントリー美術館にあって国宝に指定されているということです。
竹に芥子図
金地に雌竹に芥子の花が描かれた狩野重信の屏風です。狩野派というよりも琳派のような華やかな雰囲気を持っています。雌竹や芥子という図柄は珍しいということです。豪華で美しくやさしい雰囲気が惹かれる作品でした。
烏図
六曲一双の屏風に無数の烏が描かれています。一見異様な感じを受けますが、その存在感はすばらしいものがあります。作者は不詳で、狩野派とも長谷川一門、または琳派ではと定まっていません。学芸員さんもおっしゃっていましたが、同じ図柄の連続はなにか燕子花図屏風につながるものがあると思います。
シアトル美術館でも日本美術のシンボル的な存在として扱われているようです。長い時間屏風の前に佇んでいたいほど心に残る作品でした。
五美人図
葛飾北斎の肉筆浮世絵です。いろいろな階層や年齢の五人の美人が縦に連なって描かれています。美しい色彩と確かな描写がさすが北斎と思わせる作品です。
鹿下絵和歌巻
光悦・宗達の作品で鹿の下絵の上に和歌がしたためられています。残念なことに分断されて、後半部分がシアトル美術館に所蔵されています。今回の目玉だけあって大変美しく巻物です。
金焦落照図寄詩
中国・明代の文微明の書です。力強い書体に心を奪われてしまいました。あまり書で感動することはないのですが、これは本当に名品だと思います。
壊すことの虚しさ
さて今回の展覧会から感じたことを書きたいと思います。
シアトル美術館の日本美術は戦前にアメリカに渡ったもののほかに、戦後に渡ったものも数多くあります。
廃仏毀釈の明治期だけでなく、戦後期も日本美術の危機だったことがよくわかります。
今回のメインの「鹿下絵和歌巻」も戦後渡ったものです。
今回の企画として、シアトルの後半部分のほかに日本にある前半部分が展示され再会を果たしています。
しかし悲しいことに、前半部分はいくつにも裁断されて(断簡)表装されて掛け軸になっています。まさに人間のエゴというか自分だけが部分的に楽しむ形に作りかえられているのです。そしてさらに所在不明になった部分もあるということです。完全に一堂に会することは無理なようです。
日本人自らがいろいろな理由があるにせよ大切な宝を壊してしまったということが信じられませんし、最初に二つに裁断した方も有名な茶人だったので悲しい気持ちになりました。
幸い後半部分はシアトルに渡ったために細かく裁断されることもなく、巻物の形のまま残されたのです。
美術品が海外に流出したという言葉を使いますが、私は流出だと思いたくありません。高きから低きに流れ落ちるという感じがするからです。今回のように海外に渡ったから破壊されずに残ることもあるのです。
同じようにギリシャから里帰りした写楽もそんなことがいえるのではないでしょうか。
また、中国元代の煬輝作「墨梅図」には江戸時代に田安家が所蔵していた時に押された朱印が絵の真ん中にあります。絵と一体化しているとはいえ不思議な眺めです。実は有名な絵であったらしく、この絵の模写は日本に残っていて、本物が海を渡ってしまいました。
国宝とか重要文化財という、箔がついていない美術品を眺めるということも、自分の感性だけで、そのものの好き嫌いを素直に判断できていい機会でした。これで作者もわからなかったら、面白いんですが。
壊していいものと悪いもの、私物化していいものと悪いもの・・・・、そして一度失ったら二度と戻らない、そんなことを考えさせられた展覧会でした。
(7月31日・8月4日)
サントリー美術館(東京ミッドタウン・六本木駅)9月6日まで
シアトル美術館の所蔵する日本や中国をはじめとするアジア美術の展覧会です。
シアトル美術館はその成り立ちがアジア美術のであったことで、美術館の核がアジア美術だそうで、今回は7000点件に及ぶ日本・東洋美術のコレクションをから名品100点がやってきています。
これだけまとまった数がアメリカ国外に出されるのは初めてだそうです。
日本美術では、考古の土偶からはじまって、伎楽面、仏像、書蹟、仏画、漆芸、磁器、浮世絵、屏風絵、襖絵などいろいろなジャンルから名品が出展されています。
日本にあったら国宝・重要文化財指定は確実なものがキラ星のごとく並んでいます。
また、中国美術も古代から清代までいろいろなジャンルがそろっていました。
さらに韓国、東南アジア、南アジアの作品も並んで、盛りだくさんな内容です。
主なものをご紹介しましょう。
浦島蒔絵手箱
鎌倉時代の蒔絵手箱だが、ふた裏の浦島の図柄が国文学的にいうと室町以降の意匠ということで研究が待たれるそうです。同じような手箱がサントリー美術館にあって国宝に指定されているということです。
竹に芥子図
金地に雌竹に芥子の花が描かれた狩野重信の屏風です。狩野派というよりも琳派のような華やかな雰囲気を持っています。雌竹や芥子という図柄は珍しいということです。豪華で美しくやさしい雰囲気が惹かれる作品でした。
烏図
六曲一双の屏風に無数の烏が描かれています。一見異様な感じを受けますが、その存在感はすばらしいものがあります。作者は不詳で、狩野派とも長谷川一門、または琳派ではと定まっていません。学芸員さんもおっしゃっていましたが、同じ図柄の連続はなにか燕子花図屏風につながるものがあると思います。
シアトル美術館でも日本美術のシンボル的な存在として扱われているようです。長い時間屏風の前に佇んでいたいほど心に残る作品でした。
五美人図
葛飾北斎の肉筆浮世絵です。いろいろな階層や年齢の五人の美人が縦に連なって描かれています。美しい色彩と確かな描写がさすが北斎と思わせる作品です。
鹿下絵和歌巻
光悦・宗達の作品で鹿の下絵の上に和歌がしたためられています。残念なことに分断されて、後半部分がシアトル美術館に所蔵されています。今回の目玉だけあって大変美しく巻物です。
金焦落照図寄詩
中国・明代の文微明の書です。力強い書体に心を奪われてしまいました。あまり書で感動することはないのですが、これは本当に名品だと思います。
壊すことの虚しさ
さて今回の展覧会から感じたことを書きたいと思います。
シアトル美術館の日本美術は戦前にアメリカに渡ったもののほかに、戦後に渡ったものも数多くあります。
廃仏毀釈の明治期だけでなく、戦後期も日本美術の危機だったことがよくわかります。
今回のメインの「鹿下絵和歌巻」も戦後渡ったものです。
今回の企画として、シアトルの後半部分のほかに日本にある前半部分が展示され再会を果たしています。
しかし悲しいことに、前半部分はいくつにも裁断されて(断簡)表装されて掛け軸になっています。まさに人間のエゴというか自分だけが部分的に楽しむ形に作りかえられているのです。そしてさらに所在不明になった部分もあるということです。完全に一堂に会することは無理なようです。
日本人自らがいろいろな理由があるにせよ大切な宝を壊してしまったということが信じられませんし、最初に二つに裁断した方も有名な茶人だったので悲しい気持ちになりました。
幸い後半部分はシアトルに渡ったために細かく裁断されることもなく、巻物の形のまま残されたのです。
美術品が海外に流出したという言葉を使いますが、私は流出だと思いたくありません。高きから低きに流れ落ちるという感じがするからです。今回のように海外に渡ったから破壊されずに残ることもあるのです。
同じようにギリシャから里帰りした写楽もそんなことがいえるのではないでしょうか。
また、中国元代の煬輝作「墨梅図」には江戸時代に田安家が所蔵していた時に押された朱印が絵の真ん中にあります。絵と一体化しているとはいえ不思議な眺めです。実は有名な絵であったらしく、この絵の模写は日本に残っていて、本物が海を渡ってしまいました。
国宝とか重要文化財という、箔がついていない美術品を眺めるということも、自分の感性だけで、そのものの好き嫌いを素直に判断できていい機会でした。これで作者もわからなかったら、面白いんですが。
壊していいものと悪いもの、私物化していいものと悪いもの・・・・、そして一度失ったら二度と戻らない、そんなことを考えさせられた展覧会でした。
(7月31日・8月4日)
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