ナノテクノロジーニュース

ナノテクノロジーは日進月歩である。その全貌がわかるよう、日々飛びこんでくるニュースを中心に説明する。

事業仕分けへの再訪問---先端技術の企業化問題

2011-08-26 | 日記
誤解がないように一言述べておく。私は、日本の研究者の研究レベルが低いと言っているのではない。現在でも、日本の研究者の研究レベルは、世界的に高い位置を占めている。私の言いたいのは、研究費の配分方式が改良されると、さらにレベルが上がるであろうということである。

さて、昨年の事業仕分けで科学技術に関するいくつかの事業が取り上げられた。その中の一つに、先端計測分析技術・機器開発事業がある。その時の議論によると、この事業が企画された背景は先端技術を用いた機器の購入先がほとんど欧米であることである。たとえば、レーザーである。1950年代後半にレーザー現象が実証されて以来、各種のレーザーが開発された。レーザーは限られた波長の強い光を特定の方向に発射するので、その応用範囲が広い。多くのアメリカやドイツののベンチャー企業が各種のレーザーを製品化し販売した。

もう一つの例は、走査型トンネル顕微鏡である。1978年にスイスのチューリヒ研究所のローラーとビーニッヒが、固体の表面のすぐ近くを鋭い針を移動させ、表面での原子の並び方を検出することに成功し、ノーベル賞を受賞した。この手法はその応用範囲が広く、走査型トンネル顕微鏡として、またその後開発された同様の機能を持つ原子間力顕微鏡を、多くのベンチャー企業が販売を開始した。日本での販売が始まったのは、かなり遅れてからであった。日本では、ベンチャー企業が少なく、新技術に速やかに対応することができないようだ。

事業仕分けでも、先端計測分析技術・機器開発事業にいくつかの問題点が指摘された。私が感じた最大の問題点は、研究費の配分先が研究者であることである。先端技術を用いた機器類の生産を促進するのなら、企業を支援すべきであろう。研究者の協力が必要な場合のみ、研究者をも支援すればよい。日本では、技術問題を文部科学省と経済産業省とが取り合いをしている。高度成長期に産業がアメリカの技術を基盤としていたことの名残りであろうか。

世界では先端技術が計測分析技術からナノテクノロジー(8/18参照) に移っているようだ。ナノテクノロジーの根幹をなすのは、炭素原子が平面状に並んでいるグラフェン(2005年ガイムとノボセロフが発見、2010年ノーベル賞)とカーボンナノチューブ(1991年飯島が発見)であろうが、これらを取り扱っている会社は、アメリカにはそれぞれ36社と2社あるが、日本にはカーボンナノチューブを取り扱って会社が1社あるのみである(Nanowerkによる)。日本では、先端技術を企業化することが定着していないようである。ちなみに、中国ではカーボンナノチューブ関連会社が10社、グラフェン関連会社が1社ある。