炭素原子が構成する材料は数多い。ダイヤモンド、フラーレン、グラフェン、グラファイト、カーボンナノチューブ、アモルファスカーボンやカーボンナノファイバーなど炭素原子で構成されるナノ粒子がある(HP2.2A参照)。この中でいやすべての材料の中で最も硬いのがダイヤモンドであった。今回スタンフォード大学の研究グループは、フラーレンに静水圧を加えることによって新しくダイヤモンドより硬い材料を作り出すことに成功した。
http://physicsworld.com/cws/article/news/2012/aug/16/new-form-of-carbon-is-so-hard-it-can-indent-diamond
フラーレンとは60個の炭素原子が作るサッカーボール状のナノ粒子である。フラーレンは結晶を形成するが、これに非常に強い静水圧を加えると、すなわち四方八方から均等に圧力を加えると、サッカーボールが潰れてアモルファスカーボン(ダイヤモンドでもグラファイトでもない炭素原子の集まり)になることが知られていた。最近になってフラーレンと他の分子とを混合した結晶がいろいろな興味ある性質を示すことが明らかになってきた。スタンフォード大学の研究グループは、フラーレンとキシレンが形成する結晶に静水圧を加えた結果、生成したアモルファスグラファイト状の材料がダイヤモンドを傷つけ得ることを示した。この材料には、炭素のsp3混成軌道とsp2混成軌道(HP2.1C参照)とが混在しているという。sp3混成軌道より結合力が強いsp2混成軌道の存在が、sp3混成軌道のみで炭素原子が結合しているダイヤモンドより硬い理由であろう。
人工ダイヤモンドの生成には1500℃以上で静水圧を加える必要がある。これに対して新しい材料は常温で静水圧を加えることによって生成出来る。しかしながら、今のところどちらの生成がより経済的であるかは不明であるという。フラーレンのサッカーボールの中にいろいろな金属イオンを閉じ込めることが出来る。このことを利用すると種々の特殊機能を持った高強度の材料を生成出来る可能性もある。