長い時間をかけて開発した品種や栽培技術、生産地と密着したブランド名などは日本の農業が持つ強みだ。しかし、農業分野では一般産業と比べて知的財産の保護が甘く、アジア地域では模倣品が横行している。政府と農業関係者は、品種などが大切な知的財産であることを認識し、国内の管理体制を厳格にするとともに、環太平洋経済連携協定(TPP)の合意を契機に海外での保護を急ぐべきだ。
ここ数年、消費者の人気を集めるブドウの品種に国内で開発された「シャインマスカット」がある。糖度が高く皮ごと食べられることが魅力で、店頭では一房千円以上の値札が付くことが多い。農林水産省によれば、そのシャインマスカットが中国に持ち込まれ生産されているという。過去にもイチゴの国産品種の生産が韓国で急増した例がある。
政府は農林水産物の輸出額を2020年に1兆円まで増やす目標を掲げ、1年前倒しでの達成をめざす。だが、日本の有力品種が次々と海外で生産され、アジア地域に出回ればシナリオは狂う。昨年始まった地理的表示(GI)制度の認定は7月に長野県の「市田柿」と福井県の「吉川ナス」が加わり、14産品に増えた。
ただ、現行制度が認定産品を保護できるのは国内だけだ。アジア地域で中国産の「市田柿」などが多く出回る実態は看過できない。知的財産を海外で守るためには、日本の品種や地理的表示を各国で登録する必要がある。保護制度が不十分な国に対しては、政府が整備を働きかけてほしい。
こうした是正策を進めるうえで、TPPは強い支援になる。TPPは締結国に対し、植物の新品種を保護する1991年ユポフ条約への加盟を義務付ける。地理的表示を他国で保護してもらうための手続きでも合意できた。模倣品をTPP加盟国の市場から閉め出せば、非加盟国にも圧力をかけられる。知的財産を保護しながら自由貿易を推進するTPPは、農業の輸出と収益の拡大に向けて欠かせない枠組みといえる。
生産者の意識を変えることも重要だ。政府が昨年まとめた農業分野の知的財産戦略は「生産現場は知的財産の保護に無防備で、活用について無関心な状態にある」と指摘した。一般企業と同じく、自らの競争力のよりどころを考え、それを守る経営感覚が要る。官民一体が肝?
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