IPSO FACTO

アメリカの首都ワシントンで活動するジャーナリストの独り言を活字化してみました。気軽に読んでください。

ジョン・マーク・カーは10年前どこにいたのか?

2006-08-19 15:03:22 | 犯罪
今日からフェンウェイパークで始まったボストン・レッドソックス対ニューヨーク・ヤンキースの5連戦。初日の今日はダブルヘッダーだったんだけど、いかんですよ…、赤靴下軍団。1試合目を4-12、そして次の試合も11-14で敗れたレッドソックス。夏場に入ってからのニューヨークの快進撃は凄まじく、逆にレッドソックスはブルペン陣を中心に不調に悩まされている。主力選手が怪我で離脱した事情もあるとはいえ、戦力的には問題ないはず。なんとか調子を取り戻してもらって、今日のダブルヘッダーのような悲劇は繰り返さないでほしい(ワシントンに住むレッドソックス・ファンの友人は「ジョージ・ブッシュの大統領就任と同じくらい、ショッキングで悲しいものだった」と愚痴をこぼしていた)。さて、今日は1996年12月に発生したジョンベネちゃん殺害事件の容疑者としてタイで逮捕されたアメリカ人男性に関する情報を。

ジョンベネちゃん殺害事件で16日にタイのバンコクで逮捕されたアメリカ人教師ジョン・マーク・カー容疑者だが、事件への関与をめぐる供述にはっきりしない点も多く、アメリカ国内ではカー容疑者が世間の注目を集めるためにウソの自供を行ったのではないかという報道まで出始めている。CNNは18日、ジョンベネちゃん事件でラムジー家の邸宅内に置かれていたメモについて報じており、11万8000ドルの身代金を要求したメモに残された「S.B.T.C」という言葉が今後の捜査において大きなカギになるかもしれないと指摘している。一般の英語辞書には「S.B.T.C.」という言葉は存在せず、この略語がどのような意味を持つのかが捜査関係者の間では10年来のミステリーとなっていた。しかし、カー容疑者が高校卒業時に、クラスメートの卒業アルバムに寄せ書きをしていた事実が判明し、メッセージは「将来は征服者になり、いくつもの平和の中で暮らすのだ」というものだった。

この「征服者になる(I shall be the conqueror)」という部分だが、S.B.T.C.という略語に置き換えることもでき、この略語の意味が現在も判明しない状態の中、捜査当局は82年の卒業アルバムと96年のメモとの間に何らかのリンクがあったのかを調査している。しかし、カー容疑者犯人説を裏付けるための確固たる証拠が現在も公表されておらず、17日に記者会見を開いたコロラド州ボルダーのメアリー・レイシー地方検察官も「推定無罪」という言葉を多用し、マスコミに対してすぐに結論に飛びつかないようにと求めている。カー容疑者はタイ警察が行った取調べの中でジョンベネちゃん殺害を認めたが、捜査官に対し「ジョンベネちゃんに薬物を投与し、彼女をレイプした」と語っていた。性的暴行を加えたあともジョンベネちゃんは生きていたが、それからすぐに「誤って」彼女を殺害したと語ったカー容疑者だが、司法解剖ではジョンベネちゃんの体内から薬物やアルコールを発見されることはなかった。また、カー容疑者の元妻は国内メディアの取材に対し、ジョンベネちゃん事件の発生した1996年12月26日は、彼女はカー容疑者とアラバマ州にいたと語っている。

2001年にはカリフォルニア州で児童ポルノビデオ所持にからむ5件の罪で起訴されたカー容疑者だが、それ以前にも「少女」をめぐってトラブルを起こしていた。NBCニュースによると、1984年にカー容疑者は19歳で結婚するが、相手は当時13歳の少女だった(一部メディアはカー容疑者が18歳で、相手の少女が12歳だったと報じている)。地元の裁判所は翌年になって、婚姻無効を宣告している。しばらくして2度目の結婚を行ったカー容疑者だが、妻の年齢は16歳だった。2001年にカー容疑者が児童ポルノ所持で起訴された数日後、2人は離婚している。18日付のロッキーマウンテン・ニュースはカー容疑者がコロラド大学のマイケル・トレイシー教授に送ったメールの一部内容を報じたが、メールではカー容疑者が「僕の愛する人であり、僕の人生でもあった」と、ジョンベネちゃんへの愛情を繰り返し語っている。また、メールの中ではカー容疑者が映画『ファインディング・ネバーランド』について語ったり、マイケル・ジャクソンの性癖を擁護する箇所なども存在する。

仕事の中でこのジョンベネちゃん殺害事件について何度か取り上げたんだけど、大学院時代に「メディアの倫理」の授業でこの事件を取り上げていたのを思い出した。事件発生当時、アメリカ国内のメディアはジョンベネちゃんの父親ジョンさんや母親のパッツィさんが犯人ではという報道を繰り返し、FOXニュースのビル・オライリーなんかは最近まで自分の番組内でジョンさんらを「殺人犯」と繰り返し呼んでいた。自尊心のあるアメリカ人はビル・オライリーをジャーナリストとは考えないし、FOXニュースを報道機関とは考えることはないけれど、それでも彼のようなビッグネームによる発言は凄く影響力があったのも事実だと思う。ソフトウェア事業で成功していたジョンさんは追われるようにミシガン州に移っている。ハリソン・フォードが出演した映画のタイトルにもなった「推定無罪」という理念が、約10年前のボルダーで受け入れられることはなかった。どこか松本サリン事件にも似た話だと思うけど、カー容疑者に関する報道で、アメリカのメディアはどう動いていくのだろうか?

写真:カー容疑者が住んでいたバンコク市内のアパート (AP通信より)