IPSO FACTO

アメリカの首都ワシントンで活動するジャーナリストの独り言を活字化してみました。気軽に読んでください。

ステロイド

2004-12-15 15:52:36 | ニュース
3日前に無事にワシントンに戻ってきたのだが、2週間の日本滞在中に風邪にやられてしまい、日本を離れる当日の朝も絶え間なくたれ流れてくる鼻水と格闘する情けない始末。日本滞在中の最後の3日間の思い出が鼻水しか浮かんでこないほどの凄まじいもので、本当に鼻水だけで体重が1キロくらい減ったのではと感じる(鼻水の話ばかりで、食事中の方にはスミマセン)。アメリカに向かう機内のトイレの鏡で自分の顔を見ると、スキー場で日焼けをしたかのように自分の鼻の周りの皮(とりわけ、鼻の穴に近い部分)がめくれていた事に気付き、ちょっとばかし驚いてしまった。ティッシュペーパーを使って鼻のかみすぎたため、こんなことになってしまったようだ(自己診断)。

機内では僕の横に団体ツアー客の方々が座られたのだが、これがテレビのドラマでもなかなか見れないような「大阪のオバちゃんオーラ」を強烈に放出していて、機内で寝ることだけを楽しみにしていた僕は、離陸数分後に話しかけてきたオバちゃんに答えたが最後…、乗換地のデトロイトまでオバちゃんの話に付き合うこととなった。体調がよかったら全然問題ないのだが、風邪をひいた状態で大阪のオバちゃんの話に12時間付き合うことがこんなに体力を要するものだとは知らなかった。

アメリカに帰ってきたばかりだというのに、さっそく悪い話に見舞われた火曜日の朝だった。悪い話というのは何も悪化するイラク情勢のことではなく(逆にイラク情勢でいい話を聞いた人はいるのだろうか?)、スコット・ピーターソンの妻殺しに関するニュースでもなく(まだやってるんだな、これが…)、われらがボストンレッドソックスに関するものなのデス。こうなる覚悟はしてたけど、とうとうペドロ・マルチネスがニューヨーク・メッツへの移籍を決めたらしい。ヤンキースじゃないだけいいと僕の友達は言うけど、それでもボストン投手陣の大黒柱だったペドロが抜けるのは悲しいものだ。最近は衰えも指摘されていたが、あのキャラがシェイ・スタジアムにマッチするのだろうか?ビジネス上の決断とはいえ、1ファンの気持ちとしては、引退するまでボストンに残っていてほしかった。

どうせだから、ボストン関連でもう1つ。ボストンの主要紙といえば、ボストングローブとボストンヘラルドの2紙が全国的には有名だけが、実はアメリカで全国的な知名度を持つクリスチャンサイエンス・モニター紙もボストンの新聞なのだ。先ごろ、アメリカの調査機関が政府職員や企業の管理職、報道関係者ら45万人を対象にアメリカ国内メディアに関する調査を実施したが、その中でクリスチャンサイエンス・モニター紙は「最も信頼のおける」媒体に選ばれている。余談だが、僕の尊敬する櫻井よしこさんも同紙の東京支局に勤務していた事がある。( http://www.csmonitor.com/ :モニター紙のホームページ)

この新聞、機会があればぜひ読んでほしいのだが、ニュースが消費品として扱われる現在において、独特のスタイルを貫いているのだ。もちろん日々のストレートニュースも報じているんだけど、長い時間をかけてジックリと取材したストーリーが毎日のように紙面を飾っており、ルポ的な内容が多いことに気付くだろう。別に宗教がかった内容でもないし、ジャーナリズムとしてはかなり良質かなと思うのだ。

そんなクリスチャンサイエンス・モニターが月曜日に掲載したドーピングの記事は面白く読ませてもらった。最近はメジャーリーグの大物選手(こちら実名があげられている選手としては、ジャイアンツのボンズやヤンキースのジアンビらがいる)のステロイド剤使用疑惑が話題になっていて、ニューズウィークなんかは高校生らのステロイド剤使用に関する特集を打ち出したほどだ。モニター紙の記事も中高生の間で広まっているとされるドーピング剤に関するものだったが、実際にここまで若年層にステロイドが認知されているとは知らなかった。

全米薬物中毒研究会(スゴイ名前だけど、本当にあるんです)が発表したデータは非常に衝撃的な内容で、約50万人の高校生が過去に少なくとも一度はステロイド剤の使用があることを認めている。また、調査に参加した中学生の間でも、プロフットボールをテレビで見る学生の87パーセントがバルコ社のドーピング問題について認識があると答えており、若年層の間でドーピングの習慣や知識が予想以上に広く浸透していることが明らかになっている。

政界では早くからドーピング問題に対するアクションを起こすべきとの声があがっており、ブッシュ大統領は一般教書演説の中で米野球界がドーピングに対してより厳しい態度でのぞむべきと語り、共和党のマケイン議員は反ステロイド法案を提案している。ギャロップ社の調査に答えた86パーセントは、メジャーリーグ機構が来季もっと厳しいドーピング調査をすべきだと答えている。アメリカの中学や高校では長い時間をかけて薬物の危険を訴えるクラスが定期的に開かれ、生徒達の間でコカインやヘロインといった麻薬が本当に危険なものとの認識が広まったが、ステロイド剤などの危険性についても学校内での教育が必要なようだ。

アメリカの子供はステロイドで生まれ変わったアスリートに感動を覚えるのだろうか?それよりもなによりも、ステロイドが使い方次第で億万長者になるための近道と思っているのだったら、この国のスポーツ界の将来に悲観視せざるを得ない。