【沖縄取材の現場から】翁長沖縄知事「一世一代」の記者会見で事実誤認発言 「アジアで米と安保条約結んだ国ない」 中国の脅威も低減した?
2018年8月5日 1時6分
産経新聞
沖縄県の翁長雄志(おなが・たけし)知事(67)にとって、7月27日の記者会見は一世一代の見せ場だったはずだ。
この場で翁長氏は、米軍普天間飛行場(宜野湾市)の移設先である名護市辺野古での埋め立て承認を撤回する手続きに着手すると宣言した。辺野古移設に反対する翁長氏は「あらゆる手法」で工事阻止を図ってきたが、その合法性を争う裁判で連敗してきた。埋め立て承認の撤回は最後のカードだ。
翁長氏の任期は残すところ4カ月あまり。11月18日には知事選も控えている。自身の求心力を維持するためにも撤回は重要なテコとなり得る。
7月19日には翁長氏を支えてきた謝花(じゃはな)喜一郎副知事が、早期撤回を迫る市民団体幹部らに月内に撤回を行うとの見通しを明らかにした。関係者によると、翁長氏はこれを知って激怒したという。撤回は知事の権限だ。その決断を表明する記者会見には期するものがあったからこそ、腹心の先行した発言が許せなかったのだろう。
だが、翁長氏の記者会見に出席した記者の間では、戸惑いの声が上がった。事実誤認や、にわかに理解しがたい認識を開陳したからだ。
どんな政治家にも言い間違いはある。だから、翁長氏が「とても反論できるような県政与党ではない」と述べたのは、さしたる問題ではない。翁長氏を支持する「県政与党」は共産党や社民党なので、翁長氏の発言を字句通り受け取れば共産党や社民党を批判したことになるが、これは事務方が後に「国政与党」と訂正した。
翁長氏は再選出馬の意思を問う質問に対し、外反母趾を患ったことを明かし、「歩きにくくなるような部分もありますので、それも含めて考えていきたいと思います」とはぐらかした。膵(すい)がん切除手術を受けた病身であるにもかかわらず、外反母趾を出馬の判断材料として持ち出したのは、翁長氏一流のユーモアなのかもしれない。
ところが、言い間違いやユーモアでは済まされないような発言もあった。
「アジアは、中国とも米国とも安保条約を結んでいるところは、ベトナムにしろタイにしろ、みんなありませんのでね」
翁長氏はこう述べ、日米同盟強化を図る政府を批判した。これは事実誤認だ。米政府は日本、韓国、オーストラリア、フィリピン、タイの5カ国を同盟国と位置づけている。米韓、米比間の相互防衛条約は現在も効力を有しているし、米豪同盟も太平洋安全保障条約を基礎としている。さらに言えば、中国と北朝鮮も相互防衛を規定した友好協力相互援助条約を結んでいる。
この事実誤認が問題なのは、翁長氏自身が辺野古移設に反対する論拠としているからだ。翁長氏は朝鮮半島の緊張緩和が進む中で、在日米軍基地の必要性が低下していると主張している。記者会見では「トランプや金正恩や、韓国の大統領や、この方々が平和に対する思い、北東アジアに対しての思い、いろんな形で大胆にやっている」とまで述べた。
しかし、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が「平和に対する思い」を持っているという翁長氏の認識は、どれだけ共感を呼ぶだろうか。米紙ワシントン・ポスト(電子版)は7月30日、北朝鮮が新たに1~2発の大陸間弾道ミサイル(ICBM)を製造している兆候があることが判明したと報じた。金氏は6月12日の米朝首脳会談で非核化に合意したが、その実現に確信を持てるような状況に至っていない。
中国の脅威に対する翁長氏の認識にも疑問が残る。翁長氏は記者会見で「20年前に合意をしたんですよ。新辺野古基地。あのときの抑止力というのは北朝鮮であり、中国だったわけですよね」と語った。かみ砕いて解釈すれば、辺野古移設は中国の脅威に対応するため必要だったが、今はその脅威が大きく低下しているため基地は必要なくなったということになる。
スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によると、中国の軍事支出は1998年が1億7528億ドルだったのに対し、2017年には22億8230億ドルに達している。この間に中国は南シナ海で大規模な軍事施設を建設し、尖閣諸島周辺海域で領海侵犯や自衛隊に対する挑発行動を繰り返している。
言うまでもなく、尖閣諸島の行政区域は沖縄県石垣市に属している。尖閣諸島を含む沖縄県を預かる知事であるにもかかわらず、中国の脅威が低減していると認識しているのだろうか。
記者会見の中で、普天間飛行場の危険性除去を訴える言葉はなかった。辺野古移設は、住宅密集地に位置する普天間飛行場の周辺住民の安全を確保することが大きな目的だ。自民党県連の出馬要請を受けて知事選に立候補する決意を固めた佐喜真淳(さきま・あつし)宜野湾市長(53)が「原点回帰」を訴えるのはこのためだ。
翁長氏は知事選に向けた態度を明らかにしていない。だが、危険性の除去を訴えて辺野古移設容認をにじませる佐喜真氏に対抗するため「危険性除去」に触れなかったとすれば、県民不在の主張だと断じざるを得ない。
2018年8月5日 1時6分
産経新聞
沖縄県の翁長雄志(おなが・たけし)知事(67)にとって、7月27日の記者会見は一世一代の見せ場だったはずだ。
この場で翁長氏は、米軍普天間飛行場(宜野湾市)の移設先である名護市辺野古での埋め立て承認を撤回する手続きに着手すると宣言した。辺野古移設に反対する翁長氏は「あらゆる手法」で工事阻止を図ってきたが、その合法性を争う裁判で連敗してきた。埋め立て承認の撤回は最後のカードだ。
翁長氏の任期は残すところ4カ月あまり。11月18日には知事選も控えている。自身の求心力を維持するためにも撤回は重要なテコとなり得る。
7月19日には翁長氏を支えてきた謝花(じゃはな)喜一郎副知事が、早期撤回を迫る市民団体幹部らに月内に撤回を行うとの見通しを明らかにした。関係者によると、翁長氏はこれを知って激怒したという。撤回は知事の権限だ。その決断を表明する記者会見には期するものがあったからこそ、腹心の先行した発言が許せなかったのだろう。
だが、翁長氏の記者会見に出席した記者の間では、戸惑いの声が上がった。事実誤認や、にわかに理解しがたい認識を開陳したからだ。
どんな政治家にも言い間違いはある。だから、翁長氏が「とても反論できるような県政与党ではない」と述べたのは、さしたる問題ではない。翁長氏を支持する「県政与党」は共産党や社民党なので、翁長氏の発言を字句通り受け取れば共産党や社民党を批判したことになるが、これは事務方が後に「国政与党」と訂正した。
翁長氏は再選出馬の意思を問う質問に対し、外反母趾を患ったことを明かし、「歩きにくくなるような部分もありますので、それも含めて考えていきたいと思います」とはぐらかした。膵(すい)がん切除手術を受けた病身であるにもかかわらず、外反母趾を出馬の判断材料として持ち出したのは、翁長氏一流のユーモアなのかもしれない。
ところが、言い間違いやユーモアでは済まされないような発言もあった。
「アジアは、中国とも米国とも安保条約を結んでいるところは、ベトナムにしろタイにしろ、みんなありませんのでね」
翁長氏はこう述べ、日米同盟強化を図る政府を批判した。これは事実誤認だ。米政府は日本、韓国、オーストラリア、フィリピン、タイの5カ国を同盟国と位置づけている。米韓、米比間の相互防衛条約は現在も効力を有しているし、米豪同盟も太平洋安全保障条約を基礎としている。さらに言えば、中国と北朝鮮も相互防衛を規定した友好協力相互援助条約を結んでいる。
この事実誤認が問題なのは、翁長氏自身が辺野古移設に反対する論拠としているからだ。翁長氏は朝鮮半島の緊張緩和が進む中で、在日米軍基地の必要性が低下していると主張している。記者会見では「トランプや金正恩や、韓国の大統領や、この方々が平和に対する思い、北東アジアに対しての思い、いろんな形で大胆にやっている」とまで述べた。
しかし、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長が「平和に対する思い」を持っているという翁長氏の認識は、どれだけ共感を呼ぶだろうか。米紙ワシントン・ポスト(電子版)は7月30日、北朝鮮が新たに1~2発の大陸間弾道ミサイル(ICBM)を製造している兆候があることが判明したと報じた。金氏は6月12日の米朝首脳会談で非核化に合意したが、その実現に確信を持てるような状況に至っていない。
中国の脅威に対する翁長氏の認識にも疑問が残る。翁長氏は記者会見で「20年前に合意をしたんですよ。新辺野古基地。あのときの抑止力というのは北朝鮮であり、中国だったわけですよね」と語った。かみ砕いて解釈すれば、辺野古移設は中国の脅威に対応するため必要だったが、今はその脅威が大きく低下しているため基地は必要なくなったということになる。
スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によると、中国の軍事支出は1998年が1億7528億ドルだったのに対し、2017年には22億8230億ドルに達している。この間に中国は南シナ海で大規模な軍事施設を建設し、尖閣諸島周辺海域で領海侵犯や自衛隊に対する挑発行動を繰り返している。
言うまでもなく、尖閣諸島の行政区域は沖縄県石垣市に属している。尖閣諸島を含む沖縄県を預かる知事であるにもかかわらず、中国の脅威が低減していると認識しているのだろうか。
記者会見の中で、普天間飛行場の危険性除去を訴える言葉はなかった。辺野古移設は、住宅密集地に位置する普天間飛行場の周辺住民の安全を確保することが大きな目的だ。自民党県連の出馬要請を受けて知事選に立候補する決意を固めた佐喜真淳(さきま・あつし)宜野湾市長(53)が「原点回帰」を訴えるのはこのためだ。
翁長氏は知事選に向けた態度を明らかにしていない。だが、危険性の除去を訴えて辺野古移設容認をにじませる佐喜真氏に対抗するため「危険性除去」に触れなかったとすれば、県民不在の主張だと断じざるを得ない。
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