北朝鮮ミサイル複数の弾頭の可能性 軍事アナリスト「ミサイル開発が新しい段階に進んだ危険性がある」
2017年8月30日 12時0分
AbemaTIMES
8月29日早朝、北朝鮮が日本の上空を通過する弾道ミサイルを発射した。午前5時58分ごろ、平壌市順安(スナン)一帯から北東方向に発射されたミサイルは、3つに分離したあと6時07分ごろに北海道上空を通過。6時12分ごろに襟裳(えりも)岬の東約1180kmの太平洋上に落下した。飛行距離は約2700km、最大速度は約550km、飛行時間は約14分だった。
今回発射されたのは、中距離弾道ミサイル「火星12」の可能性が指摘されている。北朝鮮がこれまで火星12で実験を行ってきたのは、高く撃ち上げて近場に落とす“ロフテッド軌道”のみ。今回は射程が出る“ミニマムエナジー軌道”で撃ったとみられるが、その場合4000~5000km飛ぶとも言われている。
なぜ、最大射程距離で飛ばさなかったのか。29日の『けやきヒル’sNEWS』(AbemaTV)に出演した、未来工学研究所の特別研究員で軍事アナリストの小泉悠氏は「調整したのかトラブルなのかは考えなければならない」と話す一方で、ミサイルが3つに分離したことを指摘する。「発射が上手くいかなかった場合と弾頭が1つでなかった場合の、2つの可能性が考えられる。これまで火星12に弾頭は1つしか付いていなかったが、北朝鮮としてはできれば1つのミサイルにいくつかの弾頭を付けたい。今回、複数の弾頭を付けたことによる分離だとすると、北朝鮮のミサイル開発が新しい段階に進んだということになる。失敗と新技術の実験、両方の可能性を考える必要がある」と話した。
■グアムを標的にされたアメリカの考えは?
北朝鮮をめぐっては、グアムへのミサイル発射計画に対して、米トランプ大統領が「怒りと炎」と表現したことで緊張が一気に高まった。その後、金委員長が「もう少し見守る」と発言し緊張は緩和。トランプ大統領も「アメリカを尊敬し始めている」と自制を評価していたが、そんな中、北朝鮮は日本の上空を通過するミサイル発射をなぜ行ったのか。
テレビ朝日前ソウル支局長の大野公二氏は、「アメリカは足元を見られている」と話す。「アメリカは軍事行動を取ると脅して爆撃機を飛ばしたが、北朝鮮はそれを気にするそぶりも見せず、どんどんミサイルを撃っている。最近はワシントンの官僚組織の空気も変わってきている。オバマ大統領の時は『北朝鮮が持っている核を全て放棄しないと交渉しない』とずっと言ってきた。しかし、最近では『核を手放すことはないだろうから、今あるものは容認して、現状アメリカが直接攻撃をされないところで手を打って交渉しよう』という空気が出ている」と話した。
では、アメリカが北朝鮮の核保有を認めるのはどれくらいの確率なのか? 大野氏は「トランプ大統領の最終的な判断によるが、実務を担っている人たちは当然のようにそのシナリオを検討し始めている。北朝鮮も『自分たちを核保有国だと認めてくれれば交渉はする』と言っているので、可能性は十分にありえると思っている」と見解を述べた。
一方、核保有が認められた場合の北朝鮮側の動きについて小泉氏は、「北朝鮮は核抑止力、体制の維持のために核兵器を持ちたい。核の使用については、自国の破滅にもつながるのでむやみやたらと使うことは無いと思うが、2つの可能性を考えておかなくてはならない。1つは核抑止力が成立したことによって、多少のことはやってもよいという誘惑が生まれること。“安定―不安定パラドックス”と言われるが、核抑止力が存在することによって、核使用より低いレベルの軍事行動や衝突が逆に起こりやすくなる。2つ目は、核保有を容認することで、朝鮮半島の分断が続くことを認めてしまう」と指摘した。
また、「ものすごい犠牲を覚悟して軍事力オプションを行使するか、それとも北朝鮮を核保有国として認めるかどちらかしかなくなってきている。ただ、北朝鮮を核保有国として認めるのも決して簡単ではない」と付け加えた。
■北朝鮮の狙いは日米韓の分断?
今回、北海道の上空を通過したミサイルに対して日本は迎撃行動を取らなかったが、今後どのような対応を取るべきなのか?
小泉氏は、北朝鮮の日本への“脅し”に警鐘を鳴らす。「日本が北朝鮮のミサイルの射程範囲内なのは、何年も前から言われていたこと。今回、北朝鮮のミサイルがアメリカ領、あるいはアメリカ本土に届くようになってきたことで、グローバルな安全保障問題に発展しつつある。日本にとって問題になってくるのは、日本周辺を通ってアメリカに飛んでいくようなミサイルを日本が迎撃するのか、という“集団的自衛権”の問題。迎撃するとなると、日本は北朝鮮の核抑止力を妨害する国という位置付けになるので、北朝鮮にとって攻撃する軍事的なメリットが出てくる。そうすると、北朝鮮は『日本はワシントンを守るために東京を吹っ飛ばすのか』という脅しをかけてくると思う。そのような日米間を裂こうとする動きは必ず出てくるし、かといって日米安全保障条約は我が国の安全保障の根幹として維持せざるを得ない。今後も日米の連携、さらには韓国も含めて連携を強調していくことが重要」と述べた。
さらに、「日韓が歴史問題や領土問題で揉めているようなタイミングで揺さぶりをかけられた場合、ナショナリズムに火がついて分裂する可能性はなくは無いと思う。そういうタイミングに付け込まれないように注意が必要」と補足した。
小泉氏は、今後気をつけるべきこととして「過剰にパニックになること」を指摘する。「北朝鮮のミサイルは日本を射程に入れ続けていて、新型のミサイルを飛ばしたからといって危険度がもの凄く上がったという訳ではない。また、(核の)抑止力というのは抑止される側の心理的恐怖を源泉にしているので、あまり過剰に騒ぐと北朝鮮の抑止力を自ら高めることになってしまう。ミサイルがアメリカに届きそうな点については、アメリカでも状況を一変させる“ゲームチェンジャー”とは言い過ぎない方がいいという議論がある。少数のミサイルであれば、アラスカに配備されているミサイル防衛システムで迎撃できる。誇大視すると北朝鮮が主張する核保有国を認めてしまうことになるので、適切に怖がるというか、過度に騒ぐべきではない」と見解を述べた。
2017年8月30日 12時0分
AbemaTIMES
8月29日早朝、北朝鮮が日本の上空を通過する弾道ミサイルを発射した。午前5時58分ごろ、平壌市順安(スナン)一帯から北東方向に発射されたミサイルは、3つに分離したあと6時07分ごろに北海道上空を通過。6時12分ごろに襟裳(えりも)岬の東約1180kmの太平洋上に落下した。飛行距離は約2700km、最大速度は約550km、飛行時間は約14分だった。
今回発射されたのは、中距離弾道ミサイル「火星12」の可能性が指摘されている。北朝鮮がこれまで火星12で実験を行ってきたのは、高く撃ち上げて近場に落とす“ロフテッド軌道”のみ。今回は射程が出る“ミニマムエナジー軌道”で撃ったとみられるが、その場合4000~5000km飛ぶとも言われている。
なぜ、最大射程距離で飛ばさなかったのか。29日の『けやきヒル’sNEWS』(AbemaTV)に出演した、未来工学研究所の特別研究員で軍事アナリストの小泉悠氏は「調整したのかトラブルなのかは考えなければならない」と話す一方で、ミサイルが3つに分離したことを指摘する。「発射が上手くいかなかった場合と弾頭が1つでなかった場合の、2つの可能性が考えられる。これまで火星12に弾頭は1つしか付いていなかったが、北朝鮮としてはできれば1つのミサイルにいくつかの弾頭を付けたい。今回、複数の弾頭を付けたことによる分離だとすると、北朝鮮のミサイル開発が新しい段階に進んだということになる。失敗と新技術の実験、両方の可能性を考える必要がある」と話した。
■グアムを標的にされたアメリカの考えは?
北朝鮮をめぐっては、グアムへのミサイル発射計画に対して、米トランプ大統領が「怒りと炎」と表現したことで緊張が一気に高まった。その後、金委員長が「もう少し見守る」と発言し緊張は緩和。トランプ大統領も「アメリカを尊敬し始めている」と自制を評価していたが、そんな中、北朝鮮は日本の上空を通過するミサイル発射をなぜ行ったのか。
テレビ朝日前ソウル支局長の大野公二氏は、「アメリカは足元を見られている」と話す。「アメリカは軍事行動を取ると脅して爆撃機を飛ばしたが、北朝鮮はそれを気にするそぶりも見せず、どんどんミサイルを撃っている。最近はワシントンの官僚組織の空気も変わってきている。オバマ大統領の時は『北朝鮮が持っている核を全て放棄しないと交渉しない』とずっと言ってきた。しかし、最近では『核を手放すことはないだろうから、今あるものは容認して、現状アメリカが直接攻撃をされないところで手を打って交渉しよう』という空気が出ている」と話した。
では、アメリカが北朝鮮の核保有を認めるのはどれくらいの確率なのか? 大野氏は「トランプ大統領の最終的な判断によるが、実務を担っている人たちは当然のようにそのシナリオを検討し始めている。北朝鮮も『自分たちを核保有国だと認めてくれれば交渉はする』と言っているので、可能性は十分にありえると思っている」と見解を述べた。
一方、核保有が認められた場合の北朝鮮側の動きについて小泉氏は、「北朝鮮は核抑止力、体制の維持のために核兵器を持ちたい。核の使用については、自国の破滅にもつながるのでむやみやたらと使うことは無いと思うが、2つの可能性を考えておかなくてはならない。1つは核抑止力が成立したことによって、多少のことはやってもよいという誘惑が生まれること。“安定―不安定パラドックス”と言われるが、核抑止力が存在することによって、核使用より低いレベルの軍事行動や衝突が逆に起こりやすくなる。2つ目は、核保有を容認することで、朝鮮半島の分断が続くことを認めてしまう」と指摘した。
また、「ものすごい犠牲を覚悟して軍事力オプションを行使するか、それとも北朝鮮を核保有国として認めるかどちらかしかなくなってきている。ただ、北朝鮮を核保有国として認めるのも決して簡単ではない」と付け加えた。
■北朝鮮の狙いは日米韓の分断?
今回、北海道の上空を通過したミサイルに対して日本は迎撃行動を取らなかったが、今後どのような対応を取るべきなのか?
小泉氏は、北朝鮮の日本への“脅し”に警鐘を鳴らす。「日本が北朝鮮のミサイルの射程範囲内なのは、何年も前から言われていたこと。今回、北朝鮮のミサイルがアメリカ領、あるいはアメリカ本土に届くようになってきたことで、グローバルな安全保障問題に発展しつつある。日本にとって問題になってくるのは、日本周辺を通ってアメリカに飛んでいくようなミサイルを日本が迎撃するのか、という“集団的自衛権”の問題。迎撃するとなると、日本は北朝鮮の核抑止力を妨害する国という位置付けになるので、北朝鮮にとって攻撃する軍事的なメリットが出てくる。そうすると、北朝鮮は『日本はワシントンを守るために東京を吹っ飛ばすのか』という脅しをかけてくると思う。そのような日米間を裂こうとする動きは必ず出てくるし、かといって日米安全保障条約は我が国の安全保障の根幹として維持せざるを得ない。今後も日米の連携、さらには韓国も含めて連携を強調していくことが重要」と述べた。
さらに、「日韓が歴史問題や領土問題で揉めているようなタイミングで揺さぶりをかけられた場合、ナショナリズムに火がついて分裂する可能性はなくは無いと思う。そういうタイミングに付け込まれないように注意が必要」と補足した。
小泉氏は、今後気をつけるべきこととして「過剰にパニックになること」を指摘する。「北朝鮮のミサイルは日本を射程に入れ続けていて、新型のミサイルを飛ばしたからといって危険度がもの凄く上がったという訳ではない。また、(核の)抑止力というのは抑止される側の心理的恐怖を源泉にしているので、あまり過剰に騒ぐと北朝鮮の抑止力を自ら高めることになってしまう。ミサイルがアメリカに届きそうな点については、アメリカでも状況を一変させる“ゲームチェンジャー”とは言い過ぎない方がいいという議論がある。少数のミサイルであれば、アラスカに配備されているミサイル防衛システムで迎撃できる。誇大視すると北朝鮮が主張する核保有国を認めてしまうことになるので、適切に怖がるというか、過度に騒ぐべきではない」と見解を述べた。
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