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オウム事件で喫した痛恨のミス…いま明かす公安「尾行のイロハ」 ある公安警察官の遺言 第7回

2017-09-03 15:25:23 | ニュースまとめ・総合
オウム事件で喫した痛恨のミス…いま明かす公安「尾行のイロハ」 ある公安警察官の遺言 第7回


2017年9月3日 13時0分

現代ビジネス


極左過激派やオウム真理教事件など、昭和から平成にかけて日本を揺るがせた大事件の「裏側」で活動してきた公安捜査官・古川原一彦。その古川原が死の直前に明かした、公安警察の内幕やルール無視の大胆な捜査手法から、激動の時代に生きたひとりの捜査官の生きざまに迫ります。長年、古川原と交流を持ち、警察やインテリジェンスの世界を取材し続けてきた作家・竹内明氏が知られざる公安警察の実像に迫る連続ルポ、第7回(前回までの内容はこちら)。
公安捜査官が明かした「尾行のイロハ」

公安部が得意とするのは徹底した「行確」(コウカク)である。

捜査対象を24時間、監視下において、行動や人脈を丸裸にして行く作業だ。この行確は張り込みと尾行によって行われる。この連載の主人公である警視庁公安部公安一課の古川原一彦は、連続企業爆破事件の捜査で、佐々木規夫を尾行した。その結果、東アジア反日武装戦線の共犯者達を割り出す手柄をあげた。その後、中核、黒ヘルといった極左活動家たちとの戦いの中で、尾行技術を研ぎ澄ましていった。

古川原は生前、筆者にこう語った。

「いいか、尾行ってのは、メリハリなんだ。人気のないところでは、いったん脱尾(尾行中断)して、先回りする勇気も必要だ。人混みに入ったら、一気に距離を詰めて一歩半後ろにつける。尾行を警戒する者は、だいたい10メートル以上後ろを気にする。捜査員が真後ろにいるとは思わない。ウラをかくのが大事なんだ」

脱尾と直近尾行。これぞ、古川原の真骨頂であった。だが、その尾行のプロも大きな失敗をおかしていた。

これは古川原が生前、筆者に明かした屈辱の記録だ。

その出来事は1996年2月に起きた。地下鉄サリン事件の翌年、全国の公安警察がオウム逃亡犯を草の根を分けて探していた時期のことだ。古川原もまた、公安一課調査第六の係長、警部として30人ほどの部下を率いて、オウム真理教事件の捜査に投入されていた。

当時、公安部でとくに重要視されていた逃亡犯がいた。平田信である。平田は高校時代にインターハイで入賞したこともある射撃の名手で、警察庁長官狙撃事件の容疑者候補の一人であった。

ある日、部下の一人が古川原にこんな極秘情報を上げてきた。

「中村琴美(仮名)が友人宅にカネを取りに来る」
張り巡らされた「網」

中村琴美とはオウム真理教付属病院の元看護師で、平田信とともに逃亡しているとみられていた女だった。その中村が西武池袋線・清瀬駅近くに住む看護学校時代の友人A子宅に、預けていた50万円を取りに来るというのである。

「中村は平田の行方を掴むための重要人物だった。だから、俺たちは中村の友人達に網をかけて協力者をたくさん作っていたんだ。

中村は平田と逃げるための金に困って預けた50万円を取りに来るのだと確信した。完全秘匿で追尾すれば、平田のもとに行く。これは最大のチャンスだと思ったよ」(古川原)

2月15日の夕刻、中村は清瀬駅からバスに乗って、集合住宅に住むA子宅に姿を現した。古川原たちは息を潜めて、その様子を見守っていた。無論、A子の家の中には事前にマイクを仕掛け、中の会話は完全に把握できるようになっていた。

そんなことを中村が知る由もない。A子に西武池袋店で買ってきたぬいぐるみと育児用のビデオをプレゼントし、「今晩泊めて欲しい」と言った。

A子は宿泊を了承し、「明日の昼に、都営三田線白山駅に来てくれれば、預かっていた50万円を返す」と約束した。

白山はA子が勤務する病院の最寄り駅だった。昼休み時間帯に銀行で金をおろして返却する――。これは古川原がA子に事前に言い聞かせていた段取りだった。

古川原は上司にこう意見具申した。

「清瀬から尾行すると、ヅかれます(気付かれます)。カネは絶対に受け取りに来るはずだから、白山駅から尾行する態勢を組みましょう」

追われる者は、行動を開始した直後にもっとも警戒している。だから安心させてから尾行した方が成功する。これは古川原がこれまでの経験から得た知恵だった。

しかし、本部で指揮するキャリアの上司は、この進言を聞き入れようとしなかった。

「見失ったらどうするんだ。清瀬から秘匿追尾を行え」
忍耐のしどころで痛恨のミス

翌16日の朝、A子宅を出てきた中村に15名の追尾要員がついた。サラリーマンやカップル、学生など様々な日常に偽装した男女が入れ替わり立ち代り、中村を取り囲んだ状態で移動したのである。

大規模な尾行だったが、中村には警戒する様子はなかった。西武池袋線に乗った中村は池袋駅で降りて、駅前のマクドナルドに入った。

A子との待ち合わせは正午だから、金を受け取るまでの時間潰しだろう。古川原はこう考え、店の前を歩いて往復する「流し張り」をしながら待機するよう尾行チームに指示した。

たが、尾行対象の姿を確認できないと、捜査員の不安は募るものだ。

「もしかしたら、カゴ抜けしたかもしれません。店内に一人投入します」

直近の追尾を担当する捜査員が言った。「カゴ抜け」とは対象が店の裏口から出ていってしまうことだ。

「駄目だ。まだ入るな!」古川原は止めた。

ここは我慢。対象から一時的に、目を離す度胸も必要なのだ。だが、堪えきれぬ捜査員がいた。

「確認だけさせてください」

こういって、ひとりの捜査員がマクドナルドの店内に入った。しかし、これは尾行者の存在を確認するために、中村が仕掛けた罠だった。

中村はカウンター席でコーヒーを飲みながら、紙にペンを走らせていた。捜査員は背後を通り過ぎながら、中身を読み取ろうと紙をちらりと覗いた。

チューリップ柄の便箋になにやら手紙を書いている。このとき、一瞬の油断が生じた。中村は突然後ろを振り向いたのだ。

捜査員は咄嗟に顔を逸らしたが、わずかに視線が交錯してしまった。だが、中村は何事もなかったかのように、便箋に視線を戻した。
「警察がたくさんいるじゃない!」

報告を受けた古川原は再び上司に連絡を入れた。

「ヅかれた(気づかれた)可能性があります。ここはいったん脱尾して、白山駅から追いかけます」

公安部幹部は「脱尾」を許可しなかった。

正午過ぎ、中村は予定通り白山駅に到着した。改札口周辺には、駅員や清掃員に扮した張り込み要員が待ち構えていた。

中村は改札口の外で友人から50万円を受け取り、別れを告げて、ホームに向かった

乗客に扮した追尾要員が同じ方向に動いたそのとき、中村が突然Uターンして、見送っていた友人のもとに駆け戻った。

「私は尾行されている。周りに警察官らしい人がたくさんいるじゃない。なぜこんなことになったの!」

中村は泣いていた。親友に裏切られた。そんな涙だったという。古川原にとってはまさしく悪夢。尾行がバレた瞬間だった。

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