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「アディーレ法律事務所」とはいったい何だったのか 揺れる弁護士業界のいま

2018-03-16 16:40:10 | ニュースまとめ・総合
アディーレ法律事務所」とはいったい何だったのか 揺れる弁護士業界のいま


2018年3月16日 13時0分

現代ビジネス


悪貨は良貨を駆逐する。しかし時代が必要とすれば、それは悪貨と呼ばれなくなる――。

「◯万円もの過払い金が戻ってきた」そんな過払い金請求のCMをご覧になった方もいるだろう。債務整理・借金返済をメインとする弁護士法人「アディーレ法律事務所」に対し、2017年10月に業務停止処分が下った。

今年に入って業務を再開した彼らは、はたして弁護士界の〈風雲児〉として復活するのか、それとも、ただの〈ならず者〉として、このまま葬り去られるか。「弁護士とは何者なのか」という問いもふまえて、未だ議論の分かれる弁護士界の声から、この問題を考えてみたい。

アディーレは何が問題だったのか

消費者金融業者への過払い金返還請求の着手金無料もしくは割引キャンペーンを「1カ月限定」と宣伝しながら、同じサービスを5年近く続けたという景品表示法違反(有利誤認)で、昨年10月、弁護士法人「アディーレ」に業務停止2ヵ月、元代表弁護士の石丸幸人弁護士個人には業務停止3ヵ月の処分が東弁(東京弁護士会)から下された。

これが世にいう「アディーレ事件」だ。すでに処分が明けて今年から活動を再開したアディーレに対し、法曹界では「期待」と「批判」という相反する2つの声が今なお渦巻いている。

アディーレ法律事務所の広告を一度は見たことがあるだろう(写真:アディーレ法律事務所ホームページより)

処分から1ヵ月後、一部メディア関係者の間に、こんな情報が駆け巡った。

――東弁がアディーレを追加で処分するらしい。

結局、ガセ情報だったが、「単位会」と呼ばれる各都道府県弁護士会の会長を経験した関西の50代の大ベテランのひとりは、眉をひそめつつ次のように語った。

「(ある刑事事件の裁判について、確定した判決がある場合には、再度審理しないという)一事不再理の原則もある。一度、処分したものを、また改めて処分しなおすことは法律家としてどうなのだろう。ちょっと(アディーレが)可哀そうかなという気もする」

今、法曹界では意外にも"アディーレ擁護"派が趨勢となりつつあるのだ。

2004年の開業から17年の処分時まで、それまでの旧態依然とした個人商店的な弁護士ビジネスにはなかった徹底した〈組織力〉と〈マーケティング力〉を駆使するアディーレは、いわば業界の"鼻つまみ者"だった。ところがここ数年来、その風向きは大きく変わってきた。

前出の大ベテラン弁護士はその事情をこう明かす。

「あまりにもアディーレは大きくなった。"出過ぎた杭は打たれない"ということ。それに批判の声もあるが大局的にみれば、彼らも弁護士界に貢献しているという事実もある」

彼が指摘する「彼ら(アディーレ)も弁護士界に貢献」とは、若手弁護士の「雇用」、これに尽きる。

1999年以降段階的に推し進められた司法制度改革は、市民が容易に司法サービスを受けられるよう司法試験合格者数を大幅に増加させた。

改革以前は例年500人程度だった司法修習生採用も、2001年司法修習修了の54期生からは750人、以降、徐々にその数は増えてゆき、初めて「新司法試験(現行)」合格者が世に出た2007年司法修習修了の60期生に至っては、旧司法試験での合格者も含めてその数は2367人にのぼる。以降、司法修習修了者数は、概ね2000人台を推移している。

その約2000人の司法修習修了者のうち、任官(裁判官)する者は毎年100人程度、任検(検察官)70、80人といったところだ。それ以外の者はすべて弁護士登録する。毎年、約1800人の新人弁護士が世に出る格好だ(いずれも『2017年版弁護士白書』参照)。
新人弁護士の働き口になっていた

だが、急激な弁護士数の増加に、法曹界というよりも弁護士業界が追いつかなかった。

それまで弁護士事務所といえば、大掛かりな企業買収案件を手掛ける"渉外系"と呼ばれる大手事務所を除けば、多くは個人商店よろしく経営者である〈ボス弁〉、共同経営者である〈パー弁(パートナー弁護士)〉、正規雇用の〈イソ弁(居候弁護士)〉が1人、2人いれば"大規模"事務所の部類である。

そこに大勢の"新人"を雇うキャパシティはない。"弁護士余り"が伝えられるようになってから生まれたという〈軒(のき)弁(事務所の軒先を借りて業務を行う非正規雇用者)〉としての雇用の枠も限りがある。

なぜなら、弁護士の数が増えたからといってその"食い扶持"である事件の数が増えるわけではないからだ。前出・大ベテラン弁護士は言う。

「いろいろ思うところもあるが、アディーレが就職難に喘いで行き場のない新人弁護士たちの雇用を確保したことは評価に値する」

そもそもこのアディーレが世に出てきたのは、債務整理に特化した弁護士ビジネスだった。

時は過払い金バブル。マスコミを駆使した派手な広告戦略も相まってアディーレの名は瞬く間に広がった。

しかし、このアディーレが得意としたクレ・サラ問題、過払い金請求は、それまで地道に活動を続けてきた弁護士たちが苦労の末、やっと裁判所に認めさせたものである。

弁護士界全体が変わりつつあるのかもしれない Photo by iStock
儲けの源泉「クレ・サラ問題」

クレ・サラ問題の元凶は、ひとえに「利息」だ。

そもそも金銭貸借契約では借り手(利用者)と貸し手(貸金業者など)との間で自由に利息(金利)を決められる。だた、それはあくまでも法定の範囲内での話だ。

利息を定める法律は一元化されていない。利息制限法と出資法とそれぞれ個別にある。出資法では29.2%以上の利息は罰則の対象となる。他方、2010年以前、利息制限法の上限は20%だった。問題は、「利息制限法上限の20%以上で、出資法の罰則対象となる29.2%未満」の部分である。

これが当時、よく報道などで目にした「グレーゾーン金利」だ。民事では無効だが刑事罰が科せられない「金利の空白地帯」のことである。

かつて貸金業規制法には、借り手が任意で貸し手に利息を払うと契約すれば、このグレーゾーン金利の支払いを有効とされた。いわゆる「みなし弁済」規定だ。

クレ・サラ問題を生む元凶となったこの「グレーゾーン金利」が違法と認められれば、「過払い分」の返還も可能となり、多くの多重債務者が救われることになる――当時、この問題に取り組む弁護士たちは、それを裁判所に認めさせるべく奔走した。

その甲斐あって、2004年2月の最高裁判決では、この、みなし弁済の適用が否定され、2006年1月の最高裁判決では、グレーゾーン金利は「違法」とされるに至る。

結果、貸金業者はみなし弁済を主張できなくなり、借り手が返還訴訟を起こせば利息が取り戻せるようになった。これが世にいう「過払い返還請求」だ。

いわゆる「サラ金」が社会問題化した昭和50年代(1975年頃)から、平成に入った2006年まで、弁護士たちは、多重債務者救済のため、クレ・サラ問題に、それこそ手弁当で取り組んできた。冒頭部で紹介したベテラン弁護士は言う。

「それまでこの問題はなかなか裁判所が認めなかった。それを長年、クレ・サラ問題に取り組んできた弁護士たちのお陰で、やっと裁判所に認めてもらったものだ。そこに敬意を払う必要がある」

ところがアディーレは、そうした地道に頑張ってきた弁護士界の先達たちを軽く扱う態度を取ってきたという。そして、その弁護士界の先達が勝ち得た「過払い問題」を"ドル箱ビジネス"として収益分野とする。

これが、いわゆる〈街弁〉と呼ばれる多くの弁護士たちにとっては面白くなかった。
ここではスキルが身につかない

時に〈商店街〉を思わせる弁護士の世界は司法修習期を軸とした官僚にも似た縦横の関係がある。加えて各都道府県弁護士会では、人権、憲法、刑事……などのテーマ別に分かれる「委員会活動」と呼ばれる勉強会がある。

この司法修習期を軸とした縦横の関係と委員会活動は、自由業でありながら弁護士同士が結束、その知識と技を先輩から後輩へと伝える場として機能している。ところがアディーレ所属の弁護士はこうした場に積極的に出ることはなかったという。

司法制度改革に反対の立場を取る弁護士はその辺りの事情を次のように推測する。
「アディーレ所属の若手弁護士が異なる事務所の先輩弁護士らと繋がり、弁護士としてのスキルをより高めていく。これをアディーレの経営陣が嫌ったのではないか」

過去、アディーレに所属した弁護士らの声を総合すると、その〈組織力〉を強みとするここでは、他の弁護士事務所とは異なり、ひとりの弁護士がひとつの事件を最初から最後まで受任することはないという。

依頼者の話を聞き取る役割、書面を作成・チェックする役割、裁判所などに出向く役割……と、分業制が敷かれ役割分担が徹底しているのだ。こうしたアディーレの人事システムについて愛知県弁護士会司法問題対策委員長の鈴木秀幸弁護士(72歳)は次のように心配する。

「これでは若手弁護士はスキルが身に付かず、将来、独立したときに困るのではないか」

実際、この役割分担に慣れてしまうと弁護士としてひとつの事件を解決する力が身に付かないという声は多々耳にする。そのためか、アディーレで新人としてスタートを切った弁護士たちは、2年、3年と勤めれば外へと去っていく者が多いという。

実際、当の"元アディーレ"弁護士たちの間からは、かつての所属事務所を悪しざまに言う声は何ら聞こえてこない。彼らは、皆、一様にこう口を揃える。

――"顧客目線"で弁護士ビジネスを学べたことは大きい。

弁護士界は〈サービス業〉へと舵を切る

かつてこそ法曹3者として公的な職業、即ち、〈法律家〉としての矜持が優先された弁護士だが、弁護士人口が増えたここ十数年来、その意識は、ごく一般的な〈サービス業〉と何ら変わらなくなった。その歩みは2004年のアディーレの台頭と歩調を一にする、というのが弁護士界のもっぱらの声だ。

こうした〈サービス業〉志向の弁護士が増えたことを、ベテラン弁護士たちは内心、不快に思いつつも、その疑念を封印せざるを得なかった。というのも弁護士界の趨勢は、すでに〈法律家〉としての弁護士から〈サービス業〉へと舵を切っていたからだ。

そのなかで一介の〈街弁〉で終わることなく、各都道府県や日弁連の会長といった栄達を目指す弁護士にとっては、若手を取り込まなければとても支持を得られない。今、増えつつある〈サービス業〉志向の弁護士を悪しざまにいうことは、あまり得策ではないという事情もある。前出の弁護士の大ベテランも指摘する。

「結局は、『時代を見極められるかどうか』だ。社会と時代は常に変わっていく。それを読み切れないようでは、法律に携わる者として、失格だ」

事実、先月2月9日、投開票された日弁連会長選では、経済的新自由主義を信奉し〈サービス業〉志向の若手弁護士から圧倒的支持を受けている候補者が当選した。
変わる弁護士界

昨年末、全国各地の弁護士会は"アディーレ・ショック"に揺れた。

業務停止を受けた弁護士への依頼は、一旦、すべて解除される。「アディーレ顧客」たちは、皆、依頼していた「過払い金返還請求」や「債務整理」といった法的サービスが途中で受けられなくなる。そのためアディーレ所属の弁護士個人と再契約し直す、もしくは別の弁護士に依頼する。あるいは、自分で対応しなければならない。

途中で止まった法サービスはどうなるのか、すでに支払った着手金の扱いはどうなるのか。のべ約5万人いるといわれる「アディーレ顧客」たちの不安を和らげなければ弁護士への信頼は地に堕ちる。

そのため東京弁護士会(東弁)を中心に、全国各地の弁護士会では大勢の弁護士を動員、電話による「アディーレ顧客」への対応を余儀なくされた。

顧客からの問い合わせが殺到することを想定して、東弁だけでも、10本の電話回線を新設し、午前9時から午後5時まで、1日40人態勢で弁護士が相談に応じた。約20日でのべ800人の弁護士を投入したという。

弁護士800人が投入された Photo by iStock

この一連の騒動に、司法制度改革反対派の弁護士たちはこう口を揃えた。

――動員された弁護士の誰かがアディーレのせいで、みずからの弁護士業務に支障を来したという理由で、損害賠償請求を起こせばいい。

しかし、実際には、そうした動きが起こる気配すらない。その背景について前出・大ベテラン弁護士はこう謎解きをする。

「年配の弁護士のなかには、感情的に"アディーレ憎し"の声はある。しかし、すでに増えつつある経済的新自由主義的な思想を持つ大勢の若手弁護士たちからの恨みは買いたくない」

これは2015年の東京弁護士会の副会長選挙に、当時、弁護士界の中では若手の34歳、司法修習期64期生のアディーレ所属弁護士が立候補。大方の予想を裏切り305票もの得票数を得たことも背景のひとつにある。

歴代の副会長選でトップ当選者でも909票、最下位当選者は522票。立候補時は「泡沫候補扱い」(東京弁護士会所属弁護士)にしては善戦である。

だが、何よりも弁護士界に衝撃が走ったのは、その彼が掲げた公約である。「弁護士会を任意加入団体へ」「会費半減」――。

ちなみに弁護士法には、次のように記されている。

《第八条 弁護士となるには、日本弁護士連合会に備えた弁護士名簿に登録されなければならない。》

弁護士は日本弁護士連合会(日弁連)に登録されなければその業は行えない――つまり「強制加入団体」だ。

これは戦前の暗い時代、対立する検察庁や裁判所が「弁護士監督権」を盾に弁護士の動きを封じてきた反省から、戦後は、裁判所、検察庁、法務省からも独立して、弁護士の監督権は弁護士が行う「弁護士自治」を徹底したことに端を発している。

しかし、時代が進んだ今、弁護士自治を否定する弁護士が台頭している。いわゆる経済的新自由主義の発想を持つ若手弁護士たちだ。

弁護士自治を否定する弁護士、いわゆる経済的新自由主義の発想を持つ若手弁護士たちを無視すると、もはや日弁連(日本弁護士連合会)は崩壊しかねない。戦後守られてきた「弁護士自治」も国に返上することになる。

となると弁護士という職業は、もはや裁判官、検察官と同格の法曹3者ではなく、在野のライセンスを必要とする単なる〈サービス業〉へと成り下がってしまう。

前出・大ベテラン弁護士は、「どうにも"アディーレ"的な発想は好きになれない」と前置きしたうえで、こう語った。

「これまで弁護士など縁のなかったごく一般の市民のなかに飛び込んでいったのはアディーレだった。その"アディーレ"的なDNAは、弁護士界に着実に浸透している。もはや好き嫌いの問題ではなく、これは事実として受け止めなければならない」

こうした背景について愛知県弁護士会司法問題対策委員長の鈴木秀幸弁護士は次のように語った。

「ごく一般の市民にとって弁護士とは、これまでは紹介制を旨とする〈個人商店〉然としたものしかなかった。そこに紹介など必要なく、大規模な広告を打ち出し大勢の顧客を受け入れる郊外の〈スーパーマーケット〉が登場したという話だ」

事実、今、若手と呼ばれる弁護士の間では、アディーレの登場以降、債務整理にみられる効率性のよい分野に特化した大規模な弁護士ビジネスを展開するビジネスモデルを真似る動きが後を絶たない。

こうした弁護士ビジネスでは、ときに"八百屋弁護士"と呼ばれる〈街弁〉とは異なり、離婚や相続といった「手間暇の割に複雑な事件」を嫌う傾向が見受けられる。〈法律家〉ではなく、あくまでも代行業として法的サービスを提供する〈サービス業〉といった趣だ。

それでも市民は"アディーレ"を求めている

さて、冒頭部でも触れたが、昨年末、東弁によるアディーレへの追加処分が云々された頃、多くの弁護士らは、こう語ったものだ。

――それはもう、アディーレは弁護士界から出て行ってくれ、ということではないか。

だが、実際はそうはならなかった。その規模を縮小したといわれるが、その業務を再開するとこぞって顧客がアディーレの門を叩いたという。東弁所属弁護士は言う。

「たとえば不祥事が伝えられた大手流通店でも、生活インフラとして消費者になくてはならない存在として認知されていれば、そう簡単に潰れることはない。それと同じで、もはやアディーレは債務整理の分野に強みを持つ大手弁護士事務所として市民の間に溶け込んでいるということなのだろう」

その一方でアディーレ関係者によれば、業務停止によりいったん顧客が離れたこと、また看板名を悪名としたその大きな信用失墜から、実際、経営再建は厳しい面があるという。

「ただただ失った信用を取り戻すべく業務に専念するだけだ」

かつて弁護士界の"鼻つまみ者"といわれたアディーレだが、紆余曲折を経て、今、弁護士界に受け入れられつつある。このまま弁護士界に溶け込んで〈風雲児〉として復活するか、あるいは〈ならず者〉として葬り去られるかは、アディーレ自身の正体ばかりでなく、我々が弁護士に求めているものも映しだすことだろう。

愛知県弁護士会の鈴木秀幸弁護士は、やや否定的な面持ちでこう語った。

「アディーレは間違いなく復活する。そして、"アディーレ"的なモノも、これからもまた出てくる筈だ」

弁護士に何を求めるのか。悪貨とされても必要とされるなら、それはすでに我々自身の選択の結果なのである。

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