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ヒトiPS細胞10年 山中伸弥・京都大教授に聞く 患者の思い胸に「これからが正念場」

2017-11-05 12:43:25 | ニュースまとめ・総合

ヒトiPS細胞10年 山中伸弥・京都大教授に聞く 患者の思い胸に「これからが正念場

11/5(日) 10:15配信

産経新聞


ヒトiPS細胞の発表から10年の思いを語る山中伸弥・京都大教授=10月30日、京都市左京区の同大iPS細胞研究所(寺口純平撮影)(写真:産経新聞)

 京都大の山中伸弥教授(55)がヒトの人工多能性幹細胞(iPS細胞)を作製したと発表してから今月で10年。病気の治療に生かす研究は大きく進展したが、山中氏は「これからが本当の正念場だ」と語った。

■再生医療研究が加速

 --ヒトiPS細胞の作製から10年を迎える

 「長いようだが、あっという間で早かった。そんなに時間がたったとは思えないぐらいだ。年を取って時間がたつのが早く感じられるようになったからかもしれないが、まだまだこれからだ」

 --再生医療で臨床研究が始まり、創薬も治験の段階に入った

 「10年以上前から始まっていた胚性幹細胞(ES細胞)を使った研究が、iPS細胞で加速した。私一人ではなく、多くの人たちの力でここまで来られた。感謝を忘れてはいけないと思っている。その中で、最も印象的だったのは理化学研究所の高橋政代さんが加齢黄斑(おうはん)変性の臨床研究を始めたこと。実験動物を使う前臨床試験の段階を脱し、非常に短い時間で研究上の大きな節目を乗り越えたのは素晴らしい成果だった」

■大変だったのは備蓄

 --大変だったことは

 「再生医療や創薬に使えるiPS細胞を、いつでも提供できるように準備しておく『iPS細胞ストック(備蓄)』の推進だ。大量生産する専門企業に提供し、そこから医療機関や製薬会社に供給するものだが、苦労した。大学の研究者は、人とは違う新しいことをやりたい人の集まりだ。一方、細胞の生産は品質維持のため決められたことをきちんと愚直にやり続けることが求められる。まるで正反対で、思っていた以上に大変だった」

 --当初は細胞ががん化する可能性が指摘された

 「初期のiPS細胞は確かに懸念があり、臨床研究に使えなかった。だが現在は作製方法が進化して全く変わった。リスクはゼロではないが相当下がり、臨床に使えるようになった」

■ノーベル賞が追い風に

 --2012年にはノーベル医学・生理学賞を受賞した

 「非常に栄誉なことだった。iPS細胞ができた瞬間から、どうやってこれを臨床研究まで持っていき、軌道に乗せるかという責任をずっと背負ってきたが、受賞で一般の方や産業界の認識が高まったことは、いろいろな意味で追い風になり、後押しされた。京大iPS細胞研究所を支えるための寄付をお願いする活動でも助けられており、ありがたいと思っている」

 --現在のiPS細胞研究は、マラソンに例えるとどれぐらいの地点か

 「スタートラインと言ったら言い過ぎかもしれないが、まだせいぜい10キロ地点だ。そこから先が本番で、これからの臨床研究や治験が本当の意味で正念場だ。患者の安全性を最優先に、誰もやったことがないことを実現しなければならないのは実に挑戦的な取り組みで、今までとは全く比べものにならないぐらい大変になると思っている」

 --研究のゴールは

 「再生医療と創薬は30年ごろ、いくつかの治療法が承認され保険が使える状況になると思う。だが、まだ時間がかかるものもたくさんあり、新たな課題も生じるだろう。ゴールは思い描けるものではない。積み重ねを続けることが大事だ」

■コストと時間を克服へ

 --当面の課題は

 「再生医療では、患者の細胞からiPS細胞をオーダーメードで作製すると費用や時間がかかりすぎる。日本人の多くが拒絶反応を起こさない免疫型を持つ数十人の方からiPS細胞を作り、いわば既製品としてそろえるストックの充実が大きな課題だ」

 --どの程度の人をカバーできるのか

 「今は3系統の免疫型のiPS細胞を提供しており、日本人の30%で拒絶反応が起きない。50%への到達も近いだろう。ただ、さらに向上させるため系統を増やすとコストが上がり、医療に使われなくなる懸念がある。細胞を量産する企業の生産設備が増え、安全性を確認する費用や時間もかかるからだ。それならカバー率の高い1系統だけ使用し、拒絶反応が出る患者には免疫抑制剤を使う方が合理的という考え方も出てくる」

 --今後の計画は

 「莫大(ばくだい)な国費を投じて細胞の系統を増やし、使われなかったら無駄遣いになってしまう。これまで22年度にカバー率80%の達成を目指してきたが、どこまでやるべきか検討している。私たちだけではどうにもならない問題だ。安全性を確保しながらコストを上げずに済む制度の導入を国に考えていただきたい」

■「早く治してあげなくては」

 --臨床研究や治験で患者の役に立ち始めた

 「まだ入り口の段階だ。今後10年、20年は患者に貢献するより、リスクを背負って貢献してもらうことになる。本当の意味での貢献を早く実現しなくてはならない。全国の難病患者から『iPS細胞で病気を治して』という手紙を多数受け取っている。その気持ちを受け止めて一生懸命、頑張っている」

 --難病の薬では先月、進行性骨化性線維異形成症を患う兵庫県明石市の山本育海(いくみ)さん(19)を対象に最初の治験が始まった

 「小学6年生のとき私に会いに来て、自分の細胞でiPS細胞を作り研究してほしいと言ってくれた。こういった出会いが研究の後押しになっている。iPS細胞は、ある意味で患者そのもの。実験をしていると元の細胞を提供してくれた患者のことが頭に浮かび、早く治してあげなくてはという気持ちが強まる」

 --筋萎縮性側索硬化症(ALS)で闘病していた篠沢秀夫・学習院大名誉教授は先月、亡くなった

 「先生からは『治療法を開発してほしい』と手紙をいただいていた。研究室に飾り、その思いを感じながら仕事を進めている。ALSは一番やっつけたい病気の一つ。早くなんとかしたいが、残念ながらまだそこまで至っていない」

■必ず患者に貢献する

 --医療に携わる研究者に求められる姿勢とは

 「研究者である以上、いい研究をして論文を書くことは絶対にやっていかないといけない。それをやりながら、どんなに時間がかかっても必ず患者に貢献するんだという気持ちを持つことだ。研究は大変だが、それがあればやっていける」

 --趣味のマラソンは続けているか

 「平日の昼休みは研究所近くの鴨川や南禅寺あたりを30分走っている。休日は自宅近くの大阪城、東京出張時は皇居の周り。仕事で疲れた脳内を、iPS細胞の作製のように初期化して真っ白にできるので、間違いなくプラスに働いている。今年2月の京都マラソンで自己ベストの3時間27分42秒を出せた。11月には大阪マラソンに出場する。来年2月に出場する別府大分毎日マラソンは一応、2020年東京五輪の代表選考につながるレースだそうで、可能性はゼロではない(笑)。ひょっとしたら何かの間違いが起こるかもしれない」

     ◇

【プロフィル】やまなか・しんや 1962年、大阪市生まれ。神戸大医学部卒、大阪市立大大学院博士課程修了。2004年、京都大教授。10年、同大iPS細胞研究所所長。12年、ノーベル医学・生理学賞。家族は皮膚科医の妻、いずれも医大を卒業し研修医となった娘2人。

     ◇

■広がる臨床研究 細胞作成の迅速化が課題

 iPS細胞の研究で最も注目が集まっているのは、病気やけがで損傷した患部に新たな細胞や組織を移植する再生医療だ。理化学研究所などが2014年、世界初の移植手術を実施して道を開いた。

 加齢黄斑変性という重い目の病気の患者からiPS細胞を作製し、網膜細胞を作って移植。今年3月には備蓄したiPS細胞を使って他人由来の網膜細胞を移植する手術にも成功し、既に計5人に実施した。

 臨床研究は18年に慶応大が脊髄損傷、大阪大が心不全を計画。横浜市立大も19年度以降に肝不全を目指しており、日本が世界をリードしている。ただ、その多くは細胞の移植で、複雑な構造を持つ立体的な臓器の移植はまだ先だ。

 iPS細胞は病態解明や創薬の研究にも活用されている。難病患者からiPS細胞を作り、体外で病気を再現して調べれば病気のメカニズムの解明につながるからだ。最近は運動機能に障害が出るパーキンソン病やALSなどの仕組みが少しずつ分かってきた。

 患者の細胞を量産して効果を試すことで、効率的に新薬を開発できる。全身の筋肉が骨に変わる進行性骨化性線維異形成症の治療薬候補がこの手法で見つかったほか、ALSやアルツハイマー病でも研究されている。しかし、再生医療より実用化が早いとみられていた当初の期待ほどには進展していない。

 課題は細胞作製の迅速化だ。iPS細胞や患部の細胞を作製するにはそれぞれ数カ月かかるため、人工知能(AI)の導入による効率化や作製法の改良研究などが活発化している。

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