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親がひきこもり"8050問題"で死なない道

2018-06-24 21:21:38 | ニュースまとめ・総合
親がひきこもり"8050問題"で死なない道


2018年6月16日 11時15分

プレジデントオンライン

ひきこもりの長期化、高年齢化が社会問題になっている。中でも深刻なのが、80代の親が50代のひきこもりの子を支える「8050問題」だ。ひきこもり家庭の家計相談に応じるファイナンシャルプランナーの村井英一氏は「親が自分たちの死後も子供が生きていける経済的な環境を整えるだけでなく、衣食住の基本的な方法を早くから教えておくべき」という。人生を「子供の世話」で終わらせないための方法とは――。
■親80代子50代、徐々に生活に行き詰まる「8050問題」

「もう疲れました」

息子(28)がひきこもりであるという女性(55)は、下を向いたままつぶやきました。

私はファイナンシャルプランナーとして、ひきこもりの子供を抱えた家族の相談に応じています。子供がひきこもりで働けない状況が続いても将来、家計が破綻しないかどうかを分析し、改善点をご提案しています。一方、子供とどう接したらよいか、どうやって立ち直らせるかについては、専門外ですので、安易に言及すべきでないと考えています。

とはいっても、お金と生活スタイルは切っても切れない関係です。生活面のアドバイスに話が及ぶこともあります。

冒頭で紹介した関東地方在住の鈴木里恵さん(仮名)の長男(28)がひきこもり状態になったのは高校生の頃でした。クラスメートとのつき合いがうまくいかず、学校を休みがちに。そのうち、自室に閉じこもるようになり、高校も中退してしまいました。その後、進学も就職もできずに、ひきこもりが10年以上続いています。

現在、本人は自室でゲームに浸りきりで、あまり部屋から出てくることはありません。母親の鈴木さんが毎日、3度の食事を部屋のドアの前に置いていますが、生活時間は不規則になっているようです。このまま時間が経過すれば、親80代・子50代となり、徐々に生活に行き詰まる「8050問題」となるリスクもはらんでいます。
▼預貯金3000万円、年収800万円、今は何の心配もないが……

鈴木さんの家族構成や資産状況、年収は以下の通りです。

◆家族構成
・父親:57歳(会社員)
・母親:55歳(パート主婦)
・本人:28歳(無職)

◆資産
・預貯金:3000万円
・自宅:マンション(持ち家)※住宅ローン完済

◆年収
・父親:約800万円
・母親:約90万円
■衣食住すべて親頼みの無職28歳を心配する母親

私の家計相談では、ひきこもりの子供が今後も働けないことを前提に10年後、20年後の家計の状況を分析し、それでも家計が破綻しないための工夫をアドバイスしています。

この時も、現在の資産や家計状況をうかがっていました。自宅の分譲マンションの住宅ローン返済は終えており、57歳の会社員であるご主人は、定年まで勤めれば2000万円以上の退職金が見込めることもわかりました。そのまま継続雇用される可能性も高く、60代でも一定の収入を得られそうです。

そうした状況を踏まえ、暫定的なキャッシュ・フロー表を作成しました。長男が30歳以下とまだ若く、かなり長期の分析となるため、前提次第で推計結果は変わってきます。経済的には予断は許さない状況ですが、当面の間は親が残す財産(預貯金や退職金など)を取り崩しながら生活できることがわかりました。

「もしお子さんが、このままの状態が続いたとしても、決して生活が成り立たないわけではありません。うまく工夫していけば十分にやっていけますよ」

私は、元気づけたつもりだったのですが、鈴木さんの表情は晴れません。そんな時に口を突いて出てきたのが、冒頭にご紹介した鈴木さんの一言でした。

「もう疲れました」

その背景にあるのが、生活面に関する心配です。兄弟姉妹がおらず、いずれは長男もひとりで生活していかなければならなくなります。資金的にはあまり問題がないとしても、「日々の“衣食住”を独力でできるのでしょうか」と鈴木さんは不安を募らせます。
▼「無理です。健ちゃんの食事を用意しなければいけないし」

10年以上ひきこもっている間、両親はこの状況をただ放置していたわけではありません。むしろ、ひきこもり状態から回復できるように、いろいろと取り組んできました。

自治体の相談窓口や精神科医にアドバイスを求め、工夫しながら声掛けをしてきました。民間の支援団体にも依頼して、訪問相談員に来てもらったり、時には半ば無理やり外へ連れ出したりすることもありました。しかし、いずれも状況の改善にはつながりませんでした。

ため息ばかりの鈴木さん。私は話題を変えてみました。

「ところで、鈴木さん。最近、旅行に行ったことはありますか?」

「旅行なんて、ここしばらくは行っていません。最近行ったのは……う~ん、健ちゃん(長男)が高校生の時の家族旅行かなぁ。それ以来行っていません」

「それはいけませんね。気分転換のためにも、ご夫婦だけで1泊でも旅行をしてはどうですか」

「それは無理ですよ。健ちゃん(長男)の食事を用意しなければいけないし」

「ご飯ぐらい、教えておけば自分で炊けますし、コンビニもあるから大丈夫ですよ。仮にそれが無理でも、1日ぐらい食べなくても死にはしませんよ」
■自分のことはすべて後回しで子供と向き合う親

ひきこもりの子供を抱えた家族の相談で、私は「最近、いつ旅行に行きました?」という質問をよくします。すると、「ここ10年ぐらい行ったことはない」「子供がひきこもりになってからは旅行どころではない」という答えが返ってくることが少なくありません。

子供がひきこもりになってからというもの、自分のことはすべて後回しにして、子供と向き合う親が多いのです。そして、家庭が「子供がひきこもりから立ち直って就職する」というあるべき姿に戻るまでは、「自分の楽しみを追求してはいけない」とやりたいことをすべて我慢してしまうのです。

でもそれが長く続くと、ひきこもりの子供につらく当たる原因にもなりますし、子供にとってもプレッシャーになるでしょう。「子供は子供。私は私」と考えて、自分自身の生活も大切にしてほしいと考えています。

自分の趣味を持ち、時には夫婦で余暇をエンジョイするのです。そして、ご夫婦でどのような老後を送るのかも考えていただくようにお願いしています。

今は、親が子供の身の回りのことをしてやれます。しかし、いずれは親のほうが先に亡くなります。たとえ生活していけるだけのお金を残すことはできたとしても、身の回りの面倒まで見てやることはできません。自分で生活していけるだけの“生活力”は、親が元気なうちに与えておく必要があります。
▼ひきこもりの子供に「生活力」を残すための方法4

私たちのメンバー(「働けない子どものお金を考える会」)は講演会などで、お金だけでなく、生活力を残してあげられるような、さまざまな工夫を提案しています。そのいくつかをご紹介しましょう。

1.ガス・水道・電気などのライフラインの名義を子供に換えておく。

人(親)が亡くなると、さまざまな手続きが必要になります。ひきこもりの子供の場合、すぐに処理できないことも多いでしょう。預金口座が凍結され、料金引き落としができないために、ライフラインが止まってしまうということも考えられます。生活に必要なものだけでも、あらかじめ子供の名義に変更しておくと安心です。

2.少なくともご飯は炊けるようにしておく。

今の時代、まったく調理ができなくても食事に困ることはありません。しかし、すべてがコンビニやスーパーのお弁当では、食費もかさみます。少しでも自分でできれば節約になり、長期間では大きな効果を発揮します。まずは炊飯器の扱いから。たとえ外出ができない時でも食事が取れるようになります。

3.市役所などに連れていき、行政機関に慣れさせておく。

生活に行き詰まったら、やはり頼りになるのが行政の支援です。ただし一人になったら、自分で支援を求めなければなりません。どのような支援が受けられるかは、その際に相談すればよいでしょう。まずは行政機関に“行くことに慣れておく”ことが必要です。折に触れ、子供を連れて行くとよいでしょう。
■子供を置いて夫婦で1泊旅行してみたら、どうなったか

4.「緊急時ノート」を作成しておく。

子供がひきこもりの場合に限りません。誰しも、いつ“万が一”が起きないとも限りません。その際に残された家族が困らないように、連絡先や口座番号などを控えておきましょう。特に子供がひきこもりの場合は、具体的に「何をすればよいか」「どこに相談したらよいか」をメモしておきたいものです。

そして、生活力を“養成”するために最も効果的な練習になるのが、両親の小旅行なのです。まずは1泊で。それに慣れたら、今度は2泊、3泊で。

旅行前にご飯の炊き方と冷凍食品の調理の仕方を教えておき、実践してもらいます。それがうまくいかなくても、コンビニやスーパーがありますから、食べられないはずはありません。いずれは一人で生活していかなければならないのですから、今から少しずつ慣れておきたいものです。ただし、体調によっては外出できない場合もありますので、まずは1泊から試してみるとよいでしょう。

旅行は両親にはリフレッシュになるだけでなく、自分たちの生活を考える機会となります。この機会を通じて、子供とは別の、自分たちの人生計画を考えていただきたいのです。

子供がひきこもりとならなかった場合とまったく同じ生活、というわけにはいかないでしょう。しかし、それでもできるだけ自分たちの生活もあきらめずに、エンジョイしていただきたいと思います。それは、自分たちの人生を充実したものにするだけでなく、ギスギスした親子の関係を緩和することにつながるでしょう。

「そうですね。1日ぐらいならなんとかなりますよね。主人に相談してみます」

鈴木さんの表情が少し明るくなったので、少しホッとしました。
▼「親の旅行」は子供にプラスの効果がある

後日、実際に1泊旅行に行ったそうで、わざわざお土産を持ってきてくれました。私も内心は心配だったですが、様子をたずねたところ、「それがですね。私たちが帰ってきても、『あ、もう帰ったの』ですって。拍子抜けしてしまいました」という答えでした。

鈴木さんの表情はどこか晴れやかでした。せっかくご飯の炊き方を教えて、レトルトのおかずを用意しておいたのに、長男はそれには手を付けず、コンビニでお弁当を買って食べたそうです。それでも1日、無事に一人で生活できました。

「息子の将来を考えると、ぜいたくはできませんが、少しぐらいは自分のことも考えていいんですね」

「いや、考えたほうがいいですよ。そのほうが、ご両親はもちろん、お子さんのためにもなると思います」

将来の家計の分析と改善のご提案が私の領域です。安易に専門外のアドバイスはしないようにしています。それでも「旅行の勧め」はしています。親と子の両方にメリットがあると思いますし、何よりもご相談に来た方が明るい表情になってくれるからです。

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