私がギターを始めた頃は今みたいに何でもある時代ではなかった。
音を合わせるにしても、初めはピッチパイプでしていた。
ピッチパイプは今ではあまり見かけないが、まだ存在するのだろうか。
随分前に処分してしまったが今思えば取っておけば良かった気がする。
初心に戻れる気がするからだ。
ピッチパイプとはギターの解放弦の音程が出る六穴のハーモニカである。
確か初めてのギターを手にして、いざ弾こうという時になって、
音合わせはどうしたものかと戸惑っていると、当時はまだ私より
ギターに関して詳しかった父が、「ああそれはね...。」と得意げに言って
どっかで買って来てくれたものだった。
初めはなかなか合わなくて、そのうちピッチパイプの振動で
口からこめかみ、頭全体がしびれてくる。
今でもあの、特に低音弦側の「ブワー」とした振動が
頭蓋骨の裏側にでもしみ込んでいる様で
ピッチパイプを思い出すとその辺がなんだか今にも振動しそうだ。
本格的にギターを習うようになってからは音叉を使った。
今思えば初心者が音叉で正確に音を合わせるのは難しかったはずだ。
子供だからといって甘やかす事のなかった山中師匠は厳しかった。
最初の頃は調弦にレッスン時間のほとんどを費やした。
もっとも、その頃小学生は僕一人だったように思う。
まだまだ「大人の趣味」だったのである。
自慢ではないが器用だった方の僕はそれでも割合早く
調弦の仕方を覚えたように思う。
それでもやはり、膝が痛くなるほど音叉を叩いたのを覚えている。
電子チューナーが登場したのは大学生の頃だったように思う。
当時は値段が高く2万円程もしたが、なにより正確だったのと
機械好きだったのもあって飛びついて購入した。
それまであった針のメーター表示に変わって反応も良く、
合わせる弦によって切り替えも必要ない便利さには驚いた。
加えてカセットテープほどのコンパクトなサイズ!。
今ではさらに機能を高め、マイク付きのクリップ式と言う
画期的なものまで登場している。
価格も¥3,500くらい!これ以上望むべく物もない。
教室のレッスンでもこれをお勧めしている。
初めての人には簡単で正確に音をあわせられるからだ。
しかし、考えてみるとチューナーがなかったお陰で私の耳は鍛えられた。
ピッチパイプのしびれるヴィブレーション、あるいは口にくわえた
音叉の冷たい金属音と、ギターの音との間のずれに
よって生じる音のうねりをそのまま頭蓋骨で感じる事が出来た。
音と音がぴったり重なり合うのが耳より先に頭蓋骨を通して伝わってくる。
これは今はなかなか体験できない事かも知れない。
お陰で最近は、チューナーがなくても誤差+-10セント位の精度で
チューニングできる。
かくいう私も今ではすっかりチューナー派だが...。
家では、据え置き型のLED表示のチューナーを練習中はずっと付けっ放し。
頻繁にチューニングするからだ。
便利さと引き換えにに失っていくものは必ずある。
あれがないとこれが出来ない、これがあると便利...と
いつの間にかわがままになっている自分を反省して
大事な事を見失わないようにしたい。
他人に文句を言う前に自分に出来る事をしなければ...。
いつしか大好きだったはずのギターの練習や音楽の勉強が
自分にとって面倒なものになってしまってはいけない。
写真は最近はまっているスコット・テナントのテクニック・ハンドブック。
コンサートなどが一段落したら必ず一度自分のテクニックを見直す事にしている。
ホセ・ルイスのテクニック・ノートは長年使って来たし最近はレッスンにも取り入れているが、
スコット・テナントのも凄く効果ありそうだ。