新入社員2。

2009-07-29 07:35:07 | ギター
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今年の新入社員パート2はイギリスからやって来た
糸巻きのロジャース君だ。
ロジャースは親子2代で手造り糸巻きを作り続けている。

私が手にしてもう10年以上になる名器フレタには元々
これまた有名なスペインの糸巻きメーカー、フステロ社のものが取り付けてあった。
しかし、私の所にやって来た時に既に40歳近かったフレタのオリジナルの糸巻きは
確か4弦の糸巻きのパイプが割れてひどい状態だった。
新しいフステロ糸巻きと交換する事を条件に楽器を購入したが
新しく取り付けられたのはオリジナルよりも一回り大きくてパイプの長さが合わない。
最後は確か、パイプだけ切断してもらって送ってもらい、自分で取り付けたのを思い出した。

贅沢を言うつもりはないがこのフステロの糸巻き、
デザインや装飾はスペインらしくてとっても気に入っていたのだが
肝心の精度はいまいち。
つまみの遊びも多く、回し心地も今ひとつ。スムースな感じではない。
また、パーツの仕上げにも問題があってたまに指を引っかけて擦りむいたりする。
それでもそういう事を全部ひっくるめて憎めない所がある。
人間臭いのだ。

それから10年が過ぎた頃からまた4弦に問題が発生。
弦を巻き上げるたびに「ギ、ギ、ギ」と音がする。
コンサートでステージ上で調弦するとこの音がきれいにエコーがかかって
会場全体に響き渡る。ギターらしい「音」とも言えるかも知れない。
でもなんだかギターがぽつりとステージ上で「あぁ、疲れた...。」と
溜息を吐いたようにも聞こえるのだ。
黙って聴いている人にとってはあまり心地のいい音ではないはずだ。

そもそも穴の方に問題があるらしい。
長年の使用でヘッドにあけられた穴も歪むのであろう。
無理な力がかかると結局糸巻きをダメにしてしまう。
症状がひどくなって来たここ1、2年ずっと「いつかはロジャース」
を心の中で繰り返して練習に励んで来たが
結構高価なものなのでなかなか手が出ない。
原油が高騰した時には輸入品は一斉に値上げをした時期もあった。
そんなこんなで2年位過ぎてしまった。

ところが最近ネットでスペイン風な装飾の小柄なタイプのロジャースを
目にしてしまい、とうとう我慢できなくなってしまった。
このモデルは、スペインの名器サントス・エルナンデスについている糸巻の
コピーモデルで、スペインの伝統的な装飾と小ぶりなサイズが
フレタの小さいヘッドにもぴったりと考えたのだ。
4弦の「ギ、ギ、ギ」も限界だったので思い切って
穴の調整と糸巻きの交換をする事にした。

取り付けてみた感じは自分の思っていた通りだった。
回し心地も非常にスムース。
全くと言っていいほど遊びも無い。
ぴったりと調弦も決まる感じだ。

驚いたのは音まで変わってしまった事だ。
一言で言えば雑音がなくなってすっきり静かになった感じ。
低音に伸びが出て落ち着きが増した。
噂には聞いていたが想像以上の効果だ。
こうなると楽器全体のイメージも変わってきそうだ。
楽器をパッと手にした時の感覚まで違うから不思議だ。

今日もこのロジャース効果が自分の中に広がっていく。
調弦はそもそも、楽器と演奏者がお互いの波長を調和させる最初の
行為なのだという事に気づかせてくれた。