イタリアワインをこよなく愛する名古屋の歯科医ブログ

イタリアワイン好きの名古屋の歯科医が、診療室でおこる日々の出来事や、その日出逢ったワインのことを綴ります

「歯ぎしり」この悩ましきものを理解する

2010年05月31日 | 歯医者のはなし
歯ぎしりで悩んでいる方及び歯医者さん必読です(笑)

今週の日曜日は、
東京に出向いて、東京医科歯科大学のポスグラ講演会を聴きに行ってきました

ここの講演会は、講師陣のグレードや講演内容の割に受講料が値打ちで、若い頃はよく通ったものです

今回久々の参戦で聴いてきたのは、歯ぎしりに関する講演会「ブラキシズム最前線!!」 
ブラキシズムと睡眠医学の第一人者である阪大の加藤先生と、
臨床の場でブラキシズムと戦っている昭和大学の馬場教授が本日の講師です

当初100人程度の参加者を見込んで準備していたそうですが、なんと400人を超える参加者で、
我々歯科医がいかに歯ぎしりに悩まされているか、よくわかります

どんなに高度な治療を、高価な材料を使って行っても、
「ブラキシズム=歯ぎしり」を診断し、コントロールしていかなければ
その口腔内は、あっと言う間に摩耗し、破壊され、長期に安定した予後を得ることが出来ません

では「ブラキシズム=歯ぎしり」とは何か?

ブラキシズム=歯ぎしりには二種類あります、
寝てる間に無意識に行っている睡眠時ブラキシズム( 以下SB )と、
覚醒時に歯を噛みしめる日中歯牙接触癖( 以下TCH )とに分けられます

この中で特に問題となるのが、一般に言われる歯ぎしりのSBです
これまで、歯ぎしりが疑われる患者さんに、
ストレスが原因だから、南の島にでも行かなきゃ治んないよなんて言っていましたが
そんな話では無いことがよくわかりました

寝ている人を見ていると、時々口をむにゃむにゃと動かしますよね、
これをリズム性咀嚼筋活動(RMMA)と言います
90~120分で一回りする睡眠周期の中で、ノンレムからレム睡眠へ移り変わる直前の、
睡眠が少し浅くなる頃に、健常者でも60%以上の人がRMMAを行います
SBを行う人は、このRMMAの活動が過大となって上下の歯が接触するようになり、
しかも健常者の1.4倍の強さで筋肉が活動し、それが2~3倍の時間長く続き、
3倍の頻度で現れるということです

つまり、寝てる時のむにゃむにゃ運動がやたら強くなったものが睡眠時の歯ぎしりだったのです
これは新しい見解です
ブラキシズムとは、かみ合わせがどうだとかストレスがどうだとかでは無く、
睡眠周期に関連した極めて中枢性の活動であることがわかりました

もちろん、ストレスや不適切なかみ合わせが、ブラキシズムの発現を強化する可能性はありますが、
直接の原因ではないのです
睡眠が浅いとRMMAは増加すると考えられるので、不眠症や睡眠時無呼吸症候群など、
睡眠が破壊されている場合はブラキシズムの発現が増す可能性があります
他にも、喫煙、カフェイン摂取、飲酒(寝酒)も睡眠を浅くする傾向があり、
ブラキシズムのリスク要因となります

寝酒って、かえって睡眠を浅くするんですね、気をつけなきゃ(笑)

では、ブラキシズムは止めることができるのか?
答えは「NO」です、現段階では睡眠時ブラキシズムを抑制することは出来ません

なので、睡眠時にスプリントと言われるマウスピースのようなものを装着し、
ブラキシズムから歯や歯周組織、補綴物(被せ物)、インプラントを守ることが
唯一の治療法となります

一緒に寝ているパートナーに歯ぎしりを指摘される方はもちろん、
朝、起床時に顎がだるかったり、強ばっていたり、痛みがある人は、睡眠時ブラキシズムが疑われます
歯医者さんに相談し、スプリントを作ってもらいましょう
そしてSBは、遺伝する可能性もあるみたいですよ


一方、日中歯牙接触癖( TCH )は、ストレスが大きく関わっているようですが、
先ず自分がTCHを行っていることを自覚してもらい、
安静時(何もしていない時)は上下の歯は接触しないのが正しい状態だということを認識してもらい、
それを実践してもらうことで、ずいぶんと改善していく可能性があるようです


SBとTCH、どちらも我々歯医者にとって、とても難しい問題です
現段階ではSBを抑制する事はできないのは残念な事ですが、
その発生メカニズムがよく理解できた事は収穫です

このような基礎研究が進んでいくと、いずれは特効薬がでてくるかもしれませんね
期待しましょう