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Ⅲ「どうする! 日本の地震予知」中央公論4月号 著者 上田誠也氏

2011-03-11 20:38:59 | ロシア・地震予知情報
 しかし彼らの議論は「従来の計画では、前兆探りばかりしていた」という前提に基づいていた。筆者に言わせれば、これは事実誤認だ。

 まともな前兆探索はほとんど誰も行ってはいなかったのだ。しかし何十年も建前上は前兆現象検知努力をしてきたことになっていたので、今さらそれをしていなかったとは言えず、「前兆検知には成功しなかった。

 それは極めて困難であり誰にもできないだろうから、当分は諦めよう」ということになったのである。しかし「地震予知を諦めよう」では、世間には通らない。そこで「今後の地震予知研究では、基礎研究にもっと力を注ぐべきだ」という組織防衛的着地点に落ち着いたのだ。
 
 しかし、これが「短期予知研究をすべてやめてしまえ」という恐るべき事態を正当化することになった。かくて基盤観測の名の下、「短期予知は当分しなくてもよいが、もっと予算(今や年間一〇〇億円のオーダー)がとれる体制」が確立した。新計画のタイトルは「地震予知のための」とあるのに地震予知はほとんど禁句となった。

 国民の安心・安全に深く関わるお国の基本方針にこのような重大な変化があったことを国民はほとんど知らない。
今でも国民は年間数百億円規模の予算と多数の人員を抱えて「日本は地震予知の研究を一生懸命やっている」と信じているにちがいない。まことに憂慮すべき事態である。

唯一、短期予知をめざす東海地震

 悲観論全盛の中で依然として短期予知を目指して気象庁が大規模観測(歪計が約五〇、伸縮計が約一〇、傾斜計が約五〇)を続けている唯一の地震が東海地震だ。
法律によって義務づけられているからだ。

 東海・東南海地域では一〇〇年から一五〇年の間隔で繰り返し大地震が起きているが、一九七六年に「これぞ次のM8クラスの地震」と石橋克彦神戸大教授(当時東京大学助手)が指摘したのである(図2参照。?つきの地震がそれにあたる)。
 
 政府は予想される大被害に対処するため、七八年「大規模地震対策特別措置法」を制定し、「短期直前予知を前提とした地震対策」をとることにした。気象庁は東海地域の大観測網により常時監視し、そのデータに基づく判定会(地震防災対策強化地域判定会)の進言を受けた内閣総理大臣から警戒宣言が公布されると、原則として鉄道・銀行・郵便・病院・学校などが停止することになっている。
 
 しかし、「予知」以来四〇年たっても東海地震は起きていないし、警戒宣言が出されたこともない。長・中期予知ははずれたが、短期予知の成否はまだ分からない。
これは一つの試金石だ。大津波をも起こす東海・東南海・南海地域での大地震は遅かれ早かれまず必ず起こるし、それらが連動して起こる可能性すら指摘されているのである。

 東海地震に関しては、地震発生の理論モデルから、前兆すべり(プレスリップ)がどう観測されるべきかなどというシナリオさえ語られている。
大地震の前にはゆっくりしたずれの動きがあるというのは震源モデルで確立されたとされているが、実は最近の大地震(阪神・淡路大地震、二〇〇三年の十勝沖地震〔M8・0〕など)では実測されたことはない。

 阪神・淡路大地震以後さらに大きな予算がついて、現在では日本中に二〇〇〇点もの地震観測点があって、世界中の地震学者がその恩恵に浴している。

 また、GPSステーションも一〇〇〇点以上つくられ、日本の地面の動きがリアルタイムでわかるようになった。さらに、大地震を起こす南海トラフ(海溝)で深い穴を掘って震源の実情を調べようと、世界一の掘削船「ちきゅう」が活動している。

 昨今これらの研究の主体となっている若い世代には、活気がみなぎっているのは確かである。
 このように地震の基礎研究は進歩を成就しつつあるが「短期予知」研究は依然としてほとんどサポートされていない。
 国策研究には独立行政法人などへは研究費一〇〇億円単位で出ているが、研究の主体たるべき大学関係の予知プログラムには総勢二〇〇人くらいに年間四億円程度であり、しかもそのうち、短期予知研究に向けられるのは一〇〇〇万円程度にすぎないのだ。

阪神・淡路大震災で短期予知は射程に入った

 何もなしの予知・予測は神がかりの占いの世界であって、科学的予知には何らかの前兆現象を捕まえなければならない。

 それには大地に蓄積する歪みの増大を監視するのが、まず正道だ。事実「東海地震は予知可能」とする唯一の根拠は一九四四年の東南海地震(M7・9)の直前に起きたとされる静岡県掛川の異常隆起だ。

 地下深くの歪変動を測定できる近代化されたボアホール計測などは東海地震以外にも役立つだろう。地震計だけを並べても見つかりそうもないとして前兆探りを諦めるのは早計かもしれない。要は前兆現象を徹底的に研究することだ。
 ところで前兆現象は必ずしも地震を起こす要因でなくてもよい。例えば、地電流異常が地震を起こすとは考えられない。前兆現象は次第に高まるストレスによって、地震前に発生するものであればよい。

「地震破壊核の形成」などと地震そのものの発生メカニズムが解明されなくとも、「短期予知」は可能だということだ。これは重要な視点だが、それにはそれで徹底的な基礎研究が必須なのである。では、どんな前兆現象があるだろうか?
 否定しがたい短期前兆はいくつかの宏観異常に加えて、ラドン、二酸化炭素などのガス放出、地下水位変動、電磁気変動など非力学的現象である。

 地震予知の主流派は「なるほどね」というだけで、さっぱり乗ってこなかったが、神戸薬科大学でのラドンの異常観測は顕著だった(図3)。
 
 阪神・淡路大震災は電磁気的前兆観測でも画期的成果を残した。地震関連の電磁気的現象の組織的な研究は、地震学者たちの間で地震予知悲観論が支配的だった八〇年代に、世界各地でほぼ同時期にはじまり、現在では「地震電磁気学」とよばれる新しい活発な研究分野となっている。

 モノが壊れるときに電気が起き、光も出ることはよく知られたことだが、壊れる直前にも似た現象が起きるということである。
写真・サハリン 物理学者 地震研究 ワーシン氏

 Ⅳに続く
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