漫筆日記・「噂と樽」

寝言のような、アクビのような・・・

くず屋の子

2018年06月26日 | 
演歌の歌手に、
貧乏話や下積みの苦労話は、付き物ですが、

この人の貧しさは度を超えてます。

なにしろ、若いころは作男、
有体に言えば一年契約の農業奴隷、に売られてるぐらいですから。

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子どものころ父は屑屋(くずや)だった。

廃品回収業という言葉もなく
昭和12年の新潟の農村では、屑屋であり屑屋以外ではなかった。

今日を明日を食べるために、
毎朝大きな飴色のカゴを積んだリヤカーを引いて家を出た。

家の二畳ばかりの板張りには、
集めてきたばかりのぼろきれが積まれていた。

兄と私はその中に潜って遊んだ。

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むかし「おしんと云うテレビドラマで、
貧しさの象徴として「大根めし」と云うのが出てきました。

米が貴重だから大根で増量したメシ、

処がこの人の弁当に入ってたのは、
「大根に飯粒がポツポツとこびり付いてるメシ」だったそうです。

そんな極貧の中で育った少年は、
酒場を流し、客の求めに応じて歌うようになり、歌手を志す。

数々のオーディションを受けるが、ことごとく落選、
あるオーディションで、審査員が、

「あんなひどい身なりで来て、
 歌手になれるとでも思ってるのかね」と笑っているのを知り、

一念発起、こんどは作曲家を志す。

流しと売れない作曲家の貧乏生活を送るうち、
ある日、彼に事件が起きる。

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(チンドン屋の)

哀調を帯びたクラリネットの響きが切れ切れに届いてくる。

やがて旋律がはっきり聴きとれるようになった。

「あっ」

と叫んで裸足で外に飛び出した。

ちょうど家の前をチンドン屋の行列が通り過ぎようとしている。

クラリネットを吹く先頭の男に両手を上げて駆け寄っていた。

「おれのだ・・・おれのだ・・・」。

男は楽器を奪われるのではないかと思ったらしい。
目をむいて、とっさに身をかわす。

そのまま舗装もされていない道の上に土煙を上げて座り込んだ。

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ラジオもない部屋に暮らす彼は、
自分の歌がヒットしていることを知らず、

チンドン屋の演奏で、それを初めて知ったのである。

その歌「お月さん今晩わ」に続き、

島倉千代子の「からたち日記」、

こまどり姉妹のデビュー曲となった、
「浅草姉妹」など、その後もヒット曲を書き続け、人気作曲家となる。

その他のヒット曲として、

舟木一夫の高校三年生や一連の学園ソング、

千昌夫の「星影のワルツ」や「北国の春」

小林旭の「ついてくるかい」や「純子」
渡哲也の「くちなしの花」、「みちづれ」、

小林幸子の「雪椿」
森昌子の「せんせい」などなど多数。

作曲家・遠藤実は、
その死後、旭日重光章や国民栄誉賞を贈られている。

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「涙の川を渡るとき」遠藤実 著



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