きのうの続き。
いよいよ小事件の主、池田喜平治の登場です。
尚、以下の文中、
「然(しか)る処に」は、そう云う状勢の処に。
「福引師(ほうびきし)」は、
各々が懸けた物を、くじで取り合うと云う賭け事を行う者。
「擦り切り(すりきり)」は、銭や財物を使い果たした者、素寒貧(すかんぴん)。
「遣る瀬(やるせ)なき」は、せつない、鬱々として心が晴れない。
~~~~~~~~~~~~~~
然る処に、
池田喜平治云う者、博打打ちの福引師なり。
然れども、
浮世にもなき擦り切りなれば、
博打も打てず、憂さ晴らしもならず、
打ちたくはあれども、
勝負に懸ける物の無ければ、
「取る物なし」とて、何方にも相手にされず。
打ちたさ遣る瀬なきままに、
敵将・勝頼が、
すくも田ヶ原に陣取りたる由、聞き込んで、
「然らば、敵陣に忍び入りて、馬など盗み、それを種に博打打つべし」とて、
行きける処に、
見つけられて、
四方へ追い回され、やがて生け捕られ、
高手小手に縛(いまし)められて、勝頼の前へと引っ据(す)ゆらる。
~~~~~~~~~~~~~
「高手小手(たかてこて)に縛められ」は、
両手を後ろに回され、首から肘・手首に縄をかけて、厳重に縛り上げられること。
「据ゆらる」は、座らせられる。
賭け事が大好物の喜平治、
負けに負け続けて、素寒貧の一文なし、
こうなっては、勝っても取る物なし、と誰も相手にしてくれない。
そこで思いついたのが、
敵陣から馬を盗もうと云う思案なのだから、この男、余ほどの無鉄砲。
尤も、戦場で命を惜しむような事では、むしろ生きていけまい。
また、明日の命が保証されない戦陣では博打が横行、
その揉め事から、喧嘩、刃傷となって、死者が出ることもよく有ったらしい。
そのため、戦陣での博打禁止令が度々出ているが、
あまり守られなかったらしく、
それに又、
博打に負けて文無しになった奴が、戦場ではヤケのヤンパチ、
捨て身になって大暴れ、
案外、手柄を立てるようなことも有ったと云うから、
取り締まる方も、
殺し合いの喧嘩さえしなければ、と、大目に見ていたかも入れない。
いよいよ小事件の主、池田喜平治の登場です。
尚、以下の文中、
「然(しか)る処に」は、そう云う状勢の処に。
「福引師(ほうびきし)」は、
各々が懸けた物を、くじで取り合うと云う賭け事を行う者。
「擦り切り(すりきり)」は、銭や財物を使い果たした者、素寒貧(すかんぴん)。
「遣る瀬(やるせ)なき」は、せつない、鬱々として心が晴れない。
~~~~~~~~~~~~~~
然る処に、
池田喜平治云う者、博打打ちの福引師なり。
然れども、
浮世にもなき擦り切りなれば、
博打も打てず、憂さ晴らしもならず、
打ちたくはあれども、
勝負に懸ける物の無ければ、
「取る物なし」とて、何方にも相手にされず。
打ちたさ遣る瀬なきままに、
敵将・勝頼が、
すくも田ヶ原に陣取りたる由、聞き込んで、
「然らば、敵陣に忍び入りて、馬など盗み、それを種に博打打つべし」とて、
行きける処に、
見つけられて、
四方へ追い回され、やがて生け捕られ、
高手小手に縛(いまし)められて、勝頼の前へと引っ据(す)ゆらる。
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「高手小手(たかてこて)に縛められ」は、
両手を後ろに回され、首から肘・手首に縄をかけて、厳重に縛り上げられること。
「据ゆらる」は、座らせられる。
賭け事が大好物の喜平治、
負けに負け続けて、素寒貧の一文なし、
こうなっては、勝っても取る物なし、と誰も相手にしてくれない。
そこで思いついたのが、
敵陣から馬を盗もうと云う思案なのだから、この男、余ほどの無鉄砲。
尤も、戦場で命を惜しむような事では、むしろ生きていけまい。
また、明日の命が保証されない戦陣では博打が横行、
その揉め事から、喧嘩、刃傷となって、死者が出ることもよく有ったらしい。
そのため、戦陣での博打禁止令が度々出ているが、
あまり守られなかったらしく、
それに又、
博打に負けて文無しになった奴が、戦場ではヤケのヤンパチ、
捨て身になって大暴れ、
案外、手柄を立てるようなことも有ったと云うから、
取り締まる方も、
殺し合いの喧嘩さえしなければ、と、大目に見ていたかも入れない。