漫筆日記・「噂と樽」

寝言のような、アクビのような・・・

○池田喜平治の事 ②

2010年03月06日 | Weblog
きのうの続き。

いよいよ小事件の主、池田喜平治の登場です。

尚、以下の文中、

「然(しか)る処に」は、そう云う状勢の処に。

「福引師(ほうびきし)」は、
各々が懸けた物を、くじで取り合うと云う賭け事を行う者。

「擦り切り(すりきり)」は、銭や財物を使い果たした者、素寒貧(すかんぴん)。

「遣る瀬(やるせ)なき」は、せつない、鬱々として心が晴れない。
   
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然る処に、
池田喜平治云う者、博打打ちの福引師なり。

然れども、
浮世にもなき擦り切りなれば、
博打も打てず、憂さ晴らしもならず、

打ちたくはあれども、
勝負に懸ける物の無ければ、
「取る物なし」とて、何方にも相手にされず。

打ちたさ遣る瀬なきままに、

敵将・勝頼が、
すくも田ヶ原に陣取りたる由、聞き込んで、

「然らば、敵陣に忍び入りて、馬など盗み、それを種に博打打つべし」とて、

行きける処に、

見つけられて、
四方へ追い回され、やがて生け捕られ、
高手小手に縛(いまし)められて、勝頼の前へと引っ据(す)ゆらる。

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「高手小手(たかてこて)に縛められ」は、
 両手を後ろに回され、首から肘・手首に縄をかけて、厳重に縛り上げられること。

「据ゆらる」は、座らせられる。

賭け事が大好物の喜平治、
負けに負け続けて、素寒貧の一文なし、

こうなっては、勝っても取る物なし、と誰も相手にしてくれない。

そこで思いついたのが、
敵陣から馬を盗もうと云う思案なのだから、この男、余ほどの無鉄砲。

尤も、戦場で命を惜しむような事では、むしろ生きていけまい。

また、明日の命が保証されない戦陣では博打が横行、
その揉め事から、喧嘩、刃傷となって、死者が出ることもよく有ったらしい。

そのため、戦陣での博打禁止令が度々出ているが、
あまり守られなかったらしく、

それに又、
博打に負けて文無しになった奴が、戦場ではヤケのヤンパチ、
捨て身になって大暴れ、

案外、手柄を立てるようなことも有ったと云うから、

取り締まる方も、
殺し合いの喧嘩さえしなければ、と、大目に見ていたかも入れない。





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