芥川龍之介の作品の中に「藪の中」と云う短編小説がある。
身分ある武士が盗賊に殺され、
その妻が強姦されるという事件が起きた。
殺された武士、その妻、強盗がそれぞれ、
法廷の場などで証言するのだが、
そのいずれの証言も、最も重大な点で微妙に喰い違っていると云う内容。
この小説発表以来、「藪の中」は、
「関係者の言い分が食い違っていて、真相がわからない」ことを云うようにもなった。
やがて「藪の中」は、
もうひとつの短編「羅生門」と併せて映画化され、
黒澤明監督が「世界のクロサワ」へと飛躍する跳躍台となった。
今、国会で原発事故の「調査委員会」が開かれていますが、
そこに招致された参考人たちの「証言」が微妙に違う。
東電側は「全面撤退とはゼッタイに言ってない」と云うし、
海江田元経産相や菅元首相は、明確に「言った」と言う。
原子炉を冷却するための海水も、
東電側は「首相の支持で中断しようとした」と云うし、
菅首相は「そんなことは言ってない」と言う。
地震の翌日、首相が原発へ乗り込んだことについても、
海江田氏や枝野元官房長官が「混乱を助長した」と言っているのに対し、
元首相は、「現場に行った事で担当者の顔が分かって良かった」と言っている。
お互いに「責任のなすりつけ」をしているようでもあるし、
時によっては「かばいあい」をしているようでもある。
いずれにしても「証言の喰い違い」は、
どちらかが「ウソを吐いている」と云うことになる。
もし、ウソなら、
「偽証罪」にも問われることになるので参考人たちも必死、
「社会的地位と名誉を懸けた証言」の、
真偽を見分けるのは容易なことではなかろうと思う。
今のところは、「真相は藪の中」と云うしかないようですが。