台風一過の昼下がり
開け放した窓から吹き抜けるそよ風
ヒグラシの鳴き止んだ静寂に
裏の家から響くかすかな食器の音
5月に一月、シンガポールとマレーシアに滞在し
出会い別れに心揺れ、
戻ると庭の隅に蝉の抜け穴がいくつも開いた
冷やし中華熱が高まって
11年前のアメリカ映画「イルマーレ」を繰り返し観た
台風の夜が明けて
温かいお風呂や食事がほしくなり
来年には引っ越すだろうこの家と
生まれ育った時間に想いを馳せて
いつもの軒下に揺れる洗濯物が愛しくなった
次に行くのは安らぎとおだやかさのある場所
ここから持って行くものは
これまであったいいこともイヤなことも
まとめてゆるした物語
夕方の蟻が昼間の残像のように歩いている
もうすぐ虫たちの謳歌がはじまる