トーキング・マイノリティ

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イラン式料理本 10/イラン/モハマド・シルワーニ監督

2013-01-08 21:09:40 | 映画

 実は12月末にこの映画を観ており、これが去年最後の映画鑑賞だった。私がこれまで見たイラン映画はどれもハズレがなかったし、この作品も味わい深い内容だった。キッチンをめぐるドキュメンタリー作品であり、チラシの文句にも「監督を取り巻く7人の女性たちが語る料理と人生」とある。
 7人のイラン女性たちは次の通り。主婦歴40年の監督の母に、13歳で結婚した伯母。双子を育てながら大学に通う妹と監督の妻。14歳で40歳の夫と結婚した母の友人、9歳で結婚・まもなく百歳を迎え今は料理をしない友人の母、主婦歴35年で5人の子供のいる義母。チラシにも以下の説明がされていた。

新婚夫婦のキッチンから、ベテラン主婦の台所まで、さまざまなイラン人女性が披露する今晩の献立や、伝統的な家庭料理の作り方。そこから浮かび上がるのは、男と女、嫁姑、家族というドラマ、そしてイラン社会の“今と昔”。さまざまな思い出と共に引き継がれる家庭料理は、笑いや涙というスパイスによって、味わい深く熟成されていく…

 映画で映されるイラン料理も興味深かったが、やはりピラフが登場した。日本ではトルコがピラフ発祥の地と思われがちだが、プラーウというイランの米料理の記録が既に紀元前からあり、イラン史研究者もルーツはこちらと言っている。
 ピラフの作り方は日本とほぼ同じで、刻んだ玉ねぎを炒め、豆や肉を加え、味を付ける。ただ、インゲン豆の冷凍方は私のやり方と違っていた。油で炒めて冷凍するイラン式と、塩茹での後に冷凍する私流。ピラフに入れた時、果たしてどちらが美味しいのだろう?

「15でねえやは嫁に行き…」という童謡があったが、映画に登場した昔の世代のイラン女性に、幼児婚同然の早婚者が何人もいたのは驚いた。これもイスラムの開祖ムハンマドが53歳で9歳のアーイシャと結婚した故事に倣っているのだろうが、1973年生まれのシルワーニ監督の世代では早婚は減少傾向にあるだろうし、そう願いたい。
 7人の女性が語る人生は実に面白く、事情は日本とあまり変わりないと感じた。監督の義母だったと思うが、最近の男はかなり優しくなった、昔は料理が遅いと皿を窓から投げられたと言う。食事をする際、テーブルではなく絨毯の上にビニールシートを敷いて食べるシーンが映されていたが、これが何処かの国ならちゃぶ台をひっくり返したことだろう。

 昔の世代の男が全て封建的だった訳ではない。監督よりも上の世代なのに、妻の失敗した料理を我慢して食べてくれた夫もいたのだ。「酷い味の料理を山ほど作った」の言葉に、苦笑した女性もいたはず。イラン料理にはスパイスがつきものだが、これのさじ加減を誤るや、食べられたものでなくなるのは私も体験がある。
 対照的に妹の夫は亭主関白で、妻の料理を何かと文句をつける。これなら何も言わず黙って食べてくれる夫の方がマシと思うが、義弟はパスタやピザの様な“洋食”を喜んでいたというから、若い世代には欧米風料理が人気らしい。



 7人の女性の中で特に印象的だったのが、監督の義母。5人の子供を育て上げ、見るからに肝っ玉母さん然としている。彼女が作るのはイランの伝統料理ドルマ(ブドウの葉包み)とクフテ(中に茹で卵とスパイスを入れた肉団子)。上の画像は出来上がったクフテを見せる義母。美味しそうだが、1個だけでボリュームがある。彼女もまたせっかくの伝統料理を作っても、最近は見向きもしない若者もいると話していた。
 義母も13~14くらいで嫁いでおり、姑が脇にいながら姑には虐められたと語っていた。姑はそれを“躾け”と称していたが、今でこそ皮肉まじりに姑に言えても、結婚したばかりの頃はさぞ苦労したことだろう。

 料理しながら義母は最近の若い人はすぐに機械に頼りたがる、手作りが一番など、まるで昭和一桁生まれの私の母と同じことを言う。隣の姑も、「街でカップルが人前でいちゃついていた、昔は人目を気にしていたのに…」と愚痴っている。男女関係に保守的というイメージがあるイランでも、今時の若者はこうなのか?或いは何時の時代にも言われる「今の若者は…」の類だろうか。

 手間暇かけて作った豪華料理も、男たちはあっという間に平らげ、若い世代でも妻の料理への評価が低い者がいた。イランの男は威張りたいがため、女の仕事である料理を低評価するのだろうと言ったのは監督の妹だったか?この類の男は極東にも珍しくない。監督の妻は料理に缶詰を使う現代女性だが、この作品を撮った後、何故か監督と離婚している。監督の妹も同じく夫と別れたという。
「台所では定年はない」という女性の言葉が印象的だった。使用人を雇えるセレブなら話は別だが、一般庶民の女は日本もイランも一生台所で料理から逃れられない。



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