POLYSICSのUSツアーも、16日(日本時間の17日)のワシントン公演で無事に終了したようなので、そろそろシカゴ公演(現地時間10日)のレポでも書こうかと思い、つらつらと書き連ねてみました。
当初は、ライブ・レポートという形で何かのメディアに掲載できれば…と思って準備をしていたんですが、ライブが近づくにつれて、文字数や内容面で制約のない、自分のブログに書く方がいいのではないかと思い始めました。で、当日のライブを観て、これは好き勝手に書かせてもらおうと、自分の中でENTERキーがポンと押されたので、個人的なレポートとして、このブログに掲載することにします。思えば、僕が初めてPOLYSICSのライブ・レポートを掲載したのも、メディアではなく、自分個人のWebサイトでした。これも、何かの縁なのかなぁ、ということで。
そうは言っても、今回はPOLYSICSサイドのご厚意で撮影を許可していただきましたので、写真についてはレコード会社を通して事務所のチェックをいただいております。念のため、この点はお断りをしておきます。
なお、レポート中の表記として、メンバーのお名前の敬称を省略させていただきました。この点も、何卒ご了承を。
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えっと、一応プロのライターやってますんで「きっとポイントを完結にまとめた、読みやすいレポが書かれているのだろう」なんて思われるかもしれませんが…。
アマイ!( ̄w ̄)ぷ
重ねがさね言いますが、あくまでもオタク的個人レポです。ダラダラと書いてます。話もあっちこっちに飛びます。肝心なことは書いてないかもしれません。そこんとこ、苦情は一切受け付けません。あしからず。
ってことで、結構長いレポになったので、記事は折り返しておきます(右下の『続きを読む』をクリックしてください)。時間があって、なおかつご興味がある方は、ぜひお読みください。あと、写真はそこそこありますので(ただし、素人のデジカメ写真ですので、雰囲気重視と言うことで、何卒…)、ビジュアルだけでも、というファンの方も大歓迎。
それでは。
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前日(2/9)のシカゴは、テレビで終日「WINTER STORM」の話題が報じられ続けるほどの、横殴りの雪。明日には収まって欲しい…との祈りが通じたのか。翌2/10は、最低気温-11℃という寒さではあったものの、雪と風はなんとか止み、日中は太陽も顔を覗かせる天気となった。
この日、ダウンタウンとオヘア空港を結ぶブルー・ライン(CTAトレイン)のDamen駅すぐ傍にあるライブハウス「Double Door」で、POLYSICSのライブが行われた。ここ数年、POLYSICSはUSツアーでシカゴを回っているが、この会場でライブをやるのは、2003年以来とのこと。2003年と言えば、初のUSツアーを行った年。そのツアーに先立って、POLYSICSが参加してアメリカ発売されたコンピレーション・アルバム『Japan for Sale, Vol. 3(「Black Out Fall Out」収録)』のリリース・パーティが開催されたのが、このDouble Doorだったんだそうだ。ちなみに、この時のレポートを発見。
★Studio-rama /The Polysics rock the JFS party
http://www.studio-rama.com/jen/polysics/
当初、僕はツアーがスタートするサンフランシスコかLA、もしくはツアー終盤のNY、ワシントン公演を観に行くことを考えていたのだが、仕事のスケジュールとツアー日程をニラメッコした結果、ピンポイントでこのシカゴ公演をピックアップした。というか、他に選択肢がなかったのだ。我ながら、マニアックな街を選んだなぁと思ったし、日程を決めた後で、2月のシカゴはめちゃくちゃ寒いという事実に気がついて恐れおののいたのだが、結果的には、このマニアックな土地で、しかもPOLYSICSとしても由縁のある会場のライブを観れたことは、本当にラッキーだった。
Double Doorは、六差路に建つレンガ造りの建物。駅のホームからも真っ先に目に飛び込んでくる位置に建っている。下の写真の右側にある白い高架が、ブルー・ラインの線路であり、ここがDamen駅のホームだ。この角度から見ると、右側に観客用(会場後方)の入り口があって、左側にはもうひとつ、機材搬入用(ステージ袖)の入り口がある。つまり、この2つのドアをつないだ長方形のフロアとなっている。だから、「ダブル・ドア」っていうわけだ(って、この名前の意味、今、初めて気が付いた・笑)。
★レンガ造りのDouble Door。Google Mapで見ると、ココ。
★駅側の観客用入り口
★機材搬入用の入り口
17時過ぎに会場に到着。だが、外から中を覗くと真っ暗で、開いてるんだかどうなんだか、誰かいるんだかどうなんだか、よく分からない。思いきって扉を開けると、フミとバッタリ! すでにステージにはPOLYSICSの機材が組まれていて、セッティング中だったハヤシとも「お久しぶり~!」と握手。カヨとヤノもステージから降りて来てくれて、4人の元気な表情を見た時に、ここまでのUSツアーがいかに順調に進んでいるのか、すぐに知ることができた。実際に、前日までの8公演で、ステージに関するトラブルあまったく思い付かないほど、いいライブが行えているとのことだった。
もちろん「元気」って言ったって、日本のツアーとは比べ物にならないほどの移動距離、各地の気候の違い、アメリカンな食事、20日間で15公演というタイトなスケジュール。体調が万全なはずはない。でも、そんな中で「元気」な姿を見せてくれるのだから、さすがは百戦錬磨のツワモノと言うべきだろう。もちろん、それ以上にこのUSツアーにかける並々ならぬメンバーの想いがあることは、容易に想像できる。そしてその想いが、ポジティブなパワーとしていい方向に作用しているように思えた。
2009年、秋のツアーが終わった時点で、年末フェス等への出演はあったものの、3月の武道館まで特に大きな予定が発表されていなかった。だから、てっきりレコーディングに入るのかとばかり思っていたら、年末にUSツアーの発表、そしてカヨ卒業のインフォメーション。既にオフィシャルに公表されているように、卒業まで2年ほどの時間をかけての、いわばカウントダウン。だからこのUSツアーも、発表された時期こそ1ヶ月前ではあったが、きっとかなり前から、着々と準備が進められていたのだろう…と思いきや、実はPOLYSICS自身も、本当に急遽実現したツアーだったらしい(何たって、ビザが届いたのが出国の前日だったとか!)。でも、そんな攻めの姿勢というのも、なんだか"らしいな"と思えて、ちょっと嬉しくもあり。そんな慌ただしくスタートしたUSツアーも、今日は前日のセントルイスから始まる後半戦の2本目であり、6日連続ライブの2回戦だ。
ほぼ予定通りの18時、サウンド・チェックがスタート。ドラムの音作りを行いながら、そのサウンドにハヤシがジッと耳を傾け、フロア・タムのチューニングにも指示が飛ぶ。その一方で、カヨ&フミ&現場マネージャーの女性陣は物販の準備。おそらく、メンバーは当たり前にやっているんだろうけど、こういった作業までをもメンバーが自らやっているんだよなぁという現実を、目の当たりにする。数年前、確か2005or2006年のEUツアーの際だと思うが、事務所の方から「ツアーはメンバーと現地ツアー・マネージャーの5人で回ってる」という話を聞いて、驚いたことがある。てっきり、数人の日本人スタッフが同行しているのかと思ってたのだ。単に海外での演奏経験が多いだけでなく、そんな過酷な状況をくぐり抜けてきているからこそ、ここ数年のPOLYSICSの強さがあるのだろう。
★物販コーナー。
そんな彼らに、今回のツアーではさらなる援軍がいた。オフィシャル・ブログでも度々登場しているショーンという金髪三つ編みのツアー・マネージャー(彼自身もバンド・マンということだ)と、PA兼ドライバーのスカイラーだ。ショーンのことは事前に知っていたが、PAが同行していることは、現場に行くまで知らなかった。POLYSICSのような音楽、つまり単純なギター・ロックでもなく、シンセ・メインのテクノ・バンドでもないユニークなサウンドは、特にアメリカのハウスPAに、すぐに理解してもらうのは簡単ではないだろう。実際、iPod(このUSツアーでは、オケはiPodで鳴らしていた)の役割というのが、なかなかスムーズに伝わらないのだそうだ。それでいて、パフォーマンスの出来/不出来を大きく左右するのも、PA次第だったりする。だからこそ、POLYSICSサウンドを理解しているショーンとスカイラーの存在は大きなものだっただろう(それに加えて、ムードメーカーとして、ドライバーとしての存在も、とても大きかったそうだ)。バンドは4人だが、クルーを含めた「POLYSICSチーム」の雰囲気、これがとてもいいものであった。
それにしても、寒い。外が寒いのは当たり前だが、ライブハウスの中も寒い! もうちょっと暖房入れてくれ~って!! そんな感じ会場内に、日本から来たファンからの差し入れが届けられる。「堅あげポテト」。メンバー全員、狂気乱舞、エネルギー充填120%状態。こういう素朴な光景も、なかなかいいものだ。さらに、メンバーをホットにしたのが、POLYSICSと親交の深いスコット・マーフィーの登場だ。彼はシカゴ在住らしく、これでメンバーも一気に和んだようだった。
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自称"音楽テクニカルライター"を名乗っている手前、一応、ここで機材もチェックしておこう。日本から持って来た機材はシンセとギターなど必要最小限にとどめ、ドラムやアンプ類はすべてアメリカで購入して、USツアー用にアメリカで保管しているのだそうだ。この日、ハヤシが使っていたアンプはマーシャルJCM-2000。普段、日本で使っているAKIMA&NEOSのアンプとはサウンドの特性が真反対ということで、トーンを見るとベースとミッドがフルテン、トレブルとプレゼンスがほぼゼロという極端な設定となっていた。カヨのシンセも2台のみ。キーボード・モニターには、JC-120(ギター用アンプ)が使われていた。
★手前がメイン・ギター。赤いジャズ・マスターはアメリカに置いている楽器だそうだ。
★足元もシンプルにボスBD-2(ブースター)とアリオンSCH-Z(コーラス)のみ。上はチューナー。
★「催眠術でGO」や「Fire Bison」でハヤシがプレイしたSP-555。SH-201の代役。
★こんな所にも、小さなDEVO愛。
★アメリカでも、もちろんPearl。ヤノ、ハイハット調整中。
★フミは、いつものグリーン・ボディではなくレッドのSBVをプレイ。
★お馴染みのBASS PODはアメリカでもスタンバイ。
★カヨのシンセはNordlead2&VP-770。
★このiPodが、POLYSICSサウンドの司令塔。
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約50分かけてドラムのチェックが終わると、18時53分、ようやくフミが加わり、ヤノと2人で「NEW WAVE JACKET」を軽く合わせる。すると、すぐにハヤシ&カヨもステージへ。POLYSICSのリハを見るのは、2001年のSHIBUYA-AX、2007年の日比谷野音、2008年の沖縄と、これで4回目。さすがに最初のAXの様子はあまり覚えてないが(この時は、確かオープニングの演出にリハ時間の多くが割かれていたような…)、ドラムの音作りにものすごく時間をかけ、ドラムの音さえ決まれば、あとは実にスムーズにリハが進むというのも、ある意味でいつも通り。
18時05分、ハヤシの「OK!」の掛け声を合図に、そこからは「KAJA KAJA GOO」、「Rocket」、「E.L.T.C.C.T.」が演奏される。大暴れするパフォーマンスこそないが、プレイも歌も、本番さながらだ。そんな中で、「Excuse me? iPod Sound little bit up, please」なんていうPAとの会話を耳にすると、ああ、ここはアメリカなんだと実感する。そして18時12分、サウンド・チェック終了。
★「KAJA KAJA GOO」を演奏しながらサウンドのチェック中。
ステージから一度機材を撤収して、メンバーはそれぞれ夕食の買い出しに。フロアの地下にラウンジがあって、その奥に楽屋が用意されている。寒々としたフロアとは違ってこの地下は暖かいので、しばらく楽屋に入らせてもらい、食事中のフミと談笑。すると、ハヤシがレコード袋を片手に、買い出しから戻ってきた。ライブハウス近くでレコード屋を見つけ、レア盤を見つけて買ってきたのだと言う。こういうのも海外ツアーの楽しみなんだろうな。そう思ってたずねると、いやいや、僕が浅はかでした。今回のUSツアーではそんな時間はまったくなく、ここで初めてレコードを買ったんだそうだ。う~ん、そうかぁ。やっぱり、僕が想像している以上に、USツアーって大変なんだなぁ。
★楽屋の入り口。
その後、ハヤシはショーンと会話しながら今夜のMCネタを練っていると、今度はカヨ、ヤノ、スコットが楽屋に戻って来る。そうそう、先ほどのリハを見ていて、ちょっと気になったことがあったので、ヤノに質問してみた。気になったというのは、何だかやたらに足が長く見えたのだ(笑)。それで、「ドラムのイス、高くした?」って聞いたら、まさにその通り。正確に言うと、USツアー開始時にはもっと高くしていたものを、今では少し下げたらしい。いかに楽にドラムを叩けるか(もちろん「手を抜く」って意味ではなく、「無理なく」という意味)ということで、このUSツアーが始まってから、いろいろと試しているんだそうだ。こんな大変なUSツアー中にも、向上心は絶賛継続中。そこから、彼の熱いドラム論、ヨガ論、コーヒー論を拝聴。あ、せっかく教えてもらったスターバックスのインスタント・コーヒー、お土産にするつもりが買いそびれてしまて、残念至極。
そんなこんなで楽屋で過ごしていると、部屋奥の天井付近からドスドスと演奏が聴こえ始めた。おそらく、その真上がステージなのだろう。時計に目をやると、21時過ぎ。今夜のショーがスタートしたようだ。僕は楽屋を出て、フロアに移動した。
このライブハウス、フロアには一切の仕切りがなく、長細いフロアの中心に一段高くなったPAボックスがある。そしてサイドには、ステージ横から後方の入り口まで続く、長いバー・カウンターがある。この日の入りは、超大雑把に見て200~300と言ったところだろうか(終演後、POLYSICSファンのアメリカ人が「昨日の大雪がなければ満員になってたはずだ」と言っていた)。オープニング・アクトの最中は、半分ほどの観客がステージ前に集まり、残りの半分は、その長いカウンターでドリンクを飲んだり、PAボックス後方の広々としてスペースでライブを聴きながら、談笑を楽しむといった雰囲気。
★開演前の写真。暗くてほとんど分からないが、ステージから入口側を見た図。
ちなみに今回のシカゴ公演、僕もどういう形で来ることになるかはっきりしていなかったので、「Will Call」というシステム(クレジットで決済し、現地でそのクレジットカード&パスポートを提示して入場するというもの)でチケットを買っておいた。そこで、一応入口のカウンターへ。紙券がもらえれば記念になるなぁと思いながら、Will Callで購入したことを告げると、笑顔で「Yuichiro…OK! Enjyoy!!!!」とリストをチェックされ、それで終わりだった(苦笑)。
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さてさて、オープニング・アクトのEarth Program(http://earthprogram.webs.com/)、そしてEvil Beaver(http://www.myspace.com/evilbeaver)が終わり、21時35分、いよいよPOLYSICSの出番。会場には、"Cosmic Surfin'(YMOではなく、アルバム「Pacific」バージョン)"が流れ始めた。POLYSICSファンなら、ステージ前BGMとしてお馴染みの曲だろうが、アメリカでも同じBGMを流すとは、ちょっとビックリした。これも、イチロー並みのルーティングなのかな、なんて思うと同時に、ちょっと感慨深い気持ちになった。今さら言うまでもないが、僕は中1の時に耳にしたYMOの影響で、もっとハッキリ言えば、ただそれだけで、ここまで来ている。"世界一"より"日本一"の方がカッコよかった時代、アメリカやヨーロッパで喝采を浴びるYMOの存在は、猛烈にカッコよかった。実は今回、ここシカゴまでPOLYSICSのライブを観に来たのには、少なからず、このこととも関係があった。
もちろん、一番大きなトリガーとなったのは、カヨの卒業だ。昨年末にカヨ卒業が発表された段階で、国内での観れるライブは、フェスやイベントを除くと3月の武道館しか残ってなかった。もう1回、今のPOLYSICSが観られる。でも、1回しか観られない。しかも、武道館がスペシャルなライブになることは間違いない。だから、普通の、いつも通りのPOLYSICSを、もう1回、観ておきたかったのだ。「観たい」というよりも、「観なければならない」と言った方が、正確かもしれない。これまでも、POLYSICSには海外ツアー後に何度となくインタビューしてきて、どういう環境で、どういうリアクションを受け、どういうライブを行ったのかという話は知っている。でもそれは、僕は日本に居て、話を聞いているだけだ。言葉として知識はあるものの、それは実体験の伴わないものだった。例えるなら、「そのラーメンが美味しい」という話は知ってるが、実際に食べたことがないような感じ。体感として、理解できていなかったのだ。
そこで、ちょこっと先述のYMOの話しにつながってくる。30年前、実際に海外でYMOがどういう反応を受けていたのか、本当のその場の空気を、僕は知らない。今となっては、知るすべもない。当時とは違い、現代は日本にいながらネットで海外メディアの報道も見れるし、リアルタイムにTwitterやブログでライブの状況も知ることができる。だけれども、日本とアメリカの距離は変わっていない。ほとんどのPOLYSICSファンは、30年前の僕と同じように、このUSツアーを観ることはできないだろう。だから自分の五感でこの空気を感じながら、少しでも日本のファンに伝えなければと思い、今回のアメリカ行きを決意したのだ。「Cosmic Surfin'」を聴きながら、そんなことを、ふと思い出していた。このアメリカ人に、この曲はどう聴こえているんだろう。
そんな中、ステージでは手際よくセッティングが進めてられている。ヤノがスネアを叩き、フミがマイク・チェックをし、ハヤシがSP-555を鳴らし、そしてカヨがボコーダーを鳴らす。ただのサウンド・チェックなのだが、POLYSICSが何か音を発するだけで、フロアから大歓声が湧き上がる。ちょっと笑ってしまった。と、その時、あることに気付いた。フロアの後方とバー・カウンターから、人が消えたのだ。ステージ前方に、全員が集結していたのだ。もちろん、POLYSICSはこの日のメイン・アクトなわけだから、それは当然のことと言えばそうなのかもしれない。でも、明らかにPOLYSICSを知らないオーラを出している人や、たまたま飲みに来ただけといったような年配の観客まで、サウンド・チェックの音を聴いて、ステージ前に集まって来たのだ。なんだか、スゴいぞ。観客の期待が、ひしひしと伝わってくる。でも、決してナーバスな雰囲気は一切ない。BGMが「Take On Me(a-Ha)」に変わると、サビのファルセット部分で一部の観客が大合唱を始める。この呑気でハッピーな感じが、なんだか超アメリカンなのだ(笑)。
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セッティングが終わると、メンバーは一度ステージから姿を消す。バイザーを装着し、POLYSICSとしてのオフィシャルな表情を身にまとう。そして、ショーンの「All right Chicago! Electric Pop Rock!! Polysics, Tokyo!!!!(えっと、正確ではありません。こんな感じのことを、もうちょっと長く言っていたかと)」という呼び込みと同時に「P!」のシーケンスが鳴り始める。
22時59分、POLYSICSのライブが始まった。
★POLYSICS、登場!
ハヤシがホイッスルを吹き鳴らすと、大歓声が巻き起こる。いや、これが本当に、大歓声なのだ。先ほど書いた年配の観客も、「何なんだ、コイツは!?」とでも言いたげに、爆笑しながらさらにステージ前に突き進んで行った。
しかしながら、「P!」が終わっての、一発目の「TOISU!!!!」には、残念ながらほぼ無反応(苦笑)。いつもよりもちょっとだけ間をあけながら、2度目の「TOISU!!!!」を発すると、次は「Young OH! OH!」だ。一瞬、ハヤシのボーカルのバランスが小さいかと思ったが、これもすぐにPAがリカバリー。日本のライブハウスのように、大音圧で押し切る感じではなく、下っ腹にくるロー感は十分にあるものの、ひとつひとつの音が実にクリアに聴こえる。すごく音の解像度がいい。iPod Soundもバッチリだ。Aメロでのフミのクレージーな動きも快調! カヨはいつもの通りに、So Cool!! ヤノも実にスマートにダカドコとHuman Machine Beatを叩き出す。
「We are POLYSICS from Tokyo, Japan!!!!」
とハヤシが絶叫すると、続いてカヨの手にはゴールドのポンポンが。「PEACH PIE ON THE BEACH」だ。ここでも、観客から歓喜の声が沸き上がる。そう、POLYSICSのパフォーマンス中、観客からは「笑顔」よりも、もうワンランク上の「笑い」が絶えないのだ。もちろん、それは「お笑い」的な笑いではない。ハヤシが常々語っているPOLYSICSのクレイジーな部分が、アメリカのロック・ファンの琴線…じゃないな、何て言っていいのか分からないが、とにかくハッピーなDNAを刺激しまくっているようなのだ。そしてそれは、おそらく他のバンドからはこれまで刺激されたことの無いツボなのだろう。もちろん、見た目のパフォーマンスだけではない。楽曲、サウンド、パフォーマンスが三位一体となってのクレイジーさであり、そこから生まれてくる「笑い」なのだ。POLYSICSが、ロックであり、とてもキュートであるということを改めて感じた一瞬だった。
そこから、僕はPOLYSICSと観客との関係性に惹きつけられ、両方を目にすることができるステージ横に移動した。そうできたのも、誤解を恐れずに言うならば、POLYSICSが驚くほどいつも通りに、普通に大暴れのライブを行っていたからだ。この光景は、本当にスゴかった。だってここアメリカで、普通にライブをやってるんだ。しかも、ただ演奏すりゃいいってもんじゃない。ある意味で、日本以上に観客を盛り上げている。そこに、予定調和は存在しない。オリンピックの時期だから言うわけではないけど、このアウェーに近い環境でいつも通りのパフォーマンスを行うことが、どれほど大変なことなのかは、あえて言うまでもないだろう。でも、彼らはそれを普通にやり、「Digital Coffee」では、いつもの通りにオーディエンスの手を左右に振らせる。変な緊張感に襲われていたのは、会場内で僕ひとりだけだったのかもしれない。
最初のMCでは、先ほどは無反応だった「TOISU!!!!」も、まあ「とぉ~!」だとか「ひゃぁ~!」など、まだまだアメリカンはちゃんと発音できてはいなかったものの(笑)、ほとんどの観客が何らかのレスポンスするまでになっていた。
「外は寒いぞー! でも、皆で熱くしようぜ!! POLYSICSが、雪を溶かしてやるぜ!!! しかも、アメリカ中の雪を!!!!」
…というような内容をハヤシが英語で話し、お決まりの「CHICAGO Double Door or DIE!!!!」でオーディエンスを絶叫させると、もうそこからはあえてステージの様子をレポートする必要がないほど、POLYSICSワールドが展開された。
アメリカでも「I My Me Mine」はテッパン。冒頭のサイレンの音が鳴っただけで、もう会場は大騒ぎだ。ただ、何て言うんだろう、ただ騒ぐのではなく、個人個人が自分なりに、自分が主役になって、心からライブを楽しんでいる姿がとても新鮮だった。
2度目のMCでハヤシは、「みんな、"TOUIS!!!!"を覚えているかい?(もちろん、英語)」と語りかけ、「"TOUIS!!!!"は、日本の"Hello"って意味なんだ!(もち、これも英語)」と説明する。「Let's use everyday life」とも(笑)。すると、恐ろしいことに、もう場内はTOISU!!!の大合唱だ。そこからは、フィナーレに向けて、一気に加速していく。「Fire Bison」では、まさかのジェット風船。狂気乱舞するアメリカン。ジェット風船って、アメリカにもあるんだろうか?
「Shout Aloud!」で本編が終わると、「one more!!!!」「I love you!!!!」の絶叫が巻き起こる。この拍手、歓声は、日本ではなかなか味わえない雰囲気だ。ここはアメリカ、イリノイ州。ここで、こっそりとアンコールをしている観客をカメラに収めようとしたんだが、気が付いたら、観客全員が僕のカメラを見ていた。全然こっそりじゃないじゃん(笑)。ってことで開き直り、こちらも観客に「one more!!!!」とポーズを求め、思いっ切りフラッシュを焚いて撮影してみた。それが、この写真。お気に入りの1枚です。
そしてメンバーが再びステージに姿を現し、ハヤシがかき鳴らすギターにシンセとベースが重なり、ドラムがビートを刻み出して「Black Out Fall Out」が始まった。この曲は、何故だか泣けてくる。でも、この日、この夜は、ものすごくハッピーな気分で聴くことができたのは、やはりここが、ロックの国、アメリカだったからだろうか。そして「BUGGIE TECHINICA」で完全燃焼。
「どうもありがとう!!!!」
ハヤシの日本語の挨拶で、24時2分、シカゴ公演は幕を閉じた。
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終演後は、観客が次々と物販コーナーに足を運び、CDを手にする様子を眺めていると、単にこの盛り上がりがお祭り騒ぎであったのではなく、ちゃんと音楽が届いているということを実感する。そこで買ったCDやポスターを手に、メンバーにサインをねだる多くのファン。パスをつけていた僕を見つけると「マネージャーなのか?サインが欲しいんだ。メンバーはどこにいるんだ?(多分、そんなことを言っていた)」と、何人もの人に声をかけられた。そんな中、シカゴ在住だという日本人女性に声をかけられた。彼女自身はPOLYSICSを知らなかったそうなのだが、アメリカ人の彼氏がPOLYSICSの大ファンで、ヴァレンタインの贈り物に、この日のチケットをプレゼントしてくれたのだと言う。ん~、何ともアメリカンな演出。ニクイぜ。
その彼氏は、どうやらラジオ番組でPOLYSICSの音楽を聴いてファンになったらしい。もう一人、その彼氏と一緒に来ていた男性は、雑誌でPOLYSICSのことを知ったという。本当はもう少し、初めてPOLYSICSの音楽を聴いた時の感想や、魅力に感じる点などの話を聞きたかったんだが、「サインが欲しいから、彼ら(ちょうどメンバーがステージ上で片付けをしていた)を紹介してくれ!」と興奮していて、インタビュー失敗(苦笑)。その彼の手には、明らかにステージから拝借したと思われるこの日のセットリストが握られていた(笑)。その後も、メンバーがフリーになるまで話を続けていると、その彼氏の彼女(すなわち、最初に声をかけてくれた日本人女性)が、なんと近田春夫さんの従妹(!)であることが判明! 何だか、こっちまでテンション上がってきてしまった。もしこれを読んでたら、ぜひともメールください(笑)。
そんなこんなで、こっちが妙なテンションになっている間も、メンバー&クルーは黙々と機材を片付け、トレーラーへの搬入作業を続けていた。そう、十数時間後には、ここから約400km離れたデトロイトでのショーが待ってるのだ。
★このトレーラーで全米を巡る。
26時30分頃、ほぼ搬出作業が終わったところで、メンバーと握手をして、タクシーでホテルに戻った。お互いの宿泊先がもうちょい近ければ、ちょっとお邪魔して…と頭をよぎったものの、結果、行かなくて大正解。部屋に戻ると、30分後くらいには気絶してしまっていた。これでお邪魔していたら、本当に邪魔だったに違いない。どうやら、思っていたより疲れたようだ。いつものライブ・レポートの仕事に比べると、全然気軽なはずだったはずなんだけど、僕の3倍くらいデカイ黒人のセキュリティーに睨まれたり(笑)、何だかんだで、そこそこ神経を使っていたのかもしれない。だって、靴がこんなに汚れているのを、ホテルの部屋に帰るまで、まったく気付いてなかったんだから(恥)。
★泥だらけの雪だまりに足を突っ込んだ残骸。の、どーでもいい写真。
それにしても、ほとんど遊びで行っていたような僕がこんなに疲れたのに、これを連日こなしていかなければならないUSツアーって、本当にタフでないと通用しないんだなということを痛感。その一方で、これほど充実したUSツアーを観て、3月の武道館が俄然楽しみになってきた。そして僕は、このレポを書き終えて、ようやくひと安心。肩の荷を下ろせた気分(笑)。
POLYSICS、スタッフ&クルーのみなさん、そして最後まで読んでくださったみなさん、ありがとうございました。
■■POLYSICS US TOUR 2010■■
Live in CHICAGO // 10 Feb.'10@Double Door
M01:P!
M02:Young OH! OH!
M03:PEACH PIE ON THE BEACH
M04:NEW WAVE JACKET
M05:Digital Coffee
【MC】
M06:Beat Flash
M07:E.L.T.C.C.T.
M08:Bero Bero
M09:I My Me Mine
M10:Hypotize GO(催眠術でGO)
【MC】
M11:Baby BIAS
M12:Rocket
M13:Fire Bison
M14:KAJA KAJA GOO
M15:Coelakanth in Andoroid
M16:Shout Aloud!
EN1:Black Out Fall Out
EN2:BUGGIE TECHINICA