ある宇和島市議会議員のトレーニング

阪神大震災支援で動きの悪い体に気づいてトレーニングを始め、いつのまにかトライアスリートになってしまった私。

【病腎移植騒動が掻き消したもの】難波先生より

2015-08-18 13:23:35 | 修復腎移植
【病腎移植騒動が掻き消したもの】
 2006/10に日本初の「腎臓売買事件」が摘発された。「万波誠医師が事件に関与」という予断をもったまま、同年11月宇和島徳州会病院が公表した「病腎移植」を日本移植学会幹部が「悪い医療」だと主張すると、日本のメディアはこの主張を検証することなく、雪崩のようなバッシング報道に走った。
 移植学会は、病腎移植を禁じるために2007/3/30の「高原発表」、翌日の「四学会共同声明」のために必死となった。厚労省も「臓器移植法」の「運用指針」に病腎移植禁止を盛り込む作業に追われた。これが同年7/12に「健康政策局長通達」として各都道府県に通知されることで第1ラウンドが終了した。
 第2ラウンドは、この状況から国際的な「修復腎移植」の評価を問い、患者団体が「移植への理解を求める会」を組織し、徳州会が修復腎移植臨床試験について、厚労省と合意に達した2008/12までであろう。
 「修復腎移植」を率先して行っているオーストラリアのニコル教授らと連絡を付け、巻き返しをはかることだった。これにはフロリダの藤田士朗準教授による各種国際学会での演題発表が大きく寄与した。
 私個人にとっては、2007/6/20にローマで開かれた「第2回臓器移植後の癌リスクに関するワークショップ」での米ピッツバーグ大タイオーリ教授(元ミラノがん研究所)の講演が強いサポートになった。
 臓器移植に伴う癌発生の実情:
 一生のうち国民の半数が癌に罹り、三分の一が癌で死亡する、という罹病・死因の構造は、日本だけでなく、先進国に共通に認められる。だから、「健康な臓器だ」と思っていても、うっかり小さな癌をもった臓器を移植してしまうことは、移植に伴うリスクとして当然ある。また移植を受けたら免疫抑制剤を服用しないといけないので、レシピエントの癌発生リスクも高くなる。このワークショップでは「臓器移植後のレシピエントの発癌リスク」が議論された。
 これについて、世界でもっとも正確なデータをもっているのがイタリアであり、特にミラノには国立がん研究所が置かれていることもあり、ミラノの登録データベースがもっとも整っていることは、タイオーリ教授の「各種癌リスクをもったドナーから臓器を移植した後に見られる、癌の発生率」と題する講演で明らかとなった。
 彼女の講演は、07年1月にTransplantation誌に発表された論文をベースとしたものだが、パワーポイント・スライドを使っての講演をじかに聴くと、じつによく理解できた。
 その要点を紹介すると、
 1.レシピエントの癌発生率は、全体としては5%程度である。これはレシピエントの年齢に比例して高くなる。(不思議なことにドナーの年齢ではない!)
 2.移植後に発生した癌は、DNA解析ができた17例中16例でレシピエント由来であり、1例はSTR(ショート・タンデム・リピート)という解析法ではどちらとも決定できなかった。
 そして「たとえ、ドナーの臓器に小さな癌があっても、それがレシピエントの体内で増殖する可能性は非常に低い」と結論づけた。
 同じような発表は、ドイツ・ハイデルベルグ大学免疫学研究所・移植免疫学部門のゲルハルト・オペルツ教授(後にベルリンでの「国際移植学会会長」)、ボローニャ大学病理学のワルテル・グリジオーニ教授からも行われた。

 コーヒー・ブレイクの時間に、英国移植センター(UK Transplant, ブリストル)のデイブ・コレット教授やオペルツ教授と歓談した。オペルツ教授から「日本では最初の心臓移植が殺人だったため、移植医療に対する国民の信頼が失われ、このため今でも死後の臓器提供者が少ないのだろう」とまさに図星を指された。
 日本での臓器提供者が少ないこととその原因、このため臓器を求めて欧米や東南アジア・中国への渡航移植が跡を絶たないことは、世界の移植関係者だけでなく、移植免疫の基礎的研究者にも常識となっていることを改めて痛感させられた。
 ランチタイムにオペルツさんとまた会い、「免疫抑制剤は、B細胞とT細胞が関与する免疫は抑制するが、ナチュラル・キラー細胞が関与する一次免疫は抑制しない。だから多くの場合、小さな癌細胞はたとえ間違って移植されても、異物として排除されてしまう。それが予想外に、ドナー由来の癌が少ない理由ではないか?」と質問すると、「その通りだと思う」と同意してくれた。
 タイオーリさんの師であるコスタ教授に、「移植臓器由来の癌はきわめて少ないとなぜ公表しないのか?」と質問したところ、「イタリアとしては、ドナー増加のため、国民の信頼をえることを目標としており、安全性が確認されたら、徐々にドナーの基準を拡大していく。マスメディアにつけ込まれない、国民から信頼される安全なシステム構築が本筋で、安易なPRは考えていない」という返事が返って来た。つまり今の時点では、研究内容をメディアに公表しないというのだ。「修復腎移植」つぶしのために、見境もなくメディアを利用した日本の移植学会とここがちがうな…と思った。

 このワークショップでの成果は、第一に、タイオーリ発表を直接聴くことにより、「移植臓器による癌持ち込みの頻度が非常に低いこと」を確認できたことだ。約5%という数値は小径腎癌に関してはやや高すぎると思われたが、全ての癌をひっくるめると、その程度の数値になるのかも知れない。いずれにしても「危険率5%」というような手術はざらだから、特に驚くほどのことはない。「癌の臓器を移植に用いると、癌の再発・転移が起こる」、「癌の臓器の移植は禁忌中の禁忌」という日本移植学会幹部の主張に、学問的根拠がまったくないことがこれではっきりした。彼らは「可能性」と「蓋然性」の区別がついていないのである。
 また移植臓器における癌発生率が低いことについて、移植免疫学者であるオペルツ教授から、「NK細胞の関与説」について、賛意をえたことも収穫であった。

 さらに藤田士朗さんは、9月23〜25日にシカゴで開催された「トランスプラント・サミット2007」でも、関連演題を発表した。今回は悪性腫瘍(腎がんと尿管癌)16例に絞っての発表だった。5月に予定されていたサンフランシスコでの「全米移植外科学会」の発表予定演題が、日本移植学会理事長の妨害で中止に追い込まれたので、米国での初発表となった。
 発表はポスター・セッションとなったが、多くの参加者の興味を集め、「癌の部分切除をした後の腎臓の容積で、術後の腎機能は十分か?」という質問が多く寄せられたという。病腎移植という方法そのものについては、「ドナーとレシピエントが納得していれば問題ない」という意見が、ハーバード大学のデルモニコ教授などから寄せられ、5月の演題発表中止の内幕を知るサミット主催者の一人からは、「腎臓癌の生物学的特性を知らない多くの移植外科医を教育するためにも、早く論文化すべきだ」というアドヴァイスがあったそうだ。

 2006〜08年と、日本では「病腎移植」騒動で明け暮れているうち、少なくとも日本で大問題にならなかった問題がある。それが中国への海外渡航移植問題だ。それは項を改めて記す。
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