ある宇和島市議会議員のトレーニング

阪神大震災支援で動きの悪い体に気づいてトレーニングを始め、いつのまにかトライアスリートになってしまった私。

【書評】W.ブロード & N.ウェイド「背信の科学者たち」/難波先生より

2014-06-16 13:23:32 | 難波紘二先生
【書評】エフロブ「買いたい新書」の書評No.221 W.ブロード & N.ウェイド「背信の科学者たち」, 講談社ブルーバックス(2006/11, 358頁,1,400円) を取り上げました。
 http://www.frob.co.jp/kaitaishinsho/book_review.php?id=1402616343
取り上げた意図はもちろん「STAP細胞事件」にあります。ところが本書は現在絶版で古書価格は3倍になっている。ぜひ出版社に再版か電子本か文庫化で出してもらいたい。
 副題は「論文捏造,データ改ざんはなぜ繰り返されるのか」。著者二人はニュヨーク・タイムズが誇る科学記者だ。訳者は科学ジャーナリストとして定評がある牧野賢治。英語版は1982年に出版され,名著の誉れが高い。88年に化学同人社から出たハードカバー本の一部を省き,訳者による「その後の世界及び日本における科学不正の事例」について長文の解説と事件一覧を付けたものが本書だ。

 全11章からなり,前書きが著者の目的意識をうまく言い表している。
 「科学者は真理を最終的に判定する審判者とみなされているが,大いなる誤解である。科学の研究論文にみられる欺瞞について, (著者らは)“科学者個人の心理的要因”という観点から検証報道を続けるうちに,背後により深刻で普遍的な問題があることに気づいた。
 従来の“科学の標準モデル”では,科学とは精密な論理によるプロセスで,客観性こそが研究の基本であり,科学上の主張は綿密な検証実験によって厳格にチェックされる。この自己検証的なシステムにより,すべての種類の科学の誤りは速やかに容赦なく排除される,と主張されてきた。しかし,多発する科学者の欺瞞はこの伝統的な科学観では説明できない。
 医学は人体の病理現象を研究することにより,人体の正常な機能について有益な知識を導き出してきた。欺瞞の<病理>そのものを研究すれば科学のプロセスは分かりやすくなり,そのあるべき姿もはっきりする」。

 こうして科学不正という事例の病理を解明することにより,新しい科学のモデルを追求したのが本書だ。§3「立身出世主義者の出現」では,現代における不正の起源が1968年,米テキサス大の学長が自分のPh.D.論文に盗用を行っていたのが発覚し,学長辞任に追い込まれた「マックローリン事件」にあると指摘する。
 ドイツの社会学者マックス・ウェーバーが唱えた「科学者性善説」がもはや成立しないことを示し,伝統的科学モデルを捨て,個人的利益の追求から公共の利益が生まれるとするアダム・スミスの「見えざる手」に学び,科学においても裏切り者を蹴り出す「見えざるブーツ」が必要だと提唱している。米国の研究不正は80年代にピークを迎え,92年の研究公正局(ORI)設立につながったが,そうなるまでに本書が与えたインパクトは大きい。名著は歳をとらない。日本では「見えざるブーツ」はいつ作られるのだろうか。
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2 コメント

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Unknown (Unknown)
2014-06-16 13:40:14
この本、復刊が決まったとの情報に接しました。
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Unknown (Unknown)
2014-06-16 13:42:03
http://honz.jp/articles/-/40354
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