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【書評】岡田節人「からだの設計図:プラナリアからヒトまで」/難波先生より

2014-06-23 12:59:39 | 難波紘二先生
【書評】エフロブ「買いたい新書」の書評No.222に岡田節人「からだの設計図:プラナリアからヒトまで」, 岩波新書 を取り上げました。
http://www.frob.co.jp/kaitaishinsho/book_review.php?id=1402616519
 「節人」は「ときんど」と読む。1927年生まれで京大理学部を卒業し,同大理学部動物学の教授となった。発生生物学の研究で高名な動物学者だ。一個の受精卵から動物のかたちが作られる過程で,DNAに書き込まれた情報と環境因子はどのように作用するのか,設計図はあるのか,すべての体細胞になれる受精卵は発生過程で,いつその能力を失うのか,そうした疑問について著者は専門的な「術語の使用を避けて」本書を執筆したという。そのせいで歳月を経ても分かりやすい入門書になっている。前に紹介したウォルポート『発生生物学』(2013)との併読をお薦めする。
 全体は「形づくりのルール」,「からだの成り立ちと遺伝子」,「設計図による建築作業」の全3章に分かれている。
 §1では再生現象を説明する。実はこの現象と今回のSTAP論文は関係がある。ヒルの仲間の扁形動物プラナリアでは,身体を切り刻んでも個体の再生が起こり沢山のプラナリアができる。体細胞群の中に万能の幹細胞が散らばっているためだ。プラナリアは頭と胴と尾端を持つが,胴の一部を残して両端を切り取ると,もと頭のあった位置に頭が,尻尾のあった方に胴と尾端の再生が起こる。つまり細胞が「頭尾軸」という体軸上の位置を記憶しているとしか思えない。
 1970年代に英国のウォルポートは腔腸動物のヒドラを用いて,頭部から分泌される物質が体軸に沿って濃度勾配をつくり,それが「位置情報」として細胞に認識されているという仮説を提唱した。このような物質として最初に確定されたのがビタミンAで,ある種の骨髄性白血病細胞のがん細胞を分化させて白血病を根治させることもできる。ヒトの骨髄には造血幹細胞があり,他の臓器に幹細胞を提供している。がんが再発するのは「がん幹細胞」のためで,これも血液細胞と関係している。血液細胞の先祖は無性生殖する単細胞のアメーバだ。血管は環形動物のミミズで初めて出現するが,血液細胞自体はそれ以前にある。
 §2ではショウジョウバエの実験を基に体節とその形成を支配する「マスター遺伝子」であるホメオ遺伝子が扱われる。ミミズや昆虫のように,からだに体節が目立つ動物がいる。体節を作る遺伝子がホメオ遺伝子で,ヒトでも基本は同じだ。これに変異があると奇形や再生異常が起こる。「背と腹」,「左と右」という他の2軸が発生する仕組みも面白い。
 終章では細胞同士の相互認識に基づいて,同種細胞が接着し胚葉や組織や器官を作る仕組みを述べる。多細胞動物の接着分子は抗原抗体反応や神経シナプスの相互接着と類似しており,それらの遺伝子が「免疫グロブリン・スーパーファミリー遺伝子」に属するという指摘は興味深い。「個体発生は進化の歴史を繰り返す」のを痛感する。
 1994年に書かれた古典だが、内容は古くなっていない。これも名著だ。

 6/16先週に紹介した『背信の科学者たち』が6/19付で講談社から単行本サイズで緊急再版された。(¥1,600) 索引をみると、ブルーバックス版(2006)に比べてSTAP細胞事件を初め日本での科学不正が急増しているのが一目瞭然だ。「日本版ORI」の設立が急がれる由縁だ。これも併読をお薦めする。
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3 コメント

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Unknown (Unknown)
2014-06-24 20:14:08
笹井さんも、この頃に戻りたいでしょうね。
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Unknown (Unknown)
2014-06-24 13:33:02
追記

体軸形成の研究の歴史の中でも一際輝いているのが、カエルのシュペーマンオーガナイザーから、背腹軸の決定に重要なBMPアンタゴニストChordinが発見されたことだった。発見者はあの笹井さん。

http://www.jst.go.jp/ips-trend/column/interview/13/no01.html
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Unknown (Unknown)
2014-06-24 13:13:52
ヒルは環形動物。プラナリアは扁形動物。ヒルの仲間という表記は適切ではないと思う。

例外的に扁形動物で「ヒル」という名前がつく生物がいる。コウガイビルだ。笄蛭とかく。「コウガイ」「笄」から形を想像できる人は昨今、絶滅危惧種かも知れない。「カンザシ」「簪」なら有名な杜甫の詩にも出てくるし耳慣れた言葉でもあるけれど。
http://ja.wikipedia.org/wiki/コウガイビル
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