ある宇和島市議会議員のトレーニング

阪神大震災支援で動きの悪い体に気づいてトレーニングを始め、いつのまにかトライアスリートになってしまった私。

【変わる情報媒体】難波先生より

2015-01-29 12:38:10 | 難波紘二先生
【変わる情報媒体】
 メディアとは「情報媒体」のことだ。S.ジョブスが死んでもアップルの成長には影響がない。昨年10〜12月決算は売り上げ約8兆8000億円で、うち何と24.2%に当たる2兆1300億円が純利益だという! iPadの売れ行きが鈍ったものの、iPhone6の売り上げが伸びたためだ。
 昔は「軽・薄・短・小」は日本商品の特徴だったが、今や完全にアップルにお株を奪われた形だ。小型化、ウェアラブルへの流れは止まらないだろう。一種のサイボーグが誕生することになるだろう。もっとも人間は2500年前に「入れ歯」を発明したときから、この道を歩んで来たのだが…。

 対照的に、1/27産経が、「2014年の、出版物販売額の推計(出版科学研究所調べ)」を報じている。前年比4.5%減の1兆6065億円(電子書籍を除く)で、日本をまとめても、アップルの純利益にも及ばない。販売金額内訳は、書籍=7,544億円(-4%)、雑誌=8,520億円(-5%)で、書籍は8年連続、雑誌は17年連続で「前年割れ」だそうだ。
 「新潮45」2月号に、紀伊國屋書店社長高井昌史がアマゾンを批判する論文を載せている。出版業界は過去40数年で「今が一番危機的な状況にある」そうだ。
 1999年の書店数=約2万2,300店、2013=約1万4,000店
 1996年の書籍雑誌売上=2兆6,564億円、2013=1兆7,000億円

 ここまで追いこまれたのは、高井によると三つが悪い:
 第1:インターネットの普及
 第2:図書館による住民への過剰サービスとブックオフによる本のリサイクル
 第3:アマゾンによる新刊書送料無料の販売攻勢
 がネックなのだそうだ。
  システムとしての「再販制度」と「委託販売制度」にガタが来ていて、雑誌返品率50%,
書籍返品率40%という壮大なムダを放置していては、売上額が減少したら利益率はもっと落ちるに決まっている。
 書籍雑誌会社から自己変革が起こらないのに対して、大手印刷会社(大日本印刷)の方は意欲的だ。丸善やジュンク堂を買収したり、「Honto」というネット販売の会社を立ち上げたり、最近では「古本業(書籍・CDの買い取り)」まで始めた。(日経1/24記事)
 これは販売額の1割に対して、1ポイント1円でポイントが付くから、実質1割引であり、大学生協の組合員価格、上得意への「外商」の納入価格と変わらない。
 仮に1万円の本を買うとする。生協で買えば1000円安く買える。しかし望みの本があるとは限らないし、往復するだけで、1000円のバス賃あるいはガソリン代がかかるし、時間もかかる。そうすると3万円くらい本を買うのでないと、生協書店を利用するメリットがない。
 Amazonを利用するのは、ポイント制もあるが、品揃えが多くて、中古も買えて、配達が速いからだ。今、古書店の統制もよくなって、ボロボロの本を騙して売るとか、金だけとって本を送らないというような、インチキも皆無になった。その分信用があがった。
 日本アマゾンが10年以上かけて築いたものを、HONTOが崩すのは容易ではないだろう。

 新聞社がピンチにあるのは事実らしい。1/27「毎日」社告によると、4/1付で毎日新聞社から出版事業を「毎日新聞出版(株)」に移すという。100%出資の子会社で資本金1000万円、従業員約100人、本社は毎日本社内に同居すると1/17「産経」が伝えている。
 歌川令三「新聞がなくなる日」(2005)、河内 孝「新聞社:破綻したビジネスモデル」(2007)、佐々木俊尚「2011年 新聞・テレビ消滅」(2009)と予言されていたことが、いよいよ本格化しそうだ。

 昭和元年(1926)、改造社が「現代日本文学全集」全67巻を売り出した。手許に昭和3年9月配本の第14回『泉鏡花集』があるが、箱入り、布貼り表紙、総ページ数559、薄い上質紙を使用、印刷は3段組、一行20字、一段24行に組んであるので、ほとんど鏡花の個人全集に近いくらい多くの作品が収録されている。
 例えば「外科室」、「高野聖」、「婦系図」、「歌行灯」、「琵琶伝」、「薬草取り」、「辰巳巷談」など28篇が含まれ、さらに年譜や鏡花の随筆、歌、俳句が付録として入っている。
 表紙装丁は杉浦非水、目次見返しのアート紙に鏡花の立ち姿写真を入れ、目次裏には日記の印影を載せている。
 紙は酸性紙でないので、87年経っても朽ちていない。表紙は布貼りで下が厚紙でないので、折り曲げられ、製本も布の背表紙のところの糊付けがしっかりしているので、1枚のページも剥がれていない。本は完全にフラットに開ける。紙箱も潰れたり、崩れたりしていない。

 1冊を1円で売り出したから「円本」といった。全部買うと67円である。
 この頃、小学校の教師の初任給が40〜55円だった。まあ、1冊1万円である。ところがこの企画は大当たりして、1円の予約金を払って全巻を予約したものが、23万人あったため、倒産寸前だった改造社は息を吹き返した。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%86%86%E6%9C%AC
 1926〜30年にかけての各種全集の刊行は、竹内洋が批判して止まない「教養主義」の普及に貢献した。漢字にはルビが振ってあったので、小学生でも読めた。しかも大量に出たので、古本の値段も安かったから、1円が出せない貧乏人でも気軽に本が買えた。
 私はこの改造社版は薄くて扱いやすく読みやすいので、優れていると思う。こういう本をいま1万円で出されたら、喜んで買うだろう。

 ここはひとつ苦境にある出版界も、よいアイデアを出して、乗りきってほしいものだ。あの頃は「独占禁止法」がなかったから、再販制も委託販売制もなかったはずだ。いま、それらはかえって桎梏になっているような気がする。早い話が返品率50%なら輸送コストが2倍になるということだ。在庫は固定資産になるから、納税が嫌なら裁断するしかない。ムダなことだ。
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