ある宇和島市議会議員のトレーニング

阪神大震災支援で動きの悪い体に気づいてトレーニングを始め、いつのまにかトライアスリートになってしまった私。

【読書日記より:11】難波先生より

2015-02-04 21:49:51 | 難波紘二先生
【読書日記より:11】
1)「集合痴」=雑誌「新潮45」2月号に「ネット社会と<集合痴>」という対談が載っている。
対談者は最近、「B層の研究」で売り出した「哲学者」摘菜収と京大教授・内閣官房参与の藤井聡。リード文に「ネットにあるのは<集合知>などではない。大衆は匿名になると暴走する。知性も倫理も消える。かくしてネットは<集合痴>で満たされる」とある。
 私は摘菜の「日本をダメにしたB層の研究」(講談社)を読んでいないが、「日本をダメにしたB層用語辞典」(講談社)という真っ赤な表紙にタイトルが黒字で印刷されている趣味の悪い本には眼を通した。
 他にどんな本を書いているのかAmazonのDBを調べてみた(3割ぐらい別人の本も引っかけてきたので、精度は紀伊国屋DBの方が高い)。古い順から:
1. ニーチェ「キリスト教は邪教です:現代語訳<アンチキリスト>」(訳本:講談社新書SK, 2005/4)
2. B.ミルフォード「ニーチェは見抜いていたユダヤ・キリスト教<世界支配>のカラクリ」(訳本:徳間書店,2007/2)
3. 「いたこニーチェ」(飛鳥新社、2009/2)
4. 「ゲーテに学ぶ賢者の知恵」(メトロポリタン・プレス, 2010/4)
5. 「はじめてのニーチェ:1時間で読める超入門シリーズ」(飛鳥新社, 2010/6)
6. 「ニーチェ:愛の言葉、美女をつくる60の条件」(ベストセラーズ, 2010/6)
7. 「ゲーテの警告:日本を滅ぼす<B層>の正体」(講談社新書, 2011/8)
8. 「脳内ニーチェ」(朝日新聞出版社, 2011/12)
9. 「世界一退屈な授業」(星海社新書, 2011/12)
10. 「ニーチェの警鐘:日本を蝕む<B層>の害毒」(講談社新書, 2012/4)
11. 「超人ゲーテの人生論」(ソフトバンク、2012/9)
12. 「日本をダメにしたB層の研究」(講談社,2013/7)
13. 「バカを治す」(フォレスト新書, 2012/11)
14. 「新編 はじめてのニーチェ」(講談社新書, 2013/5)
15. 「福沢諭吉に学ぶ賢者の知恵」(だいわ文庫, 2013/5)
16. 「日本を救うC層の研究」(講談社, 2013/7)
17. 「箸の持ち方:人間の価値はどこで決まるのか?」(フォレスト新書, 2014/2)
18. 「愚民文明の暴走」(呉智英との共著:講談社, 2014/6)
19. 「日本をダメにしたB層用語辞典」(講談社, 2014/9)
20. 「なぜ世界は不幸になったのか」(角川春樹事務所, 2014/11)

 これを見ると2005に最初の新書を講談社から出して以来、10年刊に20冊、年平均2冊の本を出している。1976年山梨県生まれ、早稲田の文学部で西洋文学を学びニーチェを専攻したそうだ。今年39歳か。有名になったのは#12「B層の研究」(2013)からであろう。

 この「B層」という社会階層は「B層用語辞典」に解説がある。
 それによると、個人のIQをY軸に、現在の日本社会の構造改革に前向きか否定的かでX軸を置き、日本国民という集団を4象限(マトリックス)に区別する。
 右上の「IQが高く改革にも前向きな集団」=A層(財界勝ち組、大学教授、マスメディア、年ホワイトカラーがこれに属する)
 右下の「IQが低く、構造改革を支持する集団」=B層(小泉内閣を支持した基盤で、主婦若年層、シルバー層が主体)
 左上の「IQが高く、構造改革に否定的な集団」=C層(民主主義などの近代的諸価値やグローバリズムなどに否定的。社会的属性には触れず)
 左下の「IQが低く、構造改革に否定的な集団」=D層(既に失業などの痛みにより、構造改革に恐怖を覚えている層。負け組、引きこもり、ニートなど)

 この「構造改革に賛成か反対か」、「IQ(EQ, ITQ)が高いか低いか」という対立軸で国民を分類し、B層をターゲットに選挙戦略を立てたのが2005/9の「小泉郵政選挙」だとして、摘菜は「郵政民営化・合意形成コミュニケーション戦略(案)」なるものを持ち出している。しかし、これが実在するかどうかはわかない。

 ともかく、彼の独創は、Y軸はそのままに、X軸を右側が近代的価値(グローバリズム、普遍主義、改革・革新・革命)の信奉度合い、左側が近代的価値の否定度合い(反グローバリズム、反普遍主義、保守・反革命)として、読み換えた点にある。
 戦後民主主義の信奉者はすべてB層になり、新聞やテレビの報道に動かされやすく、日本の多数を占める「愚民」とされている。
 C層はIQが高く、近代的諸価値や、グローバリズムに懐疑的な集団だから、彼の#16の著作「日本を救うC層の研究」では救世主として扱われている。
 D層は以上のどれにも属さない集団。

 かつて京大に浅田彰という思想家がいて、「スキゾ・キッズ」という言葉が流行ったことがあるが、あれと似ていてどうも底が浅いと思う。解析方法がお粗末だ。
 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B5%85%E7%94%B0%E5%BD%B0
2)佐藤忠男『独学でよかった:読書と私の人生』(中日映画社, 2014/11):
 映画批評というとTV映画の解説者「さいなら、さいなら」で終わる淀川長治や水野晴郎、荻昌弘が有名だが、いずれも故人となった。しかし、彼らの「映評集」は読んだ記憶がない。水野晴郎には「DVD映画セレクション」があり、彼の推薦ラベルのある安売り洋画DVDは買いだ。
 映画は動画だから、これを文章で論評するのは、文芸評論と同じでなかなか難しい。五味川純平の「人間の条件」など10時間以上もあり、ワグナーのオペラ「ニーベルンゲンの指輪」ほども長いから、みて論評するのは重労働である。
 映画評論集、映画資料集としては、ゴダール「世界映画史」、猪俣勝人「世界映画名作全史」、田谷力哉「日本映画名作全史」、猪俣勝人・田谷力哉「世界映画俳優全史」などがあり、キネマ旬報社のムック「キネマ旬報・ベストテン全史」というのもある。

 佐藤忠男が有名な映画評論家と違うのは、旧国鉄の「鉄道教習所」でいまの中学教育を受け、最終学歴が「定時制工業高校」だということで、いわゆる学歴とはほぼ無縁だということだ。その代わり、電気工や電話機修理工として働きながら給料のほとんどを本代にあて、猛烈に読書をしている。その点は、早くして両親に死なれ叔父の援助を拒否して東京に出奔し、沖電気に勤め、東京医大を出て、作家として頭角をあらわした山田風太郎と似ている。
 佐藤は「独学、苦学の人」といわれるのが嫌だった。「好きなことを好きなように研究していただけ」で、苦しんだという意識がない、だから「苦学者と名乗ったら罰があたる」と書いている。「独学」のほうは「よかった」とタイトルにしているのだから、心境が変わったのだろう。

 独学を唱った本は、私の目録には他に米本昌平『独学の時代:新しい知の地平を求めて』(NTT出版, 2002)があるだけだ。
 この本は彼が「バイオエシックス」や「先端医療革命」、「遺伝管理社会」(毎日出版文化賞受賞)で有名人になった後、ドリーシュの「生気論」を評価しているのを知り、買ってその部分を読んだだけで、前半の「半自伝」部分は未読だった。
 当時の京大理学部は、数学・物理が人気学科で、「分属試験」が教養部の時にあったが、地学・生物学は勉強しないでも進めたとある。で、山岳部に入り授業をサボって山登りばかりしていたので、入学に一浪、学内進学で落第1年と書いてある。
 これは「苦学」ではなく、文字どおり「独学」であるが、吹聴することではない。
 谷澤永一が「独学の欠陥は、その道の専門家なら常識となっていることを知らないということが起きることにある」と述べているが、講義や授業の聴講や学会活動への参加は、まさにその欠点を補ってくれる。偉くなってしまうと、「日和見」を「ひわみ」、「屋上屋」を「やじょうや」と発音しても、ふつうは誰も訂正してくれないものだ。

 今回、未読部分を読んで、なぜ米本が小保方の「STAP細胞」を全面的に擁護したかがわかった。この本の帯には「形而上学」の向こうを張って「生而上学序説」と青字に白抜きの大活字が躍っている。

 佐藤の場合、中学受験での校長の訓辞に反撥して「中学なんか行ってやるものか」と思ったという。長谷川伸の「義侠」を高く評価した評論家としての彼の人生の原点は、どうもこの体験にあるようだ。
3)大場秀章『はじめての植物学:植物たちの生き残り戦略』(ちくまプリマ−新書, 2013/3)
 植物全体についての分かりやすい入門書である。高校の生物学、大学の教養課程の生物学を受けているから、植物学も少しは知っているつもりだったが、本書を読んで自らの無知を恥じた。植物は胞子によって増えるもの(コケ、羊歯)と種子によって増えるものに大別され、前者は維管束がない「コケ類」と維管束があり長い葉を形成する「シダ類」に二分される。
 種子をつくる植物は、花が咲かず、雌しべが花粉だけを受けて実をつくる「裸子植物」と一つの花の中に雄しべと雌しべがあり、受粉により雌しべ基部が発育して、種子とそれを包む果肉を形成する「被子植物」に分けられる。
 巻末に付いている「植物分類表」を見ると、あっと驚くような植物の類縁関係がすぐにわかる。例えば人類の穀物(稲、小麦、トウモロコシ、アワ、ヒエ)はすべて単子葉植物の「イネ科」であり、バナナとショウガ、バショウは同じ「ショウガ目」に属している。あの背の高い樹木のアカシアがネムノキと並んで、大豆、アズキ、ソラ豆、インゲン豆と同じ「マメ科」の植物であるのを知り、びっくりした。
 この本が優れているのは、陸生植物の起源を光合成できる緑藻類だとし、この段階ですでにオスとメスの性分化があり、精子が卵のところまで遊走して授精がおこなわれていたこと、植物の陸上進出後に、重力に抵抗できる維管束を発達させたシダ類が出現したこと、さらに雌雄が別の個体となり、他家受粉するような機構が発達して、陸生植物に裸子植物が出現、さらに被子植物へと進化したことがうまく説明されている。
 イチョウの精子は日本人が発見したのだが、開花期になると雌しべ先端に水滴がつき、飛来して付着した花粉は、こなかで精子を形成し、小さなギンナンの形をした卵を授精するという。こうして授精過程における「精子が游ぐための水」の問題を解決した裸子植物が、さらに果実をもつ被子植物へと進化し、約25万種という現存植物の多様性が生みだされたというわけだ。
 参考文献の提示の他に推薦書が示され、索引があるのがよい。
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