ある宇和島市議会議員のトレーニング

阪神大震災支援で動きの悪い体に気づいてトレーニングを始め、いつのまにかトライアスリートになってしまった私。

【読書日記2】難波先生より

2014-11-04 08:54:37 | 難波紘二先生
【読書日記2】
10/21=アマゾンから届いた3冊に目をとおす。本はまず目次、前書きを読み、著者の目的意識と方法をチェックすることにしている。ついで巻末の索引と文献目録を見る。目次、索引、参考文献のない本はまず信用できない。
 重要で基礎的な文献が引用されていない本はダメである。
 自費出版専門の「文芸社」本を、タイトルに惹かれて2冊買った。どちらもAmazon古本だ。

 ★徳井賢『朝鮮半島の火田民』2013/7
 火田民とは朝鮮語で「焼き畑農民」を意味する。半島では朝鮮戦争後に近代化が始まるまでは南北を貫く脊梁山脈である、太白山脈の麓で広く焼畑農業が行われていた。特に北朝鮮北部の「蓋馬高原」に多くいたという。
 日本統治時代の土地調査により、朝鮮王室の所有地と所属不明地が「官有地」にされ、火田民は山に火を付けるので、治山治水に害をなすものとして追い立てられた。一部は小作農家になったが、多くは都市に流入し新貧民層を形成した。
 松原岩五郎『最暗黒の東京』(岩波文庫)が記録した明治25(1892)年の東京貧民窟よりももっと悲惨な、路傍・橋の下で暮らす貧民を「土幕民」と朝鮮では呼んだ。土幕民の数は1940年、ソウル市内で3万数千人と推定されている。
 火田民と土幕民の関係についての基礎資料は、
 山辺健太郎『日本統治下の朝鮮』(岩波新書, 1971)である。ここには「朝鮮経済年報」1940から、「営農種別の農家戸数」統計が載っている。それによると純火田民の戸数は1933年、8万2000戸(全農家301万戸の2.7%)から1938年、7万1000戸(全農家305万戸の2.3%)に減少している。
 より重要な一次資料は、
 京城帝大衛生調査部編『土幕民の生活・衛生』(岩波書店, 1940)である。
 http://opac.lib.hiroshima-u.ac.jp/webopac/BB01220467
 これは広島大医学部公衆衛生学の初代教授田中正四(京城帝大医学部卒)が、若き日に正義感に燃えて行った調査とその報告である。広島大には中央図書館と文学部に2冊だけある。
 ところが徳井の「参考文献」にはこの2冊が入っていない。文献はたった11点(うち自著論文1点)。三重の高校地理学の教師だった時に何度も韓国に調査に行っているが、韓国の研究論文は2点しか引用されていない。
 うち「江原道新里の火田民族」という論文の著者崔吉城は、元広島大教授でいま東亜大学にいる。謝辞に名がないから、連絡していないのであろう。
 崔吉城は「新潮45」9月号に論文、
 「民間朝鮮人が書き残した<慰安所の真実>:韓国で<誤読>された『日本軍慰安所管理人の日記』 」(p.94-101)を発表している。もう日本国籍に移籍したのかも知れない。

 ★同じく、吉開俊一『移植医療:臓器提供の真実』, 2013/5
 脳死判定をする脳神経外科医による著書だが、この本は脳死移植にいかに自分が貢献したかを書いたもので、生体間臓器移植(腎臓、肝臓、肺など)には触れていないし、修復腎移植も書いてない。海外移植ツアーにも触れられていない。索引もないし、基本文献の引用もないのはきわめて残念だ。

 ★中野剛志『世界を戦争に導くグローバリズム』(集英社新書, 2014/9)=これは『TPP亡国論』(集英社新書, 2011/3)を書いた著者による新著。Amazonからの新本。帯で集英社がまだ「Imidas」を刊行しているのを知った。カバーの表折込みに本の要約、裏に著者略歴が書いてあるのがよい。
 目次は章の頁記載のみで、節の小見出しに頁番号がふられていないし、索引がない。
 文献は英語雑誌の引用が多いが、巻号のみで頁番号が書いてない。
 Op.Cit.(上掲書)とかIbid.(同一書)とかのラテン語、学術略号が引用文献に書かれているが、Op.cit.は横書きでないと意味をなさない。この人は本当にラテン語がわかっているのだろうか?
 英国の外交官出身の国際政治学者E.H.カー『危機の20年1919~1939』(岩波文庫、1996)(但し原著1946年第2版が『危機の20年:理想と現実』(同社, 2011)として今は出回っている) を下敷きに、理想主義(ユートピアニズム)と現実主義(リアリズム)の衝突が、国際連盟の破綻と第二次大戦勃発の原因となった、と(ソ連よりの立場で)論じたものだ。
 中野はこれを下敷きに論理を組み立てている。
 F.フクヤマ『歴史の終り』は引用文献に載っているが、S.ハンチントン『文明の衝突』(集英社, 1998) は載っていない。
 岩波文庫版ではUtopianismの対立語がRealismになっているが、中野はこれを「理想主義(Idealism)と現実主義(Realism)」に置き換えている。また現在の世界紛争はまさにハンチントンが予言した「文明の衝突」が要因になっている(中韓の接近と日本のナショナリズム台頭、アフガン紛争と「イスラム国」の誕生など)のに、これにはちっとも触れていない。これはちょっとまゆつば本だな。

 ★土山秀夫『核廃絶へのメッセージ:被爆地の一角から』(平和文庫,日本ブックエース, 2011)
 これもAmazon新本。長崎の被爆証言はかなり集めたが、病理学者(長崎大医学部教授)で、後に同大学長になった土山さんが被爆者とは知らなかったし、まして学生時代に山田風太郎の影響を受けて「土英雄」のペンネームで雑誌「宝石」に推理小説を書いていたとは、ついぞ知らなかった。博多の情報通、故菊池昌弘(福岡大副学長)さんからも聞いたことがない。略歴で『病理学総論』(医歯薬出版)があるのを知った。日本には「病理総論」のよい本が少ないので、入手する予定。
 2006〜10年に「西日本新聞」などに載せた随筆をまとめたもの。「作る会」の藤岡信勝への批判が書いてあるが、彼は東大教育学部教授の頃は、日本共産党員で日教組のブレーンだったが、ソ連崩壊後に脱党して急速に右派に転向したのだ。故谷沢永一(彼も元共産党員)が暴露している。
 「最近、出版業界の裏話として反中、反韓、そして朝日新聞の悪口を書けば売れ行きが伸びる、との噂が流れているという。…まるでその点を裏付けでもするかのように、街のどの書店に行ってもその種の本や雑誌、さらに週刊誌の類が嫌でも目につく。」(p.35)
 2006年の文章だが、今はもっと状況は極端になっている。大学生協の書店にも雑誌「世界」、「Aera」、「週刊金曜日」が置いてないかもしれない。
 時代は昭和10(1935)年頃に酷似してきている。
 索引、文献なし。しかしIPPNWなど英語略号の説明一覧が巻末に付いているのがよい。
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