【小泉の卓論】規制緩和と民営化の行き過ぎで「格差社会」を生みだしたのは小泉政治の欠陥だが、最近、「脱原発論」を唱え始めた。3・11の前は原発はクリーン・エネルギーでコストも安いと信じていたが、事故が起きその被害の甚大さと今後の廃炉作業の時間と経費を考えると、大いなる間違いだった、そして「政府が脱原発の方針を決めれば、その方法や代替エネルギーについては、よい智恵を出す学者が必ず出てくる」と述べた。正論だと思う。
自民党議員に定年制を実施し、中曽根康弘を引退に追い込んだのが小泉だから、その彼が総理に復活することはないだろう。息子が総理になることはあっても。
日本に原発を持ち込んだのが、中曽根と組んだ「読売」の正力松太郎だ。だから中曽根には「風見鶏」という異名があるが、脱原発論は唱えられない。
9/30「産経」の「正論」蘭にJR東海の葛西啓之会長が「再稼働が必要なこれだけの理由」と題して論説を発表している。「産経」は原発維持派だ。
「国民の期待の最たるものは、安定的経済成長と安全保障だ。その大前提は自前の基幹エネルギーであり、それは原子力以外にない。…原発停止は石油・天然ガスの輸入交渉で日本の立場を弱め、高く買わされる。中東情勢の混迷で輸入が途絶すれば絶体絶命である。エネルギー安全保障の観点でも、原発の再稼働は急務ではないか」。要旨このような意見を述べている。
今年の、ノーベル物理学賞の授与対象に「ヒッグス粒子の予言と発見」がほぼ決まったようだ。これで宇宙の多くの謎は「超ひも理論」を軸に標準理論により統一されるようになった。つまり、なぜエネルギーから素粒子ができたか、なぜ原子が生まれたか、なぜ万有引力が生じたか、が説明できるようになった。
Cf. 大栗博司「重力とは何か」(幻冬社新書, 2013)
Cf. 竹内薫「ヒッグス粒子と宇宙創成」(日経新書, 2012)
自然界に存在する元素は原子番号92のウランまでである。いま118番Uuo(ウンウンオクチウム)まで見つかっているが、93番以後はすべて人工元素だ。つまり137億年前のビッグバンの直後、1分もたたないうちに、中性子、陽子、電子が形成され、それらが多数集まって、もっとも軽い水素からもっとも重いウラニウムまでができた。そのうち重い元素は作られた量が少ないし、自然崩壊して他の元素に変わり、自然界にもっとも多い元素は水素(原子量1)、ヘリウム(4)、炭素(12)、窒素(14)、酸素(16)であることは周知の通りだ。酸素と水素の化合物=水と窒素と酸素の混合気体=空気があるから、生命が地球に生きて行ける。
(私は掃除を怠っている仕事場の床に、自然に小さなゴミができ、次第にそれが成長し、最後はマウスほどの大きさになったのを見て、「ああ、宇宙はこうしてできたのか」と思った。すべては引力=重力のせいである。)
宇宙論の分野には「人間原理」という理論があり、宇宙は無数にあるが、中心の恒星が太陽であり、そこからある距離離れていて、しかも重力が1で、陸と海があるという環境を持つ地球にのみ、生命が誕生し、人間にまで進化したという。この説では火星や木星に生命が存在することはありえない。
Cf. 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか:人間原理と宇宙論」(講談社現代新書, 2013)
宇宙の塵が引力により集合して小さな星が形成され、それが引力によりさらに他の塵を吸収して巨大な星となり、他の星を惑星として回転軌道に取り込み太陽系が生じた。この惑星系が多数集合したものが銀河系であり、宇宙には多数の銀河系がある。
重要なことは、重い元素ほど引力がつよいから、塵の核になり、星の核になる。だから最も重いウラニウムは、地球では絶対量も少ないし、大部分は地殻の内側にある。地表から採掘できる場所と量には限度がある。
原子炉燃料として使用されるウラン235は自然崩壊時にアルファ線とガンマ線を放出し、その半減期は7億年である。(これをもとに地球の年齢45億年が計算された。)つまり宇宙創世時に存在した量の1/8以下しかもう存在していないのだ。しかも純ウラニウムはウラン鉱石にはわずか0.1~0.7%しか含まれていない。このウラン鉱の年間産出量(2006)は、カナダ 9,862t、カザフスタン5,279t、ニジェール 3,434t、ロシア 3,262t、ナミビア 3,067tである。合計2万1,642tで純ウラン換算では151.5tしかない。推定ウラン鉱石埋蔵量はたったの約350万~460万トンである。
2009年のデータでは、世界の原発が使用するウランは年間に約7万トンで、50~65年分しか持続しない。日本が原発輸出を続ければ、持続可能性はさらに短かくなる。ウランは再生不能な レアメタルである。
Cf. 桜井弘編「元素111の新知識第2版」(講談社ブルーバックス, 2009)
Cf. 北村行孝他「日本の原子力施設全データ・全面改訂版」(同、2012)
出力100万kWの原子炉の場合、直径1cmの管の中に400個のウラン・ペレットを詰めた棒を700本(ウラン重量で約120t)炉心に詰める。このうちウラン235は4~5%である。原発が1日稼働すると約3Kg(広島型原発3個分)のウラン235が崩壊し、プルトニウムができる。つまり3/120,000=0.0025%がプルトニウムに変わり、実質120tの「放射性廃棄物」が残る。原発が発電用の蒸気タービンを回す時の熱効率は30%で、発生熱の70%は利用されず、温水として海に放出されている。その熱量は「70t/秒の流量をもつ川の水を7℃上昇させる」ほどもあるという。原発は気温を上昇させないが、海水温を上げる効果がある。
http://www.tepco.co.jp/nu/fukushima-np/outline_f1/index-j.html
日本全体で約50基の原発がある。1基が年に120tのウランを使用するとすれば、6,000 t/yであり、世界産出量の28%を占める。これは全部輸入に依存している。だからJR東海の葛西会長のいうように「自前の基幹エネルギー」などではない。日本のウラン鉱輸入先は、2/3がカナダとオーストラリアであり、中東にはウラン鉱が出ないから、ホルムズ海峡閉鎖うんぬんの問題は確かにない。
しかし、「使用した燃料とほぼ同重量の核廃棄物が残る」という大問題がある。殊にその多くが核兵器として利用可能なプルトニウムだという点にある。
今まではプルトニウムとその他の核廃棄物を分離する「再処理」を英国とフランスに委託してきたが、英国が原発廃止に踏み切り、再処理をやめた。ついでフランスもやめそうな気配だ。
そうなると国内処理するほか手がなくなるが、その施設は国内にはない。すでに各原発の「使用済み核燃料保管プール」は満杯である。福島原発1~4号機のうち3基で水素爆発が起きたが、幸い燃料プールの倒壊はなかった。あったらメルダウン以上の大惨事が発生していただろう。
また、プルトニウム抽出後の核廃棄物を「地下埋設」するための場所もない。青森県下北半島の六ヶ所村は「一時保管施設」として住民の合意をえているにすぎない。
日本にある約50基の原子炉は、東日本が「沸騰水型」、西日本は「加圧水型」である。これは東芝・日立が格納容器内で水を蒸気に変える沸騰型を、三菱が原子炉内で加圧水を温め沸騰を避けて、蒸気発生器により主蒸気を発生させる加圧水型を製造しているためだ。
福島第一のメルトダウンした3基のうち四号機の原子炉圧力容器は、1972~74年に「バブコック日立・呉工場」で製作されたが、焼成温度の調整に失敗して、断面が正円でない欠陥容器だった。2ヶ月がかりで再焼成し、ジャッキで歪みを直したものを納品している。この欠陥炉と事故との関係はまだ調査されていない。
Cf. 田中三彦「原発はなぜ危険か:元設計技師の証言」(岩波新書, 1990), 第一部「ゆがみ矯正事件」
地震の多い日本では、フィンランドやスウェーデンのように「10万年貯蔵可能」な地下施設など、とても作れそうにない。かくして原発は放射性廃棄物の持って行き場がない「トイレのないマンション」となる。瀬戸内の上関に原発をつくるなど、狂気の沙汰だ。
他方、40年の耐用期限が過ぎた後の、解体撤去費用も問題だ。高木の試算によれば100万KWの原発の建設費が3,000億円かかるのに対して、廃炉コストは6,000億円以上かかるという。どの電力会社もそれだけの引当金を積み立てていない。福島原発だけで廃炉までに10兆円(1基あたり2.5兆円)が必要な雲行きを見れば、高木試算は決して過大といえないだろう。
Cf. 高木仁三「原子力神話からの解放」(講談社文庫)
TPP交渉ではカナダもオーストラリアも日本の相手国となる。もし日本の電力の50%以上が原発に依存し、そのウランの2/3を両国に依存していたら、どうして「エネルギー安全保障」が可能になるだろうか。かつて「ABCD包囲陣」により石油禁輸措置をとられた大日本帝国は、南進策をとり油田を求めて仏領インドシナに進駐し、これが対米戦争のきっかけとなった。カナダ=豪州連合がウラン禁輸策に出たら、同じことではないか。
かくしてJR東海会長の議論は愚論というしかない。原発があるのは福島、新潟、福井、静岡、佐賀の貧乏五県で、全原発の8割以上がここにある。いいかげんに、貧乏人を騙くらかすのは止めるべきだ。作るのなら皇室を京都に遷都して、皇居跡に原発をつくれ。東電もそこに本社を移せ。一朝ことあれば、丸の内は死都と化すだろう。産経も毎日も本社が1.5キロ以内にある。経団連ビルもそうだ。
「もはやこの段階に至ったならば、政治の力によって突破する以外に、日本の原子力問題を解決する方法はないと直感した。…国家の方向を決めるのは、政治家の責任である」。小泉の言葉ではない。1965年刊の日本原子力産業会議編「原子力開発十年史」中にある中曽根の言葉だ。この政治的決断により、小泉のいうように「よい智恵を出す学者が必ず出てくる」ことになった。それが東大を中心とする原発推進の御用学者で、「原子力ムラ」の住民となった。
いま、小泉のいうように「脱原発」を政府が基本政策とするなら、心配はいらない。同じように転向した御用学者がすぐにも蝟集するだろう。なに、日本の知識人など「大東亜戦争」中は「神州不滅」などと軍部に迎合し、8月15日以後、自決したものもなく、すぐに「民主主義バンザイ、言論の自由を尊重せよ」と言いだしたではないか。地震予知学者も同様だ。できもしないことを「できる」といって、どれだけ研究費をせしめてきたことか。
小泉純一郎が立派なのは実際にフィンランドを訪れ、地下の核燃料処理・貯蔵施設を見学し、冒頭のごとき確信に達している点だ。
同じようにユトランド半島の小国デンマークを訪問した内村鑑三は、プロシアに敗れ国土の多くを失い、九州よりも狭い国となったデンマークが、日本の1/20の人口でありながら、日本の10倍の対外貿易高がある国となった秘密を探求し、その謎がダルガス父子の二代にわたる植林運動にあることを突きとめた。
内村はこう述べている。
「国を興さんと欲せば樹を植えよ、植林これ建国である。山林は木材を供し、気候を緩和し、洪水を防止し、田野を肥やし、百利ありて一害なし。…内を開発するは新たに領土を増すの道である。小国デンマークはプロシアとの戦いに敗れ、領土の半ばを奪われしも、国内の荒れ地に植林して、失いし以上の富をえた。…上杉鷹山公が米沢の痩せ地を化して東北第一の沃土となした方法である。」(「後世への最大遺物・デンマルク国の話」, 岩波文庫)
内村鑑三は富の本質はエネルギーだという。恐るべき直感力だ。
「天然には無限の生産力があります。
…富は有利化された(組織された)エネルギーであります。しかしてエネルギーは太陽光線にもあります。海の波にもあります。吹く風にもあります。噴火する火山にもあります。もしこれを利用することができたら、これらはみなことごとく富源であります。
…国もし<愚かなる智者>のみありて、ダルガスのごとき<智(さと)き愚人>がおらずば、…国家は亡びるのであります。」(同上)
1911年、つまり日韓併合の翌年に、内村はこの話を「講話」として話している。3・11のちょうど100年前だ。
リサイクル、自然エネルギー、ソーラーなどの言葉を使わず、熱力学第二法則=「天然の理」の本質を衝いている。先見の明に深く感じ入る次第だ。
日本はいま「愚かなる智者」たちにたぶらかされて、国を亡ぼそうとしている。
自民党議員に定年制を実施し、中曽根康弘を引退に追い込んだのが小泉だから、その彼が総理に復活することはないだろう。息子が総理になることはあっても。
日本に原発を持ち込んだのが、中曽根と組んだ「読売」の正力松太郎だ。だから中曽根には「風見鶏」という異名があるが、脱原発論は唱えられない。
9/30「産経」の「正論」蘭にJR東海の葛西啓之会長が「再稼働が必要なこれだけの理由」と題して論説を発表している。「産経」は原発維持派だ。
「国民の期待の最たるものは、安定的経済成長と安全保障だ。その大前提は自前の基幹エネルギーであり、それは原子力以外にない。…原発停止は石油・天然ガスの輸入交渉で日本の立場を弱め、高く買わされる。中東情勢の混迷で輸入が途絶すれば絶体絶命である。エネルギー安全保障の観点でも、原発の再稼働は急務ではないか」。要旨このような意見を述べている。
今年の、ノーベル物理学賞の授与対象に「ヒッグス粒子の予言と発見」がほぼ決まったようだ。これで宇宙の多くの謎は「超ひも理論」を軸に標準理論により統一されるようになった。つまり、なぜエネルギーから素粒子ができたか、なぜ原子が生まれたか、なぜ万有引力が生じたか、が説明できるようになった。
Cf. 大栗博司「重力とは何か」(幻冬社新書, 2013)
Cf. 竹内薫「ヒッグス粒子と宇宙創成」(日経新書, 2012)
自然界に存在する元素は原子番号92のウランまでである。いま118番Uuo(ウンウンオクチウム)まで見つかっているが、93番以後はすべて人工元素だ。つまり137億年前のビッグバンの直後、1分もたたないうちに、中性子、陽子、電子が形成され、それらが多数集まって、もっとも軽い水素からもっとも重いウラニウムまでができた。そのうち重い元素は作られた量が少ないし、自然崩壊して他の元素に変わり、自然界にもっとも多い元素は水素(原子量1)、ヘリウム(4)、炭素(12)、窒素(14)、酸素(16)であることは周知の通りだ。酸素と水素の化合物=水と窒素と酸素の混合気体=空気があるから、生命が地球に生きて行ける。
(私は掃除を怠っている仕事場の床に、自然に小さなゴミができ、次第にそれが成長し、最後はマウスほどの大きさになったのを見て、「ああ、宇宙はこうしてできたのか」と思った。すべては引力=重力のせいである。)
宇宙論の分野には「人間原理」という理論があり、宇宙は無数にあるが、中心の恒星が太陽であり、そこからある距離離れていて、しかも重力が1で、陸と海があるという環境を持つ地球にのみ、生命が誕生し、人間にまで進化したという。この説では火星や木星に生命が存在することはありえない。
Cf. 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか:人間原理と宇宙論」(講談社現代新書, 2013)
宇宙の塵が引力により集合して小さな星が形成され、それが引力によりさらに他の塵を吸収して巨大な星となり、他の星を惑星として回転軌道に取り込み太陽系が生じた。この惑星系が多数集合したものが銀河系であり、宇宙には多数の銀河系がある。
重要なことは、重い元素ほど引力がつよいから、塵の核になり、星の核になる。だから最も重いウラニウムは、地球では絶対量も少ないし、大部分は地殻の内側にある。地表から採掘できる場所と量には限度がある。
原子炉燃料として使用されるウラン235は自然崩壊時にアルファ線とガンマ線を放出し、その半減期は7億年である。(これをもとに地球の年齢45億年が計算された。)つまり宇宙創世時に存在した量の1/8以下しかもう存在していないのだ。しかも純ウラニウムはウラン鉱石にはわずか0.1~0.7%しか含まれていない。このウラン鉱の年間産出量(2006)は、カナダ 9,862t、カザフスタン5,279t、ニジェール 3,434t、ロシア 3,262t、ナミビア 3,067tである。合計2万1,642tで純ウラン換算では151.5tしかない。推定ウラン鉱石埋蔵量はたったの約350万~460万トンである。
2009年のデータでは、世界の原発が使用するウランは年間に約7万トンで、50~65年分しか持続しない。日本が原発輸出を続ければ、持続可能性はさらに短かくなる。ウランは再生不能な レアメタルである。
Cf. 桜井弘編「元素111の新知識第2版」(講談社ブルーバックス, 2009)
Cf. 北村行孝他「日本の原子力施設全データ・全面改訂版」(同、2012)
出力100万kWの原子炉の場合、直径1cmの管の中に400個のウラン・ペレットを詰めた棒を700本(ウラン重量で約120t)炉心に詰める。このうちウラン235は4~5%である。原発が1日稼働すると約3Kg(広島型原発3個分)のウラン235が崩壊し、プルトニウムができる。つまり3/120,000=0.0025%がプルトニウムに変わり、実質120tの「放射性廃棄物」が残る。原発が発電用の蒸気タービンを回す時の熱効率は30%で、発生熱の70%は利用されず、温水として海に放出されている。その熱量は「70t/秒の流量をもつ川の水を7℃上昇させる」ほどもあるという。原発は気温を上昇させないが、海水温を上げる効果がある。
http://www.tepco.co.jp/nu/fukushima-np/outline_f1/index-j.html
日本全体で約50基の原発がある。1基が年に120tのウランを使用するとすれば、6,000 t/yであり、世界産出量の28%を占める。これは全部輸入に依存している。だからJR東海の葛西会長のいうように「自前の基幹エネルギー」などではない。日本のウラン鉱輸入先は、2/3がカナダとオーストラリアであり、中東にはウラン鉱が出ないから、ホルムズ海峡閉鎖うんぬんの問題は確かにない。
しかし、「使用した燃料とほぼ同重量の核廃棄物が残る」という大問題がある。殊にその多くが核兵器として利用可能なプルトニウムだという点にある。
今まではプルトニウムとその他の核廃棄物を分離する「再処理」を英国とフランスに委託してきたが、英国が原発廃止に踏み切り、再処理をやめた。ついでフランスもやめそうな気配だ。
そうなると国内処理するほか手がなくなるが、その施設は国内にはない。すでに各原発の「使用済み核燃料保管プール」は満杯である。福島原発1~4号機のうち3基で水素爆発が起きたが、幸い燃料プールの倒壊はなかった。あったらメルダウン以上の大惨事が発生していただろう。
また、プルトニウム抽出後の核廃棄物を「地下埋設」するための場所もない。青森県下北半島の六ヶ所村は「一時保管施設」として住民の合意をえているにすぎない。
日本にある約50基の原子炉は、東日本が「沸騰水型」、西日本は「加圧水型」である。これは東芝・日立が格納容器内で水を蒸気に変える沸騰型を、三菱が原子炉内で加圧水を温め沸騰を避けて、蒸気発生器により主蒸気を発生させる加圧水型を製造しているためだ。
福島第一のメルトダウンした3基のうち四号機の原子炉圧力容器は、1972~74年に「バブコック日立・呉工場」で製作されたが、焼成温度の調整に失敗して、断面が正円でない欠陥容器だった。2ヶ月がかりで再焼成し、ジャッキで歪みを直したものを納品している。この欠陥炉と事故との関係はまだ調査されていない。
Cf. 田中三彦「原発はなぜ危険か:元設計技師の証言」(岩波新書, 1990), 第一部「ゆがみ矯正事件」
地震の多い日本では、フィンランドやスウェーデンのように「10万年貯蔵可能」な地下施設など、とても作れそうにない。かくして原発は放射性廃棄物の持って行き場がない「トイレのないマンション」となる。瀬戸内の上関に原発をつくるなど、狂気の沙汰だ。
他方、40年の耐用期限が過ぎた後の、解体撤去費用も問題だ。高木の試算によれば100万KWの原発の建設費が3,000億円かかるのに対して、廃炉コストは6,000億円以上かかるという。どの電力会社もそれだけの引当金を積み立てていない。福島原発だけで廃炉までに10兆円(1基あたり2.5兆円)が必要な雲行きを見れば、高木試算は決して過大といえないだろう。
Cf. 高木仁三「原子力神話からの解放」(講談社文庫)
TPP交渉ではカナダもオーストラリアも日本の相手国となる。もし日本の電力の50%以上が原発に依存し、そのウランの2/3を両国に依存していたら、どうして「エネルギー安全保障」が可能になるだろうか。かつて「ABCD包囲陣」により石油禁輸措置をとられた大日本帝国は、南進策をとり油田を求めて仏領インドシナに進駐し、これが対米戦争のきっかけとなった。カナダ=豪州連合がウラン禁輸策に出たら、同じことではないか。
かくしてJR東海会長の議論は愚論というしかない。原発があるのは福島、新潟、福井、静岡、佐賀の貧乏五県で、全原発の8割以上がここにある。いいかげんに、貧乏人を騙くらかすのは止めるべきだ。作るのなら皇室を京都に遷都して、皇居跡に原発をつくれ。東電もそこに本社を移せ。一朝ことあれば、丸の内は死都と化すだろう。産経も毎日も本社が1.5キロ以内にある。経団連ビルもそうだ。
「もはやこの段階に至ったならば、政治の力によって突破する以外に、日本の原子力問題を解決する方法はないと直感した。…国家の方向を決めるのは、政治家の責任である」。小泉の言葉ではない。1965年刊の日本原子力産業会議編「原子力開発十年史」中にある中曽根の言葉だ。この政治的決断により、小泉のいうように「よい智恵を出す学者が必ず出てくる」ことになった。それが東大を中心とする原発推進の御用学者で、「原子力ムラ」の住民となった。
いま、小泉のいうように「脱原発」を政府が基本政策とするなら、心配はいらない。同じように転向した御用学者がすぐにも蝟集するだろう。なに、日本の知識人など「大東亜戦争」中は「神州不滅」などと軍部に迎合し、8月15日以後、自決したものもなく、すぐに「民主主義バンザイ、言論の自由を尊重せよ」と言いだしたではないか。地震予知学者も同様だ。できもしないことを「できる」といって、どれだけ研究費をせしめてきたことか。
小泉純一郎が立派なのは実際にフィンランドを訪れ、地下の核燃料処理・貯蔵施設を見学し、冒頭のごとき確信に達している点だ。
同じようにユトランド半島の小国デンマークを訪問した内村鑑三は、プロシアに敗れ国土の多くを失い、九州よりも狭い国となったデンマークが、日本の1/20の人口でありながら、日本の10倍の対外貿易高がある国となった秘密を探求し、その謎がダルガス父子の二代にわたる植林運動にあることを突きとめた。
内村はこう述べている。
「国を興さんと欲せば樹を植えよ、植林これ建国である。山林は木材を供し、気候を緩和し、洪水を防止し、田野を肥やし、百利ありて一害なし。…内を開発するは新たに領土を増すの道である。小国デンマークはプロシアとの戦いに敗れ、領土の半ばを奪われしも、国内の荒れ地に植林して、失いし以上の富をえた。…上杉鷹山公が米沢の痩せ地を化して東北第一の沃土となした方法である。」(「後世への最大遺物・デンマルク国の話」, 岩波文庫)
内村鑑三は富の本質はエネルギーだという。恐るべき直感力だ。
「天然には無限の生産力があります。
…富は有利化された(組織された)エネルギーであります。しかしてエネルギーは太陽光線にもあります。海の波にもあります。吹く風にもあります。噴火する火山にもあります。もしこれを利用することができたら、これらはみなことごとく富源であります。
…国もし<愚かなる智者>のみありて、ダルガスのごとき<智(さと)き愚人>がおらずば、…国家は亡びるのであります。」(同上)
1911年、つまり日韓併合の翌年に、内村はこの話を「講話」として話している。3・11のちょうど100年前だ。
リサイクル、自然エネルギー、ソーラーなどの言葉を使わず、熱力学第二法則=「天然の理」の本質を衝いている。先見の明に深く感じ入る次第だ。
日本はいま「愚かなる智者」たちにたぶらかされて、国を亡ぼそうとしている。
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