この懐かしき本たちよ!

まだ私の手元に残っている懐かしい本とそれにまつわるいろいろな思い出、その他、とりとめのない思いを書き綴りたい。

#72 随想12「女優 マリア・シェル」(映画 居酒屋)

2005年04月28日 | 映画、ドラマ
女優のマリア・シェルが4月26日に亡くなったとのニュースが今日の新聞で報道されている。マリア・シェル。懐かしい女優だ。享年79歳とのこと。インターネットで外国のニュースを見るとどこでも報道されている。主要通信社から配信されている。

外国メディアの報道に添付されている写真は最近の彼女の写真のようだ。昔の彼女の面影はあまりない。いい写真ではない。ちょっと意地の悪い報道の仕方だと思うのは、私がかつての熱烈なフアンだったせいだろうか。

朝日新聞で「はマリア・シェルさん」 として、若い時?のきれいな写真がついている。スーパーマン(78年)、最後の橋(54年)などに出演したと書いてある。そして「最後の橋」ではカンヌ国際映画祭主演女優賞を受賞したと紹介されている。

私がこの女優を好きになったのは、フランス映画「居酒屋」(原題 Madame Gervaise)で主人公のマダム・ジェルベーズを演じているのを見てからである。というよりも、「居酒屋」で彼女を見たのが初めてであった。

昭和31年(1956年)の後半であった。当時私は大学の二年目だった。

自然主義作家のエミール・ゾラの原作によるこの映画は、貧しい女性が一生懸命に頑張って生きてなおかつ貧しくまた尽くした男にことごとく裏切られ最後にアルコール中毒になって廃人になってしまうという悲しいやりきれないストーリーである。そして唯一の救いは、この彼女を何とか助けようと彼女に心を寄せるやさしい組合活動家の若い男の存在である。

最初のシーンは、同棲し子供もいるのに男が朝まで帰って来ないので徹夜で男を待つというところから始まる。他の女と家を出て行ってしまった、と近所の人が教えてくれる。主人公の女性(マダム・ジェルベーズ)は足が悪い。

最後のシーンは、女主人公が乞食のように道にすわりこみ、何とか手に入れた少しの酒を一口二口飲んでやっと外界からはなれて安堵の色を見せる。(マリア・シェルのすごい演技だ。うまい。)
よごれた女。かつての働き者で几帳面な彼女の面影はない。
彼女の幼い女の子が屈託のない様子で周りで遊んでいる。この女の子がやがてゾラの次の小説に登場する問題の女性「ナナ」になるのだ。 

マリア・シェルはまさに熱演であり、好演だったと思う。一つ、一つのシーンがよくできており、今でもよく覚えている。私は傑作だと思うのだが、何故かその後の「懐かしい名画」のランキングには入ってきていない。

この映画によって、マリア・シェルはオードリー・ヘップバーンやイングリッド・バーグマンに並んで、いやそれ以上に私の好きな女優の最右翼に位置するようになった。

大学でようやく半年間のフランス語のてほどきが終わり、簡単なフランス語が読めるようになった私は、早速白水社が発行したこの映画の仏語のシナリオを買って来て読んだ。その本が残っているかと調べて見たが残っていなかった。

初歩英文法の参考書には “Man is mortal.” という文章が必ずあったが、本当にすべての人間はやがては死ぬものであるということをあらためて感ずる。

*画像はマリア・シェル出演の映画の一場面(1957年)(インターネットより)私が彼女だけを切り抜いたもの。

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