この懐かしき本たちよ!

まだ私の手元に残っている懐かしい本とそれにまつわるいろいろな思い出、その他、とりとめのない思いを書き綴りたい。

#826 「天狼俳句の英訳(誓子、俊雄、綾子) 古平隆 編集共訳」

2014年03月07日 | 日本文学

友人の古平隆君が著書を送ってくれた。

「天狼俳句の英訳(誓子、俊雄、綾子)」という題の本である。

古平隆君は英文学者。君などと私が呼ぶのはおこがましい.著者略歴を見ると、中央大学助教授、横浜市立大学教授、東洋大学教授の経歴だけでなくノース・カロライナ大学客員研究員、ニューヨーク州立大学客員教授なども経験しているようだ。

しかし、私は同君と大学の教養課程の語学のクラス(第2外国語はドイツ語)で一緒だったことがあり、クラスメートだったよしみで君と呼ぶのを許していただくことにしよう。

ちなみに、同君は私の名を呼ぶときには君とかさんとかをつけずに呼び捨てである。彼が威張っているということではない。彼の高校からの習慣なのだと思う。彼は実におだやかな、やさしい紳士である。

俳句同人誌「天狼」の主宰の山口誓子とその同人の三橋敏雄と細見綾子の俳句を英訳している。

この本の共訳者として、ニューヨーク州立大学名誉教授のAlfred H.Marks氏と元コーネル大学教授のKyoko Selden Irie 女史の名が書き加えられている。共訳というよりも、俳句の英訳にあたって、日本の俳句にも造詣の深いnativeの米国人の学者および日本での大学卒業以来ずっと米国で学究生活を送り米国での大学でも、日本語という言葉についても講座を持っていたIrie女史のお二人に著者がいろいろと相談に乗ってもらったことがあるということでははないかと私は想像した。

早速読ませて頂いた。

素晴らしい。

 なるほど、俳句もこのように英語に変えることができるのだと感心した。

英語でも定型で訳している。著者の持論のようだ。それが良い。

この本の最初に出てくる句と英訳はこうである。

 学問のさびしさに堪へ炭をつぐ(山口誓子)

  Bearing up under

     the lonliness of study

          I add fresh charcoal

 なぜこの渋い句を最初にしたのか、また機会があったら著者に聞いて見たいと思う。

 こういうのもある。

 提げ行きし百合の香ここにとどまれる(山口誓子)

  The lily she held

       in her hand as she passed by

      left its fragrance here

       

男の雛もまなこかぼそく波の間に (山口誓子)

  Even the male doll

      holds his eyes in narrow slits

         tossing on the waves.

  和歌山の加太の淡島神社での雛流しを詠んだ句とのことである。

 

みめよくて田植えの笠に指をおく  (山口誓子)

  A beautiful girl

        in a rice planting bonnet,

          fingering the brim.

 これは、この句から著者が勝手に情景を想像して英訳したのではない。この句を作った山口誓子自身がつぎのようなコメントをこの句につけているのだ。

「文字通り早乙女、美貌で、頭に田植えの笠を冠っている。早乙女は道で私に会い、指を笠の縁に添えた。それは自らの美貌を意識している仕草だ。」

 すべての句に、句の作者もしくはこの本の著者の簡単な日本語での解説がついており、著者によるその英訳もついている。

 また、日本語で詠んだときの音もわかるように、ローマ字での表記があり、ローマ字になれない英国系の人が発音しまちがえないような工夫もなされているのに感心する。

 (例えば 「みめよくて田植えの笠に指をおく」 は

       「Mime yokute ta'u'e no kasa ni yubi o so'u」

         と、「とえ」ではなく「たうえ」、「す」ではなく「そう」と読んでもらえるような工夫がなされている。 

     立派な著作である。時間をかけて十分に楽しんで味わって読みたいと思う。

     いくらブログの上でも、もうこの著者を君づけでは呼べないような気がして来た。

                                                                                           (おわり)

 

    

 

 

  

 

 

 

 


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