夫の体調記録~がんばろっ!~

お気楽夫婦だったのに・・・悪性リンパ腫と闘った夫、妻の日記

血漿交換2回目の11日~13日のこと

2006-10-22 23:21:10 | 夫の体調記録
■10月11日(水)

今日はどうだろうと、ドキドキしながら
午前中のうちに病院に行った。

昨日と変わらない羽ばたきをしている。

でも、白血球は1200に上がっている!
1,000を超えた!!嬉しいっ。

先生がおっしゃるには
1200かそれ以上が3日間続けば、今日この日が生着日となるそうです。

今日は、CRPも2.9に下がっている。
昨日が6.6で徐々に下がってきていたので、2.9なら
ステロイドの効果だろうか、炎症が抑えられているのかな、
なんかホッとする。

主治医の説明では、ビリルビンは昨日30台だったのを
血漿交換で10台に下がったけど
今朝は20台に上がったので
また今日も血漿交換をしておく、とのことでした。

それは循環(血圧)への負担になる不安もあるけれど
どうか悪い毒素を排出して、
どうかアカオさんの肝機能が自力で上がれるように
悪いものを出して欲しい、切に願う私は早く願った。

このビリルビンが憎らしい。
この数値さえよくなれば
意識障害も徐々に治るのではないか?
白血球がせっかく上がっているのだから
どうか内臓の方の悪化は押さえてもらいたい。


とにかく私はアカオさんのそばにいて
一生懸命励ます。
「肝機能が自力でよくなるように、
 悪い血漿を捨ててきれいな血漿を入れてもらうからね。
 薬も抑えて肝機能が自力で頑張れるように
 アカオさんも意識をしっかりもって頑張ってね。
 体力温存してね。」
アカオさんは私の説明をよく聞いていたから
だから頑張ったのだと思う。
一生懸命しっかりと対応していた。

先生からはアカオさんは貧血気味なので
ヘモグロビンを輸血します、とのこと。
血小板、赤血球の輸血量はこの後も増えた。

今日も血漿交換後は少し落ち着いていい感じ。
目の焦点もしっかりあってきて、はっきりしている。


そういえば10月に入ってから
「日本茶が飲みたいな」と言っていたので
4日に急須とお茶を買って来て飲ませた。

「美味しい」って言っていた。

4日以降、お茶を飲む日が続いた。
飲むといっても一口か二口すする程度。
でも自分でしっかりコップを持ってすすっている。

香りがするせいか、「美味しい」って言っていた。
口内炎がひどく荒れているから
本当は辛いんだろうけど。。。


この11日もお茶を入れた記憶がある。
「お茶飲みたいな~」って言ってたから。

それがアカオさんにとって最後に口にしたものだった。(水以外で)






■10月12日(木)

この日は自力での数値をみるために血漿交換はお休みの日。
先週から主治医には
病院にきたらその都度状況説明するので、とのこと。
それだけ明日が読めない、毎日が変化するそんな一週間ということであり、
何せ症例の少ない稀なタイプの悪性リンパ腫で
臍帯血移植後なので
先生達にとっても危ない綱渡りのさじ加減の微妙な慎重な時期なのでしょう。


私は思うのだけど、
先生達の医療のプロフェッショナルな技量で山を乗り越えてるけれど、
それだけではなく、
アカオさんの生き抜くという強い信念と意力の頑張り、
この二つのバランスで山を乗り越えている気がする。
アカオさんは凄い!

この12日(木)は穏やかな一日でした。
よく眠っています。本当によく眠っています。
きっと羽ばたきで筋肉使うし、連日疲れていたんだと思う。
時々起きて、私とコミュニケーションはとります。
その時の焦点はしっかり合っています。
だから昨日よりいい感じ。
なんか日に日によくなる気もする。

冗談だって言っている。
明るくひょうきんにしている。

今日も白血球は1,200.
そしてCRPは2.1とさらに下がっている。

それをアカオさんに伝える。
白血球も上がっているからね、いい感じだよ。
あとは肝臓が頑張ってくれるといいね。
頑張ろうね。

そうやって私はアカオさんのお腹や背中、足をさすったり
マッサージする。

苦しそうなのはなんといってもお腹が腫れていること。
こないだ足のむくみもなくなってきたと思ったのに
また少しずつむくんでいる気がする。


■10月13日(金)

 白血球は960。少し下がったから心配したけど
 看護婦さんに言わせると1000を切ったと言っても960ですから
 大丈夫ですよ。

 とにかく出血が多い。
 だから輸血も相変わらず大量に続いている。
 アカオさんはそれを心配そうに見ているから
 私はちゃんと説明してあげる。
 貧血気味だから輸血するんだって。
 一回ずつ、血小板だよ、次は赤血球だよ、とその都度説明する。
 だってアカオさんはちゃんと何をどうするかを気にしているし
 ちゃんと見ているんだもの。
 先生や技師や看護婦さんが来るたびに
 目をしっかり見開いて確認しているんだもの。
 今何をしているのか、自分はどういう治療を受けているのか。

 早く帰ろうという叫びは徐々にしなくなった。
 私が
 「しっかりここで治してからだよ。
  ここは病院だよ、優秀なプロの先生達がいるから、
  ここでしっかり治してから帰るよ。中途半端はだめでしょ。」
 そういうと
 我にかえり、しっかりと理解して
 また頑張る!という意思表示をする。


今日は午前中早い時間は穏やかだったけど
正午直前くらいから意識混濁とし痙攣がまた始まった。
また焦点が合わなくなってきた。
2~3日前みたいに戻ったような状態。

朝行ったら口中に血がいっぱいだった。
鼻や喉の血管が傷ついて出血したらしく
血の塊が喉に引っかかっているせいか
呼吸が荒い。
つまり出血をし、血小板が少ないから血が止まりにくい。
で、結果として息苦しくなっている。
輸血はさらに倍の量に増えた。

息苦しさのせいでまるで喘息のように呼吸のたびに音がする。

今日は血漿交換をした。3回目だ。

血漿交換後は少しずつまたしっかりしてきた。
説明すれば理解するし、しっかりと手を握り返してくれる。

とにかく自分の意識はしっかりある。

私はアカオさんの胸に顔をうずめる。

「しっかりしてね!
 きっとアカオさんを助けるからね!
 私がついてるから大丈夫だよ!
 ちゃんと一流の先生にお願いしてるんだから!
 苦しいだろうけど、頑張って乗り切ろうね!!」


アカオさんはきっと私のこの言葉を理解していると思う。
手を握ってくれるし、
私の顔をなでて
「だいじょうぶだよ」そう言っているようだった。

「俺は大丈夫だよ。死なないから。」

きっとそう言って慰めているに違いない。

確かこの日か前日だったか、
「早く帰って寝なさい」って言ってくれていた。

たとえ自分がどんなに苦しくても
優しい気遣いをする、そんな夫でした。


夜は病室の照明も暗くし、二人でゆっくりした。
私は面会の最後の時間8時までそばにいた。
アカオさんは苦しそうで、もう水も飲めない状態だし
本当に苦しそうだし、お腹が張ってとっても辛そうな日が続いている。

意識混濁として不安がって動くけど
「どうしたの?夢を見てたのね?大丈夫?大丈夫だね。」
と言うと
はっと目覚めたように「うん」とうなづいて静かになる。

そういえば白血球が上がってからは痒みはないようだ。
薬で炎症も抑えられ熱もないので
ここ何日かは楽そうだ。
とはいっても苦しそうだけど。



本人は白血球が上がっていることを励みに
頑張っている。
だから感染しないように、という私の呼びかけに忠実に
手を清潔にしたがる。
目や鼻や頭をよく掻いていたけど
目や鼻をいじらないように
無意識に伸びる指を、その直前で押さえたり
自分の中で気をつけている。

数日前から
目の周りが傷ついていた。
乾燥なのか切れている。
で、自分から薬を頼んでいた。
とにかく気をつけている。

この日あたりかちょっと前だったか、
「お腹が痛いから薬を頼んで」って言っていた。

はちきれそうにパンパンに張っているお腹。
本当に怖かった。

14日以降のことは
また落ち着いたら書きます。

とにかく毎日が
明日がわからない、そんな無我夢中の一週間でしたので
記憶が前後しています。



10月10日(火)、主治医から電話で呼ばれる

2006-10-22 22:15:59 | 夫の体調記録
三連休の最後の月曜日の体育の日は、
ゆっくり穏やかにいられた気がしていた。
でもアカオさんは体内で病魔と闘っていた。
苦しいと、ひとことも言わず。

ここのところ午前中のうちに病院に行っていたけど、
翌火曜日の10日、私は店の後処理のことや荷物運びの用事があって
朝から出かけた。早く病院に行きたかったけど
前夜は穏やかだったし
アカオさんも
「たまには早く帰って寝たら」
なんて言ってくれて。。。

荷物を運び終わって午前11時頃、病院に向かうために
バス停でバス待ちしてる間に携帯を見たら
病院からの着信と留守電。
看護婦さんからで
「今日は急変したので
 先生がお話したいことがあるから今日は早めに病院に来てください」
と。
それを聞いた直後に
携帯電話に主治医から電話があった。
急変したというのは意識障害がはっきり現れ
目の焦点も合わないことと、質問への反応も鈍っているという。
肝臓機能の急な悪化のため
血漿交換をしたいのでその説明と同意とのこと。
でも、血漿交換は急ぎたいので詳細説明の前に先に行うこともあるが
それでいいかという確認だったので
「お願いします!」と頼む。

それから一時間後に病院に着いた。
主治医から早速説明を受ける。


■8日の説明では、
移植後16日目の状況としては、

・白血球は280で上がっている

・10/4、キメリズムではドナーが99.8%置き換えられている。

・腎臓は、尿排出も増えているし、腎機能としては横ばい~改善。

・肝臓は、GOT、GPTの数値は10/4がピークだったけど、
 以後は減少しているので良い兆しであったが、
 不安なのはビリルビンの悪化とのこと。
 ビリルビンの数値が高い。
 これが黄疸の原因で意識障害や痒みが出ているとのこと。

・感染; ウイルスは、サイトメガロの他に、HHV-6も少量見られる。
     細菌は今のところ不明だが、抗生剤を使っている状況。

・腸管; 麻痺しているので、座薬を使って便が出るようになって
     改善されている。

    ステロイドを使って炎症を抑えている。


以上が10/8(移植後16日目)の状況説明だった。




■10月10日(移植後18日目)の状況説明では、

・残念ながらビリルビンの高値持続してしまっていて
 →つまりそれは肝不全。。。
        ↓
    肝性脳症で意識レベルの低下。

・腎機能低下で尿毒症
 →尿の流出は良くなっている。


なんといっても今の敵は「ビリルビン」。

そのためにけいれん、筋硬直がある、
意識昏睡、呼吸停止の危険高いとのこと。
   ↓

なので、「血漿交換」をする。

血液の血漿成分を輸血由来の新鮮凍結血漿と交換することで
毒素を除去。
意識レベルをみながら数回施行することもある、
とのことでした。



またまた頭が真っ白に、大きな何かで叩かれた気分です。
せっかく尿も便も良く出るようになり、
白血球も徐々に上がり気味だし、
一時は危なかった腎機能も改善気味だと言うのに!!
腎機能低下の山を乗り越えたと思ったら
今度は肝機能悪化とは!!


数日前から徐々に夢の世界が多くなってるようだったけど
アカオさんの確かな意思は強くしっかりしてたのに、
この日は目の焦点も合わず、そして手は上に上げけいれんし、
足もぶるぶる震えている。
アカオさんの意識はどこへ行ったの?!
なんて、なんてかわいそうな姿、、、。

そしてとても怖がっている。
手を上にあげ何かに怯えているような
何かが見えているようで恐怖に追われているような
そんな姿だった。

血漿交換の準備に2~3時間かかるその間、
意識混濁で焦点も合わずに、
そして手がけいれんしているアカオさんのそばで私は寄り添って
とにかく励ます!

いつものように声をかけ、体をさすり、
寝ている体に私の上半身を近づけ抱き合う。

いつもどおり声をかける。

「だいじょうぶ?!大丈夫よね?!
 アカオさん、しっかりしてね!
 白血球は今日は720に上がってるんだよ!
 でもね、肝臓を自力で頑張ってもらうように
 体内の毒素を出すために
 血漿交換っていうのをこれからするんだって。
 こないだの人工透析みたいな感じだから
 血圧が低下しないようにしっかりみながら3時間くらいやるそうだよ。
 体力残すために、しっかり意識を持って、体力を温存しておいてね。
 頑張ってね!」

あまりに手を動かしてもがいているアカオさん。
だから体力取っておいてよ、と伝えたら
しっかりそれを聞き分けていて、
これから何をする、ということを理解して、
一生懸命、手を動かさないように気を遣っていた。
でもまたけいれんで動いてしまう。
で、また疲れないようにね、と言うと、じっと我慢する。

血漿交換をしている間、
血圧は変わらずにいるので順調のようだ。

血漿交換が終わって少し落ち着いたのか、
焦点もあってきたし、自分の意識もある。
話をすればyes,noは反応するし、
呼びかければちゃんとこちらを見てくれる。

でも自分からは喋りにくそうだ。


肝不全からの意識混濁、、、
まさか自分の夫が、こんな状態になるなんて!!

でも、アカオさんはそれでも
「治すんだ!絶対生き抜く!」という意力が強い。
だから意識混濁で口もあきっぱなし(筋肉硬直)で
体が思うように動かなくて
両手を胸の上にあげてふるわせているけれど
目の焦点もあわせづらいけれど、
でもそれでも看護婦さんが点滴交換にくると
一生懸命そっちの方向に向こうと頑張って動いて
そしてしっかりみつめている。

胸が痛い、、、こんなに闘っている、
「壮絶な闘い」とよく言うけれど
文字通り、いや、文字以上の本当に壮絶な闘いをしている。

この姿を娘に見せるのは辛いかな、
アカオさんも見せたくないだろうし、娘が見たらショックだろうな、
と思ったけど、
夜に娘は病室に来てびっくりしていたし泣いていた。
でもしっかりアカオさんに声をかけて励ましていた。

アカオさんも娘の呼びかけに反応して
うん、うん、とうなづいていた。

そして帰り際、心配そうな娘に優しいまなざしを送っていた。
私にはアカオさんが言いたいことが解る。
言いたいけれど筋肉硬直でうまくたくさんは喋れない。
だから私が言ってあげた。

「大丈夫だよ、お父さんは大丈夫だから心配するな。
 それより子供と旦那を大切にしなさい。お父さんは大丈夫だから
 早く帰りなさい。
 きっとアカオさんは今そう言ってるんだと思うよ」

と言ったら、アカオさんはうなづいていた。

そして面会時間の終わりごろにはもう静かに寝ていたようなので
私達は帰ってきました。



アカオさんは本当に闘っていた。
恐ろしい病魔と、孤独と不安と。。。





 


10月9日の週<1>

2006-10-22 15:37:40 | 夫の体調記録
一つの山を越えることができた。
腎臓機能は横ばい(悪くなってない)ということで
人工透析を月曜日にするかどうかと言っていたが、
結局やらないそうだ。

白血球も9日(月)は500。
CRPは徐々に下がって8.1になった。

この日は二人でのんびりゆっくり過ごした気がする。
もちろんアカオさんは苦しく辛いだろうけど
言葉にはしない。
わりと寝ているが、時々夢と現実を行き来している。

背中が痛いというので
とにかく背中をもんだり、さすったり、
足をさすったり足指をもんだり、
私にできることはそういうことだけ。

白血球が低いのでなるべく頭の近くにはいかないで
足元に近い方に椅子を置いて座るけど、
とにかく今は気をつけながらもそばにいて手を握る。

4日から娘が毎日仕事帰りに寄ってくれるけど
月曜日は穏やかだったので
「三連休の最後くらいは自宅でゆっくりしてていいよ」と
言ってあげた。
でもアカオさんは
「今日は○○は休みか?」と聞く。
娘は出勤してるわけじゃないんだけど、仕事(店の営業)と面会と
ごっちゃになってるのだろうか?夢で。
「うん、今日はお休みだよ。明日来るって」と言ったら
「明日は皆来るのかな?」と言っていた。

んー?どういう意味かな?
明日は皆面会に来るのか?という意味なのか
明日は皆仕事(店)に来て揃うのか?と店の仕事を気にかけているのか?

よく時間を聞いたりする。
「今、六時だよ」
「今日は弁当(の注文)入ってなかったか?」
「うん、入ってないよ」
「あー、良かった」
と言って安心して寝てた。
お客様の予約注文の弁当の仕込みができてないから
焦ったのだろう。
そんなふうに仕事の夢をよく見ている。


このまま腎臓もよくなって、肝臓が悪化しないで、
白血球が上がってくれれば、、、
それだけを祈りながら
私はアカオさんの体をさすっている。

ステロイド治療をしてるので
熱はないので楽そうだ。
お腹は相変わらずパンパンにはって苦しそうだけど。

手も足も体も温かい。口内炎がひどくて可哀想だけど。

食事は一切とっていない。だから体はみるみる細くなっているし
筋力もなくなっている。
お腹だけが膨らんで、足先もむくんでいる。

主治医の先生は今月になってずっと休みなくいてくれる。
毎日病状説明をしてくれるし、一日に何度も病室に診察にきてくれる。

尿も便も出ていて、状況はいいそうだ。






もしかしたら、、と言われた週の様子

2006-10-22 00:28:14 | 夫の体調記録
4日(水)に近親者が集まってから
明日が読めない深刻な日々でしたが、
アカオさんの強い意志はしっかり保てているし
明るい兆しさえ感じた。
それが証拠に腎機能も改善気味とのことで
尿も便もよく出ている。


相変わらず腹水がたまったままで
お腹がパンパンに腫れているのが心配。
そのために呼吸も圧迫されて苦しそうだし、
横になることすら辛く苦しい(当然一人では横になれない)。

この週は、意識が朦朧とする中、私に
「早く!早く!・・・」

「早く、帰ろう。早く支度して。早くしないと!!
 こんなところにいたら病気になっちゃうよ。
 早くして、早くぅ~・・・」

「なにやってるんだよ!なんでわからないんだよ!
 早く帰ろう!早くして!」

ひたすら焦っていた。
それも必死な顔で。
自分は焦って早くここから出て行こうとしたいのに
私が何もしないことがもどかしそうで
目を三角にして泣きながら怒っていた。
それも自分が動きたいのに動けない。
体力がないからベッドの手すりを必死に持って
自力で体を起こそうとするのに
それさえできない自分へのもどかしさ。
そのために悲しそうに「なんでこんなに言ってるのに解らないんだ、
早く帰らないと・・」と必死に訴えかけてくる。

何が【早く】なのか?

たぶん
早くお店を開けなければ、という意味と
早くトイレに行きたい(もよおしそうだから早くトイレを)という知らせと
早く家に帰ろう、という3つの【早く】を言っていたのかもしれない。

病魔が体内で襲ってくるのが本能で感じるのだろうか、
このまま無抵抗のままでは病魔にやられてしまうから
早く逃げよう、というそんな必死な姿だった。そんな気がする。

その泣きじゃくりながら「早くぅ~」という訴えが
日に日に必死に、日に日に強くあらわれてきた。
でも、それは私と二人でいるときだけだ。
看護婦さんや先生が来ると
急に静かになって穏やかにしている。

早く逃げようというのがばれないように、
病院側に気を遣っているのだろう、きっと。
つまり早く病室から逃げたいのは必死なんだろう。
妻の私にだから本心のわがままを言うのだろう。


ある時、とても興奮して「早く!」ともがき訴えるので
酸素が少なくなったらしく
看護婦さんが飛んできて
「アカオさん!どうしましたか?!」と聞かれたら
駄々をこねているのをふだんは気を遣って隠しているのに見られたからか、
「この人がうるさいんですぅ~」と
人差し指を突き刺して私を指した。
「おいおい、私のせいかよー?」と
思わず笑ってしまうお茶目なことをしてくれた。

ある時は、「早くぅ」ともがきながら訴えていたのに
主治医が来たとたん
何事もなかったように急におとなしくなって
両手を胸の上に当て、穏やかな顔で寝たふりをした。
模範患者のような静かな安らかな顔をして。
「おーい。。。まったく先生の前ではいい子しちゃってぇ!」と
思わず笑ってしまう。



それは肝不全に近い症状のために徐々に脳に襲ってくる意識障害が
体で恐怖となりわかるのだろうか、
自分の意識があるうちに、必死に私に訴えているようでもあった。

4日、危ないかもと先生に言われてから
翌日から不安な思いで病院に早く行っていたけど、
日に日に自分の意思はしっかりしている気もする。
だからもしかしてよくなる兆しかと安堵するくらいだった。
でもその意識が保てる時間が少なくなってきている、一日一日と。
夢を見ているような、うなされている時間が長くなってきている。
でも、その合間に表れる自分の意識は確かでしっかりした気力であった。
なぜなら
「大丈夫?!アカオさん!!」と言うと
「大丈夫だよ」としっかりしていた。
それに
看護婦さんが点滴や輸血を取替えに来る時も
しっかり名前を確認するし、しっかり返事するし
薬を取り替えているところも
目を見開いてしっかり見ている。


主治医が来るとその説明をしっかり聞いている。


そういえば5日に、

肝臓は薬のせいでダメージを受けているから
薬を抑えていきます。
という主治医の説明を私がアカオさんに伝えた。
肝機能が自力でアップするように
頑張ろうね!と添えて。

看護婦さんもそばにいたせいか
アカオさんがその後に言ったセリフは

「薬はいかんぞう」(薬はよくないよ)

これってダジャレ(オヤジギャグってやつですか?)です。。。


苦しいっていうのに
こんな時までいつものダジャレを言うなんて!!

思わず嬉しくなってしまいました。
やっぱりしっかりしてるじゃないか!!
アカオさんはなんて強いんだ!



それから、土曜日か日曜日だったように思うけど
主治医からの話では
体内では抹消血ではすでにドナーの細胞がほとんどになっていると聞いた。
つまりアカオさんの悪い細胞はほぼ消えて、
ドナーの新しいきれいな細胞が抹消血にある、という
嬉しいニュースだった。
あとは、そのドナーの新しい造血細胞が
アカオさんの体内で活性化してくれればいい、という
その待ちの状態だ。

その説明をした後
主治医も病室に来てくれて
アカオさんに直接説明してくれた。

そしたらアカオさんは
先生をしっかりみつめ、
「ドナーの臍帯血がアカオさんの体内にほとんど広まって
 アカオさんの血はなくなっていますよ」
という先生の話に耳をすまし、真剣によく聞いていて、
「そうですかー。赤ちゃんの血がなくなったんですかー。」と
きちんと先生に復唱して確認で聞いた。
口内炎のために言葉がはっきりしないのと、
意識障害の影響で話が難しかったのか勘違いしてたので
先生が
「違いますよ。赤ちゃんの血が増えて
 元々あったアカオさんの悪い細胞はなくなってますよ」
と言ってさらに説明を加えていた。

アカオさんはうなづきながら必死に先生の話を
丁寧にきちんとしっかり聞いていた。

その一生懸命に先生の話を理解しようとする姿が
なんとも可愛らしく、またなんともせつなく思えた。

だけど、意識障害が出始めてるといわれたのに
それでもこんなにしっかりしてる。
「病気を治すんだ!」だから治療のことや体の状態について
 しっかり確認しながら毎日必死で闘っている。
だから点滴や薬が変わるときも
しっかり見ながら必死で見ていた。
自分は何をされてしまうんだろう、
しっかり薬や治療法を確かめながら、自分を守るために。


それにしても大量の種類の薬、強い薬、
本当にかわいそうになる。
どれだけ体内が荒れ、辛いことなんだろうか。
どうにしもしてあげらないもどかしさ。
かわいそうだけど、医学に治療を預けた以上
この治療法を続けなければならない、
でも化学の薬は、本当に恐ろしいほど体内に強い。
もうかわいそう、やめて欲しい、そう思う気持ちを必死で私は抑えた。

助けてあげるってどういうことなんだろう。
でも今はこの方法で助けてあげるしかない。

そんなことを言い聞かせながら
苦しそうなアカオさんのそばにいることしかできない。

ずっと寝てるだけで
自力で横向きにもなれないアカオさん。
すっかり弱まって筋力も衰えた手で
必死でベッドの手すりをつかんで
少しでも体を横にするその動きが見ていて辛い。
そして私は、痛いという背中をさすってあげるしかできない。

そういえばこの週や翌週の前半には
体が痒いといってずっと常に体をかいていた。
物凄く痒いんだそうだ。

主治医に聞くと
それも肝不全の影響かもしれない、と言っていた。
あとで看護婦さんが言っていたのは
白血球が上がる時は痒がる患者さんが多いです、とも。


6日(金)は3回目の人工透析だったけど
この日は人工透析の技師さんがニコニコした優しい顔の男性で
時々優しく声をかけてくれる人だったので
終わり際に「ではアカオさん、お疲れ様でした~」
と退室しようとしたら
アカオさんも
「バイバイ」とニコニコして手を振ったりしていた。

可愛かった。


徐々に意識障害が強く出始めているんだけど
土日月の三連休はわりと平穏だった。