令和6年度 第4回「中村青史賞」を受賞して
永田満徳
このたび、令和6年度第4回「中村青史賞」を頂き、身の引き締まる思いです。選考頂いた「くまもと文化振興会」の理事の方々に心よりお礼申し上げます。
「くまもと文化振興会」の顧問である中村青史先生は2019年に徳富兄弟、夏目漱石、小泉八雲ら熊本ゆかりの文学者についての様々な顕彰活動が認められ、「熊日賞」を受賞されました。それをもとに、 2020 年に創設されたのが「中村青史賞」です。「中村青史賞」はその年に熊本の文化芸術面において貢献した者へ贈られています。
中村青史先生との出会いはかれこれ40年ほど前、大学出たてのころです。「熊本歴史科学研究会」の永野守人氏の家に呼ばれて行ったときに初めてお目にかかりました。その席で、中村先生に「文学研究を続けたい」と思いを述べたところ、「熊本には誰でも入れる『熊本近代文学研究会』があり、代表の首藤基澄先生に紹介しよう」となりました。
「熊本近代文学研究会」は月一の研究発表と機関誌「方位」の寄稿という車の両輪で行われていました。私はそこで、夏目漱石や木下順二、小泉八雲などを研究発表したり、寄稿したりしました。熊本の文学者を扱った単行本『熊本の文学』(審美社)では三好達治、蓮田善明、三島由紀夫を担当しました。熊本カルチャーセンターの「熊本の文学」講座の12講座やその他の講話の基になったもので、貴重な財産となっています。
また、首藤基澄先生には俳句を勧められ、現在、首藤先生が創立された俳誌「火神」主宰や俳人協会幹事、俳人協会熊本県支部長を任され、第二句集『肥後の城』(文学の森 令和3年9月)では熊本の風土を詠み込んだものとして、第15回「文學の森大賞」(令和5年)を頂くまでになりました。
それもこれも、中村青史先生の紹介がなければ今日の私の熊本ゆかりの文学研究はないと思っています。
中村青史先生は熊本出身の文学者の顕彰の会を数多く立ち上げて来られました。中村先生の傍にいると、熊本の文学がじかに感じられて、中村先生から推挙、または勧誘頂いた熊本の文学顕彰会にはすべて加入しました。
中村青史先生は「熊本文化懇話会(文学)」の会員や「熊本アイルランド協会」の理事の推挙の理由を「若い君が頑張れ」とおっしゃって励まされました。私を育てようというお気持に感謝の言葉もありません。「徳永直の会」「熊本・蘆花の会」は中村先生が会長を退かれる際に相談があり、知り合いを紹介したり、仲介を務めたりしました。私をそれほど信任して頂いたことに胸が熱くなる思いでした。
このように、中村青史先生に愛弟子のように育てて頂いた私にとって、中村先生の冠のある賞を頂き、大きな喜びです。中村先生のご遺志を引き継いで、熊本文学の研究・顕彰に努めていくことが中村先生の御恩に報いることであると思っています。
今後は、「中村青史賞」の受賞を励みに、熊本の文学研究・顕彰はもとより、俳句創作においては、夏目漱石の言葉とされる「俳句はレトリックの煎じ詰めたもの」に倣い、連想はもとより、オノマトペ・擬人法・同化などを駆使して、ますます多様な表現に挑戦して行くつもりです。そうすることによって、漱石俳句を継承し、並びに正岡子規の新派俳句を熊本にもたらした夏目漱石の顕彰に努めたいと思っています。
(ながた みつのり/俳誌「火神」主宰 熊本近代文学研究会会員)