【永田満徳(みつのり)】 日本俳句協会副会長 俳人協会幹事 俳人協会熊本県支部長 「文学の森」ZOOM俳句教室講師

火神主宰 俳句大学学長 Haïku Column代表 「秋麗」同人 未来図賞/文學の森大賞/中村青史賞

季語で一句 (54) ~ 『くまがわ春秋』2024年5月号(第98号)~

2024年05月15日 16時47分20秒 | 月刊誌「くまがわ春秋」

俳句大学投句欄よりお知らせ!

 

〜 季語で一句 (54)   〜

 

◆『くまがわ春秋』2024年5月号(第98号)が発行されました。

◆Facebook「俳句大学投句欄」で、毎週の週末に募集しているページからの転載です。

◆お求めは下記までご連絡下さい。

 ・info@hitoyoshi.co.jp 

 ☎ 0966-23-3759

 

永田満徳:選評・野島正則:季語説明

季語で一句(R6.5月号)

 

(かわず《かはづ》)    「春―動物」 

 

辻井市郎

  •  

蛙鳴く月月火水木金金

【永田満徳評】

「蛙」は田に水が張られるころ、雄は雌を求めて、さかんに鳴き始める。日曜・土曜がない意の「月月火水木金金」という言葉を昼夜の別なく鳴き続ける「蛙」の生態に応用しているところがおもしろい。  

【季語の説明】

「蛙」は脊椎動物の両生類の仲間。日本には5科42種のカエルが生息している。動いている生き物を探して舌で捕まえて食べている。「かえる」は日常語として、「かわず」は歌語として言い分けられてきた。皮膚呼吸しているために、土の中に染み込んでいる水分や夜露、沼、たまり水などで体の湿り気を補っている。

 

土筆(つくし)         「春―植物」   

 

西村楊子

  •  

ままごとのママは忙しつくしんぼ

【永田満徳評】

「つくしんぼ」は「土筆」のこと。「つくしんぼ」を材料にしながら、家族に見立て、家庭を模した「ままごと」遊びをしている情景。日頃、忙しい母の口真似をして、周りの子どもたちに差配しているところがいい。        

【季語の説明】

「土筆」はシダ植物の仲間。「スギナ」という植物の一部分で、早春に芽を出す胞子茎のこと。胞子を飛ばして子孫を残す役割がある。土筆狩りも子供の遊びであり、春の風物詩。日当たりのよい草原や田畑、道路わき、土手など身近な場所でも見つけられる。「土筆」は土に刺した筆のような姿から名付けられた。            

 

白魚(しらうお《しらうを》)   「春―植物」

 

岩永靜代

  •  

ひらがなで歌ふをさな子花菫

【永田満徳評】 

童謡かなんかを口ずさみながら「花菫」摘みを楽しんでいる情景であろう。「ひらがなで歌ふ」という措辞によって、白い菫の花言葉のように、あどけなく、無邪気な「をさな子」の様子がうまく表現されている。               

【季語の説明】

「菫」は日当たりのよい草地や田畑のわき、堤防、道端などに自生している多年草である。女性の名前に使われるくらい可愛らしい草花。小ぶりで落ち着いた色の花を咲かせる姿とは裏腹に、強健な植物である。東アジアの温帯に広く分布し、日本中どこでも見かける。松尾芭蕉や夏目漱石が俳句の題材にしている。

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〜 季語で一句 (50】 〜 『くまがわ春秋』2024年1月号(第94号)

2024年01月04日 00時59分12秒 | 月刊誌「くまがわ春秋」
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〜 季語で一句 (50】 〜
 
◆『くまがわ春秋』2024年1月号(第94号)が発行されました。
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永田満徳:選評・野島正則:季語説明
 
季語で一句(R6.1月号)
 
炭(すみ) 「冬-生活」
中野千秋
子に託すものの幾つか炭をつぐ
【永田満徳評】
炭起こし、炭つぎのある生活は丁寧に暮らす日本文化そのものだった。ご先祖が「炭をつぐ」ように、家風を代々引き続きながら、次に「子に託すものの幾つか」をしみじみと考えているところがいい。 
【季語の説明】
「炭」は木炭のことで、木材から水蒸気やガスが抜けて炭素のみが残ったもの。炭を起こすことを〈つぐ〉という。火の種が途切れないように継ぐのである。石油や都市ガスなどが普及するまでは木炭・練炭・炭団などが火鉢・炬燵などの暖房火源であった。上質炭が用いられる茶道の炭には枝炭、花炭などがある。
 
おでん(おでん)      「冬-生活」
古賀寛昭
ぶるるんとほろほろと食ぶおでんかな
【永田満徳評】
「おでん」はおでん屋や屋台が独自の味付けで人気を競っている。「ぶるるん」「ほろほろ」のオノマトペを有効に使って、大根やこんにゃく、ゆで卵などの具材をおいしく食べている様子がうまく表現されている。       
【季語の説明】
「おでん」は日本料理のうち、煮物の一種で、鍋料理にも分類される 。鰹節と昆布でとった出汁、種と呼ばれる様々な具材を入れて長時間煮込む。おでん種としては薩摩揚げ、はんぺん、焼きちくわ、つみれ、こんにゃく、大根、芋、がんもどき 、牛すじ、ゆで卵、厚揚げなどの他、地域の特色のあるおでん種、味付けがある。
 
冬木(ふゆき)       「冬―植物」 
Anikó Papp(ハンガリー)
親密な静寂の中に冬木かな
【永田満徳評】 
「冬木」と言ったら、葉の落ちた木のほうが冬木の感じが色濃い。葉を落ち尽くし、錯綜とした枝だらけの状態は「親密」であり、物音の途絶えた森閑とした冬木立の周辺の様子は「静寂」そのものである。           
【季語の説明】
「冬木」とは常緑樹、落葉樹を問わず、樹木の冬の景。しんと静まりかえった冬木立だけの世界は冬ならではの風景である。俳句ではどちらの樹木でも冬木、冬木立として詠む。葉をすべて落とした落葉樹は寒々しくもあり、淋しくもある。葉をつけたままの常緑樹は鬱蒼とした姿で冬を乗り切る姿が凛々しく見える。
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〜 季語で一句 (49) 〜『くまがわ春秋』2023年12月号(第93号)

2023年12月01日 20時57分25秒 | 月刊誌「くまがわ春秋」
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〜 季語で一句 (49) 〜
 
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永田満徳:選評・野島正則:季語説明
季語で一句(R5.12月号)
 
行く秋(ゆくあき)     「秋-時候」
 
檜鼻幹男
行く秋や二行書きては破る文
【永田満徳評】
「書きては」の助詞「は」の使い方がポイント。「二行」書いたところで、何度も、「文」を破っているのである。名残惜しい気持の行く秋と、心残りのする恋文とをうまく取り合わせていて、心惹かれる。
【季語の説明】
「行く秋」は「秋去る」とともに、過ぎさってゆく秋のことで、秋から冬へと移ろい行くさま。秋の季節の終わりを指す。去り行く秋を見送る思いがこもり、寂寥感に満ちて、秋を惜しむ気持が現れた季語。移ろい行く季節を、旅人になぞらえて「行く」と形容するが、春と秋だけのもので、「行く夏」「行く冬」とはいわない。
 
 
後の月(のちのつき)     「秋―天文」
 
中野千秋
身の飾り外してよりの十三夜
【永田満徳評】
服飾を着飾った時よりも、「身の飾り外して」、くつろいだ時の気持の良さを表現している。名月とは違った趣向の「十三夜」と取り合わせることによって、余裕のある、粋な女性を表現したところがいい。
【季語の説明】
「十三夜」は「十五夜」に次いで美しい月とされていて、栗や豆の収穫期に当たるため、「栗名月」「豆名月」と呼ばれる。十三夜は旧暦の9月13日で、現代の暦では年ごとに異なる。十三夜の月を鑑賞するという風習があるのは日本独自のもの。名月とは違った趣を楽しもうという日本人独特の美意識が働いている。
 
 
狐(きつね)        「冬―動物」
 
西村楊子
ふさふさの尾をひたひたと銀狐
【永田満徳評】 
「銀狐」は銀色に輝く毛並みで、モフモフ毛に長い尻尾が特徴。雪原の上、前足の跡に後ろ足を乗せて、一本のラインを残しながら歩く。オノマトペだけを使って、銀狐の尻尾と歩行の特徴を見事に描いている。
【季語の説明】
「狐」はイヌ科の中でも群れを作らず、食性は雑食で、毛や耳の長さによって異なる種類がある。人を化かす動物と考えられたり、稲荷神社の神の使として信仰されたりしている。狐は女はもちろん、妖怪、灯籠、馬や猫に化けるほか、雨(狐の嫁入り)や雪の自然現象を起こすなど、バリエーションに富んでいる。
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〜 季語で一句 (48)〜『くまがわ春秋』2023年11月号(第92号)

2023年11月01日 20時42分37秒 | 月刊誌「くまがわ春秋」
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季語で一句(R4.11月号)
 

鵙(もず)            「秋-動物」

 

牧内登志雄

  •  

真言の山渡りゆく鵙の声

【永田満徳評】

「鵙の声」は鵙が木のてっぺんなどで鋭く鳴く声。「真言の山」とは真言宗の高野山金剛峯寺のような山であろう。「鵙の声」が山の中を「真言」の読経のように鳴き渡る宗教の山の雰囲気がよく描かれている。

【季語の説明】

「鵙」は農耕地や林緑、川畔林などに生息。小さな体でありながらも肉食性で、鷹のように鋭い鉤状の嘴を持つ。生け垣などのとがった小枝や、有刺鉄線のトゲなどに、バッタやカエルなどの獲物を串ざしにする変わった習性があり、「鵙の贄」と呼ぶ。江戸時代は凶鳥で、鵙が鳴く夜は死人が出ると信じられていた。

 

甘藷(さつまいも)        「秋―植物」

 

外波山チハル

  •  

甘諸食ふ口角あげてはひふへほ 

【永田満徳評】

「甘諸」は栽培しやすく、高い栄養で健康食材。秋も深まり、寒い季節になると食べたくなるものはふかしたての甘諸である。「はひふへほ」にはいかにも美味しそうに食べている様子がうまく描かれている。

【季語の説明】

「甘藷」は漢名で、薩摩芋のこと。唐芋・琉球薯などとも呼ばれる。17世紀に琉球から薩摩へ伝わり、薩摩地方でよく栽培されて、生産量は鹿児島県が全国1位で特産品である。青木昆陽は栽培を関東に普及させ、大飢饉で多くの人々の命を救った。日本では数十種類が栽培され、新しい品種も次々誕生している。

 

菊(きく)           「秋―植物」

 

茂木寿夫

  •  

残照や菊置かれある事故現場 

【永田満徳評】 

「菊」は「霊薬」であるといわれ、延寿の効があると信じられていた。何らかの「事故」で亡くなった「現場」に「菊」が手向けられている情景だろう。秋の「残照」が慰霊するかのように照り渡っている。

【季語の説明】

「菊」はキク科の多年草。日本の秋を代表する菊。皇室の紋にも使用されている。菊には延命長寿の滋液があるとされて、平安時代に宮廷で菊酒を賜る行事が行われた。原産は中国で、不老不死の薬草、縁起の良い植物として扱われている。菊は竹、梅、蘭と並んで、四君子と呼ばれ、美しく尊い花となっている。

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〜 季語で一句 (47)〜『くまがわ春秋』2023年10月号(第91号)

2023年10月02日 20時14分48秒 | 月刊誌「くまがわ春秋」
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〜 季語で一句 (47)〜
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永田満徳:選評・野島正則:季語説明
季語で一句(R5.10月号)
 
二百十日(にひゃくとおか《にひやくとをか》)  「秋-時候」
大工原一彦
汚染から処理へと変はる水厄日
【永田満徳評】
稲の開花期に、台風が襲来することもあって、「厄日」とされている。原発事故による「汚染水」を処理して、「処理水」と呼んでいることへの違和感をうまく「厄日」という季語と取り合わせて詠んでいる。
【季語の説明】
立春から数えて二百十日目。日付ではおよそ9月1日ごろ。厳しい暑さも和らぎ、秋へ向けて過ごしやすくなる。しかし、台風の多い日、風の強い日といわれ、稲の開花期にもあたることから、この日を無事に過ぎてほしいという農家の願いから「厄日」ともいわれている。
別れ烏(わかれからす)    「秋―動物」
大工原一彦
子別れ烏相続税か贈与税
【永田満徳評】
「烏の子別れ」は 親との別れが遅く、秋に単独で飛んでいるのを「別れ烏」「烏の子別れ」とも言う。財産を相続、贈与することは「烏の子別れ」の儀式に似ていて、「別れ烏」とうまく取り合わせている。
【季語の説明】
一般的な鳥は巣立ちが親子の別れとされる。烏の子は巣立ちから群れで行動することが多く、親との別れが遅くなるという。秋に単独で飛んでいる烏に対して、「親や子と別れた烏」と見なし、「烏の子別れ」として季語にしている。烏は一夫一婦制の動物で、1度つがいになると、生涯そのペアが解消されることはない。
蜩(ひぐらし)        「秋―動物」
佐竹康志
蜩のやがて汀の音となる 
【永田満徳評】 
「蜩」は夕暮れ時に特によく鳴く。秋の夕方に鳴く蜩の声にはひときわ味わい深い。澄んだ鈴を振るような声でカナカナと鳴く「蜩」の特徴的な声が「汀の音」に重なるという表現に詩的な感性を感じる。
【季語の説明】
「蜩」という名の通り、夕暮れに特に鳴く蟬。日本ではその鳴き声から カナカナ 、 カナカナ蟬 などとも呼ばれる。すでに晩夏から鳴き出し、夕暮れに限らず、明け方に鳴くこともある。夏の終わり頃の朝夕に聞く蜩の声は、一種の哀調のある声が遠くまで響き、他の蟬とは違って、秋の気配を少しながら感じさせてくれる。
 
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