中川輝光の眼

アトリエから見えてくる情景
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アルノルト・ベックリンの「ペスト」

2008-06-09 | 美術を考える

アルノルト・ベックリンの「ペスト」

 こうもりの翼をもつ獣にまたがる「死霊」が、人々の日常を一変させる。宗教的な意味あいがあるのか、姿の見えない「ペスト」への恐怖なのか(この絵は「ペスト」というタイトルがついている)、絵のほんとうの制作意図が学生のころにはよくわからなかった。ベックリンは世紀末象徴主義の画家ですから、このような宗教的な場面を借りてきて、時代の閉塞感をできるだけ「明瞭なイメージ」で表現したのだろうと推察するにとどめておいた。いわゆる、美術史的な理解しかなかった。ところが、不意に「彼のこの絵」がわたしの脳裏の奥深いところから浮かび上がってきたのです。昨日の悲惨な事件、『秋葉原の通り魔事件』がよみがえらしたのです。「狂気」が忍び寄る時代といえばそれまでですが、寓意画のイメージが時代を超えて現実味を持つことがある。あまりに「劇場的な事件」であり、あまりに「軽薄な精神」をさらしている、このような犯罪は実に醜いものです。この寓意は決して『病』ではない、だからこそ蔓延しないでほしいのです。崇高で「美しい精神」が浸透していかないのには、いつの時代にもそれなりに「訳」があるのです。だからこそわたしたちは、醜いものからも決して眼をそらしてはいけません。

 

 

 



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