My Life After MIT Sloan

組織と個人のグローバル化から、イノベーション、起業家育成、技術経営まで。

事業を経営する上で一番大切なこと

2010-08-16 11:08:51 | 7. その他ビジネス・社会

事業を経営する上で一番大切なことは何か?とよく聞かれる。

いろいろあるが、まずは「その事業が成功する要件は何か?」という問いにすぐに答えられることだと思う。
事業を成功させるために何が必要か、はっきり分かっていれば、それを達成するためにやるべきことは明快に見えるからだ。
事業の成功要件(「成功の鍵」、KFS = Key For Successとも言う)は複数あっても良いが、それぞれひとことで簡単に答えられるほど良い。
やるべきことがより明確になるからだ。

例えば、ある菓子事業の成功要件が「ある一定数のリードユーザに支援してもらうこと(そうすれば後は口コミなどで自然と全体に広がる)」だとすれば、
やるべきことは、そのリードユーザとなる顧客層がどこにいるのか探すこと、
その顧客層に受け入れられる製品開発やマーケティングを行うこと、になる。
それ以外のことをやっても、直接成功にはつながらない。

あるいは、ボトルウォーター事業(いわゆるミネラルウォーター)の成功要件が、
「水源探索や採取、ロジスティクスなどスケールメリットが効くコストを下げること」だと考えられるとしよう。
すると買収などを繰り返してでも、スケールメリットが効くサイズまで事業を拡大する、
水源探索やロジスティクスなどはブランド共通で行いスケールメリットを効かす、がやるべきこととなる。

もし、その分野で成功(大きな利益を得て会社が成長)するために、必要な用件を明確に理解しておらず、事業を複雑に考えていると、成功に全くつながらない無駄なことをたくさんしてしまうかもしれない。

例えば小売業などで、「立地の良い場所に店舗を置くこと」が圧倒的に重要な成功の鍵であれば、
とにかく駅などの立地の良い場所を確保することがまずやるべきことだ。
これを理解せず、立地が悪いのに、良い店員を雇うとか、店員教育に金をかける、をやっても売上増につながらず、無駄な投資となる。

あるいは家電製品などで、成功の鍵が「デザイン性の高い製品を開発すること」だと明確に分かってるなら、
良いデザインチームを採用し、デザインを優先した製品開発がやるべきことだ。
デザインが悪いままで、技術に多額の投資をして、スペックだけは良いがデザインが悪い製品を出しても、売れずに無駄な投資になる。

失敗する人ほど、「成功要件なんてそんなに簡単じゃないんだよ」というが、
何をすれば分からず、成功につながらない無駄な投資をいろいろやって損している可能性がある。

「成功要件」、「成功の鍵」を上に書いたようなレベルまでひとことで表しきれるまで、事業を理解するのは確かに簡単なことではない。
複雑な事業ほど難しく、時代による顧客の変化や競合の動きによって、刻々と変わっていったりする。
しかし難しいのは確かだが、これを認識しないと、上に書いたように無駄な打ち手をたくさん行うことになりかねないわけで、まず最初にやるべきことだと思う。

事業分析というのは、この視点で行うことが重要になる。
例えば良くある3C分析(顧客、競合、自社の分析)など、「この事業の成功の鍵は何なのか」ということに答えるために行う。
分析も調査も、ただ闇雲にたくさんやっても意味のある結論は何も出てこない。
儲かる顧客はどこにいて、どういうニーズに答えることがこの業界の成功の鍵なのか、
成功してる競合は、何故成功できているのかと言う問いを立てて、それに答える形で分析するのが大事。
MBAとかでいろんな分析方法を学んでも、こういう本質的なことが分かってないと、全く意味が無いのになぁ、と思う。
これからある分野で起業しようと思っている人や、ある分野での事業を任されてる人は、これが明確に見えていることが大切だと本当に思う。

などと偉そうなことを書いてみたけど、人生の成功の鍵とか、恋愛の成功の鍵とかになるとてっきり何だか分からなくなることも多い筆者でした(笑)

追記: Twitterで書きましたが、もし自分が経営者で、始めた事業の「成功の鍵」が何をやっても見えないなら、早々に撤退するというのも一つの手です。
ウォーレン・バフェットが絶対にIT系に投資しないのも同じで、自分を理解するのは大切。
または、「成功の鍵」が見える、信頼できる他人に任せる、という方法もあります。

一方人生とは、「成功の鍵」が見えなくても撤退できないし、人にも任せられないのが難しいところです(笑)

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12 Comments

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (HW)
2010-08-21 01:52:54
事業に成功する要件が実行する前からそんなに明確にわかるんだろうか。
もっと偶然的な要素もあるし、後から分析してみると合理的だっというのはあっても、それを実行する前には、なかなかわからないのでは?
ホンダのアメリカ進出とか、有名な話ですよね。
http://ihope.jp/2009/05/11100454.html
もっと情報が不明確な状態で、それでも解にたどりつく可能性をあげる術というか行動指針のようなものが必要なのでは?
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Unknown (ライト)
2010-08-19 09:11:47
細かいようですけどFACTOR抜けてませんか?
KEY FACTOR for SUCCESS
興味深いブログですね。更新楽しみにしてます。
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異なる難しさ (dolphin)
2010-08-18 07:49:02
ビジネスの理論は全く知らない(理系の)人間です.あと,このような場所に書き込むの初めてなので,どきどきしています (-.-;;

人生と恋愛の「成功の鍵」について.

outernationjpさんが書かれていたことと,近くはあるのですが.人生の「成功要件」が分析しにくいのは,「成功」をきちんと定義できないからではないかと思いました.もしくは,はっきりとは定義できない人が多いからと.「お金儲け」が「人生の成功」とはっきり言える人は,成功要件の分析も比較的容易で,その実現も可能かもしれません.しかし,多くの人はそれだけじゃないとか思うため,分析も難しく,実現に結びつく効率的な手を打てないのかもと.
「お金儲け」と「自分および家族の健康」と「心が豊かな時間を持つこと」と…,自分の「人生の成功」は何かを列挙して「切り離して」分析したらなんとかなるのでしょうかね.

恋愛の方は「成功」の定義は比較的容易でも,「成功要件」の分析自体が難しいのだと思いました.対象の特性がブラックボックスな部分が多く分析しきれないのだと.その場合,ビジネスの場合には「調査」ということになるのでしょうか.工学の分野では,対象の特性が不明な場合には,インパルス入力やステップ入力といった典型的な入力を入れて出力を観察するという手法を用います.ビジネスや恋愛にこれが適用可能かは知りません….
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blog (新聞)
2010-08-17 15:27:52
新聞・通信社などが配信する経済の時事情報のヘッドラインサービス。
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商才のある人 (yumemakura)
2010-08-17 15:15:04
昔から、世の中には商売っ気のある人とか商才のある人とかがいる。彼らは人に教えられなくても機を見るに敏で、そういう人はなんとなく目の光が違う。

話は変わるが、今、地方の昔からある商店街は世の中の変化に取り残され、ひどいものだが、流通の革命的変化とか経済の仕組みの変化、グローバル化など、政界、官界、学界、経済界のリーダーたちは対応策を打てなかったのだろうか。
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理論と実践の違い (yugo)
2010-08-17 15:08:03
何が、KFSかをすぐ答えられる状態になった企業は、イノベーションのジレンマ一歩手前なのだと理解しています。

実際の企業運営においては、何がKFSなのかの仮説を持ち、検証を重ねることしかできません。

アレだろうか、コレだろうか、多分そうじゃないかな~。でもソレも大事だよなぁ。と悩み苦しんでいるのが実際の経営者です。

問題は、同時多発的に手を打っているので、本当のKFSが何だったのかしっかりとした検証できないこと。


製品を出してから、消費者に聞いたら、思いもよらぬものがKFSだと気が付く。即座に、その方向に方向転換をする。それが成功の法則だと思っています。

大企業は、巨艦だからこそ方向転換が難しい。その転換先がスマートな方向じゃなかったら、事実を無視する。
もしくは、過ぎ去ったKFSに固執する。

だからこそ、衰退するのだと思っています。
ベンチャー経営者的には、ありがたいことですが。






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Unknown (Lilac)
2010-08-17 09:49:55
@YSJournalさん
そう、KFSの重要さは企業参謀にも書いてありますよね。コンサルティング業界の好きな言葉ではありますし。

大前研一のこの本は私も好きな本の一つで、YSJournalさんよりは頻度高く、スーパーボールくらいの頻度で読んでますが(笑)MBA留学してから読み直してからは、彼のすごさがわかり、かみ締めて読みました。
そのうち書こうと思いますが、彼は普通の中小企業の経営者や起業家も含めた一般の経営者の悩みをよく理解してその視点で書いてるんですよね。
経営コンサルティングファームにいると大企業を対象とすることが多いので、ちょっと違う事業経営感覚になります(昔南場智子氏が「コンサルにいても、起業は出来ないと言ってた話に近いです)が、大前氏は普通の事業感覚をずっと持ち合わせて仕事をしていたということが分かってきて新鮮でした。
(そういうことが分かってきただけ自分はMBAに行ったのは良かったな、と思いましたが)

@Outernationjpさん
そうですね、おっしゃるとおり、特に日本の事業者さんは従業員満足とかその他いろいろな要素にがんじがらめになって「成功の定義」自体がやりにくい、という方もいるかもしれません。
こういうときは、「会社」と「事業」を切り離して、事業の成功を定義すれば良いんですけどね。
定義がうまくいかないときは、「切り離す」のが定石。
本人が課題に巻き込まれているときは、これが非常に難しいのですが。
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Unknown (outernationjp)
2010-08-17 01:38:51
成功を「大きな利益を得て会社(ないし事業)が成長」と定義なさってますが、そもそも経営者の方の中には「成功の定義」が明確でない(ぼやぼやとしたイメージはあるけど、言語化された具体的なものに落としきれていない)のではないでしょうか。

成功の要件に頭を巡らせる際に、成功の定義が曖昧な状態(自分では自明だと思い込んでいる)だと要件を要素分解する際に「あれもこれも」と一緒くたに載せ込んでしまうと、それを解きほぐすのに時間がかかったり、あるいはKFSを導くための分析ツールにふりまわされたりするように見えるようなことがままあります。

ビジネスの世界に24/7で経営者の方とじっくり話し込んだ経験はなく、あくまで講演やインタビュー記事ないしケース教材等から受ける印象論に過ぎませんが・・・。
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『企業参謀』大前研一著 (ysjournal)
2010-08-17 00:20:45
Lilacさん、お久しぶりです。
KFSの事を初めてお目にしたのは、この本のででした。(1975年出版、私が読んだのは1995年位(?))いつも本棚に置いてあり、オリンピックくらいの頻度で呼んでます。

KFS については、基本的には簡単な事なのに、理解出来実戦出来る人がいかに少ないかを示している気がします。(自分の例外ではなく)いくら教えても、実戦出来る人は一定の割合しかいない様な気もします。(理解無しでやる人がいたりするので、それも面白い所です。)

KFS以外に、1970年を境に日本が低成長期に入ったという分析の方が、バブル、ロストディケート(ドの方が的確か)を考える上で役に立つと思います。1975年に考えていた事が驚異的です。そして、当たっている事がまた凄い。

今後の中国等を考える上で参考になると思います。(日本の将来を考える上では、役に立たないかも。)

改めて、大前研一の凄さと大失望(彼の国を思う気持は真摯だと思います。但し最近は諦観気味ですが)に思いが行きます。

古い本ですが、読んで損はないと思います。
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そんなに悲観しなくても・・・ (Lilac)
2010-08-16 21:06:36
@Woodさん
>>「その事業が成功する要件は何か?」まで分析する気はほとんど無いでしょう。というよりあえて「優先度を付ける判断をしない」としか思えない状況に陥っている経営陣・事業長は多いと思います。


私は、実際にはその気はあるし、何とかしたいのだが、どうやればよいのか分からんという人が多いんじゃないかと。
または、日々のやるべきことに忙殺されて、そういう視点で物事を見れなくなってるのかな、と思います。
本当に「その場を適当にごまかせればよい」なんていう価値観を持ってる人は経営層には殆どいない、というのが私の数少ない経験からの見立てですが・・。

もし、Woodさんが書かれているようにその場最適で良いみたいな価値観の人が本当に評価されて出世するような組織は、長期的には崩壊してしまうでしょう。
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Unknown (dai)
2010-08-16 20:21:29
でた~。
MBA取得した人の理論自慢!

もうかなりの経営者がの人が言っていることだけど(ユニクロの柳井さんとか)MBAってあまり役にたたないよ。

とにかく自分は体動かさないくせに、人に命令ばっかすんだよなあいつら。
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全部一番大事 (wood)
2010-08-16 12:54:15
本社を訪問すると「お客様第一」、工場を訪問すると「品質第一」それから工場の現場に行くと「安全第一」。どれも第一。そんな企業が多いと思います。

このような状況が普通の中で
>「その事業が成功する要件は何か?」
まで分析する気はほとんど無いでしょう。というよりあえて「優先度を付ける判断をしない」としか思えない状況に陥っている経営陣・事業長は多いと思います。

>失敗する人ほど、「成功要件なんてそんなに簡単じゃないんだよ」というが、

同意いたします。決断は責任が生じて難しいと思います。まぁ彼らは部下の失敗を許しませんからね。部下は成功するより失敗するなということになっているのがorz。

>分析も調査も、ただ闇雲にたくさんやっても意味のある結論は何も出てこない。

これは上司や経営層やバイヤーを説得する資料で「本当のこと」はどうでもいいんです。つまみ食いをして「売れる」ような資料を作るのが目的ですから。
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