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品川女子学院再建エピソード【第1回】

2013年11月24日 00時35分04秒 | 学習支援・研究
わずか7年間で入学希望者60倍、
偏差値20アップ!
知られざる品川女子学院再建エピソード

【第1回】

東京都にある品川女子学院は1925(大正14)年創立の中高一貫校だ。
一時期、中1の生徒が5人という危機的な状況に陥ったが、
1989年から始まった総合的学校改革により
7年間で入学希望者数が60倍、偏差値が20ポイント上昇した。
そうした学校改革の中心にいるのが
創立者の曾孫にあたる6代目校長・漆(うるし)紫穂子氏だ。
「カンブリア宮殿」ほかメディアに登場する機会も多く、
豊富なエピソードを交えた学校教育、家庭教育、
コミュニケーションスキル、組織運営についての発言は、
子育て世代はもとよりビジネスパーソンなどからも
幅広く支持を集めている。

『伸びる子の育て方』の刊行にあたり、
そのエッセンスを6回に分けて語ってもらった。
連載初回は、学校改革の過程で起こったいくつかのエピソードを通じ、
漆校長が大切にしてきたものを紹介する。

学校は卒業生の故郷


漆 紫穂子(うるし・しほこ)
1925年創立、中高一貫の品川女子学院の6代目校長。
わずか7年間で入学希望者が60倍、偏差値が20上昇。
「28プロジェクト」は生徒たちの心にスイッチを入れた。
世界経済フォーラム(通称ダボス会議)東アジア会議にも出席。
2012年国際トライアスロン連合(ITU)世界選手権スペイン年齢別部門16位で完走。
年齢別部門の日本代表に選抜。
著書に『女の子が幸せになる子育て』など。
現場教員歴約30年の講演は、お母さんだけでなく、
お父さんにも大きな反響を呼んでいる。

品川女子学院は、私の曾祖母が1925(大正14)年に設立した学校です。
戦後、高校卒業後すぐに家庭人としても社会人としても一人前になれるようにと、
厳しいしつけ教育を行ってきましたが、
変化していく時代への対応が遅れ、
次第に志願者が減っていきました。

私は、大学卒業後、別の学校で国語教師をしていましたが、
あるとき、実家の学校が経営危機にあるという事実を知り、
愕然としました。

ほぼ同時に副校長をしていた母が病におかされ、
余命半年と宣告されたこともあって、
学校の再建に携わる決意を固めました。

そのころ、80歳を超える卒業生から言われた言葉が、
いまも忘れられません。

「卒業後、子育て、戦争、舅(しゅうと)の介護と日々の生活に追われ、
初めて同窓会に出られたときは涙が出た。
戦争で家が焼け、親兄弟もすでにこの世にいない。
私の故郷はここしかない。どうか母校を守ってほしい」

学校は、卒業生にとっての故郷です。
卒業生の母校を守りたい。
その一心で学校改革を始めました。

まず、取り組んだのは情報収集です。
同じような状況から再建を果たした学校の校長先生や、
塾の関係者を訪ねては、教えを請いました。
「手遅れ」と言われ、落ち込んだこともありますが、
「大丈夫、いまできる目の前のことを一つひとつやっているうちは潰れないから」
という言葉に勇気づけられました。

教職員や生徒の意見もたくさん聞いて回りました。
そして、プロジェクトチームごとにさまざまな改革を実行。
校舎の建て替え、校名の変更ほか、
生徒が喜ぶデザインに制服も一新。
授業改革も行い、大学進学にシフトしたカリキュラムに変更しました。
広報活動も強化した結果、翌年から志願者は倍増。
7年後にはのべ2,000人近くになりました。

人が動かない4つの理由

改革を進めていく過程で、反発を受けることもありました。
そのときの経験から、何かを変えようとするとき、
人が動いてくれない理由には、大きく分けて4つあることを学びました。

1つめは「知らない」という理由。
そもそも、なぜ改革が必要なのか知らないのです。
私は別の学校にいて外から本校を見ていましたが、
内部にいると自分のことはわからないものです。
そこで、一緒に外に出かけて、
危機感や改革の必要性を共有していきました。

2つめは「怖い」という理由。
子どもの安全を守る使命のある学校は、
保守的になりがちです。
失敗して責任を取るのが怖いという気持ちは
どうしても起こります。
しかし私は、「やるリスク」より「やらないリスク」のほうが
ずっと大きい
と感じています。
子どもの羽ばたく社会はどんどん変化していきますから。
そこで、何を怖いと思っているのかを聞いて、
その「怖い絵」を一緒に見て解決方法を考えました。

3つめは「面倒くさい」という理由。
改革とは、いままでと違うことをするということ。
その手間に目がいくと、面倒くさくなってしまいます。
そんなとき、人は「プロセス」を見ています。
そこで私は、「もし、うまくいったら生徒はどうかな」と、
成果に目が行くような声がけで、
ゴールイメージを共有するようにしました。

最後は「その人のことが嫌い」という理由。
嫌いな人の言うことは、内容がどうあれ、反対したいのが人間の心理。私はこれで大失敗しました。
他校からやってきた若い教員という立場を忘れ、
それまでの事情もわかっていないのに
生意気な発言をしてしまったのです。
人間関係の修復には、多大な時間がかかります。
改革においては、決して過去を否定してはいけない
ということを学びました。

合言葉は「6割GO」

学校改革において私たちが常に意識してきたのは、スピードです。
生徒のためにいいと思ったことは、すぐに実行に移してきました。
学校は、大切なお子さんを預かる場所ですから、
何事も慎重に進める必要があります。
教員側から見ると、急ぎすぎて問題が生じるより
時間をかけてじっくりと準備をしたほうが安心です。
けれど、生徒から見るとどうでしょう?
新しい取り組みを次年度に先送りした場合、
いまの生徒に恩恵はありません。

成長期の生徒にとって、その1年は二度と戻ってこない貴重な時間です。
そのタイミングでしか吸収できないこともあるのです。
ですから本校では、安全性だけはきちんと確保したうえで、
6割くらい準備ができたらチャレンジしてしまいます。
本校では、「6割GO」が合言葉です。

たとえば、中3の修学旅行。
体験型の旅行にするため行き先をイギリスから
ニュージーランドに変えた最初の年のこと。
生徒全員が数日間のホームステイを体験し、
大変好評で、翌年も6泊8日の旅程で準備を進めていました。

そんなとき、学校に遊びにきていた卒業生たちに、
たまたま「在学中、役に立った行事は何?」と尋ねたところ、
口々に「語学研修」という答えが返ってきました。
語学研修は、修学旅行とは別のプログラムです。
別途費用がかかるため、参加者は全体の1~2割だったのに、
「よかった行事」に挙げる子の割合が高いことに驚きました。

数日後、職員室で立ち話をしていたらこの話題になり、
「もっと多くの子に体験させたいよね」
「費用の問題がネックだね」
「では、修学旅行と語学研修をドッキングさせるっていうのは?」
というアイデアが出ました。
修学旅行の費用のほとんどは渡航費です。
希望者をそのまま滞在させて語学研修のプログラムを受けられるようにすれば、
その分が浮くというものです。
そのことで多くの生徒にチャンスが広がります。
ただ、この案が出たのは年度の途中であり、
旅行会社への予約、費用の積み立てなど準備は半ば終わっていましたので、
次の年度の可能性として検討することにしました。
ところが、調べを進めていくうち、もしかすると
最短で前倒しできるかもという絵が見えてきました。
日程変更に伴う調整は大変なことでしたが、
当該学年のスタッフは前向きでした。
「生徒の将来のために大きな意義がある」という一点で実施を決め、
旅行会社や航空会社も、異例の協力をしてくれることになりました。
そこで、保護者の皆さんに緊急の説明会を開きました。

説明会前は、「急なので反対が多いかもしれない。
それであれば次年度から」と思っていました。
しかし、結果的には9割以上のご家庭が、
オプションの語学研修プログラムを選ぶことになりました。
なかには、うちでも語学研修が受けさせられると、
涙を流して喜んでくださったお母さんや、
「ぜひ行きたいので、自分の貯金も投入します」という生徒もいました。

ありがたかったのは、オプションを選択しなかった親御さんや
生徒から、反対が出なかったことです。
「うちは都合で行かせられないけれど、
学校の考え方には賛成です」と言ってくださる方もいました。
本校がいまも「6割GO」の精神で前に進めるのは、
こうしたご家庭の理解があるからです。

失敗したら目的に戻る

本校では、生徒が企業と商品開発をしたり、
社会貢献について学んだりする「企業とのコラボレーション」を実施しています。
以前、アパレル企業の協力のもと、
制服の靴下をつくるというプロジェクトがありました。

企画から校内のプロモーションまで任されていた委員の生徒たちが、
全校生徒から意見を聞くという説明会を企画しました。
委員の生徒たちは事前に説明会の告知を行いましたが、
当日、説明会にほとんど人が集まりませんでした。
その様子を見ていた私は、これからどうするのだろうかと、
やりとりを横で聞いていました。

ある委員は、「説明会の告知もしたのだし、
やるべきことはやったから、このままでいいんじゃない?」と言いました。
すると、別の生徒が「ちょっと待ってよ。
この説明会の目的って何だった?」と発言しました。
「この会は、みんなの意見を吸い上げるためにやったんだよね。
たしかに説明会は開催したけれど、人が集まらず、
みんなの意見は吸い上げられていない。
目的は達成できていないんだから、やり方を変えて、
もう一度やったほうがいいんじゃないのかな」

この言葉に、他の生徒も賛同して、
最終的に「じゃあ、みんなに謝って、もう1回やろうか」という話になりました。
このやりとりを横で聞きながら、私はとてもうれしく思いました。
失敗したことをごまかしたり、うやむやにしたりせず、
本来の目標や価値は何かということに立ち戻り、実行してくれたからです。

私たちも学校改革の過程で何度も失敗をしました。
しかし、そんなときも、目指すべき目標や
価値観に向かってチャレンジし続けてきました。
そして、その挑戦が失敗して、生徒に謝罪する場面もありました。

本校の生徒たちは、
「やらない後悔よりやる後悔」
「失敗のあるところにノウハウはたまっていく」
のだから、「考える前にまず行動」
とよく言っています。

次回は11月25日更新予定です。

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