徒然なるままに。

徒然に小話を載せたり載せなかったり。

glance at ~ (~をちらりと見る)

2006年02月25日 | ゴーストハント
「…………」
 視線をモニターからちらりと移して見たものの有様に、麻衣はそちらに視線を向けたことを酷く後悔した。

 怖い。めっちゃ怖い。
 真っ黒な不機嫌オーラが今にも見えてきそうな勢いだ。
 しかも霊が出ているわけでもないのに、心なしか寒い。絶対に気温が下がっている。
 いつもは何の感情も移さない秀麗な顔が、今は唇に薄く笑みを貼り付けている――ただし、口元だけ。目は勿論笑っていない。
 それが、余計に……怖い。

 麻衣はさりげなく、本当にさりげなく、彼――ナルから一歩ずつ遠ざかった。
 触らぬ神ならぬ、触らぬナルに祟り無し。
 よほど先程の霊の態度が気にくわなかったらしい。ナルのプライドは富士山よりもエベレストよりも高い。

――なんで今ここ(ベース)には他に誰もいないんだっっ!

 心内で叫んでも、今は出払ってしまっているイレギュラーズが戻ってくる気配はない。
 普段機材の前に陣取っているリンは仮眠中だ。

 誰か、来てくれないかなあ……

 二人っきりなのは嬉しいけれど、でもこんな二人っきりは遠慮願いたい。
 ナルとは反対の方向に顔を向けて、麻衣は遠い目をしてみた。

give rise to ~ (~を引き起こす)

2006年02月10日 | G.A.
 彼女――ランファの親友、ミルフィーユ・桜葉を一言で言い表すとすれば、『強運の持ち主』であることは、ミルフィーユを知るものなら誰もが知っていることだ。
 この場合の『強運』というのはつまり、読んで時の如く『運が強い』を意味している。
 幸運と凶運のどちらも、他の人にはあり得ない高い確率で引いてしまうのだ。

 そもそも――、とランファは肩で息をしながら考える。
 ミルフィーユに初めてあったときからそうだった。
 忘れもしない、皇国士官学校の入学式の朝、例によって例の如くトラブっていたミルフィーユを何故だか放っておけずにいたら、初っぱなから遅刻してしまった。
 野外訓練の時に、絶滅したと思われていた動物に偶然出くわしたこともあった。
 エンジェル隊に就任するときも、≪白き月≫へ向かうシャトルがトラブルを起こして運休になってしまったし――結局この時は遅刻せずに済んだのだが、その代わり荷物がパアになった。

 もしかしてもしかしなくても、エンジェル隊の中では一番、ランファがミルフィーユの強運に巻き込まれているに違いない。
 だから今もこうして、予定外に走り回る羽目になっているのだ。

「ランファ~、だいじょうぶ~~?」

 隣を見ると、同じく肩で息をしながら地面にへたり込んでいるミルフィーユが、それでも心配そうにランファを見ていた。

 ああ、だから。
 きっとランファは、彼女の親友であることをやめたりはしない。

give in to (~に降参する)

2006年02月01日 | スレイヤーズ
「私も行きたいです」

 濃紺の瞳がじっと自分を見つめて、断固とした口調で言った。




 この町の近くに、大昔のある偉大な魔道士の屋敷跡があるという。
 今では大部分が崩れ落ちてしまっているが、地下室は未だ健在であるらしい。
 だが魔道士の屋敷の常、崩れかけた今でも数々のトラップがあり、行くのはやめた方が良いとその屋敷の話をした老人は言った。

 駄目だ、と言おうとして言葉に詰まる。
 濃紺の瞳がじっと自分を見つめて――睨んで――いる。

 どうせこの様子では、駄目だといってもついて来るに決まっている。

「…………好きにしろ。自分の身は自分で守れよ」
「はいっ!」

 そうは言っても、いざとなったら身を挺してしまうに違いないのだが。