徒然なるままに。

徒然に小話を載せたり載せなかったり。

猫かぶりの恋

2009年10月17日 | その他
 好きな人に少しでも良く見られたい、って思うのは、女の子として(いや、男の人だってそうだろうけれど)当然だと思う。なんでもいい、どんなことでもいい、少しでも相手の目に魅力的に見えるように、好意を抱いて貰えるように努力して、そうしてあわよくば、どうか好きになって欲しい。
 ほかの動物だって、異性に好意を抱いて貰えるように、涙ぐましい努力をするのだ。名前は覚えてないけれど、いつだったかテレビで見た鳥や魚やアフリカはサバンナの動物は、様々な方法でそれはもう必死にアピールしていた。いわんや同じ動物の人間をや。
 だけどそれと猫を被る、というのとでは、ちょっと何かが違うように思うのは、私の気のせいではないはずだ。
 たぶん。
「……ねえ、さっきの私、大丈夫だった? 変じゃなかった?」
「大丈夫だいじょうぶ、変じゃない変じゃない」
「何その気のない返事。私真面目に聞いてるのに!」
 そう言って頬をふくらませる友人は、私流に言わせて貰えば、完全に「女の子モード」だ。
 まず、服装からして違う。以前はジーンズを穿いていることもあったのに、最近はスカートばかりだ。化粧にも余念がないし、爪はピカピカに磨いてあるし、立ち居振る舞いも以前に比べたらはるかに気を遣っている。言葉遣いも幾分柔らかくなった。
 つまり、とにかく全体的に「女の子」なのだ。
「そんなに心配しなくてもさ、普通にしてればいいじゃん」
「それは、……そうかも、しれないけど」
 ああもう、どうしてくれよう、この子。
 恋は女を変える。
 彼女と友人になって久しいけれど、つくづくそう思う。服装とか体型だとか、目に見える変化が出るのは私だって当然だと思う。だけど、変えなくていい部分だってあるのではないだろうか。
「まあ、あんたの場合、無意識なんだろうけど」
 本来の彼女は、O型らしく、良い意味で大雑把な性格をしている。最近は恋する乙女モードが入っているけれど、普段が女の子らしくないというわけではなくて、逆にそういうところが好ましいと私は思っているのだが。
 そんな彼女は、好きな相手を前にすると、それこそ借りてきた猫のように大人しくなる。特大の猫を肩に乗せて(少なくとも私にはそう見える)、顔を赤くして、必死になって出来るだけおしとやかに振る舞おうとするので、見ているこちらが時々あなたちょっといったいどちら様、と思わず聞きたくなるほどだ。
 どうしてもそう振る舞ってしまう、無意識レベルの行動なんだろうとうことは傍(はた)で見ていて判るけれど、その努力は、決まっていつも彼女自身によって台無しにされる。特大の猫の化けの皮もむなしく、だんだんボロが出てくるのだ。
 対する相手のほうは、必死に取り繕った状態の彼女ばかりを見ていて、それが「彼女」なのだと思っているわけで。まぁ、あまり上手くいったためしはない。
 ボロが出た、というか、本来の彼女がにじみ出てきてしまったわけだけど、素の彼女を好きにならないなんて、見る目のない奴らだ。
「あんたさ、猫被るの、やめたら?」
「えぇえ? 無理。無理無理無理」
 ……そんな力いっぱい否定しなくても。
「やめようと思ってやめられるもんなら、とっくにやめてる。不可抗力」
 そこまで言うか。
「でもさあ、あんたいっつもその特大の猫被って、それでも上手くいってないじゃん」
 彼女はそれを言わないでよう、と耳をふさぐふりをする。
「猫被るのがんばってやめて、素のあんたを好きになってもらいなよ」
「……私、ブスだもん」
「まーたそれを言う。あんたの弟は捻くれてて素直じゃないだけだ」
 なんでも彼女、大学に入るまでずっと、一つ下の弟にブスブス言われてきたらしい。なんて弟だ。会う機会があったら一発殴りたい、もちろんグーで。女の子のガラスのハートをなんと心得る。
「あんたは可愛いよ。ちゃんとオシャレだって化粧だって頑張ってるじゃん。ダイエットだってやってるんでしょ」
 とどのつまり、彼女は自分に自信がないのだ。ブスだデブだ言われてきたせいでネガティブになっている。だから好きな相手を前にしても、本当の自分を曝け出すことができない。
「ううう、でも」
「今までも言ってきたけど、素のあんたを見て、それで幻滅するような奴は見る目がないんだから」
「……それってさ、友達の欲目とか言わない?」
「言わない。むしろ猫被ってるあんたが寒い」
「……心が痛い……」
 胸元をおさえて、さめざめと泣くふりをする彼女を見ながら、私は一つため息をつく。
 なんだかなぁ。
 本当に、私は彼女は可愛いと思うし、いい子だと思うのだけど。これで上手くいかないのだから、世の中何か間違ってる。
 願わくば、ありのままの彼女を受け入れてくれる白馬の王子様(寒っ)が、いつか彼女の前に現れてくれますように。――いや、彼女の好きな彼が、本当の彼女を好きになってくれますように。





講義で書いたショート。
他の人が書いたエッセイをもとに小説を書く、というものでした。

御曹司の憂鬱

2009年07月18日 | 少年陰陽師
 某月某日。藤原家の長男、藤原頼通(18)の機嫌は大変悪かった。
「頼通。そんな顔をしていると、そのうち眉間の皺がとれなくなってしまうわ」
 向かいで紅茶を飲む5つ上の姉が心配そうに言うのを、彼はむっすりとした表情のままクッキーを口に放り込んだ。
「……お父さんは、なんて?」
 先ほど父に呼ばれていたのも知っているらしい。
 もぐもぐとクッキーを飲み込んで、紅茶で流した。
「見合いしろって」
「え」
 姉の瞳がまんまるになった。21になった姉は相変わらず美人だ。
「だから。俺に見合いの話が来ているから、会ってこいって」
「……まあ」
 藤原家は、簡単に言ってしまえば金持ちだ。父は藤原グループのトップにいるし、彼はその跡取り。
 その見合いをする本人がまだ高校生である事実をさっ引いても、見合いの話があってもおかしくはない家柄である。
「……今、うちってそういえばお金持ちだったのね、て再認識してしまったわ」
「………姉さん」
 それもどうなんだろうか。
「だって、今までお見合いの話だなんてなかったじゃない」
「それはまあ確かに」
 おそらくというか確実に、見合い話が確実に実行される話として子供に来たのは初めてだ。年齢順として順当にいけば、彼よりも3つ年上の長女・彰子にも見合い話が来ていてもおかしくはないにもかかわらず。
 しかし。
「父さんが姉さんに見合い話を持ってくるわけがないじゃない」
「あら、どうして?」
「だって姉さん、見合いしたって、それがどんなにいい人でも断るでしょ。断るのが分かり切ってるのに、見合い話を姉さんに持って行くほど父さんも暇じゃないよ」
 だから、今回彼のところに見合い話が来たのが「初めて」、なのだ。
「……………………それは、まぁ、そうなのだけど……」
 白い頬を染めて、姉はなにやら紅茶をぐるぐるとかき混ぜ始めた。
 その姿を見つめながら、彼は一つ息をついた。
 そう。
 例え姉が、見合いをしたとしても―――その話を受けるはずがないのだ。
 姉には昔から、そう、それこそ生まれた頃から、正式ではないものの、両家公認というか暗黙の事実というか、そんな許嫁同然の、相思相愛の幼馴染みがいるのだ。
 自他共に認めるシスコンの彼にとっては忌々しい限りではあるけれども。
 そもそもが、父は姉の幼馴染みを―――安倍昌浩を、とっても、それはもの凄く気に入っているのだ。父の頭の中には、そもそも姉に見合いを持って行くことそのこと自体がないに違いない。姉は、そのうち安倍家に嫁いでいくものと―――
(………やめよう。)
 眉間に更に皺が寄ったのを自覚して、彼は己の思考をストップさせた。
「そういえば、その、見合いのお相手の話は聞いたの?」
「え? ああ……聞いたよ。確か、高倉の長女って」
「高倉? じゃあ、隆子さんね」
「……知ってるの?」
「ええ。気だての良いお嬢さんよ。確かあなたより2つ下だったはずだけれど」
(高1か……)
 彼が今高3だから、そういうことになる。
 良いところの家柄に生まれた宿命とはいえ、見合い。まだ高校生だというのに、見合い。
 確かに今、とりたて付き合っている彼女がいるわけでもないのだが―――
(見合いか…)
 どうしてこの言葉は、こんなにも気分を落ち込ませる効果があるのだろうかと、もう一つ頼通は息をついた。

 ちなみに。
 後日行われた見合いの席で逢った高倉隆子と、彼が後々本当に結婚することになるとは―――今は誰も思いもしない。




現代パラレル。


カタコイ

2008年03月08日 | G.A.
 同僚に好きな人ができた。
 お相手は先日新しくこの艦の副司令官になった、レスター・クールダラス。美形で有能で、確かに格好いい。友人が熱を上げるのも頷ける。口調はちょっときついけれど、悪い人ではない。ココは友人の恋を、微笑ましく応援していた。
 女心に疎い人であるため、成就というゴールはとても遠そうだと思いながら。

「ねーえ、ココぉー」

 せっかくの非番だというのにココの部屋にやってきたアルモは、クッションを抱えてカーペットの上をごろごろとしている。

「なあにー?」

 ココは宇宙通販のカタログを眺めながら生返事を返した。どうせ報われない片思いの愚痴だろう。
 先ほど煎れたお茶を口に含む。

「ココはぁー、好きな人とか、いないのー?」

 危うくお茶を吹き出すところだった。

「……、………、ど、どうしたの、アルモ。藪から棒に」
「ん~~~。特に深い理由はないけどー。そういえば、ココはどうなのかなあって」
「どう、って……」

 ココはもう一度お茶を口に含んで、飲み下す。ふう、と息をついた。

「アルモと違って、好きな人なんていないわよ」
「えー、ホントに~~?」
「って言われてもねえ……、言うまでもないことだけど、アルモ。このエルシオールには男の人なんてほとんどいないでしょう。その状況で、整備班みたいにアイドルグループに熱を上げる以外で、どうやって男の人を好きになれっていうの」
「まあ、そうだけど……」

 ココたちが乗るこの艦、儀礼艦エルシオールは本来≪白き月≫に属する艦で、その乗組員たちはそのほとんどが≪月の巫女≫達で構成されている。もちろん≪月の巫女≫達は女性だけである上に、軍属ですらない。アルモは勿論、ココもだ。
 例外はこの艦の艦長と副館長、そしてトランスバール皇国が誇るムーンエンジェル隊だけだ。

「一応、いるじゃない。男の人」
「……念のために聞くけど、それはクールダラス副司令のことじゃないわよね、もちろん」
「えーと、うーんと、………マイヤーズ司令とか?」

 ココは大きくため息をついた。

「冗談。そりゃあ、マイヤーズ司令は悪い人ではないけど……、恋人のいる人を好きになってどうするの」

 そうだ。彼には恋人がいる。
 彼と彼女がいかに真摯に互いを想い合っているか、ココは知っている。そばで見ていたから。
 けれども彼自身のことは、ココは好ましく思っていた。

「そうだよねえ。ごめーん」

 小さく肩をすくめてみせて、ココはカタログを閉じた―――。





「コ……、ココ?」

 ぽん、と軽く肩を叩かれて、ココは我に返った。

「――――、あ……」

 見ると、上司―――タクト・マイヤーズがココをのぞき込んでいる。

「目が覚めたかい?」
「す、すみません、司令……」

 赤くなって謝罪すると、タクトはにこりと笑った。

「気にしなくていいよ。でも眠るならちゃんと部屋に戻って寝た方が良い。ココは今非番だろう?」
「すみません……、休む前にしておきたいことがあったので。でも、居眠りしてたんじゃ意味ないですよね」
「それだけ疲れてるんだろう。何せ、こういう事態は四年ぶりだからね」
「そうですね……」

 ココは苦笑して、眼鏡をなおした。
 ふとデスクの時計をみて、首をかしげる。

「司令はどうなさったんですか? 司令こそお休みになったんじゃ……」
「―――ああ」

 タクトの表情が翳って、視線がスクリーンに注がれる。
 否―――ほんとうに見つめているのは、スクリーンのその遥か先だろうか。

「そのつもりだったんだけどね……、寝付けなかったもんだから」

 ココははっとして、拳を握った。
 そうだった。
 今、彼女―――今ではタクトの妻となったミルフィーユとは、最後の通信がとぎれて以来、連絡のつかない状態なのだ。
 その上、かつてのエンジェル隊・フォルテの突然のクーデター。
 閉じられた「ABSOLUTE」のゲート。
 彼はどんなにか今、心を痛めているのだろう―――。

 つきん、と痛む胸を無視して、ココはデスクから立ち上がった。

「司令」
「ん……?」
「ミルフィーユさんなら、大丈夫ですよ。―――絶対です」

 何せ彼女は、幸運の女神なのだから。

「うん―――、ありがとう、ココ」
「いいえ。では、私は休みます。司令もちゃんと休んでくださいね?」
「ああ」

 ブリッジから出て、エレベーターに乗る。居住区へのボタンを押して、ココは壁によりかかった。
 先ほどの、無理して笑うタクトの表情が、胸に切なかった。









 ごうん、と衝撃がルクシオールを襲った。


「シ、シールド、出力限界値に到達! しばらくしのげます!」

 念のためシートベルトをつけておいて良かったと思いながら報告を続けて、ココは息をのんだ。
 シートベルトをつけず、それどころかシートにも座らず立って命令を飛ばしていたタクトは、今の衝撃で体勢を崩したのかブリッジの床に倒れ込んでしまっていた。

「マイヤーズ司令!」
「くっ…。あ…、だ、大丈夫だ!」

 どこが大丈夫だというのか―――ココは起きあがったタクトを見て青ざめた。タクトは左手で頭を押さえていて、その手の間から赤いものが見えた。――出血している。
 早く手当をとココが思わず言いかける前に、タクトからの命令が飛んだ。

「合体してる紋章機に呼びかけを! ど、同時にカズヤを呼び出して…」
「りょ、了解」

 ココは唇をかんで、カズヤ・シラナミ少尉をを呼び出した。同時に紋章機にも呼びかける。

「こちら戦艦ルクシオール! 応答を願います!」

 呼びかけに応えて、自称トレジャーハンターの海賊の少女の顔がスクリーンに映し出される。

「すぐにシャトルで人を向かわせる…、で、できれば、君もこっちに来てくれると…、助かるんだけど…」
「いま補助スラスターしか動かねえんだよ! そっち行くったってノロノロだぜ!?」

 負傷のせいか、タクトの口調が辿々しいものになっている。
 ああ早く、お願い手当を、とココが思う間にも、タクトとアニスの会話は続く。

「わかった、そっちに行けばいいんだな!? 行くぞ!」
「カ・カズヤ、聞いてただろ……? シャトルで向かって、くれ……。ブレイブハートを守るん……、だ……」
「司令……っ!」

 どさ、とタクトが力尽きて崩れ落ちる音に、ココは耐えきれずそばに駆け寄った。倒れたタクトを膝に抱え上げる。タクトの意識はない。

「司令!? マイヤーズ司令!?」

 ココは通信機に向かって叫んだ。
 そうでもしていないと、自分が泣き喚いてしまいそうだった。

「カズヤ君! 命令が聞こえなかったの!?」

 タクトに出会って以来、ココはタクトのオペレーターとしてずっと働いてきた。そして今では、事実上の彼の副官だ。
 ならば彼の意識がない今、この場を仕切るのは誰だ―――他でもない、この自分だ。

「タクトさんは心配ないわ。早く行って!」

 慌ててカズヤが格納庫へ向かい、通信が切れる。ココはすかさず別の場所へ呼びかけら。

「ブリッジより医務室……!」

 最優先で衛生兵を呼び出し、ココは一息ついた。
 じきに衛生兵がやってきて、タクトを治療してくれるだろう。

「司令、しっかり……」

 タクトを抱く腕に、ぎゅ、と無意識に力が入る。
 こんなに恐ろしい、と思ったのは初めての経験だった。
 今まで色んな、それこそ本当にこれまでか、というような事態にだって遭ったことはあったけれど。

「大尉、司令は……」

 様子を窺っていたクルーが尋ねてくる。
 無理に表情を動かして笑ってみせると、ココはカズヤの状況について聞き返した。

「シラナミ少尉は現在、シャトル内です。じきに出発です」
「そう……」

 ココはポケットからハンカチを取り出し、タクトの顔を拭いた。
 傷口に触れないように気をつけながら、そういえば、と先ほどのことを思い返す。

「はじめてかもね……」

 彼を「タクトさん」と呼んだのは。
 タクトは貴族出身で、しかも軍人であるにもかかわらず、堅苦しいことが嫌いだった。
 彼は以前の艦―――エルシオールに着任するとすぐ、自分の流儀を周囲に押し通した。階級ではなく名前で呼ぶように、と。
 エンジェル隊は皆名前で呼んでいたけれど、クルーの殆どは「マイヤーズ司令」と呼んでいたから、もちろんココも「タクトさん」と呼んだことはなかった。
 ブリッジではココとタクトの代わりに、クルー達が状況を報告してくれている。けれども衛生兵がやってくるまでは、それまでは、―――どうかこのままで。

(―――ああ、)

 意識を失ったタクトの頬を撫で、ココは目を伏せた。
 気づきそうで、気づかないように、ずっと避けていたけれど―――いつの間にか、こんなにも、この人のことが。

(ミルフィーユさんがいるのに)

 仕事はサボるし、女の子が大好きだし、ちゃらんぽらんだけれど。

(でも、―――私は)

 ブリッジの扉が開いた。衛生兵がかけこんでくる。

「司令の容態は!」
「最初の攻撃の際に頭を打って、出血が―――。すみません、司令をお願いします」

 タクトを衛生兵に託し、自分のシートへ戻る。
 シートの情報スクリーンを見ると、ちょうどシャトルがブレイブハートと合体した紋章機に接近するところだった。
 傷口の応急処置を終えた衛生兵が、タクトを担架に乗せる。

「それでは、司令を医務室へ運びます」
「お願いします―――」

 シャトルから真空へ出たカズヤが、紋章機に移ろうとしている。
 指示を飛ばしていたココ達クルーはそれでも一瞬作業を止めると、ブリッジを出る衛生兵を見送った。

(あなたが―――)





 やっとのことで突入した時空ゲートは、タクト達を「ABSOLUTE」に導いただけで閉じてしまった。
 ルクシオールと紋章機だけでは心許ないが、なってしまったものは仕方がない。再結集したムーンエンジェル隊が、ミルフィーユ救出のためにシャトルでセントラルグロウブに向かうことになった。

「フォルテ達もシャトルで待機してくれ」
「あいよ! みんな、いくよ!」

 エンジェル隊達が、タクトにそれぞれ声をかけながらブリッジを出て行く。
 今は敵影の姿は感知できないが、遅かれ早かれ敵はやってくるだろう。

「……ココ」
「はい」
「サポート、しっかり頼むよ」

 今の自分を友人が―――アルモが見たら、どう言うだろう。
 アルモよりも報われない片恋をした自分を。

 けれども、想いを自覚してしまったからといって、ココにはそれをどうこうしよう、という気持ちは全くなかった。タクトとミルフィーユの夫婦仲は十分すぎるほどに知っていたし、何よりココはミルフィーユのことも好きで、2人が幸せそうにしているのを見るのも好きだった。
 ミルフィーユを想うタクトを見ると、少しだけ胸が痛むのも事実だけれども。
 でも。

「―――、任せてください」

 彼の副官として、この場で役に立てること、それだけで十分だとも思うのだ。
 だから――――――



「ココ! 艦底部セカンドブリッジへ!」

 ココは思わず司令官席を振り返った。
 この戦艦ルクシオールは主翼部と艦底部とに分離することが可能であり、セカンドブリッジはまさしくその艦底部を運営するためだけのブリッジだ。

「…………。了解!」

 進行方向にはEDENゲート。セカンドブリッジ。
 タクトの意図はすぐにわかった。ココの指がシート上を踊る。

「セカンドブリッジ起動! 向かいます!」
「ミルフィーをヴェレルに渡すことだけは絶対に避けなければならない。何が何でも逃げ延びるんだ。いいな、ココ」
「はい……!」
「お互い身軽になるはずだ……。そっちはスピード。こっちは機動力で勝負。後ろは任せてくれ」

 エルシオールを離れ、タクトについてルクシオールに来て軍属となったとき、少しでも役に立ちたくて、猛勉強をして操縦資格を取った。
 彼の役に立ちたい。
 ただ、それだけだ。

「わかりました……。マイヤーズ司令、ご武運を!」

 この想いが報われなくてもいい。
 報われることを望んではいない。
 ただ、役に立ちたい。

 だからココは、艦底部へ向かうのだ。
 一刻も早くEDENゲートへ向かい、EDEN軍に応援を請うために。


「ディバイドシーケンス発動! 分離だ!」




なんか色々と設定間違えてる気がするけど
あまり気にしない方向で。


ココ→タクト×ミルフィーユ@GA II 絶対領域の扉

Jealousy2

2008年01月27日 | 影の王国
 佐々木加奈子は、須藤瞳の親友である。
 それは周囲の誰もが認めるところだったし、当の本人たちもそう思っている。
 瞳は美人だ。あの今の渡会月哉の隣に並んで、唯一見劣りしないほどの美しさを持っている。
 その容姿のせいで最初はとっつきにくい印象を与えてしまっているけれど、瞳自身は明るく屈託のない性格をしている。同性からの人気も高い。瞳に告白して玉砕していった男共は両の指を軽く越える。

 そんな瞳にようやっと彼氏が出来た。
 件の渡会月哉である。
 去年の暮れ頃まではそうでもなかったのだが、急に瞳に負けず劣らず―――というか、それよりも凄まじい美貌の持ち主である。
 だが、こちらもやはり、中身は普通だ。
 月哉といるときの瞳はとても自然で、幸せそうに見えるので、発破をかけた身としては、ああよかったなあ―――と思う日々である。

 それはいいのだが。

 加奈子の思うところ、瞳にはなにか秘密がある。
 瞳にというか、瞳と月哉の2人に、というのが正しいのかもしれない。
 どうも、去年の秋にあった事件以来、2人はその「なにか」をきっかけに親しくなったようなのだ。
 何か事情があるのだろうし、去年の事件はある意味衝撃的だったし、その「秘密」についてあれこれ訊きたいとは加奈子は思っていなかった。
 ただ、問題は―――その「なにか」が原因で、瞳が前よりも少し付き合いが悪くなったことなのだった。

「ねえ、カナ。今度の日曜、暇?」

 休み時間に瞳にそう誘われて、加奈子はもちろん頷いた。
 月哉と会っているとかいうならまだ納得するのが、どうやら彼だけではないらしい。ちょっとジェラシーだ。

「なになに、どうしたの。久しぶりじゃん」
「ごめんねー、不義理してて。反省してますっ。―――あのね、カナに会って欲しい人がいるの」
「へええ? どんな人?」

 瞳はにっこりと笑った。

「とっても素敵な人」



 確かに素敵だ―――と、加奈子は引き合わされた人を見て思った。

「瑠麻、紹介するわ。こちら、私の親友佐々木加奈子」
「はじめまして」

 瑠麻―――アルマデティアは、女でもその凛々しさと美しさにくらりときてしまいそうな笑顔で、にこりと笑った。


 どうやら、最近瞳が付き合いが悪かったのは、彼女が来ていたかららしい。
 聞けば彼女は普段外国に暮らしていて、久しぶりに日本へ来ているのだとか。
 加奈子は一応、納得した。色々と疑問は残るにしても。

 それにしても―――と、加奈子はちらりと、その場にいた渡会月哉を見やった。

「……何。どうしたの、佐々木さん」
「んーん。なんか、さあ……」

 加奈子は声を潜めた。

「……なんか、あの2人見てると、『百合』とか『宝塚』って言葉思い出すんだけど、あたしの気のせい?」
「…………………」

 月哉は沈黙でそれを返した。

「あの人、絶対女にもてるタイプだわ……」

 確かに美人だけど。
 密かにため息をつく月哉の背を、激励の意をこめて加奈子は軽く叩いた。

Jealousy

2008年01月26日 | 影の王国
 人見の巫女と神殿の女戦士というのは、特別な関係だ。
 巫女は女戦士をとても頼りにするし、女戦士は巫女を何よりも大切に思い、守ろうとする。
 そしてその間は、固い絆で結ばれている。
 かつて、瞳の母連理と、自分の母カヤティーザがそうであったように。

 それは判っている。

 判っているのだが。

 ……ちょっと、なんかこう、仲が良すぎはしないだろうか。


 瞳の斜め後ろを歩いていたアルマデティアが、段差に体勢を崩した瞳の腰と腕をさっと支えた。アルマを見上げて瞳はにっこり笑う。

「マーリ……瞳、気をつけて」
「ありがとう、アルマ」

 月哉の出番はまったくない。
 美少女の瞳と、美しく凛々しい女戦士アルマデティア。
 その2人が寄り添い、睦まじく笑う姿はさながら絵画のよう。
 そのバックには花が散っているような気すらする。

 だがしかし。

「月哉? どうかした?」
「……なんでもないよ」

 ……それは、お姫様と王子様、もしくはお姫様と騎士のようで。
 ある意味それは間違ってはいないのだけど。

 一応僕は王子様なんだけどな、という思いは、口に飲み込んだ。