徒然なるままに。

徒然に小話を載せたり載せなかったり。

人の気も知らないで

2007年03月26日 | 星座シリーズ
 麦倉ナオトには8歳年下の恋人がいる。
 しかもつい先日までナオトが担任していたクラスの委員長で、ナオトの下宿先の一人娘で、さらにはいわゆる許嫁とゆーカンケイである。
 そういうわけで、2人は自分たちのカンケイをひた隠しにしてきた。
 しかし先日、とうとうノリミが高校を卒業した。
 ≪教師と教え子≫から、≪教師と元・教え子≫になったのである。
 とりあえずこれで一段落だねと、2人で胸をなで下ろしたのは、ついこの間のことだ。
 それはまあ、いい。
 いくら教師だからとはいえ、ナオトだって健康な成人男子だ。ノリミも、普通の女の子だ。
 キスをしたことは、ある。とりあえず両手の指の数以上には。
 それもまあ、いい。……と思いたい。
 けれども2人は、まだ、そこまでだ。
 ナオトとしては、まあ、ゆっくりと進んで(笑)いきたいなあと、思っている今日この頃なのだが。

 突然だが、ナオトは自室の入り口で固まっていた。
 肩にはタオル、少し長めの髪は濡れている。風呂上がりである。いい湯加減だった。……いやいやそうではなくて。
 ナオトは困惑気味に頬を掻いた。
 開けっ放しのドアを何となく気にしてみる。ノリミのおばあちゃんは居間でテレビを観ている。
 視線を部屋の中に戻す。見た光景が見間違いではないことを確認して、ナオトはその場にしゃがみ込んだ。
「~~~~~ノリミちゃん………」
 風呂から帰ってきてみれば、ノリミがいた。それはまあ、いい。彼女はしょっちゅう遊びに来る。
 それはいいのだが、人がいない間に仮にも男の部屋で寝ているというのは、それはちょっとどうなのだろうか。
 なんだか自分が情けなくなってきたナオトである。
 人の気も知らないノリミは、星柄のクッションを膝に抱きベッドに寄りかかって、健やかに目蓋を閉じて寝息なんぞを立てている。実に平和な光景だ。これがナオトの部屋でなければもっと良かった。
 ……いっそのこと、襲ってやろうか?
 一瞬魔が差し掛けるが、いやいやと首を振る。ゆっくりやっていきたい、などと考えていたのはどこのどいつだ。もちろん自分である。まあ、ノリミのおばあちゃんは大いに喜ぶに違いないが。
 ひとつ、大きく息をつく。
 とりあえず、この鈍感娘を起こして、それから説教だ。
 ナオトは立ち上がり、苦笑した。
 もちろん、寝顔も可愛いなあ、とか思ってしまった自分にである。



麦倉×ノリミ@星座シリーズ/日向章一郎