徒然なるままに。

徒然に小話を載せたり載せなかったり。

Jealousy2

2008年01月27日 | 影の王国
 佐々木加奈子は、須藤瞳の親友である。
 それは周囲の誰もが認めるところだったし、当の本人たちもそう思っている。
 瞳は美人だ。あの今の渡会月哉の隣に並んで、唯一見劣りしないほどの美しさを持っている。
 その容姿のせいで最初はとっつきにくい印象を与えてしまっているけれど、瞳自身は明るく屈託のない性格をしている。同性からの人気も高い。瞳に告白して玉砕していった男共は両の指を軽く越える。

 そんな瞳にようやっと彼氏が出来た。
 件の渡会月哉である。
 去年の暮れ頃まではそうでもなかったのだが、急に瞳に負けず劣らず―――というか、それよりも凄まじい美貌の持ち主である。
 だが、こちらもやはり、中身は普通だ。
 月哉といるときの瞳はとても自然で、幸せそうに見えるので、発破をかけた身としては、ああよかったなあ―――と思う日々である。

 それはいいのだが。

 加奈子の思うところ、瞳にはなにか秘密がある。
 瞳にというか、瞳と月哉の2人に、というのが正しいのかもしれない。
 どうも、去年の秋にあった事件以来、2人はその「なにか」をきっかけに親しくなったようなのだ。
 何か事情があるのだろうし、去年の事件はある意味衝撃的だったし、その「秘密」についてあれこれ訊きたいとは加奈子は思っていなかった。
 ただ、問題は―――その「なにか」が原因で、瞳が前よりも少し付き合いが悪くなったことなのだった。

「ねえ、カナ。今度の日曜、暇?」

 休み時間に瞳にそう誘われて、加奈子はもちろん頷いた。
 月哉と会っているとかいうならまだ納得するのが、どうやら彼だけではないらしい。ちょっとジェラシーだ。

「なになに、どうしたの。久しぶりじゃん」
「ごめんねー、不義理してて。反省してますっ。―――あのね、カナに会って欲しい人がいるの」
「へええ? どんな人?」

 瞳はにっこりと笑った。

「とっても素敵な人」



 確かに素敵だ―――と、加奈子は引き合わされた人を見て思った。

「瑠麻、紹介するわ。こちら、私の親友佐々木加奈子」
「はじめまして」

 瑠麻―――アルマデティアは、女でもその凛々しさと美しさにくらりときてしまいそうな笑顔で、にこりと笑った。


 どうやら、最近瞳が付き合いが悪かったのは、彼女が来ていたかららしい。
 聞けば彼女は普段外国に暮らしていて、久しぶりに日本へ来ているのだとか。
 加奈子は一応、納得した。色々と疑問は残るにしても。

 それにしても―――と、加奈子はちらりと、その場にいた渡会月哉を見やった。

「……何。どうしたの、佐々木さん」
「んーん。なんか、さあ……」

 加奈子は声を潜めた。

「……なんか、あの2人見てると、『百合』とか『宝塚』って言葉思い出すんだけど、あたしの気のせい?」
「…………………」

 月哉は沈黙でそれを返した。

「あの人、絶対女にもてるタイプだわ……」

 確かに美人だけど。
 密かにため息をつく月哉の背を、激励の意をこめて加奈子は軽く叩いた。

Jealousy

2008年01月26日 | 影の王国
 人見の巫女と神殿の女戦士というのは、特別な関係だ。
 巫女は女戦士をとても頼りにするし、女戦士は巫女を何よりも大切に思い、守ろうとする。
 そしてその間は、固い絆で結ばれている。
 かつて、瞳の母連理と、自分の母カヤティーザがそうであったように。

 それは判っている。

 判っているのだが。

 ……ちょっと、なんかこう、仲が良すぎはしないだろうか。


 瞳の斜め後ろを歩いていたアルマデティアが、段差に体勢を崩した瞳の腰と腕をさっと支えた。アルマを見上げて瞳はにっこり笑う。

「マーリ……瞳、気をつけて」
「ありがとう、アルマ」

 月哉の出番はまったくない。
 美少女の瞳と、美しく凛々しい女戦士アルマデティア。
 その2人が寄り添い、睦まじく笑う姿はさながら絵画のよう。
 そのバックには花が散っているような気すらする。

 だがしかし。

「月哉? どうかした?」
「……なんでもないよ」

 ……それは、お姫様と王子様、もしくはお姫様と騎士のようで。
 ある意味それは間違ってはいないのだけど。

 一応僕は王子様なんだけどな、という思いは、口に飲み込んだ。

hang up (電話を切る)

2006年04月21日 | 影の王国
「――うん、それじゃあ、おやすみ、月哉」
《おやすみ、瞳》
 ピッと子機のボタンを押して、電話を切る。
 切って、瞳はほう、と息をついて後ろのベッドによりかかった。
 子機を床に置いて、火照った顔に手を押しつける。
 部屋は特に寒いわけではないのに、自分の掌がひどく冷たく感じられた。
 それだけ、今の瞳の顔が熱い――もとい、赤いということなのだろう。
「ほんっとに……」
 小さく呟いて、また一つ息をつく。
「反則よね、あの声は」
 傍にいても胸の高鳴る美声だが、電話越しだとそれが耳元で聞こえるものだから、よけいに、くる。
 反則だ、あれは。

get in touch with~ (~と連絡を取る)

2005年12月04日 | 影の王国
 瞳に電話をかけるために階段を下りる。
 彼女の家の電話番号は既に覚えてしまった。
 そんなにかけているわけではないが、いちいち見ながらかけるのも面倒くさい――というのはまあ、建前と言えば建前だ。
 受話器を手に取ろうとして、月哉は躊躇する。

(月哉様?)

 影の中の飛葉が訝しげに問いかけてくる。
 瞳に電話をかけるのはいい。
 いいのだが――。

 迷いを振り切るように、月哉は受話器を取った。番号を押し、暫く待つ。
 出たのは瞳の義母だった。

『――はい、須藤でございます』
「夜分遅くにすみません、渡会と申しますが瞳さんを……」

 久江の声に笑みが混じる。

『ああはい渡会さんね、ちょっと待ってくださいねぇ』
「………………」

 瞳に電話をかけるのはいい、いいのだが、電話に出る彼女の義母の態度がからかうような笑っているような面白がっているような雰囲気なのは何故だろう。少し居心地が悪い。
 まあ女子の家に男の自分が電話をするのだから、当たり前の反応なのかもしれない。
 そういうことにして、月哉は瞳が電話に出るのを大人しく待つ事にした。

count on~(~を当てにする)

2005年10月10日 | 影の王国
 月留とチウリー、ホム・ソーンが地上から帰ってきて数日。
 今や影の王国の王であるイヤルドとその側近たちは、既に次に地上へ送る者の選抜をしていた。
 王国の崩壊という事実に耐えられるようになるには、避難先である地上をよく知っていればいるほどいい。それはイヤルド自身でも立証されている。
 故にホム・ソーンは、一般市民に地上に慣れさせるための旅行会社の設立を考えている。
 さて、次の満月には、蘇芳とその護衛の神殿の女戦士ジルサーナ、かつて瞳の護衛をしていたアルマデティアが行くこととなった。
 地上に行くことに不安を覚えると同時に、瞳に会える、とアルマは特に喜んだ。人見の巫女と女戦士の結びつきは堅いものだが、それ以上にアルマは瞳が好きだったし、瞳もアルマが好きだった。
 それはさておき。
 地上へ行くのはいい。いいのだが、ここで一つ問題があった。
 次回地上へ行くのは全員女性なのである。前回は月留がいたし、月留は月哉の異母兄弟なわけで――それをいうなら蘇芳も異母姉弟なのだが――渡会家に泊まれば良かった。
 それなら瞳の家に泊まればいいかもしれないが、瞳の両親は事情を知らない。
 若い女性が3人も?と月哉は渋い顔をしていたが、イヤルドは結局3人を渡会家に泊まらせることにした。どうしても駄目なら他に用意させればいい。
「これからも当てにしてるから」
 と爽やかな笑顔で言った月留の首を、月哉はとりあえず無言で絞めたとかなんとか。