徒然なるままに。

徒然に小話を載せたり載せなかったり。

大嫌い

2008年01月07日 | スレイヤーズ
 去り際の捨て台詞、

「大嫌い」

 ……珍しく、堪えた。



 構内で見かけたゼルガディスの背中が妙に煤けていたので、ガウリイは首をかしげた。
 本当は誰よりも熱情的なくせに、理性でそれを押さえ込んで冷静であろうとするゼルガディスが、あそこまで落ち込む姿をあらわにしているのは珍しい。
 煤けた背中を捕まえて、話を聞いてみる。
「アメリアが?」
 どうやら彼女と喧嘩をしたらしい。
「なんというか、珍しいなあ」
「……ほっとけ」
「『大嫌い』かあー」
 小柄な黒髪を脳裏に浮かべて、苦笑する。今頃向こうも同じように落ち込んでいるのだろう。
 そうして、自分の恋人がそれを慰め…………るだろうか?
 反対に、何やら発破をかけているかもしれない。
 まあ、それはともかく、今はこの友人だ。
「なあ、ゼルガディス。知ってるか?」
「……なんだ」
「女の子の『大嫌い』は、『大好き』って意味なんだぜ?」
 ゼルガディスが目を見開いた。



他のカプでもよかったけど、ガウリイに諭される(?)ゼルが浮かんだので(笑)

have second thoughts (考え直す)

2006年05月13日 | スレイヤーズ
「今からでも遅くはないわ」
「何が?」
 苛立たしげに彼女は眉根を寄せる。
「考え直しなさい、って言ってるの」
「考え直す必要がどこにある?」
「あんたって本当にくらげね」
「そりゃどうも」
「褒めてないってば」
「だってそんなの、もう今更だろう?」
「だから、今からでも遅くないって言ってるでしょ」
 ガウリイは微笑んだ。
 ――そんなことは本当に今更で、抜け出そうとしてももう遅いのだ。
 そっと、彼女を抱き寄せる。
「ずっとリナのそばにいるよ」

hand in ~ (~を提出する)

2006年04月17日 | スレイヤーズ
 最後の一文字を書き終えると、リナは羽根ペンを放り出して大きくのびをした。
 ずっと同じ姿勢でいたせいか、体中が固まってしまっている。肩もひどく凝ってしまった。手も疲れた。
 こういった作業は嫌いではないが、疲れることであるのは確かだし、そしてあまり健康的ではない。
 リナは魔道士協会の、いわゆる研究専門の魔道士達の見るからに体力不足な体つきを思い出して、自分で思っておきながら納得してしまった。
 何か一つの団体に所属する、ということは便利な面もあるが、時として果てしなく面倒くさい。
 リナは魔道士協会に所属する魔道士であり、結界内のどこにいてもリナの身分は魔道士協会が保証してくれる。これは旅する上でなくてはならないものだ。
 だが、それ故に生じる、報告義務――或いは、研究報告、というべきか。旅に出ている、いわゆる実践タイプの魔道士は、二三年に一度か二度あるかないかだが、報告書、或いは論文を作成して提出しなければならないのだ。これが面倒くさい。
 リナは大きく息をつくと、インク壺の蓋をきっちり閉めて立ち上がった。部屋を出て、これもまたしっかり鍵をかける。
 向かう先は、隣の部屋。
 報告書作成にかまけて、すっかり放っておいてしまった相棒が泊まる部屋。
 コンコン、とノックする。
「リナ?」
 すぐにドアは開いて、相棒が顔を覗かせる。リナを見ると、端正な顔が笑みに綻んだ。
「どうした、休憩か?」
「ううん、終わったわ」
「そうなのか」
 更に相棒の顔が笑み崩れる。よほど退屈していたらしい。悪かったかなと、ちょっとだけ――爪の先程に思う。
 中に入れてもらい、備え付けの椅子ではなくベッドにぽすんと座る。
「でね、ちょっとお願いがあるんだけど」
 リナの座った場所と、「お願い」という言葉に相棒はちょっとというかかなりナニカを期待した顔をした。
「うん?」
「肩揉んで♪」

hand A down (Aを伝える,残す)

2006年04月02日 | スレイヤーズ
 剣を、抜く。

 細身の刀身が現れる。なまくらでは決してないが、それ以上でもそれ以下でもない。
 ――この剣の価値は、刀身にはない。
 この刀身は、いわば紛い物。カムフラージュ、ともいう。
 けれどもそれでいて、必要不可欠なもの。
 ずっと、この刀身がこの剣にあればいい、とガウリイは思う。本来の使い方など、したいとは思わない。

 伝説の魔力剣、光の剣。

 そんなものくそくらえだ、と思う。何が伝説だ、何が家宝だ、と。
 思っていた。
 思っていたはずなのに――

「なんだかなあ……」

 呟いて、ガウリイは苦笑した。
 視線の先には、小柄な少女の姿。嬉々として盗賊たちをしばき倒している。
 彼女に会ってから、この光の剣は大いに役に立っている。
 通常の剣では倒せない相手――魔族たちが、リナ目当てにひょいひょい現れるからだった。
 まさか、この剣が役立つ日が来るとは思いもしなかったのだが。

「ガウリイー? ちょっと来てー」

 リナを護ることが出来るなら、それはそれでいいかもしれない、と思う今日この頃だった。


This sword has been handed down in my family for generations.

go off ((警報・時計などが)鳴る)

2006年03月10日 | スレイヤーズ
 目覚まし時計はあるが、それは滅多に役目をなさない。

 毎朝、決まった時間に目が覚める。
 夏で暑かろうが冬で寒かろうが、目が覚めて数十秒で布団から出る。
 そう広くはない居間に出、台所に入ってコーヒーを淹れる。
 居間に戻ると、テーブルの上に新聞が置いてあった。
 頼んだわけではないのだが、新聞は毎朝小さな同居人――居候、とも言うが――が持ってきてくれる。
 コーヒーの入ったカップを片手に新聞をめくる。
 静かな朝だ。
 カチャリと音がして、ドアが開く。ついで、ぱたぱたと小さな子どものスリッパの音。
 スリッパの音は自分のすぐ傍までくると、止まった。

「おはようございます、ゼルガディスさん」
「ああ」
「……………」

 新聞から目をそらさずに応えると、声の主は不満そうに――見たわけではないが――口をつぐんで、それから大きく息を吸い込んだ。

「お・は・よ・う・ご・ざ・い・ま・す!」
「………………………………おはよう」
「はい、おはようございます

 とりあえず満足したらしい。軽い足音が去っていく。
 静かな朝だ。静かな――――――

 ガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガン

「……………」

 突如として響いた騒音に、ゼルガディスは黙って顔を上げた。
 この部屋で起きた音ではない。同じ階で二部屋しかないのだから当然といえば当然だが、これは隣の部屋から響いてくる音である。
 ここ暫くこの音を聞いていなかったのだが――

「……近所迷惑という言葉を知らんのか、あいつは」

 外見にもその年齢にも似合わず賢い彼女だから、知っているだろうが。
 ちなみに、騒音はまだ続いている。まだ布団の中で粘っているらしい。

「相変わらず物凄い音ですねえ、これ」
「……アメリア」
「はい?」
「止めてこい。ついでに、あの馬鹿を叩き起こしてやれ」
「はーい。っていっても、もうガウリイさんリナに叩き起こされてると思いますけどね」