徒然なるままに。

徒然に小話を載せたり載せなかったり。

ahead of time(時間前に)

2005年09月30日 | 影の王国
 玄関のドアを開けるとそこには、須藤の瞳の姿があった。
「ひとみっ」
 すかさず抱きついてくるチウリーを抱き留めて、瞳はにっこり笑った。
「こんにちは。ちょっと早く来ちゃった。……どうしたの?」
 訊ねられて、月哉は少し苦笑して見せた。
「いや。テレビを熱心に見ていたチウリーがいきなり立ち上がって玄関に行くから、何があったのかと思って」
 チウリーの姿は現在、普通の人間の女の子のものだ。だいたい15歳かそれくらいだろう。本来の姿は少し見方を変えれば見ることが出来る。
「月留は?」
「あいつもテレビ」
「月留にはそんなに珍しいものでも……あるのかしら」
「まあ、向こうにはないものだからね。それより、あがって。もうすぐばあちゃんは買い物から帰ってくるから」
「うん」


Hitomi surprised Tsukiya when she turned up at his house without letting his know ahead of time.

under way(進行中で)

2005年09月28日 | スレイヤーズ
 はるか彼方。
 空に縦に立った、光が見える。
 あれはきっと、半島を越えて、更に向こう。
「……なんなのかしら」
 旅から戻って数週間、執務の後、こうして浮遊で登った塔の上で光を眺めるのが日課になっていた。
 突如現れた謎の光。
 セイルーンでもアレはなんだ、と騒いでいるが、結局誰にも判らない。
 だが、あの光は半島に降り立ったモノではないことは判っている。実際は、もっと向こう、海王の支配する魔海。
 冥王フィブリゾが滅びたことによって、神封じの結界は既に壊れているとはいえ、もはや今では魔海に挑戦する者はいない。その冥王が滅びたということを知っているのはごく少数だから、当然結界が破れていることを知るものもごく少数なのだが。
 魔竜王、冥王の力を借りた黒魔法が使えないことに気づく者はこれから出てくるだろう。
 だが、それでは遅い。
 アメリアは光から左へ、東の方角を見やった。セイルーンの隣国、エルメキア帝国、その向こうの滅びの砂漠の、更に向こう――外の世界。
 進言はした。病床の祖父も父も、大臣達も肯いた。各国の協力も仰がなければいけない。
――外の世界に、行く。


The big project was already under way.

out of the question(とても不可能な)

2005年09月27日 | 少年陰陽師
 安倍晴明の孫・後継と呼ばれる昌浩少年は、陰陽寮の直丁である。
 ――つまりは下っ端というわけで。
「……なんなんだろうね、この量」
 朝出仕して、自分にあてがわれた文机の上に大量に積まれた紙の量に、昌浩は思わずげんなりと肩を落とした。
 真っ白な紙とは別に、既に綺麗な字で書かれた紙がおいてあって、これを写せというお達しらしい。
「終わるかなあ、これ……」
 不可能な気がする。
 いやいや、ここで頑張らないでどうする、頑張れ、俺!
「まあ頑張れや、晴明の孫」
「孫言うなっ。……いいよなあ、もっくんは気楽で」
 さっそく文机の脇に丸まって目を閉じる物の怪に恨みがましく視線を向けてみるが、そんなことをしていても紙は少しも減らない。
「おしっ」
 気合いを入れて、まずはさっそく硯箱を取り出した。


It's simply out of the question for me to finish the task in a day. 

on purpose(故意に)

2005年09月26日 | 少年陰陽師
 人は彼を、『晴明の孫』と呼ぶ。多くは期待を込めて。未来の有望な陰陽師として。
 しかしここに、それとは別の用途で、故意に彼を禁句のそれで呼ぶものがいる。
 安倍晴明が式神、火将騰蛇――が変化した、主に物の怪。
「しっかりしろよ、晴明の孫」
「孫言うなっ!」
 彼は絶対唯一の『安倍晴明の』後継であり、孫。
 未だ幼く、未熟であるが故にくじけそうになる彼を、叱咤するため。
 だから物の怪は、今日も呼ぶ。彼にはたかれた頭を押さえながら。
「このかっわいらしーい俺様になんてことするんだ、こンの晴明の孫っ!」
「孫、言うな――――っ!」

in vain(無駄に)

2005年09月25日 | スレイヤーズ
 どこにでもある小さな町。そんな町のとある食堂。料理は素朴な味だが、結構美味しい。
「どーしたの、おばちゃん」
 追加の料理を持ってきた食堂の女将が、憂鬱そうにため息をつくのを見た相棒が訊ねる。
「最近、近くの山に盗賊が住み着いてねえ……規模はそんなに大きくないらしいんだけど、旅人を襲うようになって困ってるんだ」
 ああ、まただ。追加の皿の唐揚げを突き刺し、ちらりと相棒をみやる。相棒の目がキラキラとそれは楽しそうに嬉しそうに輝いている。頬に手をやって俯いている女将さんはその表情に気づかない。
「へえー……それは大変ね」
「そうなんだよ。お嬢ちゃん達も気をつけるんだよ?」
「ええ、そうするわ。ところで、その、盗賊が住み着いてる山ってどこなの?」
「西に小さな山があるだろう? あそこだよ」
 相棒がますます笑みを深くする。その山は本当に近くだ。たとえば、呪文で飛んで一晩で行って帰れるくらいに。
 女将がテーブルを去って、相棒はさっそく追加の料理に手をつけ始める。だけどきっと間違いなく、その小さな頭の中は今盗賊のことでいっぱいだ。どこの世界に盗賊いぢめが好きで好きでたまらないとかいう女の子がいるというのだろう。ここにいるのだが。
 とりあえず、無駄だとは思ったが忠告してみることにする。
「……リナ」
「なによ、ガウリイ。エビフライさんはあげないわよ」
「行くなよ?」
「あら、何のこと?」
「……わかった、邪魔はしないからせめて連れて行けよ」
「邪魔しないならね」
 やっぱり無駄だった。