徒然なるままに。

徒然に小話を載せたり載せなかったり。

カタコイ

2008年03月08日 | G.A.
 同僚に好きな人ができた。
 お相手は先日新しくこの艦の副司令官になった、レスター・クールダラス。美形で有能で、確かに格好いい。友人が熱を上げるのも頷ける。口調はちょっときついけれど、悪い人ではない。ココは友人の恋を、微笑ましく応援していた。
 女心に疎い人であるため、成就というゴールはとても遠そうだと思いながら。

「ねーえ、ココぉー」

 せっかくの非番だというのにココの部屋にやってきたアルモは、クッションを抱えてカーペットの上をごろごろとしている。

「なあにー?」

 ココは宇宙通販のカタログを眺めながら生返事を返した。どうせ報われない片思いの愚痴だろう。
 先ほど煎れたお茶を口に含む。

「ココはぁー、好きな人とか、いないのー?」

 危うくお茶を吹き出すところだった。

「……、………、ど、どうしたの、アルモ。藪から棒に」
「ん~~~。特に深い理由はないけどー。そういえば、ココはどうなのかなあって」
「どう、って……」

 ココはもう一度お茶を口に含んで、飲み下す。ふう、と息をついた。

「アルモと違って、好きな人なんていないわよ」
「えー、ホントに~~?」
「って言われてもねえ……、言うまでもないことだけど、アルモ。このエルシオールには男の人なんてほとんどいないでしょう。その状況で、整備班みたいにアイドルグループに熱を上げる以外で、どうやって男の人を好きになれっていうの」
「まあ、そうだけど……」

 ココたちが乗るこの艦、儀礼艦エルシオールは本来≪白き月≫に属する艦で、その乗組員たちはそのほとんどが≪月の巫女≫達で構成されている。もちろん≪月の巫女≫達は女性だけである上に、軍属ですらない。アルモは勿論、ココもだ。
 例外はこの艦の艦長と副館長、そしてトランスバール皇国が誇るムーンエンジェル隊だけだ。

「一応、いるじゃない。男の人」
「……念のために聞くけど、それはクールダラス副司令のことじゃないわよね、もちろん」
「えーと、うーんと、………マイヤーズ司令とか?」

 ココは大きくため息をついた。

「冗談。そりゃあ、マイヤーズ司令は悪い人ではないけど……、恋人のいる人を好きになってどうするの」

 そうだ。彼には恋人がいる。
 彼と彼女がいかに真摯に互いを想い合っているか、ココは知っている。そばで見ていたから。
 けれども彼自身のことは、ココは好ましく思っていた。

「そうだよねえ。ごめーん」

 小さく肩をすくめてみせて、ココはカタログを閉じた―――。





「コ……、ココ?」

 ぽん、と軽く肩を叩かれて、ココは我に返った。

「――――、あ……」

 見ると、上司―――タクト・マイヤーズがココをのぞき込んでいる。

「目が覚めたかい?」
「す、すみません、司令……」

 赤くなって謝罪すると、タクトはにこりと笑った。

「気にしなくていいよ。でも眠るならちゃんと部屋に戻って寝た方が良い。ココは今非番だろう?」
「すみません……、休む前にしておきたいことがあったので。でも、居眠りしてたんじゃ意味ないですよね」
「それだけ疲れてるんだろう。何せ、こういう事態は四年ぶりだからね」
「そうですね……」

 ココは苦笑して、眼鏡をなおした。
 ふとデスクの時計をみて、首をかしげる。

「司令はどうなさったんですか? 司令こそお休みになったんじゃ……」
「―――ああ」

 タクトの表情が翳って、視線がスクリーンに注がれる。
 否―――ほんとうに見つめているのは、スクリーンのその遥か先だろうか。

「そのつもりだったんだけどね……、寝付けなかったもんだから」

 ココははっとして、拳を握った。
 そうだった。
 今、彼女―――今ではタクトの妻となったミルフィーユとは、最後の通信がとぎれて以来、連絡のつかない状態なのだ。
 その上、かつてのエンジェル隊・フォルテの突然のクーデター。
 閉じられた「ABSOLUTE」のゲート。
 彼はどんなにか今、心を痛めているのだろう―――。

 つきん、と痛む胸を無視して、ココはデスクから立ち上がった。

「司令」
「ん……?」
「ミルフィーユさんなら、大丈夫ですよ。―――絶対です」

 何せ彼女は、幸運の女神なのだから。

「うん―――、ありがとう、ココ」
「いいえ。では、私は休みます。司令もちゃんと休んでくださいね?」
「ああ」

 ブリッジから出て、エレベーターに乗る。居住区へのボタンを押して、ココは壁によりかかった。
 先ほどの、無理して笑うタクトの表情が、胸に切なかった。









 ごうん、と衝撃がルクシオールを襲った。


「シ、シールド、出力限界値に到達! しばらくしのげます!」

 念のためシートベルトをつけておいて良かったと思いながら報告を続けて、ココは息をのんだ。
 シートベルトをつけず、それどころかシートにも座らず立って命令を飛ばしていたタクトは、今の衝撃で体勢を崩したのかブリッジの床に倒れ込んでしまっていた。

「マイヤーズ司令!」
「くっ…。あ…、だ、大丈夫だ!」

 どこが大丈夫だというのか―――ココは起きあがったタクトを見て青ざめた。タクトは左手で頭を押さえていて、その手の間から赤いものが見えた。――出血している。
 早く手当をとココが思わず言いかける前に、タクトからの命令が飛んだ。

「合体してる紋章機に呼びかけを! ど、同時にカズヤを呼び出して…」
「りょ、了解」

 ココは唇をかんで、カズヤ・シラナミ少尉をを呼び出した。同時に紋章機にも呼びかける。

「こちら戦艦ルクシオール! 応答を願います!」

 呼びかけに応えて、自称トレジャーハンターの海賊の少女の顔がスクリーンに映し出される。

「すぐにシャトルで人を向かわせる…、で、できれば、君もこっちに来てくれると…、助かるんだけど…」
「いま補助スラスターしか動かねえんだよ! そっち行くったってノロノロだぜ!?」

 負傷のせいか、タクトの口調が辿々しいものになっている。
 ああ早く、お願い手当を、とココが思う間にも、タクトとアニスの会話は続く。

「わかった、そっちに行けばいいんだな!? 行くぞ!」
「カ・カズヤ、聞いてただろ……? シャトルで向かって、くれ……。ブレイブハートを守るん……、だ……」
「司令……っ!」

 どさ、とタクトが力尽きて崩れ落ちる音に、ココは耐えきれずそばに駆け寄った。倒れたタクトを膝に抱え上げる。タクトの意識はない。

「司令!? マイヤーズ司令!?」

 ココは通信機に向かって叫んだ。
 そうでもしていないと、自分が泣き喚いてしまいそうだった。

「カズヤ君! 命令が聞こえなかったの!?」

 タクトに出会って以来、ココはタクトのオペレーターとしてずっと働いてきた。そして今では、事実上の彼の副官だ。
 ならば彼の意識がない今、この場を仕切るのは誰だ―――他でもない、この自分だ。

「タクトさんは心配ないわ。早く行って!」

 慌ててカズヤが格納庫へ向かい、通信が切れる。ココはすかさず別の場所へ呼びかけら。

「ブリッジより医務室……!」

 最優先で衛生兵を呼び出し、ココは一息ついた。
 じきに衛生兵がやってきて、タクトを治療してくれるだろう。

「司令、しっかり……」

 タクトを抱く腕に、ぎゅ、と無意識に力が入る。
 こんなに恐ろしい、と思ったのは初めての経験だった。
 今まで色んな、それこそ本当にこれまでか、というような事態にだって遭ったことはあったけれど。

「大尉、司令は……」

 様子を窺っていたクルーが尋ねてくる。
 無理に表情を動かして笑ってみせると、ココはカズヤの状況について聞き返した。

「シラナミ少尉は現在、シャトル内です。じきに出発です」
「そう……」

 ココはポケットからハンカチを取り出し、タクトの顔を拭いた。
 傷口に触れないように気をつけながら、そういえば、と先ほどのことを思い返す。

「はじめてかもね……」

 彼を「タクトさん」と呼んだのは。
 タクトは貴族出身で、しかも軍人であるにもかかわらず、堅苦しいことが嫌いだった。
 彼は以前の艦―――エルシオールに着任するとすぐ、自分の流儀を周囲に押し通した。階級ではなく名前で呼ぶように、と。
 エンジェル隊は皆名前で呼んでいたけれど、クルーの殆どは「マイヤーズ司令」と呼んでいたから、もちろんココも「タクトさん」と呼んだことはなかった。
 ブリッジではココとタクトの代わりに、クルー達が状況を報告してくれている。けれども衛生兵がやってくるまでは、それまでは、―――どうかこのままで。

(―――ああ、)

 意識を失ったタクトの頬を撫で、ココは目を伏せた。
 気づきそうで、気づかないように、ずっと避けていたけれど―――いつの間にか、こんなにも、この人のことが。

(ミルフィーユさんがいるのに)

 仕事はサボるし、女の子が大好きだし、ちゃらんぽらんだけれど。

(でも、―――私は)

 ブリッジの扉が開いた。衛生兵がかけこんでくる。

「司令の容態は!」
「最初の攻撃の際に頭を打って、出血が―――。すみません、司令をお願いします」

 タクトを衛生兵に託し、自分のシートへ戻る。
 シートの情報スクリーンを見ると、ちょうどシャトルがブレイブハートと合体した紋章機に接近するところだった。
 傷口の応急処置を終えた衛生兵が、タクトを担架に乗せる。

「それでは、司令を医務室へ運びます」
「お願いします―――」

 シャトルから真空へ出たカズヤが、紋章機に移ろうとしている。
 指示を飛ばしていたココ達クルーはそれでも一瞬作業を止めると、ブリッジを出る衛生兵を見送った。

(あなたが―――)





 やっとのことで突入した時空ゲートは、タクト達を「ABSOLUTE」に導いただけで閉じてしまった。
 ルクシオールと紋章機だけでは心許ないが、なってしまったものは仕方がない。再結集したムーンエンジェル隊が、ミルフィーユ救出のためにシャトルでセントラルグロウブに向かうことになった。

「フォルテ達もシャトルで待機してくれ」
「あいよ! みんな、いくよ!」

 エンジェル隊達が、タクトにそれぞれ声をかけながらブリッジを出て行く。
 今は敵影の姿は感知できないが、遅かれ早かれ敵はやってくるだろう。

「……ココ」
「はい」
「サポート、しっかり頼むよ」

 今の自分を友人が―――アルモが見たら、どう言うだろう。
 アルモよりも報われない片恋をした自分を。

 けれども、想いを自覚してしまったからといって、ココにはそれをどうこうしよう、という気持ちは全くなかった。タクトとミルフィーユの夫婦仲は十分すぎるほどに知っていたし、何よりココはミルフィーユのことも好きで、2人が幸せそうにしているのを見るのも好きだった。
 ミルフィーユを想うタクトを見ると、少しだけ胸が痛むのも事実だけれども。
 でも。

「―――、任せてください」

 彼の副官として、この場で役に立てること、それだけで十分だとも思うのだ。
 だから――――――



「ココ! 艦底部セカンドブリッジへ!」

 ココは思わず司令官席を振り返った。
 この戦艦ルクシオールは主翼部と艦底部とに分離することが可能であり、セカンドブリッジはまさしくその艦底部を運営するためだけのブリッジだ。

「…………。了解!」

 進行方向にはEDENゲート。セカンドブリッジ。
 タクトの意図はすぐにわかった。ココの指がシート上を踊る。

「セカンドブリッジ起動! 向かいます!」
「ミルフィーをヴェレルに渡すことだけは絶対に避けなければならない。何が何でも逃げ延びるんだ。いいな、ココ」
「はい……!」
「お互い身軽になるはずだ……。そっちはスピード。こっちは機動力で勝負。後ろは任せてくれ」

 エルシオールを離れ、タクトについてルクシオールに来て軍属となったとき、少しでも役に立ちたくて、猛勉強をして操縦資格を取った。
 彼の役に立ちたい。
 ただ、それだけだ。

「わかりました……。マイヤーズ司令、ご武運を!」

 この想いが報われなくてもいい。
 報われることを望んではいない。
 ただ、役に立ちたい。

 だからココは、艦底部へ向かうのだ。
 一刻も早くEDENゲートへ向かい、EDEN軍に応援を請うために。


「ディバイドシーケンス発動! 分離だ!」




なんか色々と設定間違えてる気がするけど
あまり気にしない方向で。


ココ→タクト×ミルフィーユ@GA II 絶対領域の扉

keep A out of one's reach (Aを~の手の届かないところに置いておく)

2006年08月23日 | G.A.
「………なあ、レスター」
「………なんだ」
 タクトは動かし続けていた手を止めて、隣で腕を組んで仁王立ちする副官を見やった。
「あとどれくらい?」
「あと142だ」
 副官の答えはいつもに増してそっけない。
「………………」
「………………」
「………なあ、レスター」
「なんだ」
「せめてあと70――」
 副官――レスター・クールダラスの額に青筋が浮かぶ。
「せめてもクソもあるか、今日中に終わらせろ」
「いや、無理だって絶対………」
 力なく呟くと、ぐう、と腹が哀しく鳴った。
 時計を見やると標準時間で18時。ブリッジの司令官席に縛り付けられてから既に二日は過ぎていた。
「お腹すいた……」
「あと20終わったら食堂のおばちゃんに頼んでメシ作って貰ってやる」
「……食堂もいいけどオレ、ミルフィーのご飯が食べたい……」
「ミルフィーユにはお前が書類を片づけるまでブリッジへの立ち入りを禁じたから安心しろ」
「ひっひどい! オレ一昨日からミルフィーに会ってないのに」
お前が散々遊び呆けて書類をためにためまくったからだろうが

 そんな上官二人の会話を聞いていたココは、隣の席のアルモと顔を見合わせた。
「こりないわよね、あの二人も」
「ほんとにねえ」
「仲がいいんだか悪いんだか……」
「いいのよ、多分きっと」

keep A in the dark (Aに秘密にしておく)

2006年08月20日 | G.A.
 このきもちは、ひみつ。


 とてもじゃないけれど信じられなくて、信じたくなくて。
 それでも気になって気になって、アイツの一挙一動に反応して。
 つっけんどんな言い方しか出来なくて、そっぽを向いて。

 そうしているうちに、
  この恋は、終わってしまった。


「――あ、ランファ」

 振り向くと、しまりのない笑顔がランファを見ていた。

「……なに? タクト」
「うん、ちょっと。ミルフィーどこにいるか知らない?」

 さっき部屋に行ったんだけど、いなくて。
 そう言ってほにゃ、と笑う顔から視線をそらす。
 ちくり、と痛んだココロには気づかないふり。

「さあ? 知らないけど、まだおやつの時間には早いし、少なくとも食堂にはいないんじゃない?」
「うーん、そっか。ありがとう、ランファ」
「………どういたしまして」

 ちくり、ちくり、とココロが痛む。
 けれども懸命に、押し隠して、気づかないふり。

 あの子を探して去っていくアイツに、背を向ける。

 どうして、アイツなんだろう。
 誰にでも優しくて、女の子が大好きで、でも一番大事にしているのはいつだってあの子で。
 ぜんぜん、タイプじゃないのに。
 もっと格好良くて、凛々しくて、強くて、勇敢で、……そんな人を、好きになりたかったのに。
 どうしてよりによって、あの子を好きなアイツを好きになったんだろう。

 振り返った先に、アイツの姿はもうない。
 きっと今頃、アイツはあの子のところ。
 ランファの大事な親友と、微笑み合っている。
 アイツといるあの子は、とても幸せそうで、それが嬉しくて、少し哀しい。


 行き場をなくした、叶わなかった、この気持ち。
 このままずっと、いつまでも、ひみつ。

hand out ~ (~を配る)

2006年04月19日 | G.A.
 儀礼艦エルシオール、そのブリッジの司令官席で副官に見張られながら大人しく仕事をしていたタクトは、ちらりと時計に目をやった。
 ――標準時間で午後3時12分前。
 おやつの時間まで、あと12分。
 そう思っただけで急にお腹が減ってきた気がして苦笑したら、副官に不審げな顔をされたが怒られることはなかった。いい加減長いつきあいであるから、多分諦められているのだろう。楽でいいが。
 それにしても、と書きかけの文書をいったん保存して考える。
 あと12分。12分経てば3時。3時といえば、時空震≪クロノ・クウェイク≫以前の昔からおやつの時間だ。
 そして、このエルシオールでの3時のおやつといえば。
 ミルフィーユお手製のお菓子。
 これはかなり美味しい。初めて彼女の料理を食べた時、タクトは本気で感動したものだった。
 エンジェル隊のご飯係である彼女は、毎日のように何かしら料理だったりお菓子だったり作っている。
 今日は、きっとお菓子だ。
(……問題は)
 ちらりと副官を見やる。彼は彼で仕事をしている。
 問題はこの、たまりにたまった仕事の山が片づかない限り、相伴に預かりに行かせてくれないだろう、ということだった。

「おまたせしましたー! 今日はキャロットケーキでーす!」
「よっ、待ってました!」
 ケーキの載った大皿を持って部屋にはいると、エンジェル隊が既に揃っていた。
 後からついてきたヴァニラが、小分け用の皿とフォークを並べ始める。
「ありがとう、ヴァニラ」
「……いいえ」
 静かな応えと同時に、彼女の肩に止まったナノマシンペットのリスが嬉しそうに尻尾を振る。
 ミルフィーユはくすりと微笑むと、改めて集まったメンバーを見渡した。ミルフィーユを入れて6人、エンジェル隊のみ。
 しかしきっといるだろうと踏んでいた人の姿がない。
「あれ、タクトさんはいないんですか?」
「タクトならさっき、クールダラス副司令に捕まってたわよ」
「タクトさんのことですから、お仕事をためにためていらしたんでしょうね。今頃副司令に見張られてお仕事中ですわ」
「そっか~…」
 それなら仕方ない。
 上司であり、エンジェル隊の指揮官である彼は、本当に美味しそうにミルフィーユの作った料理を食べてくれる人だ。
 そして、ミルフィーユの周りで起こる強運に、笑ってつきあってくれる希有な人物でもあった。
「…………」
 キャロットケーキに、ナイフを入れる。7等分。うち6つがその場の全員の前に並ぶ。
「ミルフィー先輩、1個余ってますけど、それは?」
「ちとせ、野暮なことは聞くモンじゃないよ」
「や、野暮ですか?」
 ミルフィーユは余ったひと皿を、そっと遠ざけた。
 後で、仕事を頑張っているだろう彼に、持って行こう。

give rise to ~ (~を引き起こす)

2006年02月10日 | G.A.
 彼女――ランファの親友、ミルフィーユ・桜葉を一言で言い表すとすれば、『強運の持ち主』であることは、ミルフィーユを知るものなら誰もが知っていることだ。
 この場合の『強運』というのはつまり、読んで時の如く『運が強い』を意味している。
 幸運と凶運のどちらも、他の人にはあり得ない高い確率で引いてしまうのだ。

 そもそも――、とランファは肩で息をしながら考える。
 ミルフィーユに初めてあったときからそうだった。
 忘れもしない、皇国士官学校の入学式の朝、例によって例の如くトラブっていたミルフィーユを何故だか放っておけずにいたら、初っぱなから遅刻してしまった。
 野外訓練の時に、絶滅したと思われていた動物に偶然出くわしたこともあった。
 エンジェル隊に就任するときも、≪白き月≫へ向かうシャトルがトラブルを起こして運休になってしまったし――結局この時は遅刻せずに済んだのだが、その代わり荷物がパアになった。

 もしかしてもしかしなくても、エンジェル隊の中では一番、ランファがミルフィーユの強運に巻き込まれているに違いない。
 だから今もこうして、予定外に走り回る羽目になっているのだ。

「ランファ~、だいじょうぶ~~?」

 隣を見ると、同じく肩で息をしながら地面にへたり込んでいるミルフィーユが、それでも心配そうにランファを見ていた。

 ああ、だから。
 きっとランファは、彼女の親友であることをやめたりはしない。