某月某日。藤原家の長男、藤原頼通(18)の機嫌は大変悪かった。
「頼通。そんな顔をしていると、そのうち眉間の皺がとれなくなってしまうわ」
向かいで紅茶を飲む5つ上の姉が心配そうに言うのを、彼はむっすりとした表情のままクッキーを口に放り込んだ。
「……お父さんは、なんて?」
先ほど父に呼ばれていたのも知っているらしい。
もぐもぐとクッキーを飲み込んで、紅茶で流した。
「見合いしろって」
「え」
姉の瞳がまんまるになった。21になった姉は相変わらず美人だ。
「だから。俺に見合いの話が来ているから、会ってこいって」
「……まあ」
藤原家は、簡単に言ってしまえば金持ちだ。父は藤原グループのトップにいるし、彼はその跡取り。
その見合いをする本人がまだ高校生である事実をさっ引いても、見合いの話があってもおかしくはない家柄である。
「……今、うちってそういえばお金持ちだったのね、て再認識してしまったわ」
「………姉さん」
それもどうなんだろうか。
「だって、今までお見合いの話だなんてなかったじゃない」
「それはまあ確かに」
おそらくというか確実に、見合い話が確実に実行される話として子供に来たのは初めてだ。年齢順として順当にいけば、彼よりも3つ年上の長女・彰子にも見合い話が来ていてもおかしくはないにもかかわらず。
しかし。
「父さんが姉さんに見合い話を持ってくるわけがないじゃない」
「あら、どうして?」
「だって姉さん、見合いしたって、それがどんなにいい人でも断るでしょ。断るのが分かり切ってるのに、見合い話を姉さんに持って行くほど父さんも暇じゃないよ」
だから、今回彼のところに見合い話が来たのが「初めて」、なのだ。
「……………………それは、まぁ、そうなのだけど……」
白い頬を染めて、姉はなにやら紅茶をぐるぐるとかき混ぜ始めた。
その姿を見つめながら、彼は一つ息をついた。
そう。
例え姉が、見合いをしたとしても―――その話を受けるはずがないのだ。
姉には昔から、そう、それこそ生まれた頃から、正式ではないものの、両家公認というか暗黙の事実というか、そんな許嫁同然の、相思相愛の幼馴染みがいるのだ。
自他共に認めるシスコンの彼にとっては忌々しい限りではあるけれども。
そもそもが、父は姉の幼馴染みを―――安倍昌浩を、とっても、それはもの凄く気に入っているのだ。父の頭の中には、そもそも姉に見合いを持って行くことそのこと自体がないに違いない。姉は、そのうち安倍家に嫁いでいくものと―――
(………やめよう。)
眉間に更に皺が寄ったのを自覚して、彼は己の思考をストップさせた。
「そういえば、その、見合いのお相手の話は聞いたの?」
「え? ああ……聞いたよ。確か、高倉の長女って」
「高倉? じゃあ、隆子さんね」
「……知ってるの?」
「ええ。気だての良いお嬢さんよ。確かあなたより2つ下だったはずだけれど」
(高1か……)
彼が今高3だから、そういうことになる。
良いところの家柄に生まれた宿命とはいえ、見合い。まだ高校生だというのに、見合い。
確かに今、とりたて付き合っている彼女がいるわけでもないのだが―――
(見合いか…)
どうしてこの言葉は、こんなにも気分を落ち込ませる効果があるのだろうかと、もう一つ頼通は息をついた。
ちなみに。
後日行われた見合いの席で逢った高倉隆子と、彼が後々本当に結婚することになるとは―――今は誰も思いもしない。
「頼通。そんな顔をしていると、そのうち眉間の皺がとれなくなってしまうわ」
向かいで紅茶を飲む5つ上の姉が心配そうに言うのを、彼はむっすりとした表情のままクッキーを口に放り込んだ。
「……お父さんは、なんて?」
先ほど父に呼ばれていたのも知っているらしい。
もぐもぐとクッキーを飲み込んで、紅茶で流した。
「見合いしろって」
「え」
姉の瞳がまんまるになった。21になった姉は相変わらず美人だ。
「だから。俺に見合いの話が来ているから、会ってこいって」
「……まあ」
藤原家は、簡単に言ってしまえば金持ちだ。父は藤原グループのトップにいるし、彼はその跡取り。
その見合いをする本人がまだ高校生である事実をさっ引いても、見合いの話があってもおかしくはない家柄である。
「……今、うちってそういえばお金持ちだったのね、て再認識してしまったわ」
「………姉さん」
それもどうなんだろうか。
「だって、今までお見合いの話だなんてなかったじゃない」
「それはまあ確かに」
おそらくというか確実に、見合い話が確実に実行される話として子供に来たのは初めてだ。年齢順として順当にいけば、彼よりも3つ年上の長女・彰子にも見合い話が来ていてもおかしくはないにもかかわらず。
しかし。
「父さんが姉さんに見合い話を持ってくるわけがないじゃない」
「あら、どうして?」
「だって姉さん、見合いしたって、それがどんなにいい人でも断るでしょ。断るのが分かり切ってるのに、見合い話を姉さんに持って行くほど父さんも暇じゃないよ」
だから、今回彼のところに見合い話が来たのが「初めて」、なのだ。
「……………………それは、まぁ、そうなのだけど……」
白い頬を染めて、姉はなにやら紅茶をぐるぐるとかき混ぜ始めた。
その姿を見つめながら、彼は一つ息をついた。
そう。
例え姉が、見合いをしたとしても―――その話を受けるはずがないのだ。
姉には昔から、そう、それこそ生まれた頃から、正式ではないものの、両家公認というか暗黙の事実というか、そんな許嫁同然の、相思相愛の幼馴染みがいるのだ。
自他共に認めるシスコンの彼にとっては忌々しい限りではあるけれども。
そもそもが、父は姉の幼馴染みを―――安倍昌浩を、とっても、それはもの凄く気に入っているのだ。父の頭の中には、そもそも姉に見合いを持って行くことそのこと自体がないに違いない。姉は、そのうち安倍家に嫁いでいくものと―――
(………やめよう。)
眉間に更に皺が寄ったのを自覚して、彼は己の思考をストップさせた。
「そういえば、その、見合いのお相手の話は聞いたの?」
「え? ああ……聞いたよ。確か、高倉の長女って」
「高倉? じゃあ、隆子さんね」
「……知ってるの?」
「ええ。気だての良いお嬢さんよ。確かあなたより2つ下だったはずだけれど」
(高1か……)
彼が今高3だから、そういうことになる。
良いところの家柄に生まれた宿命とはいえ、見合い。まだ高校生だというのに、見合い。
確かに今、とりたて付き合っている彼女がいるわけでもないのだが―――
(見合いか…)
どうしてこの言葉は、こんなにも気分を落ち込ませる効果があるのだろうかと、もう一つ頼通は息をついた。
ちなみに。
後日行われた見合いの席で逢った高倉隆子と、彼が後々本当に結婚することになるとは―――今は誰も思いもしない。
現代パラレル。